血流の改善 ⇒ 痛み除去・不調の改善
当院では一つの大きな目的を血流改善においています。
そして、それにより「痛み」の除去、「不調」を治すことをその先の目的として定めています。
「血流の改善」という点についてですが、
これを一つ目の大きな目的に置いているのは、血行不良は適切な手段があれば、客観的に分かる(*1)ということ、と「こり」などは生成・消滅が物理的法則に従う傾向が強いので実現までの道のりがある程度予測が付く、ということからです。(*2)
一方、痛みやその他の不調(自律神経失調症など)というのは、血流改善によって治ることも多い(=通常の慢性痛)ですが、やはり「血行不良/血流改善」と「痛み・不調の治癒」との間には場合によっては相当な隔たりがあるのが事実です。
「血行不良/血流改善」と「痛み・不調の治癒」との間にたくさんの要素が入り込んでいるからです。
(簡単に思い浮かぶだけでも、精神的ストレス、脳・脊髄の可塑性(*3)、生活環境、季節的なタイミング、性格、遺伝的要因、文化的要因などが挙げられます。)
近年、痛み学などの医学分野で問題視されている「厄介なタイプの慢性痛」は、身体要因のみならず、心理・社会的要因、つまり、人間の営み全体・人生そのものが絡んだ問題になりうるものです。当院としてできることは、コリの根源である感作したポリモーダル受容器を不活性化し、血流改善させることで身体要因の状況を改善させていき、患者様の身体が神経の正常なネットワークを再構築するお手伝いをすることです(*4)。
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(*1)例えば、サーモグラフィやエコーのドップラ、(体温を運ぶのは血液なので)体温計測機器等、その気になれば客観的な測定ができます。
(*2) こういう性質の刺激をこれくらいの量加えればよいだろう、など。
(*3) 慢性痛には、「急性痛と同じメカニズムで生じている痛み(これは「こり」の除去や姿勢の改善など、痛みの原因が解消されれば痛みがなくなります)」と、「これとは全く次元の異なる慢性痛」があります。後者については1990年代以降から研究がなされてきていて断片的に確実な事実が明らかになってきていますが、いまだ正確な仕組みは解明されておらず決定的な対処法が見つかっておりません。鎮痛剤もモルヒネも基本的に効果がないタイプの慢性痛です。
全体の仕組みが解明されればどちらも生理学的法則・物理学的法則に従っていることが分かるのかもしれませんが、現段階では、前者がニュートン力学に代表されるような古典物理学とするならば、後者は量子力学や超ひも理論のような確率的にしか決まらない(←痛み神経がどの相手と混線を起こしていくか、など)、とらえどころのない現象といった状態です。
肩こり・首こりによる痛み、腰痛、頭痛…などがこの厄介なタイプの慢性痛になっている場合は、コリが無くなる、あるいは姿勢や骨盤を矯正するなどということと、痛みが消えるということは全く関係がない状態になっています。つまり、この状態の痛みは糸の切れた凧のような状態になっていて、下で行う操作はもはや凧に直接の影響力を持っていない状態ですので、この種の痛みに対して施術者は慎重に発言する必要があります。
しかし、決定的対処法が見つかっていない中、この分野の研究の第一人者の中から鍼(ポリモーダル受容器という痛みを感知する組織に与える鍼の影響から)が一つの有効な対処法になりうると期待の声が上がっています。
(*4)あまりこっちに振れてしまうとそれもまた手技療法ではなく、心理療法・カウンセリングのようになってしまい(当然 自分にそのような能力は全く持ち合わせておりませんので)ますので、
純粋な身体的な事柄に属する原因を特定する努力は常に続けていかなければなりません。
たとえば、最近の例では再三言及している「ファシア」(≒線維性の結合組織)があげられるでしょう。
ご存じのとおり、原因不明の痛みは世の中にたくさんあります。
手技療法の世界では腰痛が特に有名ですが、腰痛全体の7割〜8割が「原因不明」と言われることがあります。
しかし、近年、そいった原因不明とされてきたものの多くが筋膜を含むファシアの異常が原因かもしれない、という仮説が立てられ、成功例が報告され始めています。
ファシアの異常という概念構成から、原不明とされていた多くの痛みが解消される可能性が見えてきたので大いに期待されるところです。
痛みの除去に関わる仕事をしている者は今後、しっかりこの分野についての理解を深めて現場で応用できるように準備をしておかないといけませんし、積極的に得られた知見をもとに臨床の現場で実践(チャンレジ)して結果を出していき一つ一つの手法を確立して後輩などに伝えていくことが必要です。
「ファシア」については、近年、急浮上している概念です。
それまで無価値(邪魔者)であった膜組織などが実は神経がいっぱいの、とても大事なものだということが分かり、「結合組織」というくくりでまとめると、いろいろな疼痛性・炎症性の病気の理解に役立ちそうだ、と期待されています。
単に、身体に対する見方が甘かった、一方方向からしか見ておらず、異なる視点から見たら意外な共通性があり、治療対象にしてみたら結構効果がありそうな感じだ、という感じです。
「ソシュール言語学と肩こり」で触れたような表現をすれば、虹の色を7色に区切っていたが3色に区切ってみたら新しい色が見えてきた、
車で言えば今までメーカー別や排気量で分類していたが、給油口の左 o r右で分類してみたら意外な発見があった
というような感じでしょうか?
(かえって分かりにくい例えになっていましたら申し訳ございません)。