腰の外側部での「腰痛」について - アート鍼灸マッサージ
日々施術にあたる中で、慢性腰痛にはいろいろタイプがありますが、ここでは特に腰の外側部での(多裂筋周囲・椎間関節周囲のものではなくて)筋・筋膜性の腰痛について述べてみます。
(写真1〜3)の赤丸は患者様が頻繁に腰痛を訴えるでおなじみの部位です。
他の部位からの関連痛などでない場合、触診上、索状の筋硬結を認め患者様も圧痛を訴えます。
一般的な教科書での説明でも、私が初めにマッサージ・鍼灸を習った時も「腰方形筋」と教わってきました。おそらくほとんどのスタンダードな治療院・施術所でも(腹横筋や)「腰方形筋」だと説明を受けるのではないかと思われます。
しかし、直接的に強い負荷がかかっているように思えないことと、触った感覚から位置的にどうも一致していないことから、今まで非常に疑問に思ってきました。
そのような事情があり、エコーを導入してまず最初に確認したかったのがおなじみのこの索状筋硬結の部位は本当に腰方形筋なのか?ということでした。
(図1、2) 腰部(外側部)での疼痛多発部位
(図3) 第2腰椎レベルでの水平断(腰部外側部での圧痛の多発部位)
(図3_2) 第2腰椎レベルでの水平断(脊柱起立筋と腰方形筋・椎体との境目)
(図4)第2腰椎横突起レベルでの水平断面(実際の状態:脊柱起立筋と腰方形筋・椎体との境目)
*紫の○は疼痛の源となっている筋膜肥厚部分(触診上の筋硬結と圧痛点)
(図4_2)第2腰椎横突起レベルでの水平断面:解説
(図5)第2腰椎横突起レベルでの水平断面:(図4、4_2 に相当する図)
(図5_2) =(図4_2) +( 図5)
この部位での慢性腰痛をお持ちの複数名の患者様のエコー画像から得られた結論は、
腰方形筋ではなく、脊柱起立筋の中の
腸肋筋でした。
そして、この部位で「こり」ができやすく腰痛が生じやすい事についても画像から合理的な説明が付けられます。
一般的にこの部位の断面図として用いられるのは図3・図3_2のような図です。つまり、脊柱起立筋と腰椎・腰方形筋はきれいに水平線上で分かれています(図3_2)。
しかしこの部位に相当する、生きた人間から得られた画像は図4・図4_2のようなものです。
この画像から分かるのは、腰椎横突起のレベルでの脊柱起立筋(腸肋筋)は第2腰椎の横突起で下から押し上げられて横突起の支えがなくる部分では急降下する、という非常に不自然な走行になっています。
注:(図4)の紫色の○は筋膜の肥厚(・重積)(*この方の場合、軽度の腰痛で、筋膜の肥厚はそれほどはっきりとは見えていません)し、筋硬結が触知される部位です。
*注: 図5_2は、理解を助けるため図4_2 と 図5を重ね合わせたもの。
(図6)腸肋筋_腰椎横突起ライン上での腸肋筋に対する長軸断面
(図7)腸肋筋_腰椎横突起ライン上での腸肋筋に対する長軸断面 :解説
(図8) 腸肋筋の走行 (図9)腸肋筋の走行
(図6、7)は横突起上を脊柱起立筋の長軸方向に観察したもので、(図9)に相当します。
(*注: 図8のようにエコーのプローブ(探索子)を当てると図6、9のような画像が見られます)
つまり、腸肋筋は上から見ると(図8)のように直線的な筋走行ですが、横から見ると(図6,7,9)のような走行になっているのです。
川の流れと同じで、曲線部分では当然余計な力・ストレスがかかります。
横突起で下から押し上げられている部分は物理的ストレスがかかり続け血行不良を生じやすく筋硬結を生じやすいのではないかと思われます。
(同様に、多裂筋部分でも筋・筋膜性腰痛が頻繁に生じますが、でこぼこした椎間関節による物理的ストレスが要因の一つになっている可能性があります。)
*注: 図(4、6)は、エコーのプローブの撮影範囲が3センチ強で全体を一気に撮れないため、複数毎の写真をつなぎ合わせたものとなっているのでご了承ください。
*個人的にはこういった写真や図を見たことがなく、腰痛についてこのような説明を今まで聞いたことがないので(もし既に論文や書籍などがあって自分が知らないだけでしたら大変恥ずかしいですが)学術的な意味において意義深いものではないかと思っています。
*エコー画像は当院(患者様の同意を得て掲載)
*解剖図はすべて『ネッター 解剖学アトラス』原書第3版 訳: 相磯貞和より