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訪問マッサージ・鍼灸にうかがっていて、体の力はあるのに使い方のせいで損をしてしまっている方が多いので楽な使い方についてお話させていただくことがあります。
結論から申し上げますと、
運動は効率悪く、日常動作は効率よく、という言葉が標語として掲げられます。
すなわち、力を付けるためにリハビリや自主的な運動をする場合は、反動を使わずになるべくじっくり効かせる方が効果的です。
しかし、日常生活は余計な疲労を貯めずに効率よく活動するべきで、このためには反動を上手に使って動くことが必要です。
以下、この点について少し詳しく見ていきたいと思います。
まず、力は基本的に筋肉の断面積(太さ)で決まります。
(近年の研究で筋肉の生み出す力の4割弱は筋膜などの周囲組織経由で伝わることが明らかになってきましたが、もともとの力の根源は筋肉です。)
車のエンジンの排気量と一緒で大きな筋肉は大きな力を発揮できます。
しかし、人間の動作はそれだけではなく、その力をどのように使うか、という制御機構(これは脳から末梢神経に至るまで神経組織が担当します)。
力があっても体の使い方が上手でないと疲れやすいですし、できることもできない、という事になってしまいます。
たとえば、椅子から立ち上がるときお辞儀をするように頭を下げれば頭の重みとのカウンターバランスでお尻は自動的に浮いてきます(図1)。そのタイミングで足に力を入れれば最小限の力で簡単に立ち上がれます。
また、寝返りをするときも体を「板」ではなく「丸太」のように円柱に近づければ(=背中とベッドの接地面積をできるだけ少なくする)簡単にできます(図2)。
そしてこれから述べる「反動」を使った動き、というのがお元気な頃、自然に行っていたはずの動きで、運動効率を高めてくれます。
筋肉は両端にいくにつれて腱になって、最後は骨に付くという構造になっています。
「腱」は、日常用語で多くの方が「スジ」と呼んでいるものだと思います。
アキレス腱や、強く握りこぶしを作ると手首のところで腱が浮かび上がってくるのが分かりやすい例です。そしてこの腱は、動きの中において「バネ」に相当する重要なものです。筋肉が収縮し、そのエネルギーをバネである腱に蓄えてから、一気に出力する、という方式が一番効率よく強い力が出せます。ここでは筋肉と腱を一体にとらえた筋―腱複合体という考え方が重要です。
反動動作はこのばねを上手に使用した動きで運動学などではSSC・ストレッチ・ショートニング・サイクルと呼ばれます。日本語にすると伸張・短縮サイクルとなりますが、要するに筋肉を一度伸ばしてから力を入れると大きな力が出せるということを意味します。
筋肉は伸ばされると伸張反射と言って反射的に縮む命令が伝わり、縮みますが、それがそのまま骨を引っ張るわけではなく、その間にある腱(バネ)を引っ張り腱が引き延ばされます。
その後で、(筋肉+腱)全体に蓄えられたエネルギーが骨を引っ張り体が動く、という事になります。
つまり、腱は一度伸ばされてエネルギー(弾性エネルギーの形で)を蓄えて、その後縮むことで蓄えた弾性エネルギーを放出し力・速と度発揮することができます。
ところが、ばねの作用で腱が弾性エネルギーを放出できるのは一瞬の間だけです。
よって、伸ばしてすぐに縮める、という反動を使う動作の中でしかこの腱によるばね作用はうまく利用できません。
高くジャンプするというときに椅子に座った状態からジャンプするよりも、立った状態から椅子に座るくらいの高さまでしゃがんでからジャンプした方が高く飛べます。
ジャンプするときほどはっきりとは分かりにくいですが、階段を上ったり、物を持ち上げたりといったほとんどの日常動作は反動を上手に使って行うと楽に強く行うことができます。
理論的な説明を待つまでもなく、誰でもお元気な頃は自然に行っていたはずの動きです。(そうでなければ、妙に遅くてぎこちない動きとして目を引いていたはずです。)
いつしか、(筋力が低下してきて早く動くことができにくくなっていることもあると思いますが)メリハリのないゆっくりした安全な動きが動作の多くを占めるようになってきます。
太極拳をイメージしていただけば分かりやすいですが、ゆっくりとした動きは絶えず力を発揮し続けないといけないので非常に疲れます(訓練・トレーニングとしては適しています)。
筋力やバランス能力に問題がある場合は安全が最優先ですが、そうでない限り「反動」を使って素早く動いてみよう、という意識の持ち方ですぐにでも修正できることですので訪問先でよくお話させていただいています。
同じ年代の方と比較して、同じ動作をしているのに自分だけ疲れやすいといった場合はこのようなことが原因かもしれません。
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