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近年、医療保険や介護保険の財政難の問題などもあり、高齢者の運動器の機能低下を懸念して意識を高めるために導入されたロコモティブシンドロームという言葉が認知度を上げています。
筋肉は加齢(そして不使用)により、個々の筋線維が細くなりながら、筋線維の数も減少していきます。これを廃用性萎縮と言います。(これが進み歩行困難や寝たきりに至るなど全身の身体能力の大幅な低下や精神状態に悪影響が出ている状態を廃用症候群と呼んでいます。逆に、しっかり使うことで大きくなることを労作性肥大と言います。)
このような現象が起こる機序については、(確定的なことは分かっていないようですが)運動神経(α運動ニューロン)が死滅することが引き金になって、その支配下にある筋肉繊維が影響を受けるからだと言われています。
使っていないと余計にその運動神経の死滅スピードを速めてしまうらしいので、他の体の部位同様、積極的に「使う」努力が必要です。
加齢に伴って生じる筋力低下はどの筋肉にも一様に生じるわけではありません。
まず、上半身の筋力低下に比べて下半身の筋力低下が顕著に生じることが分かっています(*1、2)。
また、部位別では、屈筋群(上腕二頭筋・ハムストリングス)に比べて、伸筋群(上腕三頭筋、大腿四頭筋)の筋力低下が顕著に出ることが報告されています。
他にも、背筋や臀部の筋肉の低下も加齢に伴い生じやすいと言われていますが、これら大腿四頭筋や背筋・臀部の筋肉は抗重力筋と呼ばれ、重力に抗して活動するための主要メンバーを成す筋群ですので筋力低下が生じると背筋を伸ばしたり椅子や床から立ち上がったり階段を上ったり、という動作が安定して行えなくなり、転倒のリスクが高まりますし、座っているだけでも疲れやすくなります。
ある調査では70代の太ももの筋力は20代のおよそ半分だという事が示されており、単純に考えると70代の人が両足で椅子から立ち上がる動作は、20代の人が片足で立ち上がるのと等しいと考えられます。動作がゆっくりになってしまったり、不安定になるのも分かります。
また、筋肉は血糖値を下げるのにも一役買っていることが分かっているので、特に大きな下肢や腰背部の筋肉をしっかりさせておくことは、単に運動能力の話にとどまらず全身(内科的な意味を含めた)の健康にも大きく影響するといえます。
ところで、筋肉は大きく分けて速筋(白筋)と遅筋(赤筋)に分類されます。
速筋は短時間の強い力を発揮することに長け、遅筋は力は弱いが長時間運動し続けることができる筋肉です。
前者がお刺身の白身、後者がマグロなどの赤身に相当します。 遅筋は酸素をたくさん消費するために血液が豊富に含まれるため赤い色をしています。
そして、加齢によって影響を強く受けるのは速筋(白筋)線維(*)と言われています。
つまり、持久力は比較的保たれるのに対し、力は弱くなるという事になります。
以前は高齢者の筋力トレーニングは命令(神経)系統の機能改善のみで、筋肉は増えない(筋肥大は生じない)と言われていましたが、現在は、たとえ90歳を過ぎたような高齢者であってもトレーニングによる筋肥大が確認されています。
若者よりは当然効果が出るまで時間はかかりますが積極的に使って強さを維持・増強しておくことが重要です。(*2)
運動というと、軽い体操でもよいのかという疑問も生じますが、筋肉をしっかり保つ、あるいは増やすことを目的とするのであれば、軽い体操はほとんど意味がなく、「しっかり力を発揮する」タイプの運動が必要だということが明らかになっています(*3)。
在宅マッサージにうかがっていて現場で感じるのは年齢・性別問わず、ほとんどの方が、スクワットや爪先立ち等の運動実施をアドバイスさせていただいて1,2週間もすると触ってすぐ分かるくらい筋量は増加しています。
(*): 本来この文脈ではTypeT型、Ua型、Ub型線維という文類で話が進むことが多いですがここでは話を簡単にするために速筋・遅筋で進めます。
(*2):ただし、あまり頑張って再生能力を超えた運動強度を行うと超回復まで至らず結果として筋萎縮を引き起こす可能性があるので注意が必要ですが、トレーニング強度の側面でそこまで追い込める方は多くないと思われますので大丈夫だと思います。
むしろ気を付けないといけないのは栄養面が担保されているのかという事です。
栄養が足りていない状態でしっかりした運動を行えば回復に至りませんので結果、身体の他の部位を切り崩して部品を調達する、ということになります。
その状態がある程度長期化すればかえって弱くなってしまいます。
また、睡眠不足も同様で、身体の回復を遅らせますので栄養・睡眠などを考慮してしっかり目の運動を行うという視点が重要です。
(*3):筋電図(EMG)を用いた実験で、ただ動かすだけ(単に筋収縮が生じているだけ)の運動では筋力の維持・増強という面ではほとんど意味がないことが示されています。筋肉を維持・増強するには「ある程度強い力を発揮する」という刺激が不可欠だという事です。
ただし、関節硬縮予防などを目的とするならば「動かす」だけでも意味があります。
参考:
・『筋肉の科学』『筋を鍛える』『筋肉学入門』等 著:石井直方
・『理学療法評価』著:嶋田智明、 『理学療法ハンドブック』改訂第3版 細田多穂他。
・Janssen I., Heymsfield S.B., Wang Z., Ross R. (2000) Skeletal muscle mass
and distribution in 468 men and women aged 18-88 yr. Journal of Applied
Physiology 89, 81-88
・Miyatani M., Kanehisa H., Azuma K., Kuno S., Fukunaga T. (2003) Site-related differences in muscle loss with aging: a cross-sectional survey on the muscle thickness in Japanese men and women aged 20 to 79 years. International Journal of Sport and Health Science 1, 34-40
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