施術が始まって初期の頃は全体が悪い場合が多いので筋外膜レベル、 数センチメートル単位の幅で筋肉が硬まっているので、だいたいどこに鍼を打ってもマッサージ刺激をしても響きが出て悪いところに当ったことが分かります。
響きと鍼の効果は完全なイコールではないものの、正常な所は受けている側は鍼が入ってもほとんど何も感じないですし、鍼を打っている側も何の抵抗もなくスカスカした感じで、少なくともコリや痛みの軽減という観点からは効いている感は全くありません。マッサージも同様で、柔らかくて十分血液が通っている場所をいくら揉んでも慰安以上の効果は期待できません。
個人的には日々の臨床経験からコリの解消・痛みの軽減に対してはっきりとした効果を出していくには響きの感覚をしっかり出していく必要があると感じています。
ただし、日本では「痛くない鍼」や「ソフトな施術(マッサージ・整体)」が流行っている事実もありますので、思いっきり反対の意見があるということは理解していますが、悪い箇所の芯を捉えているけれどもそれでも「痛くない鍼」という状況があることが私には理解しにくいです。
鍼の場合、回数を追うごとに響きは出にくくなっていきますが、これは「筋膜」上にある、病的に過敏になっていた(=感作)ポリモーダル受容器の閾値が上がっていくため、つまり、侵害刺激に対する反応がいい意味で鈍くなってくる(正常化する)からです。
鍼もマッサージもターゲットは同じ(過敏になった筋膜上のポリモーダル受容器)なのですが、マッサージの場合、指での刺激をより鋭く入れていけば鍼の刺激に(理論上は)近くなっていくわけですが、鍼と違い直接「筋膜」に触れているわけではないので、筋膜の閾値を上げる効果は劣るようで、響きの感覚が無くなっていくまで結構時間がかかることが臨床上の経験から言えます。
段々、施術が進んでくると筋周膜レベル(数ミリメートル単位の幅)での凝りが対象となってきますのでより細かい鍼の操作やマッサージでの指使いになっていきます。
表面に近い筋硬結部位では精度において鍼よりも指でのマッサージに軍配が上がることがあります。
鍼の場合、他述のとおり鍼管の内径が約2mmくらいあるので、ここだと定めた部位に鍼管を置いてもその時点で既に2mm前後ズレている可能性があります(写真1)。
(写真1)
(一般的に販売されているディスポーザブル鍼の鍼管。 例として3社の製品比較
加えて皮膚や皮下組織・浅筋膜は結構、動きますし、 刺入の際も鍼は鍼管の中でたわんでから鍼管の壁との反発力で皮膚内に入るので必ずしも「真っすぐ」(=鍼管と平行)に入っているとは限りません。
このようなことからどんなに体表面に近い凝りであっても鍼をmm単位の精度で刺入するのは結構練習が必要です。
一方、マッサージの場合は指でじかに触れているのでしっかり当たっているか否かは施術者にも受け手にもはっきり分かります。この2、3mmの幅を正確にとらえる意識が持ち続けられるかがマッサージの効果を高められるか否かの分岐点のように思われます。
例)臨床の現場では、しばしば凝りEの中に幅2,3mmくらいの特に固い(e)のようなコリに出会います
(外側広筋)
<< 深さの限界 >>
深い部位のコリに対しては、表面の筋肉の層が邪魔をするので患者様の体勢を工夫して、よりしっかり捉えやすくすることが必要になってきます。
それでも頸部、腰部、臀部、大腿部など厚みがある所は施術者の思いよりもはるかに浅い部位までしか、ちゃんとした刺激は届いていないという現実があります。
エコーで確認すると深い部位にかけた(と施術者が思っている)力が容赦なく途中の筋肉層に吸収されたり周囲の組織に分散されて伝わっていることが分かります。だいたい頑張って深さ2.5cmくらいのところまでがマッサージの限界のようです。
(私はそれまではもう少しちゃんと奥まで届いていると信じていたのでエコー画像で力が逃げていく様子を見てショックでしたが、謙虚に受け入れようと思いました。)
深い箇所を治療する必要がある場合は、普段マッサージ派の患者様も鍼治療の方が確実かと思います。