顎関節症について - アート鍼灸マッサージ
顎関節症の一般的説明
<分類>
状態により以下のT型〜W型に分類されます。
・T型:咀嚼筋痛障害(咀嚼に関する筋群の問題)
・U型:顎関節痛障害(靭帯や関節包などの顎関節周りの軟部組織の問題)
・V型:顎関節円板障害(額関節内の関節円板の問題)
・W型:変形性顎関節症(顎関節を構成する骨の変形)
<一般的症状>
・顎関節の咀嚼運動時の異音
・顎関節運動時の痛み
・顎関節運動の可動域制限
など
* 付随的症状として、歯の痛み、味覚異常、肩こり、頭痛、腰痛、腕から指にかけての不快感・痺れ、眼精疲労、などが挙げられます。
当院での顎関節症の治療
まず、上記分類のうち、V型(関節円盤のズレ)、W型(骨の変形)は鍼灸マッサージの直接の治療対象とはなりません。 (V型、W型から派生的に生じている「痛みの軽減・除去」という間接的な症状については適応)
基本的にT型が直接の適応となります。
咀嚼筋は側頭筋、咬筋、内側翼突筋、外側翼突筋の4つから構成されます。実際には周囲の細かい筋肉(顎二腹筋など)も動員されて正常な咀嚼動作が成り立っています。結構マニアックな筋肉が含まれていますが丁寧にとっていけば問題なく柔らかくなります。
表面での筋群であれば、鍼・マッサージどちらでも可ですが、奥の方の筋群は鍼での治療となります。
*鍼治療の難点としては、基本的に顔面用の細い鍼を使用しますが、鍼によって内出血(あざ)が生じる場合があるので、顔あざができるリスクをご了承いただいた上での施術となります。
基本的な施術は、顎関節症の患者様には下図の筋群を中心に細かく取っていくことになります)。
U型、V型については、上記の治療をまず行って筋群の血流が改善され、筋長が元に戻ることで関節アライメントが正常化されることで症状の改善を待つ、ということになります。
U型の関節包、靭帯(=ファシア)も原理的には鍼治療の直接の対照とはなりうるものですが、具体的な手法がまだつかめていないので実験的な治療となります。
その他_補足
顎関節(下顎)は肩関節に似て、下顎を筋肉で釣り上げているのと、噛むという動作は単純な上下運動では決してなく、回転とスライドが混在したかなり複雑な軌道を描くもの(*1)なので、長年に渡る使い方のくせ(左右のバランスや噛むときの下あごの動く軌道など)が蓄積して特定の筋肉の過緊張・硬結などをもたらして顎関節症の一因あるいは悪化させている一つの要因になっているものと思われます。(*2)
加えて食べる時以外に常に噛む力を入れ続けてしまう癖(癖と言っていいのかわかりませんが精神的緊張や集中時、あるいは夜間の睡眠中なども)がある方は悪化させてしまうので注意が必要です(*3)。
わずかな力であっても継続的に筋収縮を強いられると局部での虚血により酸欠・エネルギー不足が生じ周囲の筋群の筋硬結へとつながっていきます。
肩こりや頭痛もちの方が同時に顎関節症であることも多く、(このあたりはどちらが原因・結果か分かりませんが)、顔面や頭部の筋群、頸部・肩部〜背部の筋群はあまり境目を意識せず硬い部位は広く治療した方が良いと考えられます。
(*1)個体別額運動表示システムを用いた咀嚼筋群の胴体把握:Dynamic profile of masticatory muscles by
use of Mandibular Motion Display System; 斉藤極ほか
そのため、映画で見るような骸骨が顎をパクパクと上下に動かすというイメージは誤りで、
我々が何気なくやっている「噛む」という運動を正確に計測するために特殊な特殊な装置の開発が一つの研究テーマにもなっています。
例)自律咀嚼運動シュミレータ JSN/3Xの開発;(林豊彦ほか。新潟大学大学院自然科学研究科)
(*2)ただし、原因にはほかにも様々(歯並び、生まれつき関節に問題がある場合、過去に顎をぶつけた経験など)考えられます。
当院での施術の対象となるのは顎関節周りの筋群の問題(それによって顎関節内の関節円板や、咀嚼運動に問題が生じている)が主たる原因である場合です。
(*3):顔の筋肉は、純粋な骨格筋としての側面だけではなく、身体の発生学的には内臓の延長の側面を持っています。
つまり、日本を代表する解剖学者・発生学者である三木成夫によれば顔の表情筋は元来、えら呼吸に関与していた筋群で、それがえら呼吸から肺呼吸になった時にえらの運動とは関係ない仕事に関与するようになってきたものなので植物性器官に分類しうるもの、ということになります。
このような由来があるので、骨格筋としての側面を持ち作り笑いや意識して任意の表情を作ることができる一方、内臓としての側面からは強い感情(特に恐怖や驚き、緊張感など)が表情となって出てきてしまうことをを完全に抑えることはできません。意思によるコントロールが困難な側面を持っているので精神的ストレスや身体の状態によって自然と筋緊張が亢進してしまうことが起こりえます。
この分野の米国の有名な学者P・エクマンが、15分の1秒以下というほんの一瞬表れる「微表情」(特別な訓練を積むなどしない限り抑えることが難しい、つい出てしまう本音を表す表情)について研究していますが、こういった話がなり立つのも、もともと顔面の表情筋は発生学的に内臓(つまり、意図的にコントロールできない)の延長だからです。
参考:『歯と脳の最新科学』堀準一
: 『ヒトのからだ - 生物史的考察』三木成夫
: 『顔は口ほどにうそをつく』 『表情分析入門』 ポール・エクマン