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訪問マッサージのある患者様(小平市 在住。95歳を過ぎの女性)が時におっしゃっていたことです。
自分が60代のころ、自分が世話をしていた高齢の親戚のおばさんと一緒にどこかへ歩いていくときに、その方がゆっくりゆっくり歩くのを見て遅いと思ってイライラした、
ということを振り返り、本当に申し訳ないことを思ってしまった、と後悔されていました。
その頃はその患者様もおそらく親戚のおばさん以上のお歳になられていて、 室内をゆっくりゆっくりなんとか伝い歩きしている状態でした。
少なくとも私から見て十分すぎるほど心の優しい患者様でしたが、そういう方でもそんな経験をお持ちなのかと意外に感じました。
他人の状態を理解することは大変難しい…古くは哲学分野で、また最近では脳科学をはじめとする認知科学の分野で他我問題と呼ばれ議論されている、 「他人の心をいかにして我々は知りうるのか?」、もっと具体的な問いとしては「友人が見ている赤の感覚と、自分が見ている赤の感覚は一緒か?」というような問題です。
人間同士に限らず、他の動物種においても、
例えば、動物学者ユクスキュルが1930年代に『動物から見た世界』という古典的名著の中で、 ハエが見る世界は人間が見る世界とまるで異なるとして、それぞれの生物ごとの見る環境・世界を「環境」に対して「環世界」と呼んだことから始まり、
『動物は世界をどう見るか』では鈴木光太郎が様々な生物の視覚の仕組み(蛇が見る赤外線の世界、ハチが見る紫外線の世界、ハエの複眼から見る世界等)について論じていたり、
池田譲は『イカの心を探る』で、よくチンパンジーなどに行うマークテストをイカに実施しイカにも鏡を見て自己認識の能力があるようだという話をしています。
また、『魚は痛みを感じるか?』ヴィクトリア・ブレイスウェイトは主に魚を対象に、魚が数カ月に持続する記憶力を持ちうることや、 群れの中で他の魚と自分の地位の違いを認識していること、そして、魚も痛みを感じることを示しているなど、を報告しています。
これらの面白い研究報告によっていろいろと想像を掻き立ててくれますし、皆それぞれ心を持っていると知ると(思うと)、より愛おしい気持ち、 すなわちE・ウィルソンが「バイオフィリア」と呼ぶ感覚が掻き立てられます。
その一方で、哲学者トマス・ネーゲルが『コウモリであるとはどのようなことか』の中で心理的な現象を物理的な・客観的な現象に還元できるとする還元主義の立場を
「浮かれ気分の還元主義」と痛烈に批判しています。
彼はまず、コウモリも体験を持つ、という常識的な立場に立ったうえで、 コウモリが超音波によって周囲の環境を理解していくその体験を人間は理解することができるのか?ということについて考察しています。
単に想像によって理解した気になるというのは、それは「自分にとって」どのようなことか、に過ぎず、 「コウモリにとって」コウモリとはどのようなことかを理解していることにはならない、そして同じ問題は、人間同士の間にも存在するのだ、としています。
この論考の中で彼が言いたいのは、われわれはコウモリであることはどのようなことかを知りえない、という点にあるのではなく、 「コウモリであるのはどのようなことであるのかという問いの意味を把握するためにさえ」、コウモリそのものの視点を取らなければならない、ということです。
ここで自分がネーゲルに対して何かを言えるような材料を持ち合わせているわけではありませんが、患者様のところに回っていて、 重病・難病の方、高齢の方、腰痛の方、肩こりの方、あるいはサッカー選手…様々です。
治療に入るときには治療家ならだれでもそうだと思いますが、 患者様の状態を想像して手技を行うわけです。
でもやはり「想像」はしょせん想像に過ぎませんし、 治療についての医学的知識や理解を背景に自信をもって治療している様は「浮かれ気分の還元主義」と呼ばれてしまうかも知れません。
自分が一緒に痛い思いをしても意味がなく、痛みを治すのが目的ですから 求められている結果が出せることが一番なのはもちろんですが、良い施術にある部分の「共感力」は必要なはずです。安易な共感になっていないか、と再考させられる一件でした。
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