< 筋膜リリース(筋膜間に鍼を刺入)の例 >
解説 : 画面左斜め上から鍼が刺入。中央部分の筋膜の重なっている(=筋膜肥厚部分)間に鍼を通し癒着(があると疑われる場合)をはがす(筋膜リリース)。
筋肉の弾性と鍼の弾性を上手く利用するとカーブをかけるように刺入することもできます。
(ただし、この撮り方は次のスライドと異なり、エコーが映している断面上をぴったり鍼が通らないといけないので結構難しく、うっかりしているとカーブどころか消える魔球になってしまいます(笑)。)
< 大腿四頭筋の筋間中隔に向けて鍼を刺入 >
(大腿四頭筋・短軸断面 筋間中隔に向かって刺入 : エコーが映す断面に対し、直行するように鍼を刺入。この撮り方ですと鍼体は映らず鍼先だけが白く光る点として見られます。)
(大腿直筋・長軸断面: 肥厚した筋周膜に向けて刺入 :original)
(大腿直筋・長軸断面: 肥厚した筋周膜に向けて刺入 )
<鍼の響きはどこで生じているのか?>
響いたりLTRが出るのは基本的には膜組織が刺激された時です。
下の図で言うと、赤いライン(筋周膜)を突き抜けてしまえばその先(筋線維の集合いわゆる「筋肉」そのもの)では、膜で響くほどは響きは生じません。
ただし、消しゴムのような硬さになっているコリですと筋膜で出るのと同じような強烈な響きが筋肉内においても出ます。
(外側広筋)
(外側広筋)
響きやLTRが出るのは筋肉(を包む筋膜)が凝って異常な状態だからだと理解していただいて良いと思われます。コリが長期化したり程度がひどくなるとやがて筋膜が過敏になりトリガーポイント(*)化する、というイメージです。
施術が始まって初期の頃は全体が悪い場合が多いので筋外膜レベル、 数センチメートル単位の幅で硬まっていてだいたいどこに鍼を打ってもマッサージ刺激をしても響きが出ます。
(*) ただし、トリガーポイントの定義自体も近年変わりつつあるので注意が必要です。
初期の痛く響く「
部位」という捉え方から、痛く響く「
状態」(生理学的状態)ととらえる見解が広まりつつあります。(『離島発 とっておきの外来超音波診療』 白石吉彦、 『解剖・動さ・エコーで導く Fasciaリリースの基本と臨床』 木村裕明 ほか 等)
段々、施術が進んでくると筋周膜レベル(数ミリメートル単位の幅)での凝りが対象となってきますのでより細かい鍼の操作やマッサージでの指使いが必要になっていきます。
<< 凝りの深さ について>>
表面の硬結が解消されてくると、その下の深い場所での硬結がよりはっきり触知されるようになってきます。
しかし、特に体格の良い人などでは、太ももや腰などの厚みのある部位ではどんなに頑張ってみても表面の凝りほど正確に触知することは不可能です。
このことはエコーを使いながら深い部分での筋膜肥厚部分に鍼を当てていくと指では拾いきれていなかった場所で響きやLTRが出たりすることがあるので分かります。
<< エコー について>>
(エコー)
エコーを使用すると、1mm以下の精度での施術が理論上可能です。
エコーは(胸郭周りを細かく打つなどの場合)安全性の向上や、確実に狙ったところに刺入するという目的に資するツールです。
ただし、デメリットとしては作業効率が大幅に落ちるので、指の感覚で拾える箇所は指でやってしまった方が圧倒的に効率がいいので患者様のコストパフォーマンスに資するように使い分けていきます。
また、エコーを使って練習しておくと、マッサージ・指圧においても自分がかけた圧が深部の筋肉組織にどのように伝わっていくのか(あるいは深部に行くに従いどのように力が逃げていくのか)を確認することができ、実際の施術の現場にフィードバックすることができます。
(超音波診断装置 : 鍼治療の
安全性を高め、狙った部位への刺入の
正確さを担保するための、いざという時の頼もしい助っ人)
<< 鍼管の太さ について >>
治療がある程度進んで細かくなったコリがターゲットになってきた時(例:下図のコリ(e)を狙う場合)に困るのが鍼管の太さの問題です。
鍼管の内径が約2mmくらいあるので、 極端な話、ここだと定めた部位に鍼管を置いてもその時点で既に2mm前後ズレている可能性があります。
(一般的に販売されているディスポーザブル鍼の鍼管。 例として3社の製品比較
このズレも計算に入れて刺入しないといけないので表面上の凝りであってもmm単位の精度で刺入するのは結構技術がいります。
(外側広筋)
マッサージでは上図のコリ(e)を狙って押圧する場合、指でじかに触れているので当たっているか否かは施術者にも受け手にもはっきり分かります。
この数mm幅のコリの芯を外さない意識というのが臨床で効果が上げられるか否かの分かれ道になる非常に重要なポイントだと思います。。
<< 治療の刺激量の問題 >>
施術部位の
精度を上げることについては完全に施術者側の責任で、腕の見せ所ですが、最後に決め手となるのが
刺激量の問題です。
これにはどうしても患者様側からのフィードバックが欠かせません。治療は施術者・患者双方の共同作業と言われるゆえんです。
コリを取るにはコリの芯あるいはその周囲の、過敏になったポリモーダル受容器を不活性化させる必要がありますが、コリの程度が悪ければ悪いほど刺激に対して敏感になっているので調子に乗って響かせすぎると施術後で酷い筋肉痛が生じたり、一時的にだるくなったりしてしまうのでこの量の調節が実際の臨床現場では非常に難しい問題です。
程よい刺激量というのが個々人でかなり差がありますし、同じ人でも体調や季節などによって異なるで是非施術中でも施術後でも感じたことを教えていただけましたらと思います。