江戸の湯屋・ページ10

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湯上がり美人

「そもそも湯上がりの時美しき女はまことの美人なり」これは山東京伝の『賢愚湊銭湯新話』の中の一節です。 「湯上がり美人」、その魅力に想像力をもかきたてられた絵師がたくさんの作品を残しています。

湯上がり美人

■奥村政信

湯から上がったばかりの女が浴衣を肩にかけ縁台に立つ姿です。現代風にいえばセミヌードといったところでしょう。浴衣には波と源氏車を大きくあしらっています。オリジナルには
汗になる 鳥に悋気の夫婦づれ
という句が添えられています。悋気(りんき)とはやきもちのことです。湯上がり美人に見とれるオンドリにメンドリがやきもちを焼いているのです。


(川柳) 湯上りの何かほしき立姿
湯上がりの心地よさに茫然とした状態で立つさま。

湯上がり美人

■鈴木春信

湯上がりに胸をはだけて縁台に腰をかけ、はさみで爪を切る女性の姿です。入浴して柔らかくなった爪を切るのは今も昔も変わりません。前出の奥村政信同様、こちらもオンドリがその姿にみとれているようです。やきもちをやくメンドリはいないようですが......。この絵は足の爪を切る場面ですが、磯田湖竜斎の浮世絵には行水のあとに手の爪を切っている姿を描いた作品があります。


(川柳) 柔らかで爪のとりよい風呂上がり
説明の必要はないでしょう。やはり想像されるのは湯上がりに浴衣を引っかけて爪を切る娘の姿です。

湯上がり美人

■鳥居清長

この絵は揃い物『色競艶婦姿(いろくらべえんぷのすがた)』のうちの「風呂場」または「浴後の女と黒犬」と題されている作品です。この揃い物には「口舌」、「辰巳の妓と婢」、「風呂場」、「髪結」、「鶴屋の店頭」、「母子と娘」、「牡丹を見る芸者たち」、「野遊び」、「臥床にはいろうとする女」の9点があります。まだ重政や湖竜斎の影響から抜け出る前の作品ですが、この揃い物の中では傑作とされています。

湯上がり美人

■喜多川歌磨呂

歌磨も湯上がりの女性を多く描いています。この絵は『娘日時計 午ノ刻』と題されています。娘の生活を一日を午前八時(辰の刻)から午後四時(申の刻)までの五刻にわけ描いたシリーズ中の一枚です。午の刻ですから昼の十二時ごろになります。浴衣を脇に抱え手ぬぐいで顔を拭いている娘の髪型はばい髷、口にもみじ袋をくわえた娘は燈籠鬢(とうろうびん)の勝山です。頭を紐で括っているのは風呂の蒸気で髪型がくずれないようするためです。

湯上がり美人

■大蘇芳年

『全盛四季夏 根津花やしき大松楼』と題された三枚続きのうちの一枚です。明治に大繁盛した根津の遊郭「大松楼」の別荘「花やしき」の内風呂を描いています。これは遊郭の風呂なので入浴の際に髪を洗うこともあったのでしょうが、いわゆる町の湯屋の絵には髪を洗っている女性の姿はありません。洗髪には多くの湯を使うため許可されていなかったようです。洗髪は自分の家で行っていたのです。
この女性は「花月」という名の太夫で湯上がりに髪をとかしながら、手紙を読んでいます。客からの恋文でしょうか? 

(川柳) 色白はかくべつ目立つ洗い髪
白い肌が長い黒髪をいっそう引き立てます。湯上がりに髪をとかす姿は、髪を洗う姿と同じく多くの絵師たちが描いています。それほど魅力的なのでしょう。

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