日経のコラム「春秋」


ABO FAN


Red_Ball12.gif (916 バイト)平成13年12月21日『日本経済新聞』1面のコラム「春秋」について

 前回(平成12年1月14日)に引き続き、単純な事実誤認が多いようですね。私は『日本経済新聞』の愛読者なので、非常に残念です。

#血液型と性格の関係は、科学的にほぼ証明されています。念のため。

 それでは、2年前の平成12年1月14日の記事と比較してみましょう。きちんと比較するために、本文をそのまま引用しておきます(太字は私)。

 「わたしってチョー文系人間じゃないですか」「うーん、そんなことこちらは知るはずもないんだから、相づちを求められても困りますね。まあ、文系人間を名乗るんだったら、その根拠を聞こうじゃないですか」「グラフとか方程式とか見ると、もう頭がぱにくっちゃって」
 「それってただ、数学が嫌いなだけじゃないの」「えっ」「文系の証しが数学嫌いというのは、文系を自任する多くの人に失礼じゃないかな」「じゃあ文系人間と理系人間どうやって分けるんですか」「分けられないし、分ける必要もないと思うよ」。教授と学生のかみ合わない会話である。最近は「僕は典型的な理系です」などと、自己規定する学生が増えたという。
 日本社会に根を張る文系と理系という区分。官庁などでは、それが組織の活性化をはばんでいるといわれる。自然科学を理系、社会科学・人文科学を文系としているが、その壁は崩れ、学問は融合し始めている。個人の資質を文と理に強引に分類してしまうのは、血液型性格診断と同じく、科学的には根拠の薄い一種の虚構なのかもしれない。
 弊害も多い文理の区分けを排して、罪のない人間観察の指標となる、歴史派と地理派という分類はどうだろうか。空間的な広がりに興味を持つか、時間的な流れを重視するか。旅に出て車窓を飽きずに眺めているのが地理派、名所旧跡の故事来歴を読みふけるのが歴史派。ひたすら食べて飲むグルマン派もある。

 両方の文章を何回か読んでみると、微妙に言い回しが違っていることがわかります。そこで、違いをわかりやすくするために比較表を作ってみました。

主な相違 前回(平成12年1月14日) 今回(平成13年12月21日)
1.「血液型と性格」か「血液型性格診断」か @ABO式血液型と性格との関連
A血液型性格診断
血液型性格診断
2.科学的な根拠 @科学的な評価を得た研究報告では、ABO式血液型と性格との関連を証拠づけるものは何一つ見つかっていない。
A何の科学的根拠も持たない血液型性格診断
科学的には根拠の薄い一種の虚構なのかもしれない。
3.結論 科学的に関係なしと断定 あいまい
4.文書の長さ コラム全52行 ごく一部(全52行中の3行)
5.「血液型性格診断」の評価 @日本独特の奇妙な風習
A血液型ハラスメントともいえる不快な差別が生まれる可能性がないではない
B何の科学的根拠も持たない
Cそろそろ呪縛を解きたい
あいまい

 では、順に見ていきましょう。

1.「血液型と性格」か「血液型性格診断」か

 これは大きな違いです。なぜなら「血液型と性格」はいわゆる「血液型性格診断」は全く同じ意味ではないからです。
 本当に「血液型と性格」に関連があるかどうかは、科学的に検証が可能です。しかし、いわゆる「血液型性格診断」は、×型は○○な性格と断定するケースが多く、必ずしも当たっているとは限りません。ABO式血液型だけで人間の性格が決まる、といったような単純なものではないのです。
 前回は、「血液型と性格」=「血液型性格診断」とし、何の科学的根拠も持たないと断定していました。しかし、今回は「血液型性格診断」だけで「血液型と性格」という文章はありません。うがった見方をすれば、「血液型と性格」は関連があるにしても、いわゆる「血液型性格診断」は正しくないと主張することも可能です。

#もっとも、単純に文字数の関係で「血液型性格診断」としたのかもしれません。

2.科学的な根拠

 これも大きな違いです。前回は「何の科学的根拠も持たない」と断定していますが、今回は「科学的には根拠の薄い一種の虚構なのかもしれない」とかなりトーンダウンしています。現在は少々怪しくなってきたとはいえ、昔は文系と理系の違いは一応は根拠があるとされていたのですから、文脈上「血液型性格診断」が全く根拠がないとすると、比較対照としては適当とは思えません。ものは試し、「血液型性格判断」を「人種差別」や「男女差別」に代えてみると明らかにこの文脈では不適切となります。従って、妥当な解釈としては、何らかの根拠はあるかのもしれないが、それはかなり怪しげなものである、ということしかないようですね。
 やはり、前回の文章からはかなりトーンダウンしたことになります。

#それとも、単純に前回とは筆者が違っただけなのでしょうか?

3.結論

 このように、前回よりはかなりトーンダウンしています。誰か私に本当の理由を教えてくれる人がいないでしょうか?

4.文章の長さ

 今回は「血液型性格診断」はメインではなく、あくまで文系と理系についての内容ですから…。

5.「血液型性格診断」の評価

 前回は「血液型性格診断」について、非常に否定的な評価をしていました。しかし、今回の結論はかなりあいまいなようです。「弊害も多い文理の区分け」というのが結論ですが、これは文系・理系の区分けが(明らかに)「長所もある」ということが(暗黙の)前提となっているからです。
 国家公務員なら、採用区分はいわゆる「キャリア」と言われているT種からV種までありますし、事務系(≒文系)と技術系(≒理系)の区分も明らかです。地方公務員や民間企業もだいたい同じです。高校や大学でも、圧倒的多数の学校では文系と理系の区別があります。そんなの日本人の常識ですよね?
 そこで、念のために日本経済新聞社自身の採用職種を日経就職ナビで調べてみました。
 現時点(H14.1.2)での採用予定は、

 と書いてあって、きちんと文系・理系が明記されています(笑)。
 現時点(H14.1.2)での募集職種は、

 となっています。つまり、大きく分けて、記者、業務、技術の3つの職種があるようです。常識的に考えて、記者や業務は文系でも理系でも大丈夫でしょうが、電子メディアや技術は技術がわからなければ厳しいはずだから(理系が中心になる?)、やはり日本経済新聞社自身も文系と理系の区分をしていると推測するのが妥当のようです。もっとも、日本経済新聞社には確認はしてませんので、本当はどうなのかわかりませんが。

 いずれにせよ、「血液型性格診断」は、文系と理系程度の根拠はあるようですから、今回のコラムを読む限り、筆者は全く科学的な根拠がないと判断しているということはないようですね。私はこれで一安心です(笑)。 -- H14.1.2

Red_Ball12.gif (916 バイト)平成12年1月14日『日本経済新聞』1面のコラム「春秋」について

 まず、本文をそのまま引用しておきます。

 「わたしは典型的なO型人間で、おおざっぱなところがあります」。こんな自己紹介は、日本以外では通用しない。きょとんとした顔をされるか、「血液型と性格について何の関係があるのか」と詰門され、説明に窮するのがおちだという。
 血液型と性格を絡めて、様々な物語を展開するのは、日本独特の奇妙な風習と世界は見ている。科学的な評価を得た研究報告では、ABO式血液型と性格との関連を証拠づけるものは何一つ見つかっていない。なのに、日本ではまるで科学的に検証された「定説」でもあるかのような扱いで「あの人はまじめ過ぎるのよ、A型だから」と断じたりする。
 単なる茶飲み話、人間関係の潤滑油でとどまっていれば、目くじら立てることもない。ただ、物語が独り歩きして、血液型ハラスメントともいえる不快な差別が生まれる可能性がないではない。血液型性格診断の記述は大抵あいまいだが、読者の数を意識してか、日本では少数派のB型やAB型にはレトリックとしてやや厳しい表現が目立つような気がする。
 大学生を対象にした調査では、隣人として避けたいタイプとしてB型やAB型という答えが多かった。何の科学的根拠も持たない血液型性格診断で、つき合いにくいと決めつけられる方はたまったものではない。これが就職や職場での人員配置にまで拡大したらどうなるのか。そろそろ呪縛を解きたい。

 このコラムは、単純な事実誤認が多いようです。私は『日本経済新聞』の愛読者なので、非常に残念なのですが…。 -- H12.1.17

Red_Ball12.gif (916 バイト)事実誤認について

 以下に、事実のみ書いておくことにします。

> こんな自己紹介は、日本以外では通用しない。

 欧米ではあまり通用しないのは事実です。(^^;; しかし、中国、韓国、台湾、香港などの東アジアでは通用するようです。また、どうやら東欧圏でも通用するらしいです。ここでは、具体的な証拠を出しておきましょう。

> 科学的な評価を得た研究報告では、ABO式血液型と性格との関連を証拠づけるものは何一つ見つかっ
> ていない。

 これは明らかに事実誤認です! 確かに日本の論文では「ABO式血液型と性格との関連を証拠づけるもの」はありません。しかし、データを分析すると、ほとんどは関連を証拠づける統計的結果が得られます。そして、心理学者にこの疑問をぶつけたら、ほとんど全員が沈黙してしまいました。

 なお、外国の論文では、次のようなものがあります。

 次に、理論!?のページから抜粋しておきます。

PubMedによる検索

 アメリカ国立医学図書館では、PubMedというデータベースを公開しています。これは、医学関係で有名なデータベースMEDLINEを、個人が使えるような形で公開しているものです(もちろん英語!)。いや、実に便利な世の中になったものですね。ということで、早速検索してみました。日本語での説明は、ジェノミックポートというHPがおすすめです。私もここで知りました。(^^)

 ABO式血液型は、"ABO blood-group" で検索します。複数の単語を含むので、引用符を付けるのを忘れないようにしてください!

 これだけだとすごい数になってしまうので、普通はpersonality(性格、人格)やneurotransmitter(神経伝達物質)も一緒に指定するといいでしょう。要約だけではなく、Display Citation reportと指定すれば、簡単な内容も読むことができます。もっと早く知っていればなぁ…。

 さて、前置きはこのぐらいにして、興味ある論文を見てみることにしましょう。

 まず、強迫神経症にはO型がなりくいそうです。日本ではB型がなりやすいと聞いたんですが…。国によって違うでしょうか?? しかし、海外ではちゃんとした論文もあるんですねぇ。

Neuropsychobiology 1980;6(3):128-31
Obsessional personality traits and ABO blood types.
Rinieris P, Stefanis C, Rabavilas A

 脳内物質であるドーパミンに関係する遺伝子がABO遺伝子(第9染色体)の近くにあるという論文も見つけました。v(^^) つまり、血液型と性格に関係がある可能性があることになります。少なくとも、明確に関係を否定することはできないでしょう…。

Cytogenet Cell Genet 1988;48(1):48-50
Localization of the human dopamine beta hydroxylase (DBH) gene to chromosome 9q34.
Craig SP, Buckle VJ, Lamouroux A, Mallet J, Craig IW

 次は、血液型とストレスの話です。ストレスと言えば、タイプA性格ですね。タイプAというのはA型ではありません(笑)。心臓病になりやすいのがタイプAの性格なのです。仕事をバリバリやるといのがこういうタイプです。ま、確かにストレスはたまるでしょうね。(^^;;

 アメリカでの研究では、多い順にO、B、Aということになっているようです。つまり、A型が一番タイプAらしくないと…(笑)。AB型は数が少ないせいか、書いてありませんでした。

South Med J 1991 Feb;84(2):214-8
Relationship between blood groups and behavior patterns in men who have had myocardial infarction.
Neumann JK, Chi DS, Arbogast BW, Kostrzewa RM, Harvill LM

なお、中国では血液型とは特に関係ないという結果が得られているようです。この論文は中国語なので、残念ながら詳しい内容はわかりません。

Hua Hsi I Ko Ta Hsueh Hsueh Pao 1991 Mar;22(1):93-6
[Study on relationship between human ABO blood groups and type A behavior pattern].
[Article in Chinese]
Mao X, Xu M, Mu S, Ma Y, He M

 日本はどうなのかな? 別な研究でも、A型はストレスに強いとあります。

Psychosom Med 1992 Sep-Oct;54(5):612-9
Effects of stress and blood type on cortisol and VLDL toxicity preventing activity.
Neumann JK, Arbogast BW, Chi DS, Arbogast LY

 日本人ではA型がストレスに弱いような気がしますが、欧米人は違うのかな?? となると、文化の違いなのかもしれませんね。どうなのでしょうか??

 お次は、血液型が脳内物質のセロトニンに影響するという論文です。血液型によりセロトニンの量が違ってくれば、当然のことながら性格も違ってくるはずですからね。(^^)

Br J Haematol 1986 Oct;64(2):331-8
Alloantibody-induced platelet serotonin release is blocked by antibody to the platelet PLA1 antigen.
Duncan JR, Rosse WF

 こちらは、血液型によってホルモン濃度が違うという論文です(ロシア語!)。残念ながら、内容の紹介はありませんでした。人間は、ホルモンバランスで気分が変わるぐらいですから、当然のことながら性格も違ってくるはずです。

Voen Med Zh 1985 Apr;(4):74-6
[Blood hormone levels in persons of various blood groups].
[Article in Russian]
Iakovlev GM, Kulagin KV

 これは何だっけかな???

Clin Biochem 1985 Feb;18(1):67-9
Cortisol and catecholamines response to venisection by humans with different blood groups.
Locong AH, Roberge AG

 躁鬱病と血液型の関係です。

Act Nerv Super (Praha) 1978 Dec;20(4):256-7
Sex differences in ABO blood types distribution in manic-depressive patients and in the rate of 5-HT uptake by blood platelets in healthy donors of different blood groups.
Oxenkrug GF, Mikhalenko IN, Sivers JS

 いずれにせよ、血液型と脳内物質に関する論文がたくさんあることがわかりました。探せば結構いろいろな論文があるものです。

 残念ながら、いずれも血液型と性格の関係についての確たる結論は得られていないようです…。しかし、海外でも真面目な研究があり、決して否定的な結果ばかりでないことには注目すべきでしょう! -- H12.1.17

> 物語が独り歩きして、血液型ハラスメントともいえる不快な差別が生まれる可能性がないではない。

 血液型ハラスメントは、血液型と性格の知識が普及したからではなく、知識が不足しているのが原因です…。

> 血液型性格診断の記述は大抵あいまいだが、読者の数を意識してか、日本では少数派のB型やAB型
> にはレトリックとしてやや厳しい表現が目立つような気がする。

 確かに、「血液型性格判断」の本はそうでしょう(苦笑)。能見さん前川さんの本は読んだのでしょうか?

> 大学生を対象にした調査では、隣人として避けたいタイプとしてB型やAB型という答えが多かった。

 確かにそういうそういう調査はありますが、差は大きいものはありません。この原因としては、知識が不足していることが推測できますが、残念ながら明確な分析はないようです。「隣人として避けたいタイプ」なら、他にいくらでも「差別的」なものがありますし…。

> これが就職や職場での人員配置にまで拡大したらどうなるのか。

 私が知る限り、そういう例はありません。

> そろそろ呪縛を解きたい。

 呪縛を解きたいのなら、何か具体的な方法を考えないといけません。それは、江戸時代に否定されていた六曜が、明治以降に信じられるようになったメカニズムを探れば明らかです。科学的に否定してもダメなのです!

 まして、血液型の場合は、(科学的根拠とは関係なく!)自分自身の体験からそう信じているのですから、信じるようになったメカニズムを分析することが必要になる…はずです。

 内容はともかく、事実誤認が多いので、『日本経済新聞』の愛読者としては非常に残念と言うしかありません…。 -- H12.1.17


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最終更新日:平成14年1月2日