平成27年9月

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- 稲作について -


第二章 自然育苗について


  さて、前回までは田んぼの出来事を記しましたが、今度は、育苗についての話です。無農薬・有機栽培の田んぼはだんだんと自然に近づいていきましたが、割と人工的なのが種籾から苗まで育てる育苗作業です。
 一般的な無農薬栽培では、この育苗作業も無農薬・無化学肥料が貫徹されており、その方法を簡単に述べると以下のようになります。

種籾の選別

塩水による種籾の選別
(写真提供「田力本願の米」菅原)

  種籾の選別は、できるだけ健康な籾を選別し、種籾の発芽率を高める目的で行います。選別の方法は種籾を水に漬け、水に浮くものと沈むものを選別します。比重が重く中身が充実した健康な籾は水に沈みますから、これを種籾に使うわけです。そして選別に用いる水も塩水を用いて、できるだけ比重の大きい種籾が得られるようにします。

種籾の消毒
  一般的な農法では化学薬品で種籾を消毒しますが、無農薬栽培の場合は籾が有する代表的な病害菌であるイモチ菌が死滅する温度に水を温め、それに種籾を漬けて消毒します。このような方法は「温湯消毒」と呼ばれます。

苗床の肥料
  塩水で選別され、そして消毒された種籾は、次に冷水に漬けて発芽を覚醒させます。それが終わると今度は底の浅い長方形の箱に土が詰められた「苗床」に播かれて、そして種籾は発芽して苗に成長していくわけです。

冷水に漬けられた種籾
(写真提供:「人と自然の仲立ち米」)遠藤

 通常、苗床はビニールハウス内に並べられ、そして厳正な温度管理のもとで育てられます。発芽したての苗は育ち盛りの子供のようなもので食欲旺盛ですから、肥料を施していく必要があります。これについても無農薬・無化学肥料栽培では化学的に合成された肥料は用いず、有機的に発酵させた肥料を用います。
 苗が十分に育ったら、それが田んぼに運ばれ、そして田植えが行われます。

  以上が、通常の無農薬・無化学肥料栽培による育苗作業になります。ここまでの種籾から苗までの生長過程は、田植え後の稲の生長過程に比べると、比較的多くの人工的な作業が施されています。   私はこういった育苗作業についても、できるだけ自然なものになるように、いくつか工夫を凝らすことにしています。これについて、以下に記してみます。

「種籾を「無」消毒にしてみる」
  通常の無農薬・無化学肥料栽培では、「温湯消毒」が行われますが、私は、これを平成17年から省くことにしました。消毒無しでは種籾がイモチ菌を保菌したままになり、稲作における病害のリスクが高まりますが、しかし私はそれでもあえてこの消毒を省いたわけです。

  私は考えました。自然の土に発芽する草木は、特に消毒されなくても立派な草木が生長しています。それを考えると自然の生命には、もともと病害菌に対する十分な抵抗力が備わっており稲についても同じことが言えるのではないかと思えるのです。また人が種籾を消毒することで、むしろ稲が本来持つ生命力も小さくなるのではないか、そんな考えもありました。これが消毒を省いた理由です。

  この種子の無消毒に取り組んだところ、「ずいぶんと思い切った方法だね」とも言われましたが、私にはある確信もありました。それは「冬水田んぼ」農法を始めてから、イモチに罹る稲に変化が現れてきたことです。

 平成15年秋宮城県北地方の
水田写真の水田のほとんどは
イモチが広がり穂の色がくすんでいる。

 私が「冬水田んぼ」を始めたのは、平成15年のことですが、その年は東北地方が10年ぶりに冷害に襲われた年でした。冷害のためイモチ病に罹り、そして籾が不熟となって「垂れない稲穂」の広がった田んぼが宮城県いたるところに広がっていました。
イモチ病は隣の稲に伝染する性質があります。化学薬品で消毒された種籾で育った稲でさえ、気候条件が不良であればこのような状況に陥るわけです。毎日のように噴霧機で薬を散布しても拡大したイモチ病には焼け石に水といっても良い状況でした。

  平成15年には私の「冬水田んぼ」でも、イモチに罹った稲が散見されました。しかし不思議なことに、それが隣の稲に伝染していかないのです。おそらく、これは、冬水田んぼをしたことで田んぼがより自然なに状態に近づき、それにより稲が持つ本来の抵抗力が発揮されたためではないのかと考えました。
  このため種籾を消毒せずとも、稲には稲が本来持つ病害への抵抗力があり、むしろその抵抗力を引き出したほうが、より病害に強い稲作ができる、そう考えて、あえて種籾の消毒を止めたわけです。

「苗を田んぼの上で育てる」
  次に考えたのは苗代による育苗です。これは既に平成15年から取り組みました。通常はビニールハウスの中に並べて栽培される苗ですが、苗代では苗床を直接田んぼの上に置いて育てます。ただし育苗の初期には寒気から苗を守るため苗にシートを被せます。こうすることで、苗は小さな頃から田んぼの土になじみ、そして気温の変化を体感することで、自然とのつきあい方を学び取って行きます。

苗床にシートを被せ、冷気を防ぐ

そういった苗は、田植え後も「田んぼ」という自然の原野で逞しく育っていく、そう考えたわけです。
  病害対策の工夫について、もう一つ付け加えれば、田植え時にも苗と苗の間隔をできるだけ大きくとる、といったことも行っています。平成15年冷害年に、ほとんどイモチの被害を受けなかったのは、苗の間隔を大きくとったことも効果があったようです。
  このように「自然」、そういったものを考えながらの稲作を継続してきたわけですが、もう少し、私の考える自然のというものを記していきたいと思います。そのために、一度、田んぼから視点を移し、山や川、そういった場所にある草木や魚などについて次に考えてみたいと思います。



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