裁判所提出書類 一頁

更新日19.5.7

最近、異常なほど日弁連・日司連から行政書士叩きが行われおり、私は非常に残念でなりません。

先日、日弁連の申し入れに対する回答を日行連が公開しました。
多少納得できる回答であったと思っていますが、残念な一文がありました。

「裁判所に提出する書類は、行政書士は取り扱うことが出来ない」と明言してしまったのです。

そこで、追いやられてしまった「裁判所に提出する書類」について、私なりに歴史や旧法の条文・国会の議事録を調査し、考えてみました。

私の結論は、
「裁判所に提出する書類のうち、紛争性のない申し立てに関する書類の作成は、弁護士・行政書士・司法書士の共管業務である。(提出に関しては弁護士が代理、行政書士が代行できる。司法書士は提出できない。)」

この論文は、行政書士側、司法書士側、弁護士側の意見(出版物等含む)を採用せず、中立的なものとして廃止・制定法令、裁判例、議事録を参考に作成しました。
また、行政書士に有利な部分のみの抜粋はしておりません。

この結論に至った経緯は以下の通りです。



その1 代書人の歴史と官公署の定義


初めに、行政書士と司法書士が分かれる前の法令を見てみましょう。

明治5年 司法職務定制 第42条 代書人
第一 各区代書人を置き各人民の訴状を調成して其詞訟の遺漏無からしむ 但し代書人を用いると用いざるとは其の本人の情願に任ず

当時は裁判をしようとするとき、代書人が裁判に関する書類を作成していました。また、代言人(弁護士)と同様依頼するかしないかは自由でした。

明治6年 訴答文例並付録(太政官第247号布告)3条
原告人訴状ヲ作ルハ必ス代書人ヲ撰ミ代書セシメ自ラ書スルコトヲ得ス

訴状の作成が必ず代書人がすることになっています。

明治7年 訴答文例改正《代書人用方改定》(太政官第75号布告)
代書人ヲ撰ミ代書セシムル共又ハ代書人ヲ用ヒスシテ自書スル共総テ本人ノ情願ニ任ス

代書人が必ず代書ということではなくなりました。
以後、資料不足で明治後半に移ります。

明治36年 大阪府令第60号「代書人取締規則」
(詳細不明です。)

明治39年 警視庁令第52号「代書業取締規則」 第1条
本則ニ於テ代書業ト称スルハ他人ノ委託ヲ受ケ文書、図面ノ作製ヲ業トスル者ヲ謂フ
第4条 代書業者ハ左ノ行為ヲ為スコトヲ得ス
一 訴訟事件、非訟事件及其ノ他ノ事件ニ関シ代書以外ノ干与ヲ為シ又ハ之ヲ鑑定、紹介スルコト

さほど変化はありません。代書人は文書・図面の作成を業とするものとされています。但し書きも事件に関し代書に留まるとあります。

さて、代書人から、裁判所に提出する書類の作成を中心に活動していた代書人が分化した法令を見てみましょう。

大正8年 司法代書人法 第1條
本法ニ於テ司法代書人ト称スルハ他人ノ嘱託ヲ受ケ裁判所及検事局ニ提出スヘキ書類ノ作製ヲ為スヲ業トスル者ヲ謂フ

この司法代書人法において、司法代書人が裁判所と検事局に提出する書類を作成することとしました。
司法代書人と(一般・行政)代書人を分けられたと言えます。

大正9年 代書人規則(内務省令第40号) 第1条
本令において、代書人と称するは他の法令に依らずして、他人の嘱託を受け官公署に提出すべき書類その他権利義務又は事実証明に関する書類の作製を業とする者をいう。

役所や警察署に提出する書類を中心に代書を業とする者の規則ができました。

ここで「官公署」という単語が使用され始めました。
注意してほしいのは、司法代書人法ができた翌年にこの規則が出来たことです。
裁判所と検事局に提出する書類を司法代書人と定めておきながら、「官公署」という文言を使用しています。

ここでは言及せず、昭和に移ります。

昭和22年09月22日衆議院 治安及び地方制度委員会 16号
〔書記朗讀〕
行政書士法草案 第一條
この法律において、行政書士とは、他の法令に依ることなく、官公署又は公衆の嘱託を受けて左記の書類作製を業とする者をいう。
  一、官公署へ提出する書類。
  二、權利義務に關する書類。
  三、事實證明の書類。

昭和22年に行政書士法の草案が出来ていました。ここでも官公署となっています。

昭和25年 旧司法書士法 第1条
司法書士は、他人の嘱託を受けて、その者が裁判所、検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類を代って作成することを業とする
2 司法書士は、前項の書類であつても他の法律において制限されているものについては、その業務を行うことができない。
(認可)
第四条 司法書士となるには、事務所を設けようとする地を管轄する法務局又は地方法務局の長の認可を受けなければならない。
法務局が登記事務を取り扱うのに応じて法務局という文言が追加されました。司法書士は法務局の認可を受ければ司法書士になれ、監督されることとなりました。

昭和26年 (法律第四号)行政書士法
 (業務)
第一条 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。

草案から4年で議員立法として成立した行政書士法にも「官公署」という文言が入っています。
繰り返しになりますが、司法代書人法の翌年の代書人規則、司法書士法の翌年の行政書士法、どちらにも「官公署」という文言が入っています。

時代は飛びますが、この「官公署」の意味についての記録があります。

平成09年06月10日 衆議院 地方行政委員会 12号
○松本政府委員
 現在の行政書士法の第一条の官公署という意味でございますが、国または地方公共団体の諸機関の事務所を意味しまして、行政機関のみならず、広く立法機関及び司法機関のすべてを含むものと解されているところでございます。

この「官公署」は行政機関だけではなく、広く立法機関や司法機関も含むものです。当然裁判所も含まれています。
つまり、司法代書人・司法書士が全ての裁判所の提出書類を独占しているということではないのです。
もし代書人・行政書士が裁判所に提出する書類を作成出来ないのであれば、この時に「官公署」ではなく「行政庁」という文言になっていたはずです。

登記事務は裁判所の管轄でした(後述)。それまでは代書人が裁判書類、登記書類、役所・警察署の書類作成をしてきましたが、そのうち登記書類を中心としていた代書人を大正8年に司法代書人とし、裁判所に提出する書類を取り扱うこととなりました。
しかし、大正9年の代書人規則に「官公署」としたのは裁判書類も取り扱うことを認めたものであると解釈できます。

「新法は旧法に優先する」

この場合旧法=司法書士法、新法=行政書士法となるのは明らかです。



その2 現行法の解釈


行政書士法と司法書士法の現行法はこのようになっています。

現行法 行政書士法 第一条の二 第2項
行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。

とあります。つまり、他の法律で業務独占されている業務は行うことが出来ないと規定されています。

現行法司法書士法 
(業務)第3条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
1.登記又は供託に関する手続について代理すること
2.法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(省略))を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
3.法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること
4.裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は(省略)を作成すること
8 司法書士は、第1項に規定する業務であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、これを行うことができない。

行政書士法と同じように、業とすることが最初に示され、次に制限事項が示されています。

だからなんだ、という司法書士の先生方は多いと思います。「裁判所に提出する書類を作成すること」と書いてあるから司法書士の業務だ、という意見です。
司法書士法の第3条第8項の「他の法律」は弁護士法と土地家屋調査士法、海事代理士法のみという限定解釈ももちろんありますが、登記に関してはその通りだと思います。
また、行政書士法の「他の法律」に司法書士法が含まれることは行政書士法制定時の議事録で明らかです。(議事録は省略)

ただ2号と4号については違っています。代書業務です。
2号については法務大臣宛の帰化許可申請を行政書士が取り扱っています。
4号については裁判にこそなっていませんが、現実に事実証明の書類として取り扱った事実があります。
なぜ出来ないといわれるのでしょうか、なぜ主張していないのでしょうか。



その3 司法書士は昔から裁判書類ではなく登記書類の作成をしていた。


明治19年 旧登記法 第3條
登記事務ハ治安裁判所ニ於テ之ヲ取扱フモノトス 治安裁判所遠隔ノ地方ニ於テハ郡區役所其他司法大臣指定スル所ニ於テ之ヲ取扱ハシム

明治23年 裁判所構成法 第十五条
区裁判所ハ此ノ法律又ハ他ノ法律ニ特別ノ規定アルモノヲ除ク外非訟事件ニ係ル事務ヲ取扱フノ権ヲ有ス
2 非訟事件中登記事務ハ裁判所書記ヲシテ之ヲ取扱ハシムルコトヲ得

明治32年 不動産登記法(法律第二十四号)
第二章 登記所及ヒ登記官 第八条
登記事務ハ不動産ノ所在地ヲ管轄スル法務局若クハ地方法務局若クハ此等ノ支局又ハ此等ノ出張所カ管轄登記所トシテ之ヲ掌ル

裁判所が取り扱っていた登記事務は法務局に移管しました。
(情報不足で不明ですが、法務局に移管した後、司法代書人法が制定されています。このときに法務局という文言が無かったところを見ますと受付は裁判所で取り扱っていたか、出張所となっていたのでしょうか。)

昭和25年に旧司法書士法が成立したときに法務局が加わったのは、裁判所が登記事務を管轄していて、登記に関することを司法書士が手掛けていたからです。
裁判に関する書類は弁護士が訴訟代理人として作成していたことが容易に想像できますから、司法書士が殆ど作成することはなく、登記書類の作成が中心となっていたといえます。

その証拠?として、現在の司法書士法では登記と供託が第一に記されていますし、裁判所に提出する書類の作成は4番目で代理でもありません。代書のみの規定で提出することは出来ません。

旧司法書士法に法務局が加わり裁判所の文言が残されたのは縦割り行政の結果といえます。本来は法務局に提出する書類に限定されていたはずです。

議事録においてそれに関連した発言があります。

昭和24年05月07日 衆 - 内閣委員会 - 16号
さらに司法書士に対する監督につきましては、司法書士法を改正いたしまして、司法書士は法務局または地方法務局に所属するものとし、その所属する法務局または地方法務局の長の監督を受けるものといたしました。

法律制定後、司法書士は法務局に所属しその監督を受けることとなりました。(裁判所から離れました)
本来なら法務局に提出する書類の作成のみが司法書士になり、裁判所は弁護士と行政書士となったはずです。
しかし裁判所に提出する書類(裁判書類)も代書人同様作成していたので残したと判断できます。
これまでは裁判所に提出する書類という表現になっていた為、現在も残っていると思われます。

昭和25年12月03日 参 地方行政委員会 - 6号
○衆議院議員(川本末治君)
お答えいたします。これは従来裁判所のほうの関係の登記書類などを取扱つておりますものは司法書士法によりまして司法書士としての取扱を受けております。このほうは、この行政書士と申しますものは、わかりやすく申上げますと、警察又は区役所等におきまする戸籍事務とかいろいろな手続という程度の仕事をいたしておるものでありまして、司法書士とは全然別個の立場でございます。

このような答弁もあります。裁判所に提出する書類は登記書類であり、司法書士は登記書類の作成をしていたことが分かります。
(登記書類などの「など」に裁判書類も含まれていると私も思います。)

司法書士法に裁判所が含まれているのは歴史の名残であり、決して独占業務ではないと解釈できます。



前半の総括


その1からその3まで、明治5年の司法職務定制〜昭和26年の行政書士法までの法律等の改正の歴史から、私独自の解釈をしました。
しかしながら司法職務定制から120年以上、司法代書人法と代書人規則から90年前後の年月が過ぎています。

限定解釈や拡大解釈をお互いに都合よく使い分けているため限りなく討論となってしまいます。

とはいえ行政書士としての発言ですから、「行政書士法が新法であること」と「行政庁ではなく官公署としていること」の二点を基に、「裁判所に提出する書類は共管業務である」ことを前提に次に続けたいと思います。



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