心の扉を開く
「大きな池であなたの母と妻が溺れています。二人とも泳げません。こんな時、あなたはどちらを先に助けますか?」と問われるとあなたはどのように答えますか。育ててもらった事を考えると「母が先だ」「これからの人生を考えれば妻が先だ」という価値観の中で答えを出そうと考えてしまいがちです。
この法話をしていた老師が答を求められて「私は近くにいるほうから助けます」と答えました。なるほどこの考え方は仏教でいう「空」であり、執着を離れた見方なのです。自分の都合でものを考えたり、自分本意のこだわりは、迷いを生む原因になります。
お大師さまは 「すべからく本源 (ほんげん) を了すべし。もし本源を了(りよう) せざれば法を学ぶも益 (やく) なし。いわゆる本滞といつぱ、自性清浄(じしょうしょうじょう)の心なり」と諭(さと) されました。
秋の彼岸を機縁に、ご先祖さまに手を合わせ自らの心を見つめながら、執着によって幾重にも重なっている心の扉を開け、みなさんの心の源底にある自由平等の慈愛の精神に気づいて欲しいものです。
自分が本来清浄であることを自覚すると、物事の真実が見えてくるでしょう。
平成12年8月1日