コリドラス・オルナータス(C. ornatus Nijssen & Isbrucker, 1976)について
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Type locality of C. ornatus |
写真1 |
Corydoras sp. aff. ornatus Nijssen & Isbrucker, 1976
(Courtesy Aquarium Shop Rio Negro, 11 Feb. 2005)
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1, はじめに
昨年の12月に輸入された「オルナータス」というコリドラスがいる(月刊アクアライフ2004年6月号の26頁には同年の春に1尾だけ輸入された別個体が掲載されている)。白系の地色に3本の黒線が入る美しいコリドラスであり、C. オルナータス(C. ornatus)という学名もラテン語でhandsome(端正な), splendid(華麗な)というような意味に由来している。背ビレの第一棘条が白い「sp. ホワイトフィン」というコリドラス(産地はプルス水系)の中に、同じように白い地色で3本線が明瞭に入るものがいて、それが「オルナータス」という名称で流通されることもあったが、今回輸入された「オルナータス」とは、背ビレの色彩だけでなく体型的な特徴も明らかに異なっているように見受けられる。
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2, 2004年冬に輸入された個体の特徴
冒頭の写真1は、埼玉の「リオネグロ」というショップで2004年2月11日に許可を得て撮影をしたものである。目測で口先から尾ビレ付け根までの体長は60mm程だったと思われる。体側中央の鱗板接合部より若干上とその下に各1本の太い黒線(メタッリクブルーにも見える)が入り、背中側のラインは細く、他の2本と比べて不明瞭である。背ビレは、第一棘条とその後ろの軟条にかけてうっすらと黒斑が入り(←写真では後ろの個体が明瞭)、他には模様が見られない。尾ビレには不明瞭な黒斑が認められるだけである。黒いアイバンドが目の上下にはっきりと入り、後頭部には鮮やかなオレンジ色の半月円が見られる。写真の個体の口先には、模様は何もないようである。見た目としては、「ホワイトフィン」や「LNスーパーシュワルツィ」と呼ばれるコリドラスよりも、ノーズが長く、体が若干細長いような印象を受けた。色彩的に同様の特徴を持つ、未記載の「ショートノーズ・オルナータス」もともに輸入された。ショートノーズの方は、2本のラインが体側のジャンクションの上下に入っている個体が多い。
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写真2
Corydoras ornatus (Left: holotype, ZMA 114.690; Right: paratype, ZMA 114.691)
After Nijssen and Isbrucker 02. 9. 1976, p. 128, figs. 1-2
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3, コリドラス・オルナータスの原記載
写真2は、H. Nijssen and I. J. H. Isbrucker: "Corydoras ornatus, a new species of callichthyid catfish from the Rio Tapajos Drainage (Pisces, Siluriformes, Callichthyidae)", Bulletin Zoologische Museum Vol. 5, No. 15, (02, 9, 1976), pp. 125-129の記載論文中のFig.1として掲載されたものである。これがコリドラス・オルナータス(C. ornatus)のホロタイプ(正基準標本)であり、月刊アクアライフ2004年6月号の30頁でも「未だ見ぬ夢のコリドラス」として掲載された右側の写真は、同種のパラタイプ(副基準標本)の方(ZMA
114.691)である。標本の記載には、ハンブルクの動物学博物館(Zoologisches Museum,
Hamburg)と国立動物学研究所の魚類学者であったW. Ladigesの退任の際に、H.
Baenschが採集したコレクションをNijssenらが受け取ったという経緯がある。アムステルダムの動物学博物館に保管されたホロタイプZMA114.690の他、6個体のパラタイプが存在する。
記載論文では、採集地の他、アルコール保存状態の標本の各部寸法と模様的特徴が詳細に述べられ、最後にパラタイプに見られる模様のヴァリエーションと、類似したコリドラス・プルケール(C. pulcher)との差違について説明がある。以下に簡潔に紹介する。採集地は、ブラジル・パラ州東部タパジョス川、ジャカレアカンガ(Jacareacanga)村(南緯6度9分、西経58度15分)から東に80kmの地点。ホロタイプの体長は、54.2mm。パラタイプも含めて標準体長に対する体高の比率は2.3〜2.5。ホロタイプZMA114.690とパラタイプZMA114.691(体長52.8mm)では、口先から頭部にかけて明瞭なスポット模様が入ることが記載されている。体の地色は淡黄色で、背中側は茶灰色。後頭部の半月円については、p.126右段に「This black area includes skin over fontanel but excludes a rim around fontanel.」という記述があるが、それ以外には該当箇所が見当たらず、オレンジ色が明瞭に入っていたかどうかは不明である。(アルコール保存状態の標本を見て記載をおこなったため、退色していた可能性もあるが、カラー写真でも標本を確認したところ、オレンジ色の半月円は見られない。) 体側には、3本の黒線があり、ジャンクションより若干上に1本、腹側に間隔をあけて1本、そして背中側に尾ビレの付け根上部まで続くラインが1本入る。さらに背ビレの下にも不明瞭な黒線とドットが認められる。また、中央のラインと背中側のラインの間隔は、腹側のラインとの間隔に比べて若干詰まっているという特徴がある。背ビレは、第一棘条とその後ろの第一軟条にかけて濃い灰色であることが記載されており、その他の軟条にも平行にドット模様が入る。脂ビレの棘条は灰色。胸ビレの棘条は淡い灰色。腹ビレと尻ビレは透明。尾ビレの付け根には垂直に黒線が入り、ヒレには小さな黒色のドットが明瞭な4本線を形成する。残り5個体のパラタイプについては記述のみで標本写真が掲載されていないが、体長が短く(最小個体の体長35.7mm)、口先と顏にスポットが入らず、ホロタイプで入るような胸ビレ上側の染みもないという記述がある。また最小の2個体では、背中側のラインは薄い色で細くなっているという。
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写真3
After H.A. Baensch and G. Fischer (1998): Aquarien Atlas Foto Index, p. 284
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4, 輸入個体との差違について
今回輸入された「オルナータス」もタパジョス川上流で採集されたということであり、タイプ産地とかけ離れた場所ではなさそうである。実物を見たのは、埼玉県のショップ2軒で計4尾、ネット上に掲載された写真で他に約10尾である(←記事を書いた後に、多数入荷された個体も見ています)。原記載と同様に背ビレの第1棘条から軟条にかけて黒斑が入る個体が多く、体型的な特徴も非常に似通っているように見受けられる。実際に見た輸入個体において、口先から頭部にスポットが見られない点と(←薄くスポットが入るような個体も、記事を書いた後で見たことがあります)、体側の3本線の内、背中側の1本が細くなるという点は、パラタイプとして記述された体長が短い個体の特徴と合致するように思われるが、尾ビレに記載標本のように明瞭な黒線が入らないことと(尾ビレの上下に薄く2本程度の黒線が入る個体は存在するようである)、背ビレにも平行なドット模様が存在しないことは決定的に異なっている。また、頭部の半月円についても、標本個体は輸入個体のように鮮やかなオレンジ色ではないように見える。いずれにしてもホロタイプZMA114.690とは各部において模様的特徴に違いがあることは明らかである。写真3のH.
A. Baensch and G. Fischer (1998): Aquarien Atlas Foto Index, p. 284左下に掲載されたオルナータスのカラー写真も確認したところ、体側の3本線と尾ビレの黒線が明瞭に入っており、後頭部が黒色である点なども、輸入個体より原記載に近いようである。それでも、全体的な特徴としては、今回の輸入個体は記載されたオルナータスと極めて近い個体群であり、タイプ産地とは若干地域が異なるヴァリエーション(地域変異)として見ても良いのではないかと思われる。
※魚類学者でもなんでもない一般の愛好家が、趣味の延長で書いていますので、専門用語や解釈に間違いが多々あるであろうことをご容赦ください。
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主要参考文献
1. Baensch, H. A. and Fischer, G. (1998): Aquarien Atlas Foto Index.
2. Nijssen, H. and Isbrucker, I. J. H. (02. 9. 1976): “Corydoras ornatus, a new species of callichthyid catfish from the Rio Tapajos Drainage (Pisces, Siluriformes, Callichthyidae)”, Bulletin Zoologische Museum Vol. 5, No. 15,pp. 125-129.
3. Seuss, W. (1993): Corydoras. The most popular armoured
catfishes of South America (translated from the German by K. Berold and B.
Michaelis).
4. 小林圭介 (2004):『月刊アクアライフ』、2004年6月号、26, 30-31頁。
(2005年3月11日, TA)
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