例えば、対策の1つとして「保険未加入企業の排除」を検討事項案に挙げているのですが、社会保険に未加入の建設許可業者は無数にあります。もし、これを許可の条件とした場合、新規許可申請や許可更新の手続きが出来ない業者がかなり増えると思われます。ただでさえ売上が上がらない状態で社会保険料の負担はかなり厳しいです。
「えっ〜本当にできるの〜!!」というのが私の感想です。
あと、「建設業法の改正」についても検討事項案に挙げられています。戦後間もなく施行された法律で技術革新や産業構造に変化に伴い実態にそぐわない内容であることは以前より言われていました。出来るか否かは今後の建設業界を大きく左右します。
中身としては、法律の部分は大まか(抽象的)な内容とし詳細な部分は命令・条例・規則などにしてフレキシブルに改正や変更を可能することが考えられます。
現在の建設業法がそうであるように、法律だと国会等の決議が必要となり時代背景を見据えたタイムリーな改正・変更がなかなかできないのです。
<建設業界の現在の状況>
建設投資額は平成4年の84兆円をピークに平成22年には40.7兆円(52%減)およそ半減しています。ところが建設業許可業者数は平成11年度の60万業者をピークに平成21年度は51万3000業者と約15%減になっています。
(データ出所:国土交通省)
言わずもがな、需要と供給のバランスが崩れています。東北大震災の復旧における建設投資額の増加はあるとは思いますが、根本的な建設業界の構造改革は早急な課題となっており、言い換えると大転換期にあります。
前置きが長くなりましたが、本題の基本方針原文は以下のとおりです。
『建設産業の再生と発展のための方策に関する当面の基本方針について』
○建設産業の再生と発展のための方策に関する当面の基本方針
平成23年1月6日
国 土 交 通 省
建設産業戦略会議
現在、我が国の建設産業は、建設投資の急激な減少により需給バランスが崩れ、過剰供給構造にある。この結果、競争の激化による受注価格の低下等により、人材の育成等に取り組んでいる優良企業ほど経営が苦しくなっているとの指摘があるなど、産業全体としてかつてない厳しい状況に直面しています。
地域においては、地域社会を支えてきた地域建設業が疲弊し、これまで担ってきた災害対応等の機能の維持が困難となり、災害対策空白地帯が発生する等の問題が指摘されている。また、労働環境へのしわ寄せ等により、若年者の入職が減少し、建設生産を支える技能・技術の承継が困難となっている。
また、我が国の建設産業の健全な発展には国際競争力の向上が重要であるが、成長市場として有望な海外市場等においても、受注や事業遂行が必ずしも円滑に行われておらず、我が国の建設企業の持つ高い技術力を活かし切れていない。
さらに建設市場については、現在も社会資本整備重点計画の見直しが行われているところであるが、民間市場も含め、今後は、少子・高齢化や環境意識の高まり、PPP/PFI等による民活事業推進の必要性、維持管理、リフォーム工事等の比重の増加など、様々な変化が指摘されている。
このような状況に対応するため、「建設産業政策2007」を踏まえ、建設産業の再生と発展を図るための方策に関する当面の基本的な方針を次のとおり策定する。
(趣旨)
地域建設業は、地域経済・雇用を支え、インフラの維持管理や災害対応、除雪業務を行うなど、地域社会の維持に不可欠な役割を担っている。
しかるに現在、地域建設業の疲弊により、災害対応空白地帯の発生、除雪体制維持の困難化、今後増加が見込まれるインフラの維持管理への支障、地域雇用への打撃など地域社会に重大な支障が生じつつあると指摘されており、単に市場に任せるだけでは、実際に地域社会の維持に不可欠な役割を果たしている、地域が必要とする建設企業の存続を図ることが困難となっていると考えられる。
地域建設業の疲弊が地域社会の衰退に繋がることを避けるためにも、地域建設企業自らの創意工夫や努力を前提としつつ、地域建設企業が担うことが望ましい事業については、従来にも増して地域建設企業に委ねるという観点からの見直しを行うことも含めて、地域建設企業の継続経営を可能にする方策を講じることが必要である。
(検討事項案)
@ 地域建設企業が担う事業の安定的な確保
A ダンピング対策等についての地方公共団体等での実行の強化
B 透明性を確保した地域維持型の契約方式の導入
C 国等の支援による新事業発掘や事業化の促進、新分野進出支援
(趣旨)
技能労働者は、工事現場における建設生産の担い手であり、要である。
しかるに現在、建設業に入職する若年者の数が減り、高齢化が進展しており、このままでは技能や技術が承継されず、建設生産を支える技能・技術の喪失が懸念される。
一度喪失した技能・技術はすぐには回復しないことからも、社会保険未加入による経費削減等の不適正な競争状態を是正すること等により、人を大切にする施工力のある企業による人材の確保・育成を、長期的かつ安定的に図ることが必要である。
併せて、技術者の積極的な活用を推進し、その育成を支援することも必要である。
(検討事項案)
@ 保険未加入企業の排除
A 重層下請構造の是正と直接的・安定的に労働者を雇用する企業の重視
B 都道府県、関係省庁と連携したコンプライアンスの強化
C 技術者制度の見直しと技術者の育成支援
(趣旨)
大手・中堅建設業は、それぞれに高い技術力で快適・安全な社会の実現に貢献してきた。しかるに、国内市場では、競争参加者が過剰な入札、低価格での受注の増加等により疲弊し、海外市場では、高い技術力を有していながら、マネジメント力の不足等により受注高が伸び悩むなど、厳しい状況にある。
国内の建設投資が限られる中で、大手、中堅建設業は高い技術力を活かして大規模工事、難易度の高い工事を担うとともに、海外市場や技術力・事業企画力が発揮できる新たな事業分野にも積極的に進出できるよう、支援することが必要である。
(検討事項案)
@ 海外発展のためのリスク軽減策の導入等支援策の強化
A CMの制度化等による新たな国内市場の創設、マネジメント力の強化
B 参加企業の絞り込みと企業の成長につながる技術力等を重視した契約方式の実施
C 民間発注工事等における建設企業の立場の強化
(趣旨)
現在建設産業の直面している課題の多くは、その根本的な原因が過剰供給構造にあり、この問題の解決なくして、現在の課題を完全に解決することは困難である。また、人口が減少する中で、今後右肩上がりの成長は見込めず、社会資本整備も真に必要なものについて行われることが前提となるので、市場の長期的な安定を確保するためには過剰供給構造の是正が避けて通れない。
(検討事項案)
@ 優れた技能者や技術者を有した企業の育成と不良不適格業者の明確化とその排除
A 市場への参入要件
B 企業再編・転業・廃業時の支援
上記の方針を実現するために、
(1) | 過剰供給構造をはじめ建設産業の現状と課題等についてできる限り定量的な分析を行った上で、 |
(2) | 政策手段をフル動員する必要がある。 ・建設業法等の是正 ・入札契約適正化法に基づく適正化指針の改正(閣議決定) ・財政・金融上の支援措置等 |
(3) | なお、実施可能な対策から順次実施することが望ましい。 |