大田区の特区民泊認定要件
@賃貸借契約及びこれに付随する契約に基づき使用させるもの
A使用期間(滞在期間)が6泊7日以上であること
B居室要件(壁芯で25u以上、その他)
C外国人旅客の滞在に適した施設であること
D定められた用途地域であること
建物の所有者または建物の所有者と賃貸借契約を締結し、さらに転貸する事について承諾を得ている者です。個人でも法人でも可能です。
民泊は賃貸管理を行う宅建業者や建物の管理会社、既にインターネットで事業活動を先行している民泊の仲介事業者等が新たなビジネスとして民泊の「認定事業者」となることが考えられます。 また、民泊用に建物を新築したり、中古物件を購入してリノベーションしたり、大きく投資をして認定事業者となる企業も出てくることが予想されます。
今後の展開にもよりますが、民泊の解禁(合法的になることで)は新たなビジネスを生み、不動産の価値を変えてしまうほどの可能性を感じます。もちろん、いいことずくめという訳ではないと思いますが・・・
これまでの民泊では、騒音やゴミ問題等を巡り周辺住民とのトラブルも絶えないことから、認定申請には「近隣住民へ民泊を行う旨を周知させること」が要件の一つになっていました。その方法や手段が気になっていたのですが、実務的には書面のポスティングを行い、その事実と近隣住民からの問合せや意見を別紙4の書面に記入し提出します。
特に問合せ等が無い場合でも、周知した月日、氏名、住所の3点は記載します。
承諾書等をもらったりしなくてもいいというのは意外でした。
では、近隣住民とは、どれぐらいの範囲なのでしょうか。
大田区 | 国家戦略特別区域 外国人滞在施設経営事業に関する規則 (近隣住民の範囲) |
第9条 | 条例第4条に規定する当該特定認定に係る事業計画の内容を周知する近隣住民とは、次に掲げる者とする。 |
(1) | 当該特定認定を受けようとする事業で使用する施設の存する建物に他の施設が存する場合の当該他の施設の使用者 |
(2) | 次のア又はイに掲げる建物(一方の建物の外壁から他方の建物の外壁までの水平距離が原則として20メートルを超えるものを除く)の使用者 |
ア. | 当該特定認定を受けようとする事業で使用する施設の存する建物の敷地の境界線に接する敷地に存する建物の使用者 |
イ. | 当該特定認定を受けようとする事業で使用する施設の存する建物の敷地の境界線から道路、公園等の施設を挟んで隣接する建物の敷地の境界線までの水平距離が原則として10メートル以下である場合の当該建物の使用者 |
<別紙4>
戸建てであれば明確な規定ですが、では住居用マンション等の場合はどうなるのでしょうか。上記規則では全戸に配布するということになるのでしょうか・・・。
ここは重要なところです。質疑応答でも複数質問がありました。
国土交通省が推奨しているマンション標準管理規約の第12条「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」とあり、多くのマンションで採用されている管理規約の条文です。 また、マンション標準管理規約(単棟型)コメントは「住宅としての使用は、専ら居住者の生活の本拠があるか否かによって判断する。したがって利用方法は、生活の本拠であるために必要な平穏さを有することを要する。」とあります。 この段階では、管理規約を改正しないかぎり民泊利用(認定)は難しいと思われますが・・・。
大田区のセミナーでも次のような質疑応答がありました。
「この管理規約のままで、特区民泊の認定はされるのですか?」大田区の担当者も明確な回答はなく、「管理規約を改正してもらうのが好ましいのですが...」と発言していました。
続けて、「では認定申請には管理規約の提出が必要ということですか?」との問いに「必ず提出を求めることはありません。」と言葉を濁していて“そこの部分は触れないでくれ、察してほしい”と言わんばかりの様子でした。
ポスティングの事実と別紙4「近隣住民への周知報告」の提出さえあれば認定申請の審査が進むのではないかと多くの参加者が感じたのではないでしょうか。
また、次のような質問もありました。「近隣住民に1人でも強硬に反対する者がいた場合はどうなりますか?」この質問に対しても明確な回答はなく、「認定するかどうかの判断は、利用者(訪日外国人)の安全・安心が確保できるかどうかが基準となるであろう」と苦し紛れに回答されていました。
私なりに考察したところ、マンションに居住する方の多くは民泊に反対すると思います。となれば、区分所有者が実際に居住している割合が多いマンションでは管理規約の改正は難しく民泊(特定認定)ができないことになります?
ここの部分は、民泊を広く活用したい政府官邸と国土交通省のせめぎ合いではないかと推測できます。
政府(規制改革委員会)が仮に強行突破する場合、その根拠となるのは、国家戦略特別区域法第13条(旅館業法の特例)が考えられます。
当条文には「外国人旅客の滞在に適した施設を賃貸借契約及びこれに付随する契約に基づき一定期間以上使用させる・・・」
どういうことかと言えば、ホテル・旅館等は旅館業であり、民泊(外国人滞在施設)は不動産賃貸業(旅館業法の適用除外)であると定義されているという事です。マンション標準管理規約も区分所有者が賃貸借契約に基づき部屋を賃貸することまでは制限していません。この解釈でいけば既存の管理規約を改正しなくても民泊は可能だとも言えます。
また、前述したとおり反対者がいるからと言って認定されないという訳ではないとなれば、存外、容易に認定がなされるのかもしれません。
しかし、仮にそうなった場合、民泊認定に強行に反対する管理組合であれば、区分所有法第6条(区分所有者の権利義務等)及び同法第57条(共同の利益に反する行為の停止等の請求)をもって応戦するという流れになるのでしょうか?
今後の動向に細心の注意が必要です。
民泊は、訪日外国人増加に対応するための外国人滞在施設という位置づけですが、日本人が利用しても構いません。
例えば、東京ディズニーランドを満喫するために都内の民泊を活用することも可能です。近年の外国人観光客の増加以外でも多様化している日本人の観光、受験、就職活動、コンサートやスポーツ観戦等、リーズナブルな宿泊施設の利用は、需要の継続が予想できますが、現状行われている民泊との違いは、やはり一定期間以上の契約が必要というところだと思います。
大田区は民泊における賃貸借契約の中に「7日以内の解約はできない旨」の規定を設けることとしています。やむを得ない事情等でキャンセルになり、実際の滞在が7日未満になっても契約期間中が重複する別契約を締結させることは認められないとしています。
実際の運用がどのようになっていくのか気になるところです。
それともう一つ、大田区の担当者が繰り返し口にしたことは、消防署との事前相談の重要性でした。
例えばマンションの1室を民泊に使う場合でも、建物全体が消防法令に適合していることが条件になります。1室のみ消防設備が整っていたとしても、それだけでは不十分であるということです。
古い建物で消防法の改正により新たな消防設備を設置するよう指導されているが、多大な費用がかかるため設置できていないケース等は民泊の要件を満たさないことになります。
消防署側からの意見としては、「管理する全ての建物ごとに施設基準が少しずつ異なるので建物ごと個別対応とさせて頂きたい。」とのことでした。
民泊の認定申請を検討する際は、まず消防署への事前相談を入念に行う必要があります。
【 最後に 】
民泊が合法的に全国的で解禁となれば、大きな資本や企業が動き出す等のこれまでにない、うねりを巻き起こすことが予想されます。
また、今回のように法的に整備されれば、既存の民泊についての取締りが強化されたり、コンプライアンスの観点から自粛を余儀なくされる方も増えてきます。
得する人、損する人、ホテル・旅館業界へのダメージ、観光業における外貨獲得、新しい事業の創出、地域再生の起爆剤、不動産の新たな価値の創出、治安の悪化等など・・・。
“先行し過ぎでは?”と思われる新聞の記事も見受けられますが、引き続き今後の動向を注視していく所存です。