これまで相続税の申告が必要な方は全体の4%程度と言われていましたが、今回の改正により6%程度に上昇すると言われています。さらに地価の高い首都圏ではその割合はもっと上昇すると思われます。
では、あるサラリーマンAさんの家庭を例に挙げてみましょう。
Aさんは都内に1戸建てを所有していて、妻と子供(息子)2人の4人で居住しています。仮にAさんが亡くなり相続が発生したとして、相続税について検討してみます。
法定相続人は、妻と子供2人の計3人となります。相続税基礎控除は、現行で行けば8000万円となりますが、平成27年1月1日以降に亡くなった場合には4800万円(4割圧縮)となります。
現行の基礎控除であれば全く気にすることも無かった相続税について、改正後の4800万円となれば、相続税の申告・納税のことを考えざるを得なくなります。
Aさんの相続財産が1戸建て(土地・建物の評価額)5500万円、預貯金・退職金・生命保険など2000万円、合計7500万円だとするとどうなるでしょうか。
まず、相続税がかかるか否かは別として相続税の申告が必要となります。申告手続きは相続開始日(死亡日)より10ケ月以内に行わなければなりません。
相続税がかからないといっても、その理由によって申告が必要かどうかの判断が異なってきます。
相続税がかからないケースは、次の2つが考えられます。
(1)相続財産が相続税の基礎控除以下であるため、そもそも相続税がかからな
い。 ※相続税の申告は必要ありません。
(2)相続税を計算するときに認められている優遇制度を利用することで相続税が
かからなくなる。 ※相続税の申告が必要です。
相続税の納税が必要かどうか?それを大きく左右する「配偶者の税額軽減」及び「小規模宅地等の特例」はとても重要な優遇制度です。簡単に概要をご紹介致します。
配偶者が遺産を相続する場合、その課税価格が1億6000万円まで、またはたとえ課税価格が1億6000万円を超えていても法定相続分である遺産の2分の1までは相続税がかかりません。
Aさんの場合も取りあえず妻へ不動産その他多く財産を相続させれば相続税納税の心配はありません。
子供たちもお母さんが遺産を相続することについて異議を唱えるケースは少ないのではないか?と思われます。
しかし、問題となるのは2次相続で、Aさんの妻が亡くなった場合です。
相続税基礎控除額は法定相続人が子供2人なるので平成27年1月1日以降であれば4200万円となります。1戸建て(土地・建物)が5500万円、預貯金が1000万円、合計6500万円とします。当然、相続税の申告が必要となります。
不動産を所有している方の相続で必ず押さえておきたいのが、「小規模宅地等の特例制度」です。
小規模宅地等の特例とは、要件を満たすことで相続人が取得する特定の土地について、その評価額を減額することができる制度です。
対象者は、@被相続人の配偶者、A被相続人と同居していた相続人、B被相続人の事業を承継した相続人、C一部の例外です。
特定の土地とは被相続人が居住していた自宅の土地、事業や貸付に使っていた土地です。
【土地評価額の減額】
・自宅の土地 240uまで80% (平成27年からは、330uに拡大)
・事業用の土地 400uまで80%
・貸付用の土地 200uまで50% を減額することが出来ます。
例えば、上記Aさんの妻が既に相続していた土地(200u)・建物を同居していた長男が相続(2次相続)する場合、土地の評価額が5000万円だとすると、この特例により1000万円に評価が減額されます。建物500万円、その他1000万円とすると課税価格を2500万円に圧縮でき、納税はありません。
≪例外≫
対象者の例外もあります。配偶者や同居の親族がいない場合で、別居の親族が土地・建物を相続する場合です。その相続する者が
「相続開始前3年以内に、自分または配偶者の持ち家に住んでいないこと」に該当すれば要件を満たすことができます。
仮にAさんの長男がお母さんと同居していないケースであっても「小規模宅地等の特例」を受けることができる可能性があるということです。
ここまでのシュミレーションでは、相続税納税も不要で問題無しのようですが・・・
皆さんちょっと引っかかることは無かったでしょうか?
そうです。
長男以外の子供(二男)の取り分はどうするのか?ということです。
長男が土地・建物(評価5500万円)を相続し、たとえ預貯金等1000万円を二男が相続したとしても、一般的には不公平感が否めないですよね。
法定の相続分は長男・二男ともに2分の1です。相続財産の合計6500万円の半分、3250万円の権利がそれぞれにあるという訳です。
では、土地建物を売却し現金化しますか?
長男としては、それはしたくない、既に家族がいるかもしれない、住み慣れた住居・地域を離れたくない、執着もある。
だとしたらどうでしょうか。
不動産を共有(兄弟で所有すること)にすることは、後々のトラブルの素になるので避けるべきでしょう。
兄弟仲がいい、不仲に係らず当人同士で解決しようとするとかなり高い確率で言い争いになるのでは?と不安になりませんか。
ここまで、検討してくるとAさんも「相続対策」と言う発想が芽生えるのではないでしょうか。
推定の相続人であっても生存している親や配偶者の財産に「あーだ・こーだ」と口出せないのが現実です。
長男、二男が後々相続で言い争うことなく円満な兄弟関係を一生続けていくためにはどうしたらよいのか、今から何をしておくべきか、Aさんが自ら積極的に行う事前対策がとても重要となります。例えば・・・
○ 事前に家族で話し合いをしておく。(言いづらいことこそ話しておくべき)
○ 2次相続(Aさんの妻の相続)をも考慮して遺産の分割を考える。
○ 相続人に事前の心構えと準備をしてくように促す。
○ 遺言書を作成する。
○ 生前贈与しておく。
○ 生命保険に加入する。 など
Aさんのケースは特別なものではなく、ごく一般的なケースですが、それでも「争続」が起こってしまう可能性があることを感じて頂けたと思います。
やはり、一番重要なことは2次相続を考えた上で、Aさんを中心に相続のことを話し合い、または方向性を上手く伝えておくことだと思います。
【このようなことで対策を先延ばしにしていませんか?】
◆ 死んだ後のことを考えたり、話し合ったりすることには抵抗がある。
◆ うちの子ども達に限って言い争いになるようなことはない。
◆ 微々たる財産なので相続対策なんか必要ない。
このような方でも、なるべく早い段階で相続に対する認識を深め、先々のリスクを想定して準備しておくことが必要です。