☆『イルファーラン物語』作品案内 〜ようこそイルファーランへ〜 ☆ 羊飼いの若者アルファードは、ある日、村はずれの川辺で、少女を拾った。 気を失って浅瀬に倒れていた見慣れぬ服装のその少女、里菜は、 アルファード自身が実はそうであるのと同様に、異世界からの客人<マレビト>であった。 同じ孤独な<マレビト>どうし、ふたりは、美しく素朴な高原の村で、 兄妹のように共に暮らし始める。 が、そんな牧歌的な日々は、長くは続かなかった。 世界の片隅でひっそりと出会ったふたりは、やがて、いやおうなしに、 世界の存亡を賭した人知れぬ戦いの渦中へと引き込まれてゆく。 のどかな牧場に飛来するドラゴン。 里菜の身辺に忍び寄る謎の教団。 そして、繰り返し里菜の夢に現れては里菜を花嫁にと望む、黒衣の<魔王>。 不吉な影に追い立てられるように村を旅立った二人を待つものは――? 生と死、光と影の神話的な戦いと 運命的に出会って互いに惹かれあいながらも兄妹のような関係を抜け出せない 不器用なふたりのためらいがちな恋を、じっくり、ゆったりと描く、 完結済み長編異世界ファンタジー! ★↓『イルファーラン物語』は、こんな作品です↓★ |
特徴 |
完結済みの長編異世界ファンタジー。やや児童文学寄りの少女小説(の、つもり)。 原稿用紙約2000枚相当、テキスト換算で約1・3MBの長編。番外編あり。 ★ダウンロード版完備(HTML・テキスト)。(こちらでダウンロードできます) ゆっくりと歩くようなテンポで語る、長い長い物語。 作風は、わりと地味です。ことに前半は大変のどかで、のんびり、まったりとしており、『異世界ファンタジー』というより、単に『田舎ファンタジー』かも(^^;) 心理描写・情景描写ともに多めで、文体がやや硬めなので、特にライトな物を好まれる方、テンポの良さを重視する方には少々とっつきにくいかもしれませんが、別に堅苦しい内容ではありません。けっこうお笑いも入っていて、本人は少女向けライト・ファンタジーを目指したつもりです。 |
本文見本 |
エレオドラ山の上に、虹が出ている。まもなく薄れて消えそうな、夕方の虹である。 こんなふうに山の上にかかる虹を、村では、『女神の橋』と呼んでいる。 羊飼いの若者アルファードは、坂の途中でふと足を止め、陽に灼けた顔を上げて虹を仰いだ。 エレオドラ山の頂きの石灰質の岩肌を、秋の夕方の光が、淡いバラ色に輝かせている。その、同じ弱々しい秋の陽が、彼の逞しい肩や広い背中にも纏わり付き、質素な生成りの羊毛の上衣に、オレンジと灰色のほのかな陰影を与えている。 普段なら、小枝の鞭(むち)を手に羊の群れを追って歩くこの道だが、今、彼につき従うのは、彼の忠実な牧羊犬、ミュシカだけだ。 ミュシカは、ふさふさした毛並みの、大きな茶色の雌犬である。彼が仔犬のころから大切に育てたこの牧羊犬は、彼の、仕事上の有能な相棒であるとともに、この上なく誠実な親友でもある。 アルファ−ドは、自分の後ろでおとなしく立ち止まったミュシカを、やさしいまなざしで振り返る。その、瞳の色は、暖かな暗褐色。夏の陽光を奥深く蓄えた、揺るぎなく力強い大地の色だ。 主人の視線に、ミュシカは軽く尾を振って応えた。 ザワザワと草を鳴らして、風が吹き抜ける。 風に吹かれて額にかかる茶色がかった黒髪を無造作に手で払い除け、アルファ−ドは、ふたたび歩きはじめた。ミュシカも、とことことついて来る。 ゆるやかな山道を大股に登るアルファ−ドの行く先は、村はずれの<女神の淵>だ。 (なぜ俺は、虹がでるたびに、引き寄せられるようにあの場所へ行くのだろう。なんのために……。あそこに、何があると言うのだろう。俺の失われた過去の手掛かりを探しにいくのだろうか。自分がこの世界に生まれ出た場所、自分の原点ともいえる、あの場所に。……そうだ、俺があそこで倒れていたあの日にも、虹が出ていたのだ。目をあけて、最初に見たのは、虹だった……) アルファードは、思い出す。 彼はこの村で生まれたのではない。十二年前、<女神の淵>で気を失って倒れていた彼を、村の老人が連れ帰って育てたのだ。 その時、彼は、一切の記憶を失っていた。言葉は話せたが、記憶にあるのは、老人が現われる前、半ば川の水につかったままうつろに目を開けて虹を見たこと、そして、それからまた気を失ったらしいことだけだ。 自分の名も、年令も、わからなかった。彼は、今、二十二才ということになっているのだが、老人に拾われた時の年格好が十才位と判断されたからに過ぎない。名前は、老人がつけてくれた。 彼は自分がどこから来たのか知らなかったが、老人や村人たちは、彼が異世界からやってきたのだと信じた。彼の着ていた服は、この世界のものではない不思議な生地で出来ていたという。その服は、老人がどこかへ仕舞ったまま、みつからなくなったそうだ。もしかすると老人は、わざとその服を隠していたのかもしれないが、何年も前に老人が死んだ今となっては、確かめるすべもない。 そう、この村で、彼は、異世界からの来訪者、<マレビト>なのである。 それは、子供の頃から十年以上をここで過ごし、成長してきた今も変わらない。彼は、ここでは、永遠に客人であり、年配の村人たちが彼を見る目には、親しみや慈しみと同時に、今も微かな畏怖が宿っている。 親愛と崇拝、期待と賞賛、そして若干の畏怖を込めて、村人たちは、彼を呼ぶ。 <女神のおさな子>と。 すでに立派な成人であり、しかも、人一倍大きく逞しい堂々たる体躯と年齢に似合わぬほどの落ち着きを兼ね備えたアルファ−ドが<おさな子>などと呼ばれているのは、いかにも奇妙だが、村の人々にとって、<マレビト>は、女神に愛でられしもの、女神の御子(みこ)であり、村に恵みをもたらす聖なる<おさな子>なのだから、しかたがない。この村にいる限り、彼はたぶん、いくつになっても<おさな子>と呼ばれ続けるだろう。 けれど、そんなふうに呼ばれる時、アルファ−ドのその、常は穏やかな、大地の色の瞳が暗い自嘲にふと翳り、薄い唇が皮肉な笑みの形にそっとゆがむことがあるのに、気づいているものは誰もいない。 (もしも俺が女神の息子だというのなら――) アルファ−ドは、苦い気持ちで考えるのだ。 (どうやら俺は、母親に愛されなかった息子であるらしい。皆が言うように女神が俺を愛してくれていたのなら、どうして女神が、他のすべての人間に魔法の力を与えながら、息子である俺にだけ、それを与えてくれないなどということがあるだろうか。誰でも持っているはずの魔法の力さえ与えられぬまま、俺は、捨て犬のように、この世に放り出されたのだ……) ――第一章<エレオドラの虹>第一場より―― |
その他の情報 |
☆キャラクター紹介 ☆第一章あらすじ(もちろんネタバレあり) ☆第二章あらすじ(もちろんネタバレあり) ☆第三章あらすじ(もちろんネタバレあり) ☆第三章予告編(別窓・別サーバー) ☆第四章予告編(別窓・別サーバー) |
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