★長編連載ファンタジー★
 イルファーラン物語・あらすじ(2)
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 <第二章 シルドーリンの宝玉・あらすじ> 

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 アルファードの唐突な提案により、里菜とアルファードは、村を出て軍隊に入ることになった。
 翌朝、女神の司祭ティーティが、女神の祠のご神体だという由緒ありげな美しい短剣を持って訪ねてきて、里菜にそれを贈る。
 その短剣には防御の魔法が込められており、ティーティはそれを、もともと里菜のものなのだと主張する。

 ちょうどそこに訪ねてきて二人の決意を知ったローイは、事前に自分に相談がなかったことにヘソを曲げて飛び出して行ったきり、その後の送別会の席でもアルファードとは口もきいてくれなかった。

 一週間であわただしく準備を整えた里菜たちは、ミュシカを新しい飼い主に託し、ヴィーレに贈られたマントを纏い、村人たちに盛大に見送られて首都イルベッザに向けて旅立つ。
 その、見送りの場にも、ローイは姿を見せず、里菜は密かに心を痛める。

 が、峠を一つ越えたところで二人を待ち構えていたのは、すっかり旅装を整えたローイだった。
 ローイは、自分もイルベッザに行くと言い張り、強引に同行することになる。
 アルファードは、同行の条件として、ローイに一緒に軍隊に入るよう提案し、ローイは承知する。

 古都プルメールで最初の一泊をした翌日、山賊が棲むヴェズワルの森に差し掛かった彼らの前に、突然、ふって湧いたように不思議な少女が現れる。
 8〜9歳ばかりに見えるその子供は、滅び去った妖精族の血筋の証の漆黒の肌、緑の瞳、黄金の巻き毛の、現実離れした豪華な美少女だが、少々頭が弱いのか、あるいは一時的に記憶が混乱しているのか、どこから来たかを訊ねても一向に要領を得ず、危険な森の中に一人でいた理由も、さっぱりわからない。
 分かったのはキャテルニーカ(通称・ニーカ)という名前と、種族的な特徴で小柄なために幼く見えるが実は11歳であること、両親は既に亡いらしいことくらいである。
 アルファードは、彼女を、同行者とはぐれて道筋を迷い出た北部避難民の子供と判断し、本人の希望を容れて、一緒にイルベッザに連れて行くことにする。

 ニーカには治療の才能があるらしいが、11歳という年齢にもかかわらず言動は無邪気すぎて幼児並み、しかもやはり何らかの記憶障害があるらしく、たまに、自分が口にしたばかりのことを次の瞬間には忘れていたりする。
 が、持ち前の明るさと人懐こさで、たちまち里菜とローイに懐き、旅を楽しくしてくれる。
 一方で、アルファードには懐かず、里菜に突然『魔王を救ってあげてね』と言うなど、不可解な言動も見せる。

 その夜、野営地が山賊に襲われ、今にも戦闘になろうとしたとき、突如、ニーカが青い光の球を空に浮かべて、凛とした声を響かせた。
「ヴェズワルの者たち、聞きなさい。私はシルドーリンのキャテルニーカ。この人たちを攻撃してはいけない!」

 驚く里菜たちの前で、山賊たちは武器を捨て、頭上に不思議な光の球を浮かべて立つキャテルニーカの前に跪く。
 彼らはキャテルニーカを『御使い様』と呼んで礼拝し、キャテルニーカの命令に従って、そのまま大人しく森の奥に去っていった。
 山賊たちが去った後、事情を問いただしたところ、キャテルニーカが『御使い様』と呼ばれるタナティエル教団の巫女姫で、教団最高幹部ギルデジードの黙認の元に教団本部のあるシルドーリンから単身旅して来たらしいことが分かる。
 が、さらに質問をしようとするうちに、キャテルニーカは、今しがたの出来事を急速に忘れてしまい、それ以上の追求は果たせなかった。

 翌日、里菜は、アルファードとローイからタナティエル教団についての説明を受ける。
 タナティエル教団は、北部シルドーリンを拠点に古くからひっそりと存在してきた教団だが、近年、魔物の跳梁や人心の荒廃につれて急速に肥大化し、その急激な変化に対応しきれずに内部分裂を起こし、古くからの穏健なシルドーリン派と、教団中枢部に造反してシルドーリンを飛び出し南部に新天地を求めた新興のヴェズワル派が対立している。
 ヴェズワルの山賊は、そのヴェズワル派の、堕落した姿なのである。

 また、この教団は、本来、公正なる死の神タナートを信奉する教団であり、清貧禁欲を貫く高潔な信仰者たちとして一般民衆からもそれなりの尊敬を受けてきたが、現在、教団分裂の混乱の中で情報が錯綜し、新興勢力の強引な布教活動や反社会的な逸脱行為が憎しみを買ったこともあって、今では魔王を崇拝する邪教集団と見なされ、憎悪と警戒の視線を向けられるようになっている。

 人里離れた山中で自給自足の共同生活を営むこの教団の内部事情は謎に包まれており、巫女姫『御使い様』についても、様々な噂や憶測が伝わるのみで、その正体は今まで誰も知らなかったのだ。

 しかし、キャテルニーカ本人は、自分についてそんな話をされていても全く気にかけることなく、翌日からも、それまでどおり、幼児のように無邪気にはしゃいでいるばかりである。

 次の野営時、山賊への警戒の必要から開放された一行は、焚き火を囲んで昔話を語るなど、楽しい団欒の夕べをすごす。
 そんな中で、キャテルニーカが、里菜に子守唄をせがみ、里菜は、元の世界のありふれた子守唄――『ねんねんころりよ おころりよ……坊やのお守はどこへ行った』という――を歌い聞かせる。
 すると、突然、アルファードが頭を抱えて、歌をやめてくれと叫ぶ。その膝に、涙が落ちる。

 戸惑う里菜たちの前で、キャテルニーカがふとアルファードに歩み寄って、頭に触れ、「まだ思い出さなくていいのよ」と、意味の分からないことを言う。
 するとアルファードは、うつむいたまま、楽になったと礼を言い、里菜たちには頭痛がしただけだと告げて、そのまま寝てしまう。里菜は、アルファードの唐突な行動をいぶかると共に、自分に背を向けて横たわるその背中に拒絶の意思を感じ取り、悄然とする。

 翌朝、アルファードは、前夜の自分の行動を覚えていなかった。ただ、頭痛がして、皆に無愛想な態度を取ったまま寝てしまったと思っているらしい。
 里菜もローイも、前夜の出来事には触れず、一行は何事もなかったように、そのまま旅を続けた。

 が、その奇妙な出来事を境に、アルファードの里菜への態度が、いっそうよそよそしくなり、不安になった里菜は、今までより積極的にアルファードへの接近を試みはじめた。そして、そのことが、ますますアルファードの態度を硬化させる。

 ローイは、そんな二人の様子を傍目に見ているうちに、アルファードの里菜に対する理不尽な冷たさへの怒りも手伝って里菜への想いを強めていき、ある夜、ついに、旅が終わる前に里菜に告白をする決心を固める。

 翌日、一行は、川原に湧き出る天然の温泉にたどり着き、道中でただ一度の湯浴みを楽しむことになる。
 里菜とキャテルニーカが先に入浴しているあいだにアルファードと二人きりになったチャンスを捕らえて、ローイはアルファードに、里菜に告白するつもりだと打ち明け、ライバル宣言をする。アルファードは、自分にそれを止める権利はないと言い放ち、里菜に対する自分の気持ちを明かそうとはしなかった。

 さらに翌日。野営の薪拾いに森に入った里菜とローイに、二人きりになるチャンスが訪れた。
 ローイは里菜に「イルベッザに着いたら一緒に暮らさないか」とプロポーズする。
 里菜は、ローイの真心に胸を打たれたが、アルファードへの想いから、ローイの求婚を受け容れることは出来なかった。
 ローイは、「このことは気にせず、これまでどおり軽口の言い合える仲でいてくれ」と告げて、何事もなかったかのようなふりで里菜と共に野営地に戻る。

 その夜、里菜は、また魔王の夢を見た。
 夢の中の夜の森で、魔法にかけられたように魔王に向かって歩み寄りかけた里菜を、キャテルニーカの声が呼び止め、夢の中の里菜は正気を取り戻し、魔王と対峙する。
 魔王は、里菜に、イルベッザに行かずに北へ来いと告げるが、里菜は拒絶する。
 すると魔王は、夏まで待つと言い出す。そのかわり、夏の終わりの最後の新月の前にイルベッザを発てと。
「そなたの大切な者たちを魔物の脅威にさらされたくなかったら……」という露骨な脅迫に、里菜は激怒するが、魔王は取り合わず、笑いながら去っていく。

 目覚めた里菜は、元の空き地に横になっており、隣にはキャテルニーカが里菜のマントを握って眠っていた。
 ふと目を開けたキャテルニーカに、「あなたが私を呼び止めてくれたのね」と言うと、キャテルニーカは頷き、ひっそりと呟く。
「魔王は、かわいそうね……」
 そしてそのまま眠ってしまう。

 翌日の夕方、一行は、ついにイルベッザに到着し、即座に手近な宿を取った。
 かつては不夜城と謳われていたイルベッザも、今では、夜な夜な魔物が跳梁し、治安も乱れ、日暮れ後に外にいるのは危険なのだ。
 
 翌朝、ローイが、突然、軍隊には入らず自分だけ別の仕事を探しに行くと言い出した。もちろん里菜とアルファードは引き止めたが、ローイの心を変えさせることは出来なかった。
 里菜は、ローイが自分との出来事のせいで道を分かつ気になったのではないかと心配し、ローイを問い詰めるが、ローイは、ただ、もともと自分に軍隊は向かないと思っていたから別の仕事を探すだけだと言い張る。
 
 その後、一行は、宿屋で一泊した後、軍の事務局のあるイルベッザ城(通称・賢人の搭)に向かう。
 長引く不安に疲弊したとはいえ、イルベッザは賑やかな大都会である。雑然とした熱気に、里菜は呆然とする。

 イルベッザ城の前で、ローイは、職業紹介所に向かうべく、里菜たちと別れた。ローイは、別の仕事についていても同じ町にいるのだからいつでも会えると言うのだが、里菜は、今別れたらローイの姿を見失ってしまうのではないかという不安にとらわれる。

 踏の中に消えていくローイの背中を見送って、里菜とアルファード、キャテルニーカは、イルベッザ城構内に通じる橋を渡り始めた――。

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掲載サイト:カノープス通信
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