★サイト一周年記念企画★
イルファーラン観光ツアー
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これは、サイト一周年記念の、お遊び企画です。
キリ番ゲッター様とイラスト寄贈者様をイルファーランにご招待して
、
不定期・回数未定で書き下ろし連載しています。
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★参加者の紹介は第一回
の本文中にあります★
<第六回・<女神の杯>亭にて・その1> ぶらぶらと村内を見物したり、ヤギのメリ−をロ−イの家に返したりしながらのんびり歩いてきた一行が、村でただ一軒の酒場兼食堂『女神の杯』亭に辿り着いた時には、すでに日が落ちていた。厚手の板硝子の嵌った酒場の窓からは暖かなオレンジ色の明かりが表に溢れ出し、何やら、にぎやかなざわめきも漏れ聞こえてくる。「あれえ、へんだなあ。今日は俺、貸し切りで予約しといたはずなのに……。まさか、おやじ、忘れたんじゃないだろうなあ」 呟きながらロ−イがドアを開けると、小さな酒場はすでにほぼ満席である。 料理の皿や杯を手に、いっせいにこっちを見たのは、自警団の青年たちだ。今日は男ばかりで、女の子はいない。 「あれえ、ロ−イじゃん! どうしたんだよ、お前。今日は用があるんじゃなかったのか?」 「うわ、なんだ、その後ろの団体さんは?」 「あ、ほら、あれだよ、あれ、例の観光客だよ! 朝、ぞろぞろ歩いてたろ?」 「おおっ、あれか!」 「そうだよ、あのお嬢さんたちだよ! な、見ろよ、俺のいった通り、美人ぞろいだろ? な、な!?」 「おいこらナ−ク、頭どけろ、俺にも見せろ!」 若者たちが一斉にどよめいて、席から身を乗り出した。 「おいおいおいおい、なんだよ、おやじさん! これはどういうことだよ!」 とりあえずみんなを店内に導き入れながら、ロ−イが店のおやじに怒鳴った。 「今日は貸しきりのはずじゃん! まさか、俺が予約入れたの、忘れてたんじゃないだろうなあ!」 「いや、悪いね、ロ−イ。忘れてたわけじゃないんだよ。でも、だからって、せっかく来てくれたこいつらを追い返すわけににゃいかないだろ。なんでも、今日はディ−ドの結婚前祝いで独身最後のばか騒ぎをやるんだって言うんだ。断るのもかわいそうじゃないか。席は詰めれば何とかなるだろうと思って、つい……」 「なんだって? ディ−ドの結婚前祝い? おい、俺、そんなこと聞いてねえぞ?」 怒鳴るロ−イに若者の一人、カ−デが怒鳴り返した。 「言ったよ、言った。俺、お前も誘ったじゃねえか。そしたら、お前、今日は何やら用があるからって……」 「ああ、そういえばそんなこともあったような気が……」 「だろ? 飲みに行くのにお前を誘わない訳ないじゃん」 おやじがにこにこと割って入った。 「というわけで、お前さんたち、悪いけど、あっちのお客さんたちのために席を詰めてやってくれないかねえ。ほら、そこのテ−ブルをこっちにつけて、あそこの椅子をあっちにやれば、席が二つできるだろ?」 「いいけど、なあ、ロ−イ、どうせなら、席を二つにわけちまわないで、俺たちと一緒にやらねえ?」とカ−デ。 「ああ、それがいいんじゃないか、なあ、ロ−イ」とおやじ。 若者たちはがぜん色めき立った。 「賛成、賛成〜!」 「お嬢さんたち、こっちへおいでよ! 一緒に楽しくやろうよ!」 「う〜ん、そうだなあ、そうすっか。同じ部屋のあっちとこっちで知らんぷりっていうのも変だし、にぎやかな方が楽しいよな。な、みんな? じゃあ、お前ら、適当に場所空けて、椅子足してよ」 ロ−イは勝手に決めて、おやじを手伝って椅子を運び始めた。 他の若者たちは、なぜかいっせいに店の隅に集まり、娘たちの方をチラチラ見ながらひそひそと密談を始めた 「おい、あの、ぽっちゃりしたコは俺んだぞ」 「俺はあっちの、ほっそりしたコがいい!」 「俺はあの、背の高いコが……」 「いや、あのコは俺のモンだ!」 「おい、今日は俺にゆずれよ。俺は独身時代最後のチャンスなんだぜ。羽を伸ばせるのも今日で最後なんだからさあ」 「これだけは言っとくが、あっちのきれいなお嬢さんは俺の隣だぞ! なんたってなあ、あのお嬢さん、今朝、俺に手を振ってくれたんだよ! 俺に気があるに違いない!」 ゆめののほうを顎で示しながら唾を飛ばして主張する、ひときわうすらでっかい図体の馬面の若者は、そういえば、昼間、ゆめのが手を振ってやったシゼグである。一応声をひそめているつもりらしいのだが、地声がでかいので丸聞こえだ。ゆめのは困った。 「おいおい、お前ら、目の色変わってるぞ! 何か勘違いしてねえか? 駄目だよ、駄目。このお嬢さんたちはなあ、お前らなんかとは、住む世界が違うんだからな!」とロ−イに大声で釘を刺されて、若者たちはあわてて取り繕った。 「あはは、あは、わかってるよ、そんなこと。でも、隣に座ってお話するくらい、いいじゃん、なあ?」 「なっ!」 わかってるとは言っているが、本当に、文字通り、住む世界が違うということを、彼らは理解していないに違いない。 「じゃあ、みんな、適当に座って、座って。ちょっと狭くてごめんな!」 一行はロ−イに促されて適当に席に着いた。たまたま狙いの娘の隣になった者は小躍りし、ライディンの隣になったナ−クは、その甲冑姿を見て、ぽかんと口を開けた。ゆめのは思いっきりシゼグを避けて一番遠くに座ったので、シゼグはがくんと顎を落としてがっかりした。ゆめのは少しかわいそうになった。 席に着いた一同の前に、湯気の立つ料理が次々と運ばれてくる。香草で風味をつけて焙った羊肉や鶏肉、馴染みのない香料の効いた鶏肉や羊肉と野菜や豆類の煮込み、細切れの塩漬け肉で塩気と旨味を補った具沢山の野菜のス−プ、何種類もの見慣れないキノコの入ったシチュ−や煮込み、揚げた川魚、山鳥の丸焼き、木の実の入ったパン、香草を練り込んだパン、ヤギ乳のチ−ズ、羊乳と牛乳を混ぜたチ−ズ、茹でてチ−ズを絡めたじゃがいも、じゃがいもとりんごを一緒に煮てつぶしたものを丸めて揚げて蜂蜜をかけた、ほんのり甘い揚げ団子、あけびに似た果実の中にチ−ズを詰めて衣をつけて揚げた不思議な揚げもの、甘く煮たりんご、りんごや干し果実の入った焼き菓子に、篭に盛られた見たことのない果物……。 ほとんどが、この地方で一般的な料理ではあるが、一応は料理を出す店だけあって、一般家庭で日常的に食べられているものよりは手のこんだ料理も多い。普通の家では、主婦も皆、育児や農作業で忙しいので、日常の食事の支度は最低限の手間で済ませ、手のかかるごちそうは祭りの日くらいしか食べないのだ。特に、揚げ物は、こうした店ではよく出されるが、一般家庭では、調理設備の関係で、まず作らない。食べたい時はこの店で揚げたてをテイクアウトするのである。 今日は特に、ロ−イがあらかじめ普通より高い料金を前払いして特別料理を予約してあったので、店の主人とその妻は、めったにない腕の見せ所と、前日から張り切って下ごしらえして、料理人のプライドをかけて腕を振るった豪華な料理を山ほど用意したのである。量も多めに用意してあるから、自警団の面々にも、彼らのために別に作っていた料理と合わせれば十分行き渡る。 続いて、巷では幻の名酒として評判のイルド産の葡萄酒も運ばれてくる。 アルファ−ドの家での宴会の時は適当にそのへんのお椀に注がれたり、つぼや革袋から口飲みされていた酒も、この店ではちゃんと、金属製の足つきの杯に入ってくる。 自警団の面々も、思いかげず豪華な料理と上等の酒のお相伴に預かれることになって、ほくほく顔だ。 「さあ、みんな、アルファ−ドもまだ来てないことだし、まずはとにかく、飲んで、食って、体を温めよう。話は、それからな。というわけで、ほら、酒は行き渡ったか? じゃあ、ツア−実施を祝って、かんぱ〜い!」 ロ−イの音頭で杯を上げ、後はみんな、とりあえずもくもくと食べにかかった。 しばらくして、ある程度、腹が満ちると、イルファ−ラン勢は、みな、料理の皿や杯を手に、あちこち歩き回り出した。 天城の席には、里菜が折詰容器とタッパ−と、結婚式の引き出物を入れるような手提げ袋を持っていった。袋の底には、りんごが一つ入っている。 「これ、作者さんから、エリ−君へのお土産を入れていってくださいって。あ、タッパ−は返さなくていいそうですから。それと、これもエリ−君へのお土産。ジグおじいさんちのりんごだそうです」 隣では、勝手に椅子を持って席を移ってきたシゼグが懸命にゆめのに話しかけている。 わざと遠くに座られたのに、それがわざとだということに全然気づいていなかったらしい。 「あ、あのっ、ユ、ユメノさん、ごっ、ご趣味はなんですかっ!?」 「読書です」 「そ、そ、そうですか! こ、高尚なご趣味ですねっ!」 「いえ、そんなことはないですが」 「じゃあ、じゃあ、あのっ、えっと……、じゃ、じゃがいもとカブとでは、どっちが好きですかっ?」 「……はあ? どちらかといえばじゃがいもでしょうか」 「そうですか! 俺も、じゃがいもの方が好きです! き、気が合いますね!」 「はあ……」 「こ、こんど、俺の作ったじゃがいもを、た、食べて下さいっ! うちのじゃがいもは、マジ、うまいっス!」 「はあ……」 「あのっ、そんでっ、よかったら、ついでに親父とお袋に会ってやってくださいっ!」 「えっ……」 ゆめのはすごく困っていた。 そのまた隣では、ロ−イがさりげなくラキアの隣に割り込んで、ひそひそと耳元にささやいていた。 「ねえねえ、ラキアちゃん。今日、別に急いで帰らなくてもいいんだろ? あのさ、食事の後でさ、ちょっと残って、ふたりっきりでデ−トしない? なんなら、食事の後の歓談の時間に、ふたりでちょっと抜け出して、星でも眺めるとかさ。ここ、すっごく星がきれいだぜ。外はちょっと寒いけど、ふたりで寄り添えばあったかいってもんだ。星降る夜に寄り添ってデ−トなんて、ロマンチックだろ? それにさ、もし暖かいところのほうがよければ、ここだけの話、この食堂、実はひそかに二階の部屋を貸してくれたりするんだよな。ここのオヤジ、話がわかるんだ。逢引のままならぬ若い恋人たちの事情を理解してこっそり応援してくれる、ありがた〜いおやじさんなのよ。 ほら、この村じゃ、独身者はだいたいみんな親兄弟と一緒に住んでるから、夏場はともかく、冬場は、恋人同士が二人だけで会える場所なんてないから、ここのおやじが協力してくれるわけ。ファ−リ銅貨一枚渡せば、野暮なこと言わずに黙って片目をつぶって鍵を貸してくれるぜ。もちろん秘密厳守さ。 大人たちも、若い時、あそこの二階の世話になったことのある人は多いはずだから、実はオヤジが部屋貸しやってることはみんな知ってるんだけど、知らないふりをしてくれてる。公然の秘密、暗黙の了解ってやつ。ちょっといい話だろ? ここさ、田舎だけどさ、大人たちがそういう面でとっても話がわかって、俺たち若者の事情を理解してくれるって点だけは、すごくいいところだと思うのよ。 だからさあ、ね、ちょっと試しに、二階に行って、俺と、いいコト、してみない? 旅のちょっとした思い出ってことでさぁ。 イルゼ−ル村の食堂で飯を食うだけじゃなく、二階の貸し部屋まで利用してみるなんて、なかなかできない、かなり珍しい経験じゃねえ? いい記念になるぜ。通り一ぺんの上っ面だけの観光じゃ、もったいねえよ。地元民との触れ合いこそ旅の醍醐味ってもんだろ? 俺、一生懸命、あんたにいい思い出をプレゼントするよ! 忘れられない熱い夜をさ!」 ロ−イがしだいに人目も忘れて熱心にかき口説くのを、ラキアは妖しい笑みを浮かべて余裕で聞き流している。 思い思いにおしゃべりをしていた他の娘たちも、おしゃべりを続けるふりで、いつのまにかみんなロ−イの言葉に聞き耳を立て笑いをこらえていたが、ラキアを口説くのに夢中のロ−イは全然気づいていなかった。 「ね、ね、頼みます、お願いします。ラキア様、お姉様!」 ラキアのじらすような笑みに煽り立てられたロ−イは、もう、なりふり構わず、拝み倒さんばかりにぺこぺこしはじめた。 「そうねえ、三回回ってワンと言ったら、考えてみてあげてもいいわ」 ラキアが涼しい顔でさらりと言ったとたん、ロ−イは躊躇なく椅子から飛び降りて、がばっと床に四つんばいになった。 「やります、やります、ラキアちゃんのお望みとあれば、俺、なんでもやっちゃうよ! ほら、ぐるぐるぐるぐる、三回回って、ワン! ね、ね? ほら、尻尾振り振り、ハッハッハッ。もっと何か、芸、しようか? お手は? チンチンは?」 「ちょ、ちょっと、ロ−イってば、何してんの!?」 ちょうど席をたってこちらへ近づいて来た里菜が唖然とした。 「い、いや、ちょっと……ほら、何か芸をして皆さんを楽しませたいと思って」 「芸って、何でまたそんな……。そんな芸じゃなくて、あのね、あっちのほうで、ロ−イの歌が聞きたいってリクエストが来てるのよ。食べ終ってたら、歌、歌ってよ。ね」 「ちぇ、人気者は忙しいなあ。じゃ、じゃあ、ラキアちゃん、また後でね。後でまた来るからさ、さっきのお願い、考えといてね……」 ラキアに後ろ髪を引かれるような思いのロ−イを引きずっていきながら、里菜が追求した。 「お願いって何? ロ−イってば、またラキアさん口説いてたんでしょう! ロ−イ、ああいうのがタイプなんだ? そりゃあたしかにラキアさんは奇麗だしカッコいいし色っぽいし、女のあたしから見ても素敵だけど、でも、あたしとは正反対のタイプよね!」 「あ、リ−ナちゃん、妬いてんの? いや、リ−ナちゃんみたいのは、それはそれでかわいくて好きなんだけど、でも、ほら、ああいう色っぽいお姉様って、やっぱさあ、男としてほっとけないというか、見逃せないというか、ほら、今まで経験したことのないようなめくるめく一夜をすごせそうな気が……」 「なにそれ、不潔よっ! ロ−イの頭の中、いつもそういうことでいっぱいなのね!」 「ふ、不潔って……。あのさあ、そういうこと考えるのが普通なんだよ。アルファ−ドみたいに全然そういうこと考えてなさそうな方がどうかしてるんだよ」 「アルファ−ドはどうかしてなんか、いないわ! 普通よ! ロ−イのほうが、特別、異常に、スケベなのよっ!」 「ひでえ……。違うって、俺のほうが普通なんだって! なあ、騎士さんよ? あんただってそうだろ? 健康な若い男子として、いつもそういうこと考えてるのが当たり前だよなあ? それが普通だよなあ?」 通りすがりに突然話を振られて、ライディンは困った。ここで同意するわけにも行かないが、自分は違うと言い張るのも、ロ−イに悪いような気がする。どうしたらいいのだろう。 ロ−イは、里菜に服を掴まれて引きずられていきながら、なおも言い張った。 「な? あんただって、ラキアちゃんみたいな色っぽいお姉様見てさ、ああいいなあと思ったろ? できれば手合わせ願いたいとか、チラっとぐらいは考えただろ?」 「いえ、それは……、そんな……」 そう思ったと答えるのも、そんなことはないと答えるのも、どちらもラキアに対して失礼なような気がする。ライディンはますます困った。 後ろでは、ロ−イがいなくなったとたんにラキアの回りに集まってきた娘たちが、ひそひそとラキアに尋ねていた。 「それで、ラキアさん、本当に、後でロ−イ君と二階に行ってあげるの?」 「まさか。うふふ。ウブなボ−ヤをからかうのも、たまには面白いわ」 「うわあ、ラキアさん、極悪……」 「ロ−イ君、かわいそ……」 「うふふ」 娘たちの大騒ぎもどこ吹く風、ラキアはあいかわらず余裕の笑みである。 「……こうして少年は大人になっていくのね」 黙って聞いていたゆめのが、妙に冷静に、ぽつりとコメントした。 ――まだ続く(^_^;)―― →『イルファーラン物語』目次ページ へ →第五回へ →第七回へ →トップぺージへ →掲示板 へ |
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冬木洋子に帰属しています。
掲載サイト:カノープス通信
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