★サイト一周年記念企画★
イルファーラン観光ツアー
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これは、サイト一周年記念の、お遊び企画です。
キリ番ゲッター様とイラスト寄贈者様をイルファーランにご招待して、
書き下ろし連載しています。次回が最終回の予定。
★企画の詳細はこちら★
★参加者の紹介は第一回の本文中にあります★
<第七回・<女神の杯>亭にて・その2> 暖かい空気で満たされた店の扉がふいに開いて、冷たい外気と共にアルファードが入ってきた。外はもう、すっかり暗くなって、だいぶ冷え込んでいるようだ。「遅くなってすまなかった」 アルファードは、後ろ手で静かにドアを閉めると、羽織っていた羊毛の上着を脱ぎながら大股でテーブルに歩み寄った。 「おお、遅いぜ!」 「あんたが遅いから、もうみんなほとんど食い終ってるぞ!」 「そこ、空けといたから座れよ。まず、メシ食えや」 「ああ」 椅子の背に上着をかけて腰を下ろしたルファードのそばに、里菜が嬉しそうに飛んでくる。 「アルファード、お疲れ様! はい、これ、葡萄酒。お料理、なにか取ってこようか?」 「ああ、ありがとう。ここにあるので十分だ」 里菜は、黙々と食べ始めたアルファードの向かいに椅子を引きずってきて座りこみ、アルファードが食べるところをにこにこと眺めている。とても嬉しそうだ。もう、周りのことは眼中にないらしい。お客のことも忘れてしまったようなので、しかたなく、ローイがあいさつした。 「というわけで、アルファードが来たから、だいたいメシ食い終るまで、ちょっと待っててやってな。こいつ、食うの早いぜ。全然、味わってないから。エサだよ、エサ。腹が膨れて栄養になれば何でもいいの。味なんて気にしてないから、何食わせても、おんなじ。な、アルファード?」 「ああ」 顔も上げずに、それでも律儀に答え、アルファードは、そのまま、また、淡々と食べ続ける。確かに食べるのは早いようだが、こんな時にも動作は無駄なく正確で、がつがつとした感じはしない。が、別にどの料理が特に食べたいということもないらしく手近にあるものを何でも一定の速度で淡々と口に運んでは機械的に飲み下し続ける様は、ローイの言葉どおり、あまり食べることを楽しんでいるようには見えない。 「ほら、本人も認めてらぁ。リーナちゃん、よかったな。こういうのが亭主だと、楽だぜ」 ローイの言葉に、里菜は、 「きゃっ、亭主だなんてぇ」と嬉しそうに頬を染めた。 そんな話をしているうちに、アルファードは、本当にほぼ食べ終ってしまった。 「あんたさあ、もっと味わって食えよ。おやじがせっかく腕を振るった特別料理だってのに、まったく、ごちそうの食わせがいのないやつだよ。こんなやつにうまいもの食わせるのはもったいねえや。あんたにゃ残飯で十分だ。な?」 「ああ」 アルファードは大真面目に頷いた。 「ほら、本人もそう言ってるよ。リーナちゃん、せいぜいこいつに残飯食わせてやりな。さあ、リーナちゃん、いつまでも嬉しそうにアルファードが食ってるとこなんか眺めてないで、そろそろ質問会といこう。あんた、何か、質問預かって来てるんだろ? ほら、こっち来て司会して」 「あ、そうだった、あたし、質問預かってるんだった! えっと、今日、来ていない人の分の質問を、あたしが預かってきました。 Novelismの穂高さんからの質問です。今日はラキアさんが代わりに来てて、穂高さんご本人は来てないんです。ローイへの質問で、『ローイは子供のころ、どんな子供だったか』ですって」 「俺の子供のころだって? そんなの、決まってるじゃん。そりゃもう、究極の美少年だったんだよ! この顔見りゃ、想像つくだろ? しかも、愛想はいいし、素直でかわいいし、もう、村中のアイドルさ!」 「嘘つけ!」と、自警団の若者たちの間から一斉に野次が飛んだ。 「みんな、騙されるなよ! こいつ、村一番のいたずら坊主だったんだよ!」 「そうそう! とんでもない悪ガキでさあ、リンゴ泥棒の常習犯だったんだ!」 「よその村にまで遠征していろいろ悪さしてたよな」 「確かに愛想は良かったけど、それは女にだけ! 母さん連中、姉さん連中はみんな、こいつの可愛いいフリに騙されてたのさ!」 「確かに、黙ってにこにこしてりゃ、顔だけは可愛かったからな」 「そんな顔して、実はとんでもなく喧嘩っ早くてさあ、村の仲間と喧嘩するだけじゃ足りなくて、隣村まで用もないのに一人でわざわざ喧嘩売りに行って、ぼこぼこにされて帰ってきたりな」 「ええい、うるさ〜い!」とローイが喚いた。 「そりゃあ、ちっとくらい悪さはしたさ。男の子だもんよ、それくらい普通だろ? それに、確かにイルドの連中にはぼこぼこにされたが、あんときゃ、一対五だったんだぜ? しかも、半分は俺より年上だったんだ。でも俺は、自分もぼろぼろになったが、向こうも2、3人は、のしてやったはずなんだ。今度、何か用事があってイルドに行くことがあったら聞いてみろよ、誰かきっと覚えてるから。なあ、お嬢さんたち、男の子は、ちょっとくらいヤンチャなほうがかわいいよな? 腕白でも元気なほうがいいよな。そう思うだろ?」 「ねえ、ローイ、それ、幾つの時よ。なんで一対五で喧嘩なんかしたの?」と里菜。 「え? 十歳くらいの時だっけな。原因は何だったっけなあ。別に理由はなかったような……。たぶん俺が何か一方的に言いがかりをつけにいったんだと思うぜ。ただ喧嘩がしたかったんだよ。腕試しっていうか、度胸試しっていうかさ、要するに暴れたかったんだ」 「あきれた。ちょっとヤンチャなんてもんじゃないわ。とんでもない不良じゃない」 「そんなことないよ。子供の喧嘩だもん、無邪気なもんさ。しかも、大勢で一人を襲ったら卑怯だが、俺は一人で敵地に乗り込んだんだぜ! でも、あんときゃ、繕って貰ったばかりの服をまた破いたってんで、後で姉貴たちにさんざん叱られたっけなあ」 「そういえばローイの子供は、小さい時にお母さん亡くして、年の離れたお姉さんたちに育てられたんですってね」 「そうなんだよ。おかげで今でも姉貴たちに頭が上がらないんだ。ちょっと口答えするとすぐ、おむつを替えてやったは誰とか言われるから。でも、自分で言うのも何だけど、姉貴たちにはずいぶん可愛がってもらったと思うよ。お袋がいなくて寂しいとか、ぜんぜん思わなかったもん。お袋代わりが4人もいて、よってたかって可愛がられてたから。今にして思えば俺は、その頃からもう、年上の女性が放っとかないタイプだったんだなあ!」 「はいはい。じゃあ、次は、ここにいる皆さんに質問をして頂きます。質問のある方はどうぞ。はい、藤村さん!」 藤村が立ち上がって、質問をした。 「ローイさんに質問です。ローイさんは野良仕事をする時に何を着るのですか? 私、ローイさんがおうちの人に怒鳴られてしぶしぶ畑仕事をするところを見てみたいんですけど」 「あのさあ、シュウちゃん。俺、いつも遊んでばかりいると思われてるかもしれないけど、こう見えて、やるときゃ、やるぜ? 畑仕事だって、その気になりゃ、お手のものよ。ただ、いつもいつもだらだら仕事してないで、短期集中で効率よくがっ〜とやる主義ってだけ。こう見えても、ちゃんと働いてるんだ。なんたって力持ちだし、スタミナあるから、人より短い時間でも人並み以上に仕事こなすのよ。言っとくけど、汗を流して野良で働く俺も、カッコいいぞ! 俺は、野良仕事だって、やるとなったらあくまで颯爽と、カッコよくやるんだ!」 「わかった、わかった」と里菜。「ローイもたまには、畑仕事のお手伝いするのね。で、どんな服着てするの?」 「うん、それはな、ちゃんと、それ専用の服があるんだ。俺、服装にはどんな時にも気を抜かないから、畑仕事だからといって気にいらない服は着たくないが、普段のこの服は、さすがに肉体労働向きじゃないだろ。ほら、ここんとことか(と、腰に結んだ布を引っ張る)、ひらひらしてるしさあ。だから、畑仕事には畑仕事にふさわしいワイルドでカッコいい野良着を、自分でデザインして義姉貴に作ってもらったんだ。こういうのを作ってくれれば畑仕事を手伝うからって言って。で、ちゃんとその約束を守って、たまには畑仕事も手伝ってる」 「あ、あたし、その服、見たことある! あの、真っ赤に黒とか黄色とかの継ぎはぎみたいなのがついた、とんでもないやつね。なんかやけに派手な案山子が立ってるなあと思ったら、それが動いたからびっくりして、よく見たらローイだったのよ。何か光り物もついてなかった? ローイのセンスって、ほんと前衛的よね。ちょっとヘヴィメタとかパンクに通じるものがあるかも」 「そうそう、それそれ。燃える男の真っ赤な野良着。パワフルに働く俺の勇姿に、女の子たちはみんなうっとりさ!」 「あはは、女の子はどうか知らないけど、カラスがびっくりして逃げ出すことは間違いなしね! では、次の質問どうそ。はい、ゆめのさん!」 ゆめのが立って質問をした。 「アルファードさんと里菜ちゃんに質問です。お二人はいつも、どういう料理を食べているのですか。料理のレパートリーを教えて下さい。本編には、毎日同じようなごった煮を食べていると書いてありましたが、いくらなんでも本当に毎日同じでは、飽きると思うのですが……」 「えっ、料理のレパートリーですか……? あの、あたしたち、本当に毎日、おなじようなものを食べてるんですけど……。材料はその日のありあわせのものを使うから、日によってちょっとづつ違うけど、そのくらいで……。あとは、ヴィーレが時々、ちょっと目先の変わった料理を差し入れしてくれるんだけど、自分たちで作るのは、ほんとに、いつも同じようなものばっか。えっと、例えば、大鍋の水に塩漬け肉みたいなものと適当に切った野菜を放り込んで、煮えるまで暖炉にかけとくだけとか、壺みたいのに肉と野菜を重ねて入れて、少し水を入れて蓋をして、出かける前におき火に埋めておいたら帰ってくると煮えてるとか……。そういう温かい料理を一品、大鍋にたくさん作っては、何日か、なくなるまで続けて食べるんです。で、あとは、パンとかチーズとか、暖炉で焼いたおイモとか。ねえ、アルファード、あの、壺で煮る料理、なんて言う名前?」 里菜は、いつのまにか食事を終えていたアルファードに話を振った。 「……『蒸し煮』だが」 「そうじゃなくて、ほら、『何とかの何とか煮』とか『なんとか味』とか、ポトフとかラタトゥイユとか筑前煮とか、何か、そういう名前、ないの?」 「いや、特に、名前はないと思うが。具も、そのときによって違うし」 「ええ〜、じゃあ、あの、スープは?」 「……ただの『スープ』だ」 「え〜。『ナントカ・スープ』みたいな名前、ないの?」 「ああ、別にないと思う」 「……だそうです。とにかく、いいかげんなのよ。何も量とか決まってなくて、なんでもあるものを適当にぶちこんで煮るだけ。にんじんなんか、皮も剥かないでぼきぼき手で折っちゃうし、キャベツなんか、アルファードが手でバカっと二つか四つくらいに割って、鍋につっこんじゃう。お塩なんか、量ったことないし。イルファーランの料理って、大ざっぱね♪」 ローイが呆れて口を挟んだ。 「……いいや、リーナちゃん、それ、違うよ。普通の家じゃ、そこまで大ざっぱじゃねえよ。それ、あんたらふたりが、特別大ざっぱなんだよ……。さすがに、キャベツを手で割ってそのままぶっこんでたりするのはアルファードだけだぜ?」 「えっ、そうだったの……?」 「ああ、だって、普通、おかみさん連中は、手でキャベツ、割れねえよ。あんたら、すごい豪快な生活してんのな」 「……そうだったんだぁ。あたしは、てっきり、ここではこれが普通なんだとばかり……。でも、アルファードの作るお料理は美味しいわ!」 「そうかい、そうかい。よかったな。なんでもおいしく食べられるのは健康な証拠さ。でもさあ、アルファード、あんた、リーナちゃんに、もうちょっと普通の、おしとやかな料理の仕方、教えてやんな。これじゃ、もしどっか余所にお嫁に行ったら、嫁入り先でぶったまげられるぞ」 「リ、リーナはまだまだ嫁になど行かない! それに、俺はちゃんと、リーナに料理を教えている。リーナは、最初、じゃがいもの皮ひとつ、まともに剥けなかったんだ。これでもずいぶん進歩したんだ。そもそも、料理など、どうやって作ろうが、とりあえず食えるものが出来ればそれでいいんだ!」 「そうよね、アルファード。食べられればいいわよね! とにかく、あたしは、今食べてるものにぜんぜん不満は無いわ。そりゃあ、一年も同じものを食べてたら飽きるかもしれないけど、今はまだ二ヶ月くらいだから、別に飽きてないし。時々、あっちの世界の食べ物が恋しくなることもあるけど、それはまた別問題で、どうせ、ここでは作れないんだから、それはしかたないしね。というわけで、次の質問、どうぞ」 次は天城が質問をした。 「ローイ君に質問です。ローイ君の勝負服はどんな服?」 「おお、レイちゃん、いい質問だな! これ、これ。今着てる、これが俺の勝負服だよ」 自慢そうに胸を張るローイに、里菜があきれた。 「え、それ? なぁんだ、いつもと同じじゃない!」 「そうだよ。俺、ファッションにはいつも気を抜かないから。いつでも自分の納得の行く最高のおしゃれをしてるのさ。でも、言っとくけど、毎日同じ服を着てるわけじゃないんだぜ。ほら、シャツはさ、赤いのと紫のと縞のと、ちゃんと交代で着てるだろ? ズボンだって、何本か、あるんだよ。それぞれ、定番の組み合わせも決まってるの。で、たまには組み合わせを変えてみたりさ。 そうそう、あたりまえだけど、靴下だって毎日同じのじゃないんだぜ。一見同じに見えるけど、赤い靴下と緑の靴下が一足づつあって、その、合計二足分をばらばらにして組み合わせて交代で履いてるんだから、左右色違いのが二組あるわけ。それと、赤い靴下と黄色い靴下の組み合わせも二組あるぞ。あんたら、ファッションに無頓着だから気づいてないだろうけどさ。 で、その中で、今日のこの組み合わせが、中でも特にお気に入りの、一番カッコいい組み合わせ、自信の勝負服なんだ。あ、でも、今日は、ちょっと特別なおしゃれもしてるだろ? ほら、これ、ドラゴンの爪のペンダント。俺らが斃したドラゴンの爪だぜ」 「あ、ほんと。へええ、こうしてみると意外ときれいなのね! ちょっと勾玉みたいな形? 何か塗料を塗ってあるの?」 「そうさ。きれいに磨いて、つや出し塗料を塗るんだ。で、こうやって、小粒の玉石と一緒に紐に通す。石の並び順とか、自分でデザインしたんだぜ。俺、ドラゴンの爪は、いっぱい持ってるんだけど、これは、その中でも一番大きいやつ。たくさん持ってるからって全部下げて歩かないで、こうやって一番いいのを一個だけ下げるのが粋なのさ。全部じゃらじゃら下げてたら、なんか、野蛮人っぽいだろ?」 「あはは、たしかにね」 「で、ほら、こういう縦長のアクセサリーをしてるから、バランスをとって、シャツのボタンを、いつもより二つよけいに開けているわけ。ほら、へそ上まで。どう、セクシー?」 「プッ」 「あ、ひでえなあ、なんでそこで笑うわけ? どうせあんたにゃファッションのことはわからねえんだよな。とにかく、胸のボタンをいくつ開けるかなんていう細かいところにまで気を遣った、こだわりの勝負服なんだよ!」 「あたし、ローイがよく胸のボタンを開けてるのは、だらしないからだとばっかり思ってたわ」 「違げぇよ、そういうファッションなんだよ!」 「でも、夏はいいけど、そろそろ、それって寒くない?」 「そりゃあ、真冬にこれは寒いけど、今頃ならまだ、家の中や、天気のいい昼間は、別に大丈夫だよ。それに、ちっとくらい寒くてもファッションのためには痩せ我慢をするのが、伊達男の心意気ってもんだぜ!」 「痩せ我慢で風邪引いちゃったら、ばかばかしいじゃない」 「俺はあんたと違って身体鍛えてるから、ちっとくらい寒くたって、風邪なんか引かねえよ! てゆうか俺、考えてみたら、風邪なんて、そういえば、もう十年くらい、引いたことねえぞ」 「うわあ、すごい! バカは風邪引かないって、ほんとなんだ!」 里菜は本気で感心して叫んだ。 「バカとはなんだ、バカとは。失礼だなあ!」 「あ、ごめん……」 「おや、ミナトちゃん。あんた、なにしてんの?」 見れば、ゆめのが、せっせとローイをスケッチしている。 「あ、わかった! あんた、俺のファンなんだな! それで、俺の勇姿をスケッチしてるのか! そう言えば、さっき、リンゴ園でも何か描いてたじゃん。あれも俺を描いてたんだろ。そんな、慎み深くこそこそ隠れて描かなくても、俺に言ってくれればいくらでもかっこいいポーズをとってやるのに! ほら、こんなの、どう?」 ローイは次々に気取ったポーズのあれこれを取って見せた。やたらと動くので描きにくい。 「すみません、あまり動かないで下さい」 「ああ、わるい、わるい、じゃあ、ずっと同じポーズで止まってるから」といってぴたっと固まったのは、たまたま、なんとも珍妙なボディビルもどきのポーズを取っている最中だったので、ゆめのはちょっと困った。 「普通にしていて結構です……。服をスケッチしてるだけですから」 里菜が口を挟んだ。 「ゆめのさんはね、小説だけじゃなく、イラストも描く人なのよ。ローイを描く時の参考に、服装をスケッチしてるだけよ。ポーズは関係ないの。さっきのリンゴ園でも、イラストを描いて下さったのよ。ほら、こちら」 「おおっ、ほんとだ。すばやいなあ!」 「そう、素早いんだから、別にローイは固まってなくていいのよ。さあ、次の質問ね」 「おっと、待った。まだ、俺、今の質問に答え終ってないんだよ。あとさ、あとさ、俺の勝負服、もう一か所、いつもと違うところがあるの! パンツが新品!」 「……あっ、そ」 「あ、冷たいなあ! 『どんなパンツ?』とか聞いてくれねえの?」 「そんなの、別に知りたくないよ……」 「ちぇ。いいよ、リーナちゃんは知りたくなくても、レイちゃんたちにご披露するから」 「ちょ、ちょっと待って! ローイ、披露って何よ、披露って! そんなもの、見せちゃだめよ!」 「なんで? 口で説明するより、見てもらった方が早いじゃん。見て、見て、レイちゃん、これが俺の勝負パンツだぁ!」 ローイがズボンに手をかけようとしたので、里菜は慌ててその手を抑えた。 「だ、だめだめ! パンツはだめよ! ここ、ジオシティなんだから!」 「なに、何だって? いいじゃん、パンツくらい。なにもパンツまで脱いで見せようってんじゃなくて、色柄をご披露するだけだもん。俺、パンツの色柄にも、ちゃんとこだわってるんだよ! 見えないところまで気を遣うのが本物のおしゃれってもんさ! なあ?」 いいかげん酔いが回り始めていた自警団の若者たちが、大喜びで悪乗りして騒ぎ出した。 「おお〜、そうだそうだ! そのと〜おり!」 「あはは、おもしろいぞ、脱げ、脱げ〜!」 「ついでにパンツも脱いじゃえ〜!!」 「ぎゃはは……! いいぞいいぞ〜!」 酔っ払いたちの大声援に大いに調子に乗ったローイは、里菜の手を振り払って椅子に飛び乗り、ズボンのボタンに手をかけた。 「きゃ〜!」 娘たちは手で顔を覆って騒ぎながら、指のすき間から事態を見守った。 「やめてよぉ、ローイ……! ねえってばぁ。作者さんが猥褻物陳列罪で逮捕されちゃったらどうするの……」 里菜は困って半泣きだ。それを横目で確認して、ローイはますます気勢を上げた。 「ほら、脱ぐぞ、脱ぐぞ〜! どうだぁ!」 酔っ払いたちはもう大喜びで、無責任に囃し立てる。 「おう、だから脱げってばよ!」 「脱げ脱げ、とっとと脱げ〜! 全部脱げ〜」 「ぎゃはははは〜!」 誰かが変な歌を歌い出した。 「たんたかたった、たったった〜、ちゃ〜〜、ちゃらら〜ららら〜……ちょっとだけよ〜! あんたも好きねぇ〜!」 「あはは、お前、それ、古いよ。歳がバレるぜ!」 どうやら、この世界にも、こっちの世界とそっくりの古いギャグがあるらしい。 ますます悪乗りしたローイは器用に椅子の上に寝っころがって片足を高々と上げ、妙なしなを作ってみせた。 「やめてってば、ねえ、お願い! ねえ、アルファード、なんとかして〜! ローイがズボン脱いじゃう〜!」 半泣きの里菜は、とうとう、アルファードに助けを求めた。 あまりのばかばかしさに口出しする気力もなかったのか、我関せずとばかりに黙ってお茶を飲んでいたアルファードは、うんざりした顔を上げた。 「おい、いいかげんにしろ。くだらん悪ふざけはそのくらいにしとけ」 アルファードの、低いがよく通る一喝に、酔っ払いたちは、しゅんと大人しくなった。 ローイも、しぶしぶ椅子から降りた。 「ローイのバカ! もう、しらない! やっぱり、ローイが風邪ひかないのはバカだからなのよ!」 里菜はぷんぷん怒って、椅子から降りてきたローイに背を向けた。 「なんだよ、そんなに怒ることないじゃん。俺は、ただ、真面目に、なるべく正確に質問に答えようとしただけだぜ?」 ぶつくさ言いながらも、本気で不満なわけではないらしく、顔はニヤニヤしている。里菜が怒っているのが面白いらしい。 娘たちがひそひそと言い合った。 「ねえ、ローイ君、今の、里菜ちゃんを困らせたくて、わざとやったのよね」 「うんうん、途中から、里菜ちゃんが困ってるのがおもしろくなって、図に乗ってたのよ。本気でズボン脱ぐ気じゃなかったよね」 「どこのクラスにも一人はいたよねえ、ああいう、好きな女の子にいじわるして喜ぶ男の子って」 「あはは、いた、いた。ガキよねえ……」 そのとき、ローイが、 「あっ」と、声を上げた。 「そうそう、忘れちゃいけねえ。あのさ、これ、この、ドラゴンの爪のペンダント。今日は、もうひとつ持ってきてるんだよ。な、リーナちゃん」 「あ、そうそう! あのね、このツアーに間に合わなかったキリ番ゲッターさんがいるんです。ツアーの申込みを締め切った直後に、キリ番をゲットしてくれた人が。キリ番12000番、小説サイトよもぎの森の、よもぎの森さんで〜す!」 「で、ツアーには一足違いで参加しそこなったけど、せっかくだから何か記念品でもということで、俺からドラゴンの爪のペンダントをプレゼント! ヨモギちゃ〜ん、見てる〜? ほら、これだよ〜!俺がヨモギちゃんのために心を込めて手作りしたオリジナルデザインの一点もの! 可愛いヨモギちゃんに似合うように、ちょっと女の子らしいデザインを目指して、小さめの爪を中心にパステルカラーの玉石をあしらってみました〜! でかい爪は、かなり背が高くないと似合わないからさ」 「あ、ほんと、ローイのと基本は同じパターンだけど、微妙に女の子に似合いそうなかわいいデザインになってる。石の配色もきれいだし、ステキ! ローイ、実は普通のセンスもあるんじゃない! というわけで、これ、あとで作者経由で小包で送りますね!」 「俺の愛も、一緒にたっぷり詰めとくから!」 「そんなもの、詰めてなくてもいいの! よもぎさん、パッキンには、イルファーランのハーブを干したのを入れますからね。お風呂に入れるといい香りがするハーブなんですよ。イルファーランの香りを試してみてくださいね。枕に入れると、イルファーランの夢がみられるかも。でも、もしかして種が紛れ込んでるのも見つけても、そっちの世界に植えちゃ駄目ですって。環境が違うと、何か、ヤバイことになるらしいです。どうなるのかしら? 成長が止まらなくなって巨大化しちゃうとか? 成分が変わってヘンな薬効が出るとか? それとも、検疫通してないから逮捕されるとか? 気になるわねえ。とにかく、植えちゃ駄目なんですって!」 ――続く(あと一回で終わりの予定)―― →『イルファーラン物語』目次ページへ →第六回へ →第八回へ →トップぺージへ →掲示板へ |
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冬木洋子に帰属しています。
掲載サイト:カノープス通信
http://www17.plala.or.jp/canopustusin/index.htm