Prof. Murakami


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28.gif (298 バイト)『性格のパワー』は十分ですか?

 村上宣寛さん(富山大学教育学部教授)は、日経BP社から何冊か本を出しています。 
 話題になった前著『「心理テスト」はウソでした。』に引き続き、『IQってホントは何なんだ?』、そして血液型の『「心理テスト」はウソでした。』の著者です。
 この本は、内容が地味なせいか、あまり売れてはいないようです。が、最近の心理学の動向を知るのには便利ですので、よければ皆さんも買ってあげましょう!(笑)

性格のパワー 世界最先端の心理学研究でここまで解明された 

性格のパワー 世界最先端の心理学研究でここまで解明された
出版社:日経BP社 発売日:2011/06/16 価格:1,680円

 ところで、残念ながら、血液型のところは、まだまだ事実誤認があるようです。
 #前著『「心理テスト」はウソでした。』の時に村上さんにメールを出したのですが、失礼ながら直っていないケースも…。

 ではでは。  -- H23.8.21

大幅にパワーダウン?

 この本は、全体的に内容が地味です。少なくとも、話題になった前著『「心理テスト」はウソでした。』に比べると、相当地味な感じがします。
 というのも、宮城音弥さんの名著『性格』の現代バージョンをぜひという出版社の依頼があったから(あとがき)とのことです。
 なるほど…。確かに、私も昔に『性格』は読んで感銘を受けました…。
 #執筆に2年かかり、読んだ文献は1メーターというのも納得です。

 ですので、どちらかというと学術的な内容で、2年前の『心理学で何がわかるか』と同じように、淡々と…とまではいきませんが、『「心理テスト」はウソでした。』 のように一般向けの表現ではないので、文章自体は地味です。
 ある書評で、「大幅にパワーダウン」とありましたが、内容はともかく、文章の勢いという点でパワーダウンしていることは間違いありません。(^^;;  -- H23.8.21

『「心理テスト」はウソでした。』と比べると?

 ちなみに、『「心理テスト」はウソでした。』と比べてみると、血液型人間学に関しても、相当にパワーダウンしています。

 血液型の発見の歴史や、古川学説はそれなりに説明していますが、能見さんの「血液型人間学」に直接言及しているのは、第2章の次の部分だけです。

 その後、古川学説の追試が次々に行われたが、否定的結果が多かった。そして、1933年の日本法医学界総会で古川学説は正式に否定された。
 
この古川学説を焼き直して大衆書の形で蘇らせたのが能見正比古で、その息子の能見俊賢が跡継ぎである。もちろん、血液型と性格の関連性を実証するデータは1つもない。詳しくは、村上宣寛『心理テストはウソでした』(講談社+α文庫、2008年)を見ていただきたい。
(p47 血液型人間学の登場)

 この文章は少々おかしいです。というのは、「1933年の日本法医学界総会で古川学説は正式に否定された。」のは事実ですが、調べてみると当時の心理学会では必ずしも否定されていません。そんなことは、村上宣寛さんならよくご存じのはずで、なぜ「しかし、心理学会では必ずしも否定されていません」と書かなかったのか、サッパリわかりません。

 ちなみに、当時の心理学の文献で(私が調べた限り、独自の研究でかつある程度の分量があるもののうち、1ページ以下とか、レビューのみのものは除くと)学術誌に掲載されたのは、6件だけです。古川さん自身のものを除くと4件ですから、正味は4件ということになります。 この4件ですが、賛成は2件、反対は2件となります。古川説の再検討

#当時は今のような統計的検定はありませんから、少なくとも「統計的に否定された」というのならウソです。

 これでは、どう見ても、否定されたとはいえないでしょう。 まさかとは思いますが、調査していないということなのでしょうか? これまた、ちょっと考えられないことですが…。
 戦前の日本法医学会から否定されたが、心理学会では必ずしも否定されなかったなら、はたして「古川学説は正式に否定された。」と言えるのかどうかは、常識的に考えて、かなり疑問です。

 それに、当時は今のような統計的検定はありませんから、少なくとも「統計的に否定された」というのなら、明らかにウソです。はて?

 また、「もちろん、血液型と性格の関連性を実証するデータは1つもない。」とありますが、これはウソです。念のため、最後の参考文献のリストを見てみると、案の定、最近の心理学の論文はチェックしていないようです。 私の調べた論文のリストはこちらです。 心理学者の反応

 つまり、明らかに調査モレだということになります。
 大丈夫なんでしょうか? と余計な心配をしてしまいます。  -- H23.8.21

類型論でないのでは?

 次にも、意味不明の記述が続きます。

 血液型人間学も明白な事実、血液に四つの型があるという事実から出発した。四つの型という点では古代の四気質論と対応付けが可能なので、思弁的に対応付けが行われた。その後、血液には無限に近い数多くの型が存在することがわかったが、四つの型の解釈仮説の修正は困難なので、既存の解釈にさまざまに追加する形での修正が行われた。もちろん、解釈の正しさについて、現実のデータで検証が行われたわけではない。
(p49 類型論の否定と肯定)

 この文章には、参考文献が紹介されていないので、チェックしようがありません。
 私が知る限り、「四つの型という点では古代の四気質論と対応付けが可能なので、思弁的に対応付けが行われた。」という事実はありません。
 それどころか、事実は全く逆です。ここは、血液型人間学のパイオニア、能見さん自身の要約でお届けしましょう(能見正比古 O型は人間は権力志向型なんだって−血液型性格学 別冊宝島6 『性格の本−もうひとりの自分に出会うためのマニュアル』 宝島社 S52.8)。

 最大の原因は、従来の常識的性格観に、 とらわれすぎたせいである。人々はすぐ性格に類型をつくりたがる。私も、O型はこれこれのタイプ……という決め方をしようと焦っていた。そんな類型をつくり得るほど、性格の本質は、とらえられていないのである。さらに日常に使われる性格用語を、それぞれの血液型にあてはめようとしては、失敗した。性格をあらわす言葉と思われているのは、じつは、表面に出た見た目の行動の断片をいうにすぎないものが多い。見た目が静かだったり考えこんだりしていろと内向的、大声で笑ったり騒いだりすると、外向的だなどという、大ざっぱなものが多いのだ。昼寝をしている姿を見て、ライオンは、おとなしい性格というようなものである。

 また、こんな記述もあります。

類推結果の妥当性(正しさ)に注意を払わないのが疑似科学の特徴である。体液が三種類あるから気質も三種類あるとはいえないし、ABO式で血液型を四種類に分けたとしても、性格が四種類あるわけではない。(p49-50 類型論の否定と肯定)

 村上さんは、いったいどんな血液型本を読んだのでしょうか?  -- H23.8.21

“知識の汚染”は必ずあるのでは?

 次に行きます。

 知識の汚染
 被験者が調査目的についての知識を持っている場合、その知識が調査結果をゆがめる現象がある。例えば、メイオウらが占星術の大規模な調査研究を行ったところ、得点差は小さかったが外向性について占星術の予測と一致した。ところが、アイゼンクは占星術の知識がほとんどない子供を調査対象者にして大規模調査を行ったところ、星座と性格との関係は否定された。筆者も血液型人間学の調査を行った時には、調査目的を悟られないように配慮した。この種の配慮は不可欠である。(p51)

 なぜか、別の項目で、同じような説明もあります。

 サンプル・バイアス
 母集団の性質をよく代表するように均等にサンプリングする必要がある。理想はランダム・サンプリングである…血液型人間学の提唱者、能見正比古は『血液型でわかる相性』の読者アンケートを使ったという。読者アンケートは、血液型人間学に興味をもち、知識を吸収し、共感を覚えた人たちだけが返送するし、興味のない人は返送しない。だから、読者アンケートには最初から大きなバイアスが入っている。(p53)

 要するに、「血液型人間学」の知識を持っている人を調査すれば、血液型人間学のとおりに結果が出るということでしょう。実際にも、そんな結果が出ています。→週刊ダイヤモンド』の記事

 山岡さんの推測では、「血液型人間学に興味をもち、知識を吸収し、共感を覚えた人たち」はどのぐらいいるかというと、全体の60%以上です。 ということは、いくら村上さんが「血液型人間学の調査を行った時には、調査目的を悟られないように配慮した」としても、現実的に、この60%以上のサンプルを排除するのは不可能ということになります。実際、私が知る限り、村上さんはそんなことはしていません。 また、ランダム・サンプリングをすれば、この「血液型人間学に興味をもち、知識を吸収し、共感を覚えた人たち」がサンプルにいるので、山岡さんが実証したとおり、全体のデータなら必ず差が出ることになります。
 要するに、心理学者のデータは、必ず血液型人間学のとおりに結果が出るということです。 繰り返しになりますが、実際にそんなデータが、最近の心理学の論文には報告されています。心理学者の反応

 ですから、

 もちろん、血液型と性格の関連性を実証するデータは1つもない。詳しくは、村上宣寛『心理テストはウソでした』(講談社+α文庫、2008年)を見ていただきたい。(p47 血液型人間学の登場)

 は明らかにウソということになります。
 この点は、以前に『心理テストはウソでした』のときに質問したのですが、明確な回答はいただけませんでした。『「心理テスト」はウソでした。』は本当ですか?

 ちなみに、この本の執筆で村上さんが「利用した文献の厚みは1メーター弱の高さになった(はじめに p2)」とのことです(素晴らしい!)が、残念ながら私が今まで紹介した文献を読んでいる形跡はありません。
 やはり血液型を否定するのは相当厳しいようですね…。

 ちなみに、私が血液型で読んだ文献は、最低数メートル、たぶん10メートル以上はあると思います。:-p  -- H23.8.21

おまけ−坂元章さん 統計的に差があると明確に結論付けている心理学論文(ただし英語)

 2月15日付の Scientific American の記事(個人のブログ)を読んでいたら、以前お世話になったお茶大の坂元章さんの論文が紹介されていました。

Sakamoto, A., & Yamazaki, K. (2004) Blood-typical personality stereotypes and self-fulfilling prophecy: A natural experiment with time-series data of 1978-1988. In Y. Kashima, Y. Endo, E. S. Kashima, C. Leung, & J. McClure (Eds.), Progress in Asian Social Psychology, Vol. 4. Seoul, Korea: Kyoyook-Kwahak-Sa. Pp. 239-262. (pdf)

 驚いたのは、自己成就現象と断り書きがあるのを割り引くとしても、統計的に差があると明確に結論付けていることです。

This indicates that blood-typical personality stereotypes actually influenced the personalities - self-reported personalities, at least - of individuals, and that they also operated as a self-fulfilling prophecy, although the greatness of that influence could be discussed.

 英語だから、日本では話題にならなかったのでしょうかね?

 以前にこの論文を読んでいれば、私も苦労しなかったのですが。
 いずれにせよ、統計的に差があるかどうかの論争は、既に決着済み(だった)と言っていいでしょう。

 ちなみに、このScientific American の記事には、私のサイトも(批判的に・苦笑)紹介されています。 -- H23.8.22


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最終更新日:平成23年8月22日