最近にはない、本格的な血液型の批判記事です。
この号の特集「使える心理学」の一部として、53〜55ページの3ページにわたって説明されています。
Part 2
性格診断編 自分の性格を解き明かす心理学 ブームの血液型診断は本当?
血液型による性格診断ブーム その実態を心理学で斬る!
記事の結論は明快です。「血液型の性格分類は、統計学的、心理学的に根拠はない」(55ページ)です。
その根拠として、心理学者である富山大の村上宣寛さんと、聖徳大学の山岡重行さんの2人が登場しています。
まず、村上さんの否定の根拠を見ていきましょう。『心理テストはウソでした』(講談社)で明確に反証しているとして、
能見氏は読者アンケートを基に2万枚のデータを集めたとしているが、統計学ではランダムサンプリングが基本。彼らのデータでは、血液型人間学に興味があり、共感を覚えた読者しかアンケートを返送しないため、そもそもアンケートにバイアスがかかっている」。そのため、統計学的には意味がないという。(53ページ)
と述べています。確かにこれは一理あります。
要するに、統計的に意味がないランダムサンプリングでないデータで、(仮に)差が出たとしても意味がないということです。
次に、山岡重行さんの意見を紹介しておきます。彼は、1365人の大学生を対象に調査を行いました。その結果、
山岡講師は「テレビを見て楽しんだ層は、与えられた情報により暗示がかけられ、マインドコントロールされてしまったために、血液型によって差が出た」と言う。それに対して、テレビを見なかった層は暗示にかけられないということだろう。テレビを見なかった層の結果を見れば、血液型によって性格の差がないということが実証されている。(54ページ)
よって、血液型と性格は関係ない、という結論になっています。
なお、この記事で紹介されている山岡重行さんの論文『血液型性格項目の自己認知に及ぼすTV番組視聴の影響』(日本社会心理学会第47回発表論文集)は無料でオンラインで入手できます。
考 察
たしかに、この2人の意見は正しいように思えます。しかし、ちょっと待ってください!
【矛盾!? その1】
まず、村上さんの意見を尊重するとすると、「統計学ではランダムサンプリングが基本」とありますから、山岡さんの大学生のデータは(明らかに)ランダムサンプリングでないので、差が出ようが出まいが無意味ということになります。逆に、山岡さんが正しいとすると、心理学のデータを扱う場合には、絶対にランダムサンプリングが必要ということではない、ということになります。これは矛盾です!
しかし、この矛盾については、(なぜか?)記事中では何も触れていないようです。
ちなみに、村上さんのデータも大学生ですから、差が出ようが出まいが無意味ということになります。実は、以前にこの点について村上さんに質問したことがあるのですが、厳密な意味での「ランダムサンプリング」が必要かどうかは、明確な回答はありませんでした。
【矛盾!? その2】
この記事では(なぜか?)明確に書いてありませんが、村上さんの主張を一言で言うと、「ランダムサンプリングすれば差がない」、つまりデータに差がないということです。しかし、山岡さんのデータでは、テレビを見た学生では血液型による差があったが、テレビを見なかった学生では差がなかった、ということになります。これは、全体のデータ(テレビを見た学生+テレビを見なかった学生)、言い替えれば“ランダムサンプリング”したデータでは差がある、ということになります。
つまり、“ランダムサンプリング”をすれば、「思い込み」や「マインドコンロール」のため、必ず差が出るということなります。
一昔前の心理学の定説では、血液型によりデータに差がない→性格に差がない、ということだったのですが、どうやらこの定説は自然消滅してしまったと考えた方がよさそうです。
代わって、現在の定説(?)では、データでは必ず差が出るが、それは「思い込み」や「マインドコンロール」のため、ということらしいです…。
それなら、そう明記してくれれば、誰にでも理解しやすいと思うんですが…。
【矛盾!? その3】
繰り返しになりますが、この記事で紹介されている山岡重行さんの論文『血液型性格項目の自己認知に及ぼすTV番組視聴の影響』(日本社会心理学会第47回発表論文集)は、無料でオンラインで入手できます。
#ググればすぐ見つかります。
で、実際に、入手して読んでみました。
残念なことに、論文にはχ2値が記載されていないため、テレビを見なかった学生で差が出なかったのは、本当に差が出なかったのか、単にサンプルが少なかったのかは不明です。
私は、単にサンプルが少ないために差が出なかったと考えます。
#あるいは、28の質問項目が妥当ではなかっため、差が出にくかったということです。
というのは「テレビを見なかった学生」(論文中では「血液型ステレオタイプ低受容群」)の42%(567人)が多すぎるからで、この中には血液型に興味を持つ学生が少なからず含まれているはずだからです。つまり、小さいながら「テレビを見た学生」(同「血液型ステレオタイプ低受容群」)の58%(795人)と同じ差が出ているはずです。
参考までに、他のデータでは、「血液型ステレオタイプ(高)受容群」は70%程度以上あります から、「血液型ステレオタイプ低受容群」は通常30%程度以下と考えるのが妥当だと思います。
【参考】血液型と性格に関係があると思っている日本人の割合
なお、1.2のデータは、草野直樹さんの『「血液型性格判断」の虚実』から引用させていただきました。どうもありがとうございます。
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それに、山岡さんのこの論文でもこうあります。
2004 年の血液型TV番組の視聴頻度は、「まったく見なかった」17.5%(239 名)、「少し見た」56.2%(765 名)、「たくさん見た」20.7%(282 名)、「とてもたくさん見た」5.6%(76 名)だった。TV番組を見た1123 名の享受度は、「全く楽しめなかった」3.8%(43 名)、「楽しめなかった」17.1%(192 名)、「楽しんだ」63.8%(717 名)、「とても楽しんだ」15.2%(171名)だった。TV番組の影響を検討するために、TV番組を見なかった239名と見たけれど楽しめなかったと答えた235 名の計474 名をTV番組低享受群、TV番組を見て楽しんだ888 名を高享受群とした。
このデータでも、「TV番組低享受群」は35%程度ですから、「血液型ステレオタイプ低受容群」が42パーセント(474人)というのは、いくらなんでも低いと考えていいでしょう。
#この点は、「ダメな大人にならないための心理学」についての中間管理職さんからのメールでも触れています。
つまり、単にサンプルが少ないために差が出なかった(あるいは、28の質問項目が妥当ではなかった)ということしか考えられないのです。
残念なことに、この記事の内容は明らかに矛盾していると考えられます。(*_*)
批判者がよく陥る矛盾なのですが、読めばわかるとおり、それほど難しい内容ではありません。
なぜ気がつかないのでしょうかね?
それと、この記事で紹介されている、富山大の村上宣寛さんと、聖徳大学の山岡重行さんは、別ページでも紹介してあります。
興味がある方はどうぞ!
『「心理テスト」はウソでした。』は本当ですか?…富山大学の村上宣寛さんの著書への疑問点
中間管理職さんからのメール…「ダメな大人にならないための心理学」についての反論
ところで、批判記事といえば、大村政男さん、佐藤達哉さん…という名前が思い浮かぶのですが、なぜか今回の記事にはありませんね。
私としてはちょっと寂しいです。(笑)
参考までに、11月16日付でダイヤモンド社に出したメールを掲載しておきます。返事が来るといいのですが…。
【参考】ダイヤモンド社に出したメール 週刊ダイヤモンド 11月8日号 使える心理学について 血液型と性格に関するサイトを開設しているABOFANと申します。 |
その後、山岡重行さん[注:敬称は「さん」で統一しています]のご好意で、2009年の日本パーソナリティ心理学会第18回大会で発表した論文のコピーをいただきました。
日本パーソナリティ心理学会第18回大会自主企画A [2009年11月28日]
血液型性格判断の差別性と虚構性
話題提供者 山岡重行(聖徳大学)
指定討論者 大村政男(日本大学)、浮谷秀一(東京富士大学)
司 会 渡邊芳之(帯広畜産大学)
どうもありがとうございます。
データ分析が大好きな私としては、データ満載のこの論文は読んでいて飽きません。
いろいろと面白い発見がありました。
これについては、そのうち書くことになると思います。[H22.2.14変更]
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最近、とある心理学者から、「血液型と性格に関係がある」と思っている人の割合を聞かれました。
これは、だいたいどの調査でも7割程度で、少なくともここ20年ぐらいは変わっていません。
もっとも、細かいことを言うと、女性の方が男性よりも割合が高いようですが、性別に調査したデータが少ないので…。
【再掲】血液型と性格に関係があると思っている日本人の割合
なお、1.2のデータは、草野直樹さんの『「血液型性格判断」の虚実』から引用させていただきました。どうもありがとうございます。
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ところで、なぜ7割なのか不思議に思っていたのですが、やっとうまい説明を考えついたので書いておきます。
オホン。←咳払いの音です。
ところで、この7割の「血液型と性格に関係がある」と思っている人は、血液型別の性格が自分にあてはまると思っていることは間違いないでしょう(調査結果もあります)。
【参考】「血液型本」に関する調査 2008年12月25日発表
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逆に、「関係がない」と思っている人は、自分に当てはまらないからだ、ということになります。
では、なぜ自分に当てはまらないと思っているのか?
ここで、血液型のパイオニア、能見正比古さんに登場してもらいましょう。
人間は、自分のことが一番見えないことが多い。たとえば「あなたは神経質か?」とたずねる。すると、万人が見てブタをもしのぐ無神経な男が、平然として「ぼく、神経質」と答えたりするのである。(『新・血液型人間学』57ページ)
まぁ、これは極端な例ですが、皆さんも経験していることですよね。
つまり、もともと血液型別の性格が100パーセント当てはまる、なんてことは初めからあり得ないのです。
ちなみに、質問紙法による(心理学の)性格検査では、相関係数は0.8程度だそうです。
それと、血液型の影響は、それほど大きいというわけではありません(正確に言うと「効果量=effect size」では中程度)。
それなら、3割ぐらいの人は気がつかなくとも特に不思議ではないでしょう。
なにしろ、県民性があると思っている人はせいぜい半分ぐらいなのですから…。
【参考】県民性のデータ(太字は私)
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なるほどねぇ。
これで、また一つ血液型の謎が解けた…気がします。
念のため、男性と女性の差も調べてみたのですが、かなり差が出ているようです。
ただし、福島県民限定のため、全国のデータと直接比較はできません。 [以下の男性と女性の差はH24.8.28変更]
もっとも、最近は脳科学の研究が進み、「性差」を認める人が増えているようです。
まぁ、そういうことで、血液型よりは差は大きいと言ってよさそうですが…。
【参考】男性と女性の差
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なぜなら、「低受容群」は、もともと自分の性格をキチンと分かっていないのだから、(自分の)性格のアンケート調査をしても、正しい結果にならない(=差が出ない)かもしれないからです。
結局、「低受容群」では血液型によって性格に差がなかった、とは必ずしも言えないのではないでしょうか?
繰り返しになりますが、
人間は、自分のことが一番見えないことが多い。たとえば「あなたは神経質か?」とたずねる。すると、万人が見てブタをもしのぐ無神経な男が、平然として「ぼく、神経質」と答えたりするのである。(能見正古比さん 『新・血液型人間学』57ページ)
ということにもなりかねません。
まぁ、これは極端な例ですが…。
本当はどうなのかな?
ただ、こう考えると、今までのデータをうまく説明することができます。
本気で調べる気なら、この「低受容群」が自分の性格に敏感なのかどうか、性格検査なり県民性なりの調査をしてみればわかるはずです。
いずれにしても、山岡さんの持論である、元々は血液型によって差がなかったものが、「知識の汚染」によって差が生じるようになった、とは断定できないことだけは確かでしょう…。
確実に言えるのは、ある程度大きなサンプルで、キチンと質問項目さえ選べば、全体では必ず「血液型ステレオタイプ」どおりの有意差が認められるということだけです。
なるほどね〜。 -- H22.9.25