北朝鮮ミサイル試射の対応                                                                                岡森利幸   2006.7.11

R2-2006.8.30

2006年7月5日、北朝鮮はロシア沿海州の沖合にミサイル7発を打ち込んだ。北朝鮮は翌日、それらは軍事演習の一環だと表明した。

アメリカや日本は数週間前から北朝鮮のミサイル発射準備の動きをつかんでいた割には、日本の政府・メディアの『あわてた対応』は浮き足立ったものといえそうだ。日本は国連でも制裁決議せよと騒ぎ立てている。メディアは連日の報道で、かまびすしく危機感を煽っている。

アメリカ側は、3発目のミサイルはテポドン2号で、打ち上げに失敗したと分析している。もし、それが成功していたなら、どこまで飛んだのかが興味深い。

 

額賀防衛庁長官は、ミサイル基地への攻撃について、「憲法の範囲内で国民を守るために限定的な能力を持つのは当然だ」と、先制攻撃を肯定する発言までしている。――これは驚きだ。武力行使が、しかも先制攻撃が憲法の範囲内で可能だという感覚はどこから来ているのだろうか。これは国内外の反発を招くだろう。*1

ロシアのプーチン大統領は、「(北朝鮮に)失望した。他国の権利を侵害して自国の権利を行使することはできない」と北朝鮮を批判するとともに、「感情に走って理性を失ってはならない」と各国に対して訴えた。(毎日新聞夕刊7月7日)――これがまともな感覚だろう。

韓国の大統領府(韓国青瓦台)は、「日本のように未明から大騒ぎする必要はない」と韓国大統領府が声明を出した。「朝鮮半島の緊張を高めても核問題やミサイル問題の解決に役立たない。事件を軍備強化の大義名分に利用することもない」、「(韓国の過去の軍事政権が)北朝鮮の脅威を使って国民を脅し、野党と市民を弾圧した」(毎日新聞夕刊7月10日)――韓国は落ち着いている。『未明から大騒ぎする日本』をからかう余裕すらある。

 

韓国は、北朝鮮のミサイル発射を「単なる脅し」と見ているようだ。北朝鮮が得意とする挑発行為のひとつだろう。その挑発に乗っては、北朝鮮の思う壺にはまることになる。今の日本政府は、韓国の過去の軍事政権と似た傾向がある。

北朝鮮としては、諸外国の関心を引くためにミサイルを見せ付ける必要があった。ミサイルは北朝鮮にとって外貨獲得の有力な一手段となっていたから商品の売り込みのためのデモとして、さらに、周辺諸国を脅し、自己を顕示して、外交上優位に立ちたいという思いがあったはずだ。今後ミサイルを発射しないことを交換条件にすれば、日本から食料やエネルギーの援助をいくらでも引き出せることを目論んだことだろう。特に、日本との国交正常化交渉がピョンヤン宣言から少しも進まないいらだちもあっただろう。日本を脅せば、拉致問題でごちゃごちゃ言うのを止めるだろうという期待もあったかもしれない。結果的に『ミサイルの試射』ぐらいで日本が大騒ぎするようでは、原爆ならば、北朝鮮にとってもっと大きな切り札として使えそうだと思うことだろう。

ミサイルの軍事演習など、日本にとって痛くもかゆくもないという姿勢を見せることが、一つの有効な戦術だろう。そんな脅しは無意味だと北朝鮮に気付かせるためだ。たとえ、ミサイルの弾頭が日本の領土に落ちたとしても、単なる空からの落下物としてすますぐらいの度量をもちたい。核以外の弾頭なら、高が知れている。他に空から落ちてくるものとして、隕石や飛行機や火山の噴火物がある。そちらの方の被害が大きいだろう。心配していたらきりがない。

北の脅威におびえていたら、外交上高くつくものだ。さらに、国内では軍拡に走り始め、イージス艦を航行させ、電子機器を満載した偵察機を飛ばし、スパイ衛星(情報収集衛星)を打ち上げ、シミュレーションゲームの域を出ないような、実際にはまるで役に立ちそうもないミサイル防衛システムまで買い込むことになるだろう。まるで空母そっくりだと批判されているヘリコプター搭載護衛艦も配備しようとする。それらは日本の財政状況では、とてつもなく高価なものだ。それらは、前回1998年8月31日のテポドン1号の飛来をきっかけとして、もうすでに計画が遂行段階に入っているものもあるけれど……。脅威があれば、どんどん軍拡を進めようとするのは、どこの国も同じだろう。『危機管理』というには程遠い、パニック的な行動に走りがちだ。その「脅威」の正体を見抜けなければ、際限なく莫大な借金をしてまでも、兵器の類を買い込むことになるだろう。防衛予算を増大させるのに、よい口実になる。その予算の多くはアメリカへ流れる。

以下の記事は、毎日新聞夕刊2004年12月3日のものだ。対地長距離ミサイルを開発しようとした研究は、専守防衛の日本の原則に反するとして与党からもクレームがつき、数日後結局、予算上計画から外された。けれど、おそらく、防衛庁は研究をあきらめたわけではないだろう。これをきっかけにして計画に再度盛り込もうとするに違いない。それでは他国のミサイル開発を非難することはできない。(参照、これに関して当時私が書いた寸評『長距離ミサイルの開発』)

そんな対抗策を考えるよりも、日本国民の安全のためを考えるなら、ミサイルを撃ち込まれるような要因を作らないことだ。制裁措置は敵対行為とみなされるから、一つの要因となりうる。制裁措置は地域の緊張を高める危険なかけになるだろう。

 

*1.韓国青互台は7月11日、日本の閣僚などが自衛のための敵基地攻撃を論じていることを「挑発的な妄言」と非難し、「朝鮮半島の危機をさらに増幅させ、軍事大国化の大義名分にしようという日本の政治指導者たちの傲慢と暴言には強力に対応していく」と宣言した。(毎日新聞夕刊7月11日)――さっそく、韓国から強い非難が来た。

 

 

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