支援戦闘機の損耗                                                                               岡森利幸   2006.7.16

R2-2006.8.11

わがパソコンのデスクトップ画面には、F‐2支援戦闘機の写真映像が表示されている。あざやかな紺と水色のペイントで海の波のイメージ(海洋迷彩)に塗装された機体は、惚れ惚れするようなスマートさをもっている。2001年3月から配備された日本の航空自衛隊の最新鋭戦闘機だ。従来の無骨なF−1支援戦闘機に取って代わって日本の空を守る一翼となりつつある。でも、たった一つ私が気になっているのは、エンジンが一つしかないことだ。エンジンのような重要な部品は、信頼性のために二重化されていなければならないと思うのだ。

F‐2支援戦闘機については、その開発の過程で紆余曲折があり、ようやく誕生したものであることを書き留めておきたい。いや、それを書くと文章が長くなりすぎるし、他の資料に詳しいだろうから、概要のみにとどめよう。

防衛庁は国産のF−1支援戦闘機(三菱重工業製)の後継機として、国内航空機技術を育成するためにも、ばく大な予算を組んで当初国内での開発を予定していた。戦闘機を国内開発することは、安全保障上、国策として意味があったのだろう。エンジンをアメリカ製にして機体だけでも国産を目指したが、発注段階で、巨大軍需産業をバックにしたアメリカ政府の政治的圧力がかかった。圧力に屈した形で結局、機体に関しても既存のアメリカ戦闘機の改造で作ることになった。そこで選ばれたのがF−16戦闘機だったが、防衛庁の求める支援戦闘機に仕立てるためには、その一部の改造ではすまなかった。試作段階で主翼などは強度不足が破壊試験で判明し、再設計したほどだ。日米共同開発とは名ばかりで、その開発費用の大半は、アメリカ企業にもっていかれた。技術的なノウハウに関して主要な部分は何も日本側に開示されることなく……。

ところで、支援戦闘機という言い方は日本だけのもので、外国では通用しない。一般的に戦闘爆撃機と区分される。ただし、最近の戦闘機は多目的に設計され、多用途(マルチロール)に運用されるので、区分する必要性は薄くなっている。多種のミッションに対応して、搭載する武器(ミサイルや爆弾)の種類や数を変えることで、事足りるようになっている。武器だけでなく、燃料の増設や夜間運用のための専用レーダーなど偵察・観測機器を機体の内外に搭載することもできる。しかしながら、戦闘機には、運用目的別に迎撃(要撃)や攻撃などに専門化され、航空母艦上で運用するもの、遠距離の航続距離を必要とするものなど、機体に備えておかなければいけない特殊機能や求められる性能は個別に存在する。空中給油装置などは、異なるモデルとなる。

日本の支援戦闘機の場合、一番の任務が、侵入してきた敵の艦船や自国領に上陸して来た地上部隊を空から攻撃することだ。上陸地点に一番近い航空基地が破壊されて、戦闘機が飛び立てなくなったことを想定し、遠距離にある別の基地から飛び立って、敵のレーダーに映りにくい低空(主に海上)を飛行して敵を攻撃することが求められている。防衛庁が定めた基本仕様は、以下が主なところである。

・空対艦ミサイル4発装備した状態で戦闘行動半径450海里(約830km)を有すること――対艦攻撃ミッション(空対艦ミサイル4発装備という例は世界的にも珍しい。オペレーションズリサーチ法で計算した最適値らしいが、計算は正しくても前提条件が怪しい)

・短距離空対空ミサイルと中距離空対空ミサイルをそれぞれ2〜4発装備できること

・全天候運用能力を有すること

・高度な電子戦能力を有すること

 

国産で開発するための理由付けのような要求仕様だったが、アメリカは、それなら既存の戦闘機の改造ですむということを強く主張した。日本側が折れたのは言うまでもない。候補に上がった機種の中で、それらの要件を満たすためにはF−16戦闘機ファイテングファルコンよりも、攻撃力の優れたF/A−18戦闘爆撃機ホーネットの方が適任のはずだったが、あえて大幅な改造が必要な前者が選ばれてしまう。戦闘機同士の空戦能力に関しては、俊敏で運動性能のよいF−16戦闘機の方に軍配が上る。F/A−18は艦載機としての機能を備え、エンジンを二つもつことで、F−16ほどの軽快さはない。それがF−16が選ばれた大きな理由だが、高度な空戦(格闘戦)能力を支援戦闘機に求めるのは本来、無理があるし、目的に適した総合力を比較することでの判断が必要だったはずだ。F/A−18には、機内に新機能を搭載することの拡張性があった(その後、スーパーホーネットに進化している)し、剛性の高い機体や、比較的短い滑走路で離着陸できるなどの利点を持っていた。

実際に、1985年に三菱重工業と川崎重工業が防衛庁技術研究本部に戦闘機開発(FSX)に関する研究報告を提出したのは、ともに双垂直尾翼・エンジンは推力8トン級の双発機だった。スペックとしては、現在のF/A‐18E/Fスーパーホーネットに近いが、三菱案はカナードを装備し、川崎案はF/A‐18に似たシルエットを持っていた。

それがF−16になったのだから、選定にかかわった防衛庁幹部の個人的な好みと相当な政治的圧力があったと想像される。さらに勘ぐれば、F/A‐18をベースにした改造では開発予算を消化できなかったことも一因になるのだろう。

F−16をベースとしての改造項目の主な点は以下である。

・機体の延長(内蔵燃料タンクを拡大し、長距離の飛行を可能にする)

・主翼の大型化(炭素系複合材による一体構造。搭載ミサイルの増強のため)

・大出力・軽量化エンジンの採用(といっても、米国では開発済みのもの)

最先端電子機器の搭載(アクティブ・フェイズド・アレイ方式のレーダーなど)

・コンピュータ飛行制御の改良

・三分割キャノピー(操縦席の風防の強化。海面上空を飛ぶために鳥との衝突に備える)

・ステルス性の向上

 

部分的に軽量化が図られたとはいえ、F−16より一回り大きく重くなった。機能強化のためにF−16本来の軽快さがやや損なわれたとしても、仕方がないところだろう。それに、重量削減のために主翼に新技術を採用したところ、飛行中に振動が発生したことや強度試験で亀裂が生じたこと(主翼の強度不足)で、その対策のために当初の計画より完成が4年も遅れた。完成されたF−16の機体を「変にいじったこと」の弊害だろう。なお、F−2の開発で改良した部分のいくつかは、F−16の強化モデルにも応用できそうだ。かけられた開発費は当初予算の2倍の3274億円にふくれ上がったとされるが、日本の国内産業の育成にはほとんど役立たなかったようだ。防衛庁自慢の国産AAM−4(アクティブ電波ホーミングミサイル)がサポートされていないなど、まだ積み残しがある。そのためにはさらなる相当額の費用と時間がかかる。

その上、一機の購入値段は約120億円もする。開発コストは別であるはずなのに、理解に苦しむ値段が付けられている。それは航空自衛隊の主力戦闘機F−15Jイ−グルよりも高い値段だ。開発予算がさらに不足したため、そのコストの一部が購入価格に転嫁されたとみなすべきだろう。本来のF−16は、F−15の半分の値段として知られているのに……。特注品扱いで開発されたF−2はコストパーフォーマンスの最も悪い機体だろう。

F−2は、F−4EJ戦闘機ファントムの後継としても考えられていたはずだが、F−16をベースにしての改造だけでは、F−4の代わりにはなり得なかったようだ。F−4の後継機としては別の機種が検討されているという。そんなためか、F−2は当初141機を発注する計画だったが、130機に減らされ、さらに98機で調達の中止が決定された。開発費を98で割り、それぞれの購入費に足すと、いくらになるか計算してみてほしい。これでは国費の大きな損耗だろう。

エンジンが一つであることのデメリットは、エンジンの故障で、墜落してしまうことだ。機体が失われるだけでなく、地上の被害も考えられる。地上に落ちた場合、大惨事になる可能性があるから、訓練などは洋上で行われるのだろう。おそらく乗員は、緊急脱出装置により生きて帰れる可能性が高い。最近のエンジンの信頼性は高く、故障しにくいかもしれないが、戦闘によって被弾した場合、一つのエンジンストップがそのまま墜落ということになる。いくつかの実戦で、F‐16戦闘機が地対空ミサイルで撃ち落されたケースが散見される。湾岸戦争やボスニア紛争でも、撃墜されたF‐16が大きく報道されていた。ただし、墜落しても多くのケースでは、パイロットは緊急脱出装置により機外に出てパラシュートで降りて生還し、不名誉な英雄となっている。

エンジン単発の戦闘機の脆弱性はよく知られていたはずだ。特に高性能のジェットエンジンは壊れやすい一面をもっている。部品耐久性の限界ぎりぎりまで高出力が求められるからだ。そんな故障で墜落してしまっては、損耗する率が高くなるばかりだ。戦闘機を消耗品だと割り切るには、高価すぎるものだし、損耗は戦力の低下につながる。アメリカならば、割り切って考えているのかもしれないが……。F‐16の後継機と目されるF−35(JSFともいう)も単発だから、単発エンジンのメリット(低コスト・小型軽量のほかに、整備性のよさも挙げられている)を捨て切れず、デメリットに目をつぶっているのだろう。民間の旅客機では、エンジン単発機というのは問題外だ。

独自開発のフランスを除くヨーロッパの主要国が共同開発したユーロファイター・タイフーンもよくできた戦闘機に仕上がっている。双発のエンジンを備え、数値的にはF−2に勝る。日本の防衛庁は、そんなコストパーフォーマンスのよい戦闘機を、意地でも購入しないだろう。アメリカの顔色を見なくてはいけないらしい。

防衛庁技術本部で研究中の次世代戦闘機も高い買い物になりそうだ。なぜなら、そこで研究されている航空機の実物大模型は、世界一高価な戦闘機F−22ラプターにそっくりだから。エンジンは双発だけど……。

 

1960年代から70年代にかけて航空自衛隊の主力戦闘機はF‐104スターファイターだった。約200機を運用したが、この損耗率(政治的には減耗率という)が高かった。一説には、世界で900機に関して250機が墜落し、損耗率25%以上になったという。ただし、世界で生産された合計は2500機以上。イタリアでは、その強化モデルがつい最近の2005年までユーロファイター・タイフーンに置き換えられるまで使われていたという。F‐104には、性能を追求するあまり、機体の強度や操縦性にも問題があったけれど、エンジン単発が損耗の主要因になっていた。

当時のF‐104の損耗に関して参考のために、以下に、第048回国会の予算委員会で行われた質疑に対する政府側の答弁を引用する。180機の運用に対して損耗を30機としたから、予算上の損耗率は16.7%になる。一機当りの値段に関しても興味深い内容だ。

(第二分科会 第1号 昭和四十年三月二十六日)

〔国務大臣〕 F104ジェット戦闘機の三十機追加生産をいま御審議を願っておるわけでございまするが、当初、昨年来五十機の追加生産が必要であるということでございましたけれども、今回三十機の追加生産に落ちついた経緯について申し上げますると、

〔主査退席、副主査着席〕昨年までは、五十機追加生産をすることによって、第二次防衛力整備計画にございまする七飛行隊の維持ができるということでございましたが、その後F104の成績を見ますると、幸いにして減耗率が当初わがほうで考えたものよりも相当成績がよく、いわゆる事故等が非常に当初の計算で出たものよりも少なくなりまして、十分ではないにいたしましても、必ずしも五十機なくても、最低三十機程度の追加生産をすることによって七飛行隊の維持が可能である、減耗を補充することができる。もちろん今後におきましても、訓練その他に十分なくふうを要し、事故の減少等につきましても最善の努力を払っていけば、三十機程度で可能であるというような見解に立ちまして、大蔵省との折衝の結果、財政上の見地からも五十機というわけにはいかない、三十機の程度ならばということで、三十機生産に落ちついたような次第でございまして、私どもはこの三十機の追加生産をもって七飛行隊の減耗維持、これをりっぱになし遂げていきたい、かように考えておるわけであります。
 そこで、契約の相手方が、主契約の相手方が三菱重工業株式会社でございまして、従契約者は川崎航空機株式会社ということになっております。

 それから、次のお尋ねの単価の問題でございまするが、いわゆる第一次の104のジェット戦闘機百八十機の平均単価は約四億九百万円となっておりまして、今回追加生産をお願いをいたしておりまするこの三十機の平均単価は約五億八百万円ということになっておるわけでございます。

 

参考・引用資料

Wikipedia

JWings 200411月号

・航空ファン20068月号

 

 

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