勘違い傑作選
空耳(そらみみ)草紙

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以前、オフラインの交流サ−クルの会誌に掲載したものの中から
特に選りすぐった勘違いネタです。
(再録なので、子供の年齢、私の近況などは当時のものです)

目次
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★空耳草紙1(このページです)
空耳草紙2
空耳草紙3
空耳草紙4
空耳草紙5
空耳草紙6


 耳が悪いのか、頭が悪いのか、はたまた注意力散漫でいつもボ−ッとしているからか、そのうえトンチンカンな性格で思考回路が少々世間様とズレているせいか、私は、よく聞き間違いをします。

 しかも、普通なら、何か意味不明の言葉を聞いたと思ったら、それはきっと聞き間違いだろうと思って、話の脈絡からもとの語を推定するのでしょうが、私は頭の回転がトロい上に粗忽者なので、「……!?」と思ったとたん、それを口に出してしまいます。

 物忘れがいい私は、自分がしたすっとんきょうな聞き違いも、しばらくするとほとんど忘れてしまうのですが、たまたま覚えているのでは、たとえば『ロマノフ家』→『山梨県』、『いちご食べる?』→『銭形平次?』などがあります。

 あと、私は、昔、図書館司書をしていたのですが、少し言葉になまりがある年配の利用者の方に「『モンテクリスト伯』はどこですか?」ときかれて、「は? 『持って来る一箱』ですか?」と言ってしまったことがあります。一生の不覚です。

 先日、実家に行った時、夫が母に、「今日はひどい筋肉痛になってしまって、明日は動けなくなって寝込んでしまうかもしれない」という話をしているのを、台所で梨をむきながら背中で聞いていると、母が突然『妖怪ご老人』という謎の言葉を発するではありませんか。

 もちろん私は、すぐ「『妖怪ご老人』って、なに??」と聞きましたが、実は母は、「まるで、要介護老人だね」と言って夫をからかっていたのでした。私は、ふたりに背中を向けていたので、話がよく聞こえていなかったのです。

 それにしても、妖怪『ご老人』って、どんな妖怪でしょう……。

……というわけで、聞き間違いの話をしたついでに、私や家族、友人の、いろいろな間違い、勘違いの話をてんこ盛りしてみようと思います。

 

 中学生のころ、友人が、国語の時間に本読みを当てられて、『新潟大人文学部(にいがただい・じんぶんがくぶ)』を『新潟オトナ文学部』と読んでしまいました(ちなみに、今、その言葉をワープロで一気に変換したら、『新潟大臣文学部』と出ました)。

 知人は、CMコピ−『食う寝る遊ぶ』を、なぜか『福耳のサル』と聞き間違えました。

 夫は、つい最近まで、音楽用語の『ア・カペラ』のことを、赤いペラペラのレコ−ド、すなわち『ソノシ−ト』のことだと思っていました。

 私は、『しかつめらしい』という言葉を、ずっと『しかめつらしい』だと信じていました。でも、『しかつめらしい顔』って、要するに『しかめっ面』ですよね。

 私の出身大学は、茨城にありました。ある日、アパ−トを借りようとして、目をつけたアパ−トの大家さんの家に交渉に行くと、茨城弁のおばあさんが出てきて、アパ−トの住所は『○○町二丁目のハヂのイツ』だと言うのです。
 私はそれを頭の中で『二丁目の端の位置』と翻訳し、その後、契約書に『○○町2−8−1』と書いてあるのを目にするまで、しばらく、(『二丁目の端っこ』だなんて、いくら田舎だからって、そんないいかげんな住所があっていいものだろうか)と、本気で怪訝に思っていました。

 うちの息子は、小さいころ、私に仕込まれて『ムンクの叫び』という芸(両手でほっぺたを挟んで口を丸く開ける変な顔−−早い話が『あっちょんぶりけ』)をやっていました。
 ある日、公園にかわいい子犬がいたので、飼い主に犬の名を聞くと、『ムク』でした。
 「健太郎、わんちゃんの名前、ムクだって、ムク」と言って、返事がないので息子を見ると、彼は、無言で『ムンクの叫び』をやっていました。

(1996年11月発行 サークル会誌『ティ−タイムNo.8』より抜粋)



 夫と一緒に、テレビのグルメ番組を見ていた時のこと。
 画面には、『チャンコ鍋(おじや、デザ−ト付き)』というテロップが出ていました。それを見た夫の言葉。
「ああ、びっくりした。『おやじ、デザ−ト付き』って何かと思った」

 近所の道を車で走っていると、沿道に、白地に黒で大骨壺祭』と大書きされたノボリがずらりと立っていました。
「へえ−、最近はお葬式に対する意識が変わったというけれど、とうとう、こんなふうに華々しく骨壺の展示会が開かれるようになったのか。でも、さすがに普通の大売り出しみたいな紅白のノボリじゃなくて、やっぱり白黒なんだなあ」と、感心して眺めていたら、実は、『骨壺』ではなく、大骨董(こっとう)祭』でした。

 学生時代の友人で、『烏賊』(イカ)という字を『からすてんぐ』と読んだ人がいます。『カラスで、海賊とか山賊のように暴れそうだから』という発想だそうですが、なかなかのセンスだと思います。

 小雨の朝の、夫と私との会話です。
夫:「今日、ずっと雨?」
私:「えっ? インスタントラ−メン?」
夫:「違うよ、『じいさんと雨』なんて誰も言ってないよ!」

 4歳の息子のお気にいりの幼児向け教育ビデオには、英会話のコ−ナ−があります。わいいワンちゃんが、バナナやオレンジを指し示し、「一緒に言ってね! バナーナァ、オゥレンジ、メロンヌ」などと言うのです。
 それを見るたびに、私は、
(どうしてバナナだのメロンだの普段からカタカナ名前で呼んでいるものだけを取り上げるんだろう。幼児にわかりやすいようにという配慮だとは思うけど、かえって何か誤解を招くんじゃないだろうか)と思っていましたが、その心配は当たっていたことがわかりました。
 ある時息子がひとりでブツブツその番組のまねをしていたので、聞いていると、息子はこう言っていたのです。
「一緒に言ってね! バナーナァ、オゥレンジ−、カボゥチャ−……」

 やっぱり息子は、あの英会話コ−ナ−のことを、「食べ物の名前にヘンなアクセントをつける遊び」だと思っていたのでした。

 息子ネタをもう一つ。
 言葉が遅かった彼も、最近やっと、文字に興味を示し始めました。
 ある日、夫が、某出版社のパ−ティ−の引き出物で、それぞれ『大吉』『小吉』という文字の入った二枚の座布団を貰ってきました。
 小型サイズで子供用にちょうどよかったので、『大吉』座布団を彼に、下の子には『小吉』座布団をやったところ、彼は大喜びで、『大』という文字を自分のマ−ク、『小』を弟のマ−クと理解したらしいのです。

 それ以来彼は、自分の持ち物すべてに『大吉』と書くことを求め、本やテレビや街なかの看板に『大』という文字をみつけると「あっ、けんたろうだ!」、『小』をみつけると「あっ、こうちゃんだ!」と大騒ぎします。

 また、ある時、『大』の字をじっと眺めていた健太郎、突然、
「でも、これ、チンチンないよ」と言うのです。
「じゃあ、こっちは?」と『小』の字を見せると、「足が一本しかない」。
 『太』の字を書いて「これは?」と見せると「チンチンある!」と喜び、それ以来『太』の字を見るたびに
「あっ、チンチンついてるけんたろうだ!」、
『市』や『木』を見れば
「あっ、けんたろうだ! おしっこついてる!」、
『犬』など見つけようものなら、
「けんたろうに、うんちついてる!」と叫びます。
 外でこれを言われると、ちょっと恥ずかしいです。

 昔、私が図書館に勤めていた時のことです。年配の上司とふたりでカウンタ−当番をしていた時に電話が鳴り、上司が電話を取りました。本を捜してほしいという問い合わせの電話だったようです。
 コンピュ−タが使えない上司は、大声で私に検索を頼みました。

「よお、**さん、『まかりみっせい』っちゃあ、何だい?」
「は? 『まかりみっせい』ですか? それって、何か固有名詞ですか?」
「俺ァ知らねえよ。向こうがとにかくそう言ってんだよ。『まかりみっせい』についての本があるかって。ちょいと検索してくんな」
「検索と言っても……。それ、日本語ですか? 『まかりみっせい』で一語なんですか、それとも、『まかり』と『みっせい』とか、『まか』『りみっせい』とかなんですか?」
「なんだか知らねえっけんが(=知らないけど)、とにかく検索してみてくんな!」

 ……しかたがないので、書名に『まかりみっせい』という単語が含まれる本を検索してみましたが、もちろんそんなものありません。真面目な私は、念の為、『まかり』と『みっせい』などの組み合わせで複合検索もしましたが、なおさらあるわけがありません。
 首をひねりながら、それでもあれこれ検索していると、電話の相手としばらく何やらやりとりをしていた上司が、電話口を手で押さえて決まり悪そうに言いました。

「**さん、悪りィった(=悪かった)。『まかりみっせい』じゃなくて『幕張メッセ』だってよ……」

 夫が中学生の頃のことです。おばさんの家に遊びに行って、お昼の時間になりました。で、おばさんが昼食をごちそうしてくれることになり、
「近所にフランス料理の店ができたから、そこから出前を取ってやる」と言ったそうです。
 やがて届いた見慣れない料理は、とてもおいしかったのですが、どう見ても米のご飯に何かを乗っけたドンブリもので、夫はそれを、
「フランス料理に、こんな丼ものなんてあるんだろうか」と不思議に思いながらも、変わった種類のフランス料理だと信じて食べました。

 後に、大学生になった夫が、友人と一緒に焼き肉屋に行ったとき、その、謎の料理の正体がわかりました。
 それは、韓国料理の『ビビンバ』だったのでした。
 そういえばたしかにおばさんはその料理の名をビビンバだと教えてくれたのですが、夫はそれを、中学生のその日以来、大学生になるまで、何年もの間、『ビビンバという名前のフランス料理』だと信じ続けていたのです。
 今にして思えば、当時のフランス料理店で『出前』ということ自体、ちょっと変ですよね。どうやら夫は、おばさんに、まんまとかつがれていたらしいです。

 夫の実家は、昔、民宿をやっていました。
 ある日、一人で留守番していたおばあちゃんが電話を受け、『出水(でみず)さん』という人から宿泊予約があったと言ったそうです。ところが、やってきたのは『デニ−ズ』の研修旅行のご一行様だったのでした。ちなみに、夫に実家の近所には、『出水(イデミズ)』という地名があるのだそうです。

 4歳下の妹が、たしか小学校5、6年生の頃のことだったと思います。私のところへやって来て、こう尋ねました。
「ねえ、『性格はウサギにツノ』って、どういう意味?」
 今読んでいた本に、そう書いてあったと言うのです。
 それは何かの譬えでしょうか。ウサギにツノを生やしたような性格って、どんな性格でしょう。本来はおとなしいのに攻撃的に振る舞う人のことでしょうか……。
 そんな想像が一瞬にして私の頭に中に広がりましたが、前後の文脈がわからないことには何とも言えないと、妹に件の本を持ってこさせると、そこには、
『性格は兎に角(とにかく)……』と書いてあったのでした。
 子供向きの本でそんな古風な書き方するなよな、と思いました。

 松本零士のマンガで、『トラジマのミ−め』という感動の名作があります。ある日、夫がそのタイトルをど忘れして、こう言いました。
「ねえ、『タテジマのミ−め』だったっけ、それとも『ヨコジマ』だったっけ」

 夫が知人と数人で喫茶店に入った時のことです。清算しようとして伝票を見ると、『コスプレ』と書いてあるではありませんか。(なんだこれはっ!?)と思った夫は、思わず
「えっ、コスプレ!? 誰の注文?」と口走ってしまいましたが、よく見ると、それは、『エスプレ(=『エスプレッソ』の略)』だったのでした。

 でも、コスプレが注文できる喫茶店って、あったら楽しいですよね。思わず想像してしまいました。
「エスプレッソ、綾波のコスプレで」とか言うと、ウェイトレスさんが綾波のかっこしてコ−ヒ−を持ってきてくれて、同じ綾波でも、制服バ−ジョンとプラグス−ツでは値段が違ったり。人気キャラとか、衣装にお金や手間がかかるものとか、露出度の高いものは値段が高くて……などと、どんどんバカバカしい夢を膨らませてしまった私でした。


(1997年4月発行『ティ−タイム No13』より抜粋)

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