〜司書子さんとタンテイさん〜





第一話 お祖母ちゃんの髪飾り事件

(6)


 反田さんと一緒に家の前までやってきた光也君は、わたしに向かって深々と頭を下げて言いました。
「お姉さん、ごめんなさい」
 反田さんが、「そう、それでいい」とうなずいたところを見ると、どうやら、反田さんの指導のようです。
 でも、別にわたしに謝ってもらう必要はないのですが……。
 そう言うと、光也君は、唇をきゅっと結んで首を横に振りました。

 光也君の案内で琴里ちゃんの家に向かう道すがら、反田さんが話してくれました。
「光也はね、自分で、琴里ちゃんに正直に話して謝るって決めたんですよ。どうしてもそうする勇気がなければ、髪飾りだけ、司書子さんが図書館で見つけたことにして司書子さんから返してもらう手もあるぞって逃げ道を示してやったんですけどね。光也は、それを良しとしなかったんです。ちゃんと自分で謝って返すって。な、光也」
 顔を上げた光也君は、決然たる表情で、黙ってうなずきました。
「光也、漢の顔になってるじゃないか」と、反田さんは光也君の肩を叩きました。
「しっかり決めろよ」
「うん」
 男同士の熱い友情の世界が展開されていて入り込めない感じですが、光也君の覚悟、立派です。眼鏡の向こうのつぶらな瞳に、決然とした色が浮かんでいます。

 古い住宅街をしばらく歩いて、角を曲がると、その先に大きなトラックが止まっていて、ちょうど動き出したところでした。狭い道が入り組んだこの辺の住宅街に、あんなに大きなトラックが入ってくるのは珍しいです。案の定、次の角を一度で曲がれず、切り返したりして、苦労している様子です。道幅ぎりぎりで危なっかしく角を曲がって行くトラックの後ろ姿をなんとなく見送りながら行くと、ちょうどトラックがどいた辺りに、垣根に赤い薔薇が咲くお家があって、そこが琴里ちゃんのお家だとのことでした。
 ……が、光也君が意を決した様子で門柱の呼び鈴を押しても、誰も出て来ません。
「反田さん、どうしよう。いないのかな?」
「もう一度押してみろ」
「うん」
 などと話しながら再び呼び鈴を押していると、隣の庭で芝生の手入れをしていたおばさんが顔を上げ、
「高村さんなら、今日でお引越しよ。今さっき、荷物のトラックが、あっちに走っていったけど?」と指さして教えてくれました。
 そういえば、さっきのトラックには、よく見かける引越し会社のロゴが入っていました!
「あーっ、あのトラック!!」
 反田さんと光也君が同時に叫んで、光也君は、いきなりトラックが去って行ったほうに走り出しました。
 気持ちはわかるけど、いくら今行ったばかりだからといって、走るトラックに追いつけるわけがありません。
 反田さんは光也君の後ろ姿に向かって叫びました。
「光也、そっちじゃない、こっち! こっち! ついてこい!」
 そして、急いでお隣さんにお礼を言うと、
「司書子さんも、こっち! 早く! 走って!」と叫んで、光也君とは反対の方角に走り出しました。
「どうしたんですか、なんでそっち!?」
 反田さん、いったいどうしちゃったんでしょう……。
「近道ですよ! あのトラック、とりあえずは確実に花野通りに出るでしょ? 近道して先回りします!」
 言われて納得しました。この辺の道路は、古くからの住宅地の常で、一方通行や行き止まりや大型車の通行規制だらけで、歩けばどうということはなくても、車では、しかも大きめのトラックならなおさら、大通りに出るために迂回しなければならない箇所が多いのです。そして、あのトラックの行き先がどこであるにせよ、まず最初はとりあえず花野通りに出るしかないはずで、周辺の細い道から花野通りに出られる箇所は、けっこう限られています。歩行者ならひょいと出られる箇所も、車止めがあって車は通れなかったりしますから。ですから、この辺の地理を詳しく知っているらしい反田さんには、この場所から走り去ったトラックがどこから大通りに出ようとするかが予測できて、そこに最短距離から先回りしようとしているのでしょう。それなら、人間のほうが車より早い可能性もあります。さすが反田さん、なんと冷静な、とっさの判断でしょう!
 追いついてきた光也君も、近道と聞いて、ますます必死で走りだし、わたしたちはたちまち追いぬかれました……というか、追いぬかれたのはわたしで、反田さんはわたしを待って足をやや緩めてくれているようです。
「行け、光也、走れ! その先を右、次を左だ!」
 反田さんは光也君に指示しながらわたしを振り返りました。
「司書子さん、足、遅いよ!」
「ご、ごめんなさい……」
 わたし、自慢じゃないけど、足は、ものすごく遅いのです……。子供の頃、運動会の徒競走で万年ビリだったのが辛い思い出なのですが、大人になってからは走るのが遅くて困ることなど別になくて助かる……と思っていたのに、なぜ、今、いい大人が、こんなところをこんなふうに、男子小学生と一緒になって全力疾走するハメに……?
 息を切らせて必死に反田さんを追っていると、反田さんが顔だけ振り向きながら、リレーのバトンを受け取るみたいに後ろ向きに手を伸ばして叫びました。
「手!」
「はっ、はい?」
「手、繋いで!」
 言いながら、反田さんが、がっしとわたしの手を掴みました。勢いでよろけたわたしを引っ張るように走り出します。反田さん、足、速い! わたし、転びそうです!
「急げ、司書子さん、がんばれ!」
「は、はいっ!」
 なんでこうなるのかわからないけど、とにかく頑張って走るしかありません!
「光也、そこ、そこ! そこ、左に入れ!」
 先を行く光也君に声をかけながら、一瞬遅れて、反田さんとわたしも、道というより家と家との隙間としか思えないような細い路地に飛び込み、必死で駆け抜けました。植木鉢に水をやっていたおばあさんが、如雨露を手に、目を丸くして、鼻先をかすめんばかりに駆け抜けるわたしたちを見送っています。おばあさん、失礼します、ごめんなさい……。心の中で侘びながら、子供の頃、学校に遅刻しそうになって、近所の家の庭先を駆け抜けて近道したことを思い出し、なんだか笑いたくなりました。
 それからも、あっちに曲がり、こっちを抜けと、反田さんの力強い手にひっぱられて、引きずられるみたいに走りまわりました。すごい勢いで、もう、足が地面についてるのかもわかりません! 心臓が破れそうです! こんなに走ったのは生まれて初めて!
 若さで先行していた光也君も、道がわからないので、結局、いつのまにかわたしと並んで走っていました。

 やがて、車止めのある細道から、花野通りに出ました。そのまま、車の進行方向とは逆に歩道を走り出します。反田さんが予測しているトラックの合流箇所は、そっちらしいです。片側二車線の花野通りには中央分離帯があり、脇道から出てきた車は、最終的にどちら方面に向かうにせよ、とりあえずは、こちらに向かって走ってくるはずなのです。反田さんは、そこまで地理を読んでいたのですね。
 その時、反田さんが道路を指さし、声を上げました!
「ああッ!」
 顔を上げると、向こうから走ってきた例のトラックが、目の前を走りすぎたところでした。
 反田さんは、靴底が焦げるのではないかという勢いで急停止し、いきなり手を上げて、ちょうどやってきたタクシーを呼び止めました。なるほど! あのトラックを追ってもらうのですね!
「司書子さん、乗って、乗って! 光也も!」
 反田さんに座席に押し込まれながら、とっさに運転手さんに叫んでいました。
「あのトラックを追ってください!」
「は?」
 ぽかんとする運転手さんに、後から乗り込んだ反田さんが補足しました。
「あの、引越し社のトラックです! すみませんが、お願いします! ただし交通ルール遵守の範囲で!」
 反田さん、さすがです! 気がはやっていても、ちゃんと交通ルールにまで気を回すなんて。
 運転手さんは、けげんな顔をしながらも、何度か車線変更をして、危なげのない運転で、徐々にトラックの数台後ろまで迫ってくれました。

 追いつけるかと思ったところで、国道との交差点にさしかかり、トラックは右折して国道に入っていきました。わたしたちのタクシーも後に続こうとしたところで、運悪く、一つ向こうの信号がちょうど青に変わって、固まってやってきた対向車の列が切れるのを、じりじりしながら待つはめになりました。しかも、対向車の中には、交差点を左折して国道に入っていく車も多く、せっかく詰めたトラックとの間にまた沢山の車が割り込んで、わたしたちは、トラックの後ろ姿を見失ってしまいました。
 ウィンカーがカチカチいう無情な音を聞きながら、このままでは信号は変わってしまうとやきもきしているうちに、やっと対向車が途切れ、なんとか信号に間に合って国道に入ります。見失ってしまったトラックが、すぐにまた別の道に曲がってしまっていたりせず、まだこの道をまっすぐ走っていてくれると良いのですが……。
 きょろきょろと前方や隣車線を目で探しながら走っていると、いました、引っ越しトラック! 隣の車線に!
 タクシーが、車の流れに乗って、左側を走るトラックを追い抜きます。
 助手席にいる反田さんと後部座席左側にいる光也君が、トラックに向かって窓から必死で手を振りながら、声を張り上げました。
「琴里ちゃーん!」
「すいません、そこのトラック、ちょっとすいません!」
「琴里ちゃーん!」
「すいませーーん!」
 が、トラックの運転手さんは、窓を閉めているのか、気づかないようです。
 ああ、どうしましょう……。トラックに追いつけばなんとかなるような気がしていましたが、こんな風に、お互いに走っている車の中にいては、並走していても話なんかできないじゃないですか。まさか道の真中で突然車を止めたり、向こうに止まってもらったりできるわけもないし。こういう時、よくある映画やなんかでは、どうしてましたっけ? 交通ルールを無視? 体当たり? いきなり発砲?
 でも、この場合、そういう訳にはいきませんよね……。
 今度はわずかに向こうの車線の流れが早くなって、トラックが前に出ていきます。このままでは、声が届かないまま目の前を通りすぎていってしまいます!
 トラックの運転手さん、お願い、気づいて……。わたしは両手をぎゅっと握りしめて、心の中で祈りました。

 幸い、あちらの車線とこちらの車線は同じくらいの流れ具合で、トラックとタクシーは、後になり先になり、何度もすれちがいます。そのたびに、左の窓側の反田さんと光也君が、トラックの窓に向かって手を振り、必死の声を張り上げます。タクシーの運転手さんも、状況を察して、「お客さん、窓から手や顔を出さないでくださいよ」と牽制しながらも、なるべくトラックに速度を合わせてくれているようです。
 何度目かで、トラックの運転手さんが窓の向こうでこちらに顔を向け、タクシーの窓を、けげんそうに見下ろしてきました。気づいてくれたようです!
 でも、ただタクシーの窓から人が喚いているのに気づいただけで、まさか自分が呼びかけられているとは思わなかったのでしょう、不審そうにちょっと首を捻ったきり、また前に顔を戻してしまいました。
 そうですよね、なにを言っているか聞こえなければ、ただヘンな人たちがふざけて騒いでいるとしか思いませんよね……。ああ、もうダメなのかしら。
 と、その時、前方の信号が赤になって、トラックもタクシーも、停車しました。ちょうど良く、トラックの真横です! 今なら気づいてもらえるかも!?

 反田さんが、窓から身を乗り出し、トラックの窓に向かって声を張り上げながら、向こうと自分を交互に指差したり、窓を開けろというような手真似をしてみせました。
 トラックの運転手さんもさすがに自分が声をかけられているのだと気づいたらしく、窓を開けて顔を出します。
「すみません、そちらのトラックに高村さんは乗ってますか!?」
 反田さんの声に、光也君の叫びがかぶさります。
「琴里ちゃん、琴里ちゃーん!!」
 光也君、気持ちはわかるけど、今は黙ってたほうが……。
 たぶん反田さんの言葉が聞き取れなかったのでしょう、思いっきり不審そうなトラックの運転手さん。
「ああ? なんですか?」
「ああ、だめだ! すみません、一瞬だけ、降ろしてください!」
 そう言うなり、反田さんは素早くドアを開けて、運転手さんが止める間もなく車を降り、トラックの窓の下に駆け寄りました。
「すみません、この車に、高村さん、乗ってます?」
「は? ……荷主様のことだったら、この車には乗ってませんよ。この車は貨物専用で、人は乗せられませんから。法令で決まってますから」
「そうですか、すみません、ありがとうございました……」
 そんなやりとりが、切れ切れに聞こえてきます。
 ああ……。
 考えてみれば当たり前ですよね……。なんで琴里ちゃんがあのトラックに乗っているなんて思い込んでいたのでしょう。誰か一人だけならまだしも、家族全員が荷物と一緒に引越し業者のトラックに乗っているなんてわけ、ないじゃないですか。
 光也君が、がっくりとうなだれます。
 タクシーの運転手さんも事情を察したようで、「お客さん、困りますよ」と反田さんにお説教しながらも、声は同情的です。ああ、この方には大変お世話になりました……。わたしたち、迷惑な客でしたね。ごめんなさい。

 それから、わたしたちは、タクシーに元の場所に引き返してもらいました。反田さんが、迷惑をかけたし短距離で申し訳なかったからと、運転手さんの辞退を押し切って少し多めにお渡ししていたようです。そういえば、わたし、お財布も持ってきていませんでした。このタクシー代は、後で反田さんに半分お払いしなくては。
 さっき走り抜けた道を、今度はとぼとぼと歩いて戻ります。肩を落として黙りこくっている光也君が、可哀想です。
 琴里ちゃんの家の前を通り過ぎようとした時、反田さんが声をあげました。
「あれ!? 車があるぞ!」
「あっ、ほんとだ!」
 さっきは空っぽだったカーポートに、紺色の乗用車が止まっています。
「もしかして、戻ってきてる……?」
 光也君と反田さんは顔を見合わせ、わたしたちは門の中を覗き込みました。カーテンも何ももうなくなった、がらんとした窓の向こうで、何か、影が動いたような……?
「おい、光也、ピンポン押してみろ!」
「うんっ!」
「はい、どなた?」
 声と同時に、開けっ放しの玄関から、いきなりひょいっと女の人の顔が覗きました。見覚えのある、琴里ちゃんのお母さんでした。

 琴里ちゃんたちは、荷物の積み込みに立ち会った後、外に食事に行って、ちょうど今、最後の手回り品を自家用車に積み込みに、もう一度戻ってきたところだったのでした。ご近所さんへのご挨拶は朝のうちに済ませてあったため、お隣さんも、琴里ちゃんたちはもう出発してしまったと思っていたらしいです。

 光也君は、玄関先で琴里ちゃんと向き合ったまま、もじもじと俯いて、黙ってしまいました。
 反田さんとわたしは、その様子を、後ろからやきもきと見守ります。琴里ちゃんのお父さんお母さんも、反田さんが手短に事情を説明したので、にこにこと二人を見守ってくれています。
「ほら、光也、がんばれ……」
 光也君があんまりいつまでも黙っているので、反田さんが小さい声で言い、光也君の背中を小突きました。
「う、うん……。あの……っ、琴里ちゃん!」
「……なに?」
「……あの、ごめんね、琴里ちゃんの髪飾り、オレが持ってたんだ。返すよ」
「……なんで光也君が持ってたの?」
「児童室で拾ったんだ」
「じゃあ、なんで、探してる時にすぐ言ってくれなかったの?」
 それまでただ怪訝そうだった琴里ちゃんの声が、少し尖ります。それはそうですよね、あんなに一生懸命探していたんだから。失くしたって言って泣いてるのを、光也君もそばで見ていたんだから。
「ごめん。言おうと思ったけど、言えなかったんだ……。ほんとに、ごめん。……あのね、オレ、どうしてもこれが欲しかったんだ。だから、落ちてるのを見つけた時、拾って、つい、ポケットに入れちゃったんだ。でも、琴里ちゃんが一生懸命探してるから、かわいそうになって、返したいと思ったけど、でも、いまさら持ってるって言いだせなくて……。ごめんなさい! 許してください!」
 光也君は、深く深く頭を下げました。そのまま、固まっています。
 わたしたちは固唾を呑んで琴里ちゃんを見守りました。琴里ちゃんは、じっと光也君を見下ろして、何か考えている様子です。
「……なんでそんなことしたの? なんでそれが欲しかったの? 光也君、女の子の髪飾りなんか、しないでしょ?」
「オレ……、オレ……。この髪飾り、琴里ちゃんが、いつもしてたから。だから、欲しかったんだ」
「なんで? どうして?」
「……オレ、琴里ちゃんのこと、忘れたくなかったから! これ見たら、いつでも琴里ちゃんのこと、思い出せると思ったから……」
 俯いたままの光也君の目から、涙が床に落ちました。
「……でも、ごめん! ほんとにごめん! これ、返すから!」
 光也君は、袖口で涙を拭うと顔を上げ、ポケットから、握りしめてくしゃくしゃになった封筒を取り出して、琴里ちゃんに差し出しました。琴里ちゃんは、手を出しません。そのまま、無言で向き合う二人。どうしたんでしょう。ああ、もう、じれったいです!
 しばらくして、琴里ちゃんが、ぽつりと言いました。
「……いいよ。それ、あげる」
「えっ?」
「お祖母ちゃんが、新しいのを作ってくれたから。ほら」と、自分の頭を指さして。前のものとはちょっと違うけどやっぱり可愛い、ちりめん細工の髪飾りが、ちょこんと留まっています。
「だから、それ、光也君にあげる。転校の記念のプレゼントに」
 横から、お母さんがにこにこと言葉を添えました。
「光也君、琴里はね、お友達みんなに、可愛い鉛筆と消しゴムを買って配ったのよ。お友達が記念のプレゼントくれたから、そのお返しに。でも、鉛筆とかはもう全部あげちゃって残ってないから、光也君には、かわりにそれを、ね。ねえ、琴里?」
「うん」
「……ありがとう。でも、オレ、琴里ちゃんに何もプレゼントしてないよ?」
「……いいよ、別に。今まで仲良くしてくれたお礼だから」
「今から何か、プレゼントしてもいい?」
「だって、もう、すぐ出発しちゃうから」
「じゃあ、プレゼント買って、後で送ってもいい?」
「いいよ。でも、高いものはダメだよ。一人二百円以内だからね」
「他のお友達も、みんなそうしてもらったのよ」と、お母さん。
 お母さんが、引越し先の住所をメモ用紙に書いて、光也君に渡してくれました。
「……あの、琴里ちゃん。転校しても、元気でね」
「うん。ありがとう。光也君もね」
「南小のこと、忘れないでね」
「うん。忘れないよ」
 それまで無表情に俯くばかりだった琴里ちゃんが、ふと顔を上げて、にっこりと笑いました。
「忘れないよ。南小のことも、みんなのことも、光也君のことも。ぜんぶ、ずっと、だいじな想い出だよ。少年探偵団も、楽しかったよ」
「その節は琴里がお世話になりました」と、お母さん。わたしは琴里ちゃんのお母さんと図書館で会っていたけど、反田さんも、少年探偵団の件で、琴里ちゃんのお母さんに連絡を取っていたらしいです。それはそうですよね、このご時世、知らない成人男性が小学生の娘さんを無断で連れ回したとなっては、下手すると通報されてしまいます。

 大人たちが頭越しに挨拶を交わしている間に、光也君は、なかなかの大胆さを発揮していました。
「あのさ……琴里ちゃん、ケータイ持ってる?」
「うん」
「メールしてもいい?」
「……うん」
「赤外線ついてる?」
「うん」
 ふたりは、お互いの携帯を取り出して、赤外線通信を始めました。……まあ、生意気。


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