★サイト一周年記念企画★
 イルファーラン観光ツアー
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 はじめに 

これは、サイト一周年記念の、お遊び企画です。
キリ番ゲッター様とイラスト寄贈者様をイルファーランにご招待して
不定期・回数未定で書き下ろし連載しています。

★企画の詳細はこちら
★参加者の紹介は第一回 にあります★

(注)

参加者の方はほとんどが普段のHNで出演してくださっていますが、
企画の性質上、作中で、実際のご本人なら取らないような言動を取る場合がありえます。
ご自分の小説のキャラで参加してくださっている場合も同様です。
全キャラ、『名前は実在の誰かや他の小説のキャラと同じだけど
実は冬木のオリジナルキャラなんだ』ということで、
『私は(彼は)こんなこと言わないわ!』なんて言わずに、笑って見逃してやってくださいませ。



出演者の中で、ご自分のキャラ設定を特に指定していない方、
あるいは冬木から『こうさせてくれ』と頼み込まれていない方は、
みなさん一律に、標準設定である『なかなかキレイなお嬢さん』にさせていただきました。
自分が『キレイなお嬢さん』だと思う人も思わない人も(^_^;)、
ここ、イルファーランでは、『キレイなお嬢さん』になって、
せいぜいローイによだれを垂らさせてやってくださいませ。


では、いってらっしゃいませ。楽しい旅を!

<第二回・山道にて>

 高く澄んだ秋空の下、小さな旗を掲げた里菜が張り切って声を張り上げた。
「さあ、みなさん、出発ですよ〜! ローイ、最初はどこへ行くの?」
「おう、最初は山登りだ。で、<下《しも》 の牧>で昼飯。そんなに急なとこは通らないけど、ちょっと歩くぜ。みんな、大丈夫? ちゃんと、歩きやすい靴、履いてきた? あれ? そうでもなさそうだなあ」
 見れば、娘たちの何人かはパンプスだし、田島光記(敬称略・以下同様)は、よりによってミュールである。(注:この役はアミダで決めさせて頂きました。犠牲になった田島さん、ごめんなさい)
「……なあ、リーナちゃん、あんた、ちゃんと、みんなに歩きやすい靴で来いって伝えてくれた?」
「え? あたし、そんなこと聞いてないよ?」
「うそ。俺、頼んだじゃん。……あれ? いや、待てよ……。うわっ、ごめん、そうだ、俺、言い忘れてたよ! ああ、でも、大丈夫! えーと、あんた、コーキちゃんだっけ? 大丈夫だよ、心配すんな! うん、全然問題無し。あんたは俺がおんぶしていってやるから。な?」
 にこにこと邪気のない笑顔で言うローイは、どうやら純粋に親切心と責任感から申し出ているらしい。
 ローイがずかずかと寄ってきたので、田島はあわてて叫んだ。
「大丈夫! 平気です、歩けます!!」
「遠慮するなよ。俺のミスなんだから俺が責任取るって。それに俺、力持ちだから全然平気だよ。コーキちゃんなんか小鳥みたいに軽々さ。な、ほら、おぶさりな!」
 ローイはいそいそと背中を向けてしゃがみこんだが、田島は、当然ながら固辞した。
「いえ、いいです、けっこうです、遠慮じゃなくて本当に大丈夫です!」
「あ、そ……。ほんとに大丈夫? 足が痛くなったら遠慮しないで言いなよ、いつでもおぶってやるから。そうそう、あんたは?」
 ローイは、着物にぽっくり姿の姫に目を留めた。
「あんた、そのカッコで、山道歩ける?」
「くるしゅうない。駕籠《かご》を呼ぶ。駕籠や、駕籠」
 涼しい顔で言い放った姫が、二、三度、手をたたくと、そこには、突然、屈強な駕籠かき付きの豪華な駕籠が出現していた。
「すごい! 姫さまは駕籠を召喚したわ!」
「なんかしらないけど、すげぇ……。さすがお姫様は違うぜ……」
 里菜とローイがびっくりして叫ぶと、姫は得意げに扇を広げて笑った。
「お〜ほほほ。そうだ、そちも駕籠に乗ると良い。もう一台呼ぼう」
 姫は田島ににっこり笑いかけ、もう一度手を叩いて駕籠を召喚した。
「うわあ、姫様、ありがとう!」
「くるしゅうない」
 田島と姫は駕籠に乗り込み、一同は、村はずれに向かって出発した。
 淡く澄んだ晩秋の日差しが降り注ぎ、さわやかなそよ風が、枯れ草と乾いた牧草の匂いを運んでくる。
 野良で働く村人の何人かが一行に気づいて作業の手を止め、不思議そうにこちらを眺めている。
 ゆめのが勇気を出してその中の一人に手を振ってみると、いかつい体躯のその若者は、一瞬たじろいでから、すぐに満面の笑顔になって、力いっぱい両手を振り返してくれた。武骨だが人の良さそうな馬面の、鼻の下が伸びている。
「うふふ、あれはシゼグよ。自警団の宴会にいたでしょ。ちょっと乱暴者だけど、いい人よ。美人が手を振ってくれたから喜んで鼻の下伸ばしてるわ。ほら見て、鼻の下って、本当に伸びるのねえ」と、里菜が笑った。
 おもしろがって全員で手を振ると、シゼグはますます喜んでブンブンと手を振りながら行列を見送ってくれた。
 しばらくすると、ローイが急に停止を命じた。
「リーナちゃん、ちょっと、ここで待ってて。俺、ちょっと、家に寄ってくるから」
 どうやら、一行はローイの家の近くに差し掛かったらしい。
「え、なんで? ローイ、忘れ物したの?」
「違う、違う。ちょっと用事があるんだよ。すぐ戻ってくる。皆さんに、何か解説でもしてて」
 里菜にそう言い残すと、ローイは、長い足で、あっという間にずんずん歩き去ってしまった。
 しかたなく、里菜はその場でレクチャーを始めた。
「えっと、皆さん、今、すごく涼しいでしょう? ここは今、あっちの世界で言えば、たぶん十一月の中旬ごろなんです。でも、この世界は、一年が冬至から始まる十三か月なので、こっちの世界の数え方では今は『十二の月』で、昔の言い方で言うと『金の光月 《ひかりづき》』って言うんです。ほら、秋の終わりって、今もそうだけど、日中でも日差しが夕方みたいに金色でしょう? だからだと思います。この、古い月名は、他に、冬至前の『闇の月』とかその次の『氷の月』、『雪の月』、『水の月』、『実り月』なんかの他に、2月頃が『青の光月』で8月頃が『白の光月』とか、いろいろきれいな名前があるんだけど、そういう気象条件に基づいた呼び名って、地方によって気候風土や農作業の内容や年中行事が違うから、ちょっとづつ時期がずれたり名前が違ったりしていて、だから、国が統一された時に、月名も数字で統一されたんですって。でも、それは表向きで、地方によっては、普段もまだ古い月名を使ってたり、あと、年中行事とか詩を書いたりする時にも古い月名を使うことも多いそうです。日本の旧暦の月の名前みたいなものですね」
 そこに、ローイの大声が割り込んだ。
「やあ、みなさん、お待たせ、お待たせ!」
 振り向くと、なんと、ローイは、ヤギを一頭、紐につないで引いてきていた。
「うわあ! やだ、ローイ、なんでヤギなんか連れてきたの」
「いや、昼飯の時に、みなさんに新鮮なヤギの乳を飲ませてやろうと思って。何人分もの乳の入った袋だの壺だのぶら下げていく位なら、ヤギを連れてく方が楽じゃん。壺や革袋は歩かないけど、ヤギは自分で歩くもん。その場で絞れば超新鮮だし。それに、都会のお嬢さんたちにはヤギの乳しぼりもおもしろい見物だろ? で、うちのヤギをちょっと借りてきたのよ。かわいいだろ? うちのメリーちゃん。気立てもいいし、乳の出もいいぜ。リーナちゃん、あんた、こいつ、引いてって。ほら」
 ローイは有無を言わさず、あっけにとられている里菜の手にヤギの紐を押し込つけた。
「やだ、あたし、ヤギ、苦手なのに! 羊はおとなしいから平気だけど、ヤギはちょっと怖いんだもん」
「大丈夫、うちのメリーちゃんは気立てがいいから。さ、出発、出発!」
 里菜はしかたなくヤギを引いて歩き出した。ヤギのメリーは本当に気立てがいいらしく、おとなしくとことこと里菜の後をついてくる。
 その姿をつくづくと見やって、ローイが言った。
「リーナちゃん……。あんた、その姿、なんだかすごく似合ってるぜ。妙に板についてるっていうか、様になってるっていうか……。なんでだろうなあ、あんたも元は都会っ子のはずなのに、とてもそうは見えないよなあ。こんなにヤギが似合う女の子なんて、たぶん、そうそうはいないぜ?」
 娘たちもいっせいにうんうんとうなずいた。
「うん、似合ってる、似合ってる。『ハイジと雪ちゃん』って感じ?」
「田舎情緒溢れる、いい光景よね〜」

 やがて一行は村を出て山道に入った。
 里菜が左右を指さしながらガイドをはじめた。
「皆様、正面にそびえているのがエレオドラ山で〜す。ちなみに、『エレオドラやま』じゃなくて『エレオドラさん』って読むんですよ。今までずっと、頭の中で『エレオドラやま』て読んでた人、いるんじゃない? 作者さんに、本編の方で一度はふりがな振れって言っとかなきゃね。ねえ、エレオドラ山って、富士山に似てると思いませんか?」
 言われてみれば、たしかに、間近に仰ぎ見るエレオドラ山の優美なシルエットは富士山そっくりである。
「左に見えますのが、イルシエル山脈で〜す。『世界の果て』だと言われています。この『世界』って、どうやら、狭いのよね。まるで箱庭みたい。神様の箱庭。でも、ドラゴンは、世界の果ての向こうから来るって言われてるんです。『世界の果て』に『向こう』があるなんて、変でしょ? ここの人たちの考えてる『世界』とか『世界の果て』って、あたし達の考えるのとは、ちょっと概念が違うのかもしれないです。でも、例えばローイにそういうこと尋ねてみようとしても、無駄なの。なんか、ここの人たちって、そういうこと、あんまりちゃんと考えられないらしいんです。頭がそういうことを把握できないようになってるみたい。しかも、そういう話しても、後で忘れちゃったりするの。アルファードは、なんでか大丈夫なんだけど。今、あたしがここでこういう話をしたことだって、きっとローイは、後で忘れちゃうわ」
「なんだって、何を忘れるって?」と、ローイ。
 どの娘をいつどうやって口説こうか、などと不埒なことばかり考えていて、里菜のガイドなど、ろくに聞いていなかったのである。
「いいの、いいの。何でもないの。えっと、アルファードが言うには、イルシエル山脈はここと違って、とっても険しい高い山なので、麓の方には少しは人が住んでるけど、斜面が急なので羊は飼えなくて山羊を放牧してるんだそうです。畑もちょっとしか無いんだそうです。それから、あそこの谷あいに見えるのが、イルドの村。おいしい葡萄酒の産地だそうです。自家用程度の量しか作れなくて、あまり出荷してないから、地元の人以外の口には滅多に入らない貴重品で、都では、イルドの葡萄酒って言えば『幻の銘酒』扱いの最高級品で、ワイン愛好家の憧れの的なんだそうです。自警団の宴会じゃ、みんな平気でだらだらこぼしながら、がぶがぶ飲んでだけど。あ、それから、あそこ。あの坂道の下が<女神の淵>です。あたしがアルファードに拾われた場所。ここからは水面は見えないけど、青緑色の水がとっても奇麗よ。翡翠みたいな神秘的な色。で、うっそうとした木立から木もれ日が射して、し〜んと静かな中に水の流れる音と風のざわめきと小鳥の声だけが聞こえる、すごくロマンティックなところなの。ローイ、寄ってく?」
「ああ、残念だけど、今日はちょっと止しとこう。おととい雨が降ったから、きっと、下り口のとこが、水が出てて、ちょっと滑るだろうから」
「……だそうです」
 道は、尾根道である。左右から吹き上げる風が枯れ草をざわざわ鳴らすのが、まるでせせらぎの音のように聞こえる。それに混じって、下のほうから本物の川の水音も聞こえている。実に涼しげ――どころか、歩いていてもちょっと寒いくらいである。

「おりょ?」
 先頭を歩いていたローイが突然立ち止まった。
「どうしたの、ローイ?」
「いや、おとといの雨で、道の真ん中にでっかい水たまりができちまってるよ。な、ほら、たいした雨じゃなくても、他のところは乾いてても、こういうふうに、何かの具合でいつまでもぬかるむ場所って、あるんだよなあ。<女神の淵>の下り口のところもそういう場所なんだけど、まさかここがこんなとは思わなかったよ。ごめんよ、お嬢さんたち。これじゃ、お嬢さんたちの奇麗なお靴が汚れちまう。そうだ! 俺が抱いて渡してやろう! ほら、順番に、まずトモコちゃんからね」
 言うなり、ローイは、一番近くにいた尾川(注:この役もアミダで決めさせて頂きました。犠牲になった尾川さん、ごめんなさい)を、いきなり、ひょい、と抱かえ上げた。
 びっくりした尾川が「きゃ〜!」と悲鳴を上げるのもお構いなしに、軽々と、いわゆる『お姫様抱っこ』の体制を取り、無造作にぬかるみを渡り始める。
「みんな、心配しないで待っててな。順番で渡してやるからな!」
 ぎょっとして顔を見合わせる娘たちに里菜が声をかけた。
「うわあ、みんな、大変。早く渡らないと、ローイに抱っこされちゃうわよ! でも、ほんと、靴はちょっと汚れるかも。靴が汚れるのが嫌な人と、ローイに抱っこして欲しい人はここで待っててね」
 そう言うと、里菜は、ヤギを引いてさっさと水たまりを渡り始めた。里菜の靴は魔法で防水された短ブーツである。田舎では、どんなに晴れていても常に長靴が必需品なのだ。
 里菜の言葉に慌てた娘たちは、靴を気にしながらも、水面に出ている石づいたいにそろそろと水たまりを渡りはじめた。
 ローイのあまりの無作法さにショックを受けて茫然としていたライディンが、娘たちの危なっかしい足取りを見て我に返り、手近にいたゆめのに礼儀正しく手を差し出した。ゆめのは、ライディンに手を取られて無事に水たまりを渡り終えた。
 そのかわたらを、姫と田島の駕籠が、何事もないような様子で平然と追い抜いていく。よく見ると、駕籠かきたちの足は、微妙に地面から浮き上がっているようだ。駕籠というのは実はかなり揺れるものであるはずなのに、この駕籠がさっきからほとんど揺れていなかったのは、そのためだろう。さすがは姫様である。
 ライディンは、次に、まだ渡りかけだった藤村に手を貸してやった。向こう岸で、さっさと先に渡ってしまっていたラキアと天城が、うらやましがっていた。
「トモコちゃん、軽いねえ。これなら、俺、牧場までずっとだって抱いて歩けるぜ? そうそう、トモコちゃん、今日、どこか特に見たい場所とか、ある? 何かご要望があったら遠慮なく言ってくれよな」などと一方的に機嫌よく話しかけながら尾川を運び終えたローイは、振り返って、他の娘がみんなすでに渡ってしまっているのを見て、ちょっと拍子抜けという顔をした。
「あれ、みんな自分で渡っちゃったの? せっかく俺が助けてやろうと思ったのに。靴、汚れなかった?」
「は〜い、大丈夫です!」
 みんな元気に返事をしたが、ローイに運ばれたばかりの尾川だけは、ちょっと青い顔をしていた。気の毒に、抱っこが揺れるのと高いところが怖いのと恥ずかしいのとで、寿命の縮む思いをしたのだろう。

 やがて道は、見晴らしの良い尾根道から、木立に囲まれた浅い切り通しに変わった。
 ふいに、切り通しの上から、石ころがひとつ、からんと落ちた。
 あれ、と見あげた視界に、逆光を背負った黒い人影が躍り出た。
「野郎ども、かかれー!」
「おうっ!!」
 蛮声と共に道に飛び出してきて一行の前に立ちふさがったのは、実に『いかにも』な人相風体の山賊たちである。
 道の反対側から同じように飛び出してきて一行をはさみ撃ちにした後発隊と合わせて、その数、十人ほどか。どいつもこいつも、絵に描いたような凶相に、まるでRPGの雑魚キャラのような典型的な山賊スタイルで、手に手に弓矢や三日月型の蛮刀を持っている。
「うあ、なんてこった、山賊か? よし、俺がやっつけてやる! お嬢さんたちにカッコいいとこ見せてやるぜ!」と叫んだローイは、矢筒をしょっているはずの背中に手をやりかけて凍りついた。
「……あ、しまった! 俺、今日、剣も弓矢も持ってきてねえぞ!」
 頭目とおぼしき、ひときわ人相の悪い男が進み出て偉そうに怒鳴った。
「おい、俺たちゃ山賊だ! 身ぐるみ脱いでここに置いてけ! おとなしく言うことを聞けば命ばかりは助けてやる。そのヤギも置いてけよ。おうっ、こりゃあ良いヤギじゃねえか」
 頭目はいそいそとメリーの口の中やしっぽの下をのぞき込み、背中から腹にかけて素早く手をすべらせて、慣れた手つきで骨格や太り具合をチェックした。この頭目、農家の出身に違いない。
「うん、良い歯をしてる。年頃も妙齢。ケツも汚れてないし、毛はつやつや、骨格も肉づきも乳の張りもいい。へへへ、こいつは良い乳を出しそうだぜ」
 頭目は、実に嬉しそうに、メリーの尻をぱん、と叩いた。
 その時、突然の無礼に怒ったメリーが、『べめぇエエエエ〜!』いう抗議の叫びを上げたかと思うと、いきなり頭目の薄汚い服の袖にがっしと噛み付いた。
「う、うわ、バカ、よせ、何するんだ、この暴れヤギがァ!!」
 頭目が慌てて腕を振り回した。袖が、びりっと裂けた。
 それが合図であったかのように、目にもとまらぬ早わざでライディンが動いた。
 誰もがあっと思う間もなく頭目の目の前に躍り出ていたライディンは、相手に剣を構える隙さえ与えず鋭い突きを繰り出して頭目を崖の前に追いつめ、その、突き出た喉仏に、愛用の貴人剣をぴたりと突きつけた。
 金色の鋭い眼差しに、頭目はごくりと息をのむ。
 喉仏がぐびっと上下した拍子に、不動の剣先が浅く皮膚を傷つけ、一筋、わずかに血が滲んだ。
 後ろで蛮刀や弓矢を構えていた子分たちも、これでは手も足も出せない。
「メリーに手を出すな。このまま帰れば命は助けてやる」
「わ、わかった、悪かった。騎士様、許してくれ。や、野郎ども、た、退却だ……」
 ライディンに睨まれた頭目は、震え声を絞り出しながら、崖に背中を押し付けてじりじりと横に移動した。
 ライディンは油断無く構えながらもわずかに剣を引いて、頭目の移動を許した。
 剣の間合いから逃れた頭目は、くるりと向きを変え、そのまま逃げ出すかと思いきや……。
「な〜んちゃって!! 騎士様、甘いぜ。そう簡単に引き下がるかよ! 野郎ども、かかれ〜! もう容赦しねえぜ」
 山賊たちが、前後から一行に襲いかかった。
「きゃ〜!!」
 尾川が思いっきり悲鳴を上げた。
 山賊の一人が、蛮刀を振り上げて尾川に襲いかかったのだ。
 が、刃が振り下ろされる前に、ライディンが、電光石火で二人の間に割り込んだ。山賊の蛮刀をかいくぐって、ライディンの貴人剣が閃く。
「ライディンさん、カッコイイ〜! がんばって〜!!」
 里菜が場違いな黄色い声援を送る。
 その隙に姫と田島の駕籠に駆け寄ろうとしていた別の山賊の鼻先を、ナイフが掠めた。
 ヒッと息をのんで足を止めた山賊の横の立ち木に、ナイフが突き立って揺れている。
 山賊のおびえた視線の先には、スカートをめくって片方の太腿を惜し気もなく露出したラキアの凄艶な笑みがあった。すらりと伸びた太腿のガーターに、ずらりと並ぶ小さなナイフ。そして、ラキアの白い指には、次のナイフが慣れた仕草で挟まれている。
「きゃあ〜、ラキアさん、カッコいい〜!!」
 里菜がまた間の抜けた歓声をあげた。
 それからは、もう、乱戦だ。
 隙だらけの里菜に気づいて、近場の山賊たちが殺到しようとする。
 その山賊たちの前に、どこから持ってきたのか、竹刀を構えた藤村が立ち塞がる。
 真剣でないとはいえ、山賊たちの蛮刀に比べて、竹刀は長い。
「面っ! 胴っ!」
 気迫満点、ばったばったと山賊をなぎ倒す藤村!
 ライディンの貴人剣が唸る! ラキアのナイフが閃く!
 ヤギのメリーが噛む! 蹴る! 頭突きや当て身を食らわす!
 かと思うと、いつのまにか、天城がナギナタを持って暴れている!
 田島とゆめのと尾川は、なぜか手裏剣を投げている!
 どうやら、姫様が駕籠の中から次々と武器を取り出して、みんなに配っているらしい。姫様の駕籠は四次元ポケットか?
 ローイは日本刀を持たせてもらって、チャンバラごっこをする子供のように嬉々として振り回している。
 そして里菜は、自分だけ戦わずに、駕籠の蔭に隠れて黄色い声援を送り続けている。
「畜生、今日のところはこのくらいにしておいてやる! 野郎ども、引き上げだ!」
 山賊たちは、独創性の無い負け惜しみの捨て台詞を残して、ほうほうの体で逃げ出した。
「やったぁ、すごい、すごい! みんな強いわ!」
 里菜が飛び上がって手をたたく。
「ライディンさん、カッコよかったわね!」
「藤村さんもカッコよかったわ! 特技があるって、いいわね」
「あなたもけっこうがんばってたじゃない」
「あなたこそ!」
「でも、一番の大活躍はメリーよね」
「メリー、お手柄だったね!」
「メェ〜エ♪」
 みんな、互いの健闘をたたえ合った。
「ラキアちゃん、すげえ、すげえよ! なんてカッコいいんだ! そしてその、輝く太モモ……。惚れた、惚れたぜ!」
 ラキアにごろにゃんとすり寄ろうとしたローイは、余裕の笑みで身をかわされた。

 一行は何事もなかったかのように再び歩き出した。竹刀やナギナタは再び駕籠に収納され、娘たちはにぎやかに今の事件について語り合っている。
「ライディンさん、さっきは、あぶないところをありがとうございました」
「いえ……」
 ライディンは、頬を染めた尾川に礼を言われて照れている。
「それにしてもさあ」と、ローイが、小声で里菜にささやいた。
「なあ、リーナちゃん、あの山賊、ちょと変じゃねえ?」
「え、そ、そう? なんで?」
「だって、あの格好。ありゃあ、どう見てもタナティエル教団じゃねえぞ。やつらの、例の黒衣は正装だから、全員がいつもそれを着てるってわけじゃねえんだけど、それにしても、あの服装は変だ。このへんの服じゃねえし、北部の服とも違う。それに、あの刀。俺、あんな形の刀、今まで見たことねえぞ。この国のものとは思えねえんだけどな」
「そ、そう? あたしは、よくわかんないけど……」
「もしかして、あれ、作者が雇ったサクラじゃねえの?」
「さ、さあ……? でも、そう言えば、作者さん、ローイの計画にはイベントが足りないって言ってたわ。せっかくライディンさんが来てくれたから、ライディンさん向けのイベントがほしいなあとか。だったら藤村さんにも竹刀で模範演技を見せてほしいなあとか、ラキアさんにはぜひ『太腿に投げナイフ』をやってほしいなあとか」
「それだ! やっぱり作者のさしがねだぜ。いくらなんでも、この真っ昼間に、こんなとこで山賊なんて、変だもん。そもそも、やつら、最初から、あんまり真剣にやる気がなさそうだったし」
「あはは、そうかも……」
「あ、リーナちゃん、あんた、実は知ってたな! どうりで、いやに呑気に見物してると思ったぜ」
「えへへ。でも、ローイ、みんなには内緒よ!」
「おう、わかった。畜生、作者のやつ……。そんなイベントを予定してるなら、最初から俺に言っておいてくれれば、ちゃんと剣を持ってきたのに。ま〜た、みんなにいいとこ見せそこねちゃったじゃねえか」
 ローイは小声でぶつぶつ言いながら、興奮冷めやらぬ様子の娘たちを引き連れて牧場 《まきば》に向かった。

――まだまだ続く(^_^;)――


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掲載サイト:カノープス通信
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