坂元章さん(現・御茶の水女子大助教授)には、お忙しい中いくつかの論文をお送りいただきしました。いろいろな本やホームページで取り上げられている有名な論文です。この場をお借りして感謝申し上げます。それと、JNNデータバンクのデータ量はすごいですね。
誤解のないように書いておきますが、坂元さんは血液型と性格の関係に否定的ですので、念のため。
-- H10.5.13
原題: 山崎賢治・坂元章 血液型ステレオタイプによる自己成就現象−全国調査の時系列分析− 日本社会心理学会第33回大会発表論文集 342〜345ページ H4
この論文のデータは、松井さんの論文での論文2(血液型による性格の相違に関する統計的検討 東京都立立川短期大学紀要 第24巻 51〜54ページ H3)とほぼ同じなのですが、松井さんが4年分のデータなのに対して、11年分と年数が多く信頼性が高いのです。私が知る限り、日本では最大規模のデータで、総数は3万人以上となります。引用しておくと、
分析の素材 JNNのデータ。1978年から1988年までの11年分。24個の性格特徴のうち、前調査で選ばれた、6つないし7つを求めた。
尺度の作成 「A型得点を例にとって」
JNNのデータにサンプルについて、「A型らしい」特徴があてはまると答えたなら(赤字)100を与える、3つの特徴があてはまるので、それらの平均値を求める。「A型らしくない」特徴があてはまると答えたなら(青字)、−100を与える。これも3つの項目があるので、平均値を算出する。両平均値を差をとれば、そのサンプルがどれくらいA型らしいか・A型らしくないかが算出される。これをA型得点と呼ぶことにする。
同様にして、B型得点、O型得点、AB型得点も計算する。
分析された質問項目
1. 誰とでも気軽につきあう
2. 目標を決めて努力する
3. 先頭に立つのが好き
4. 物事にこだわらない
5. 気晴らしの仕方を知らない
6. ものごとにけじめをつける
7. 冗談を言いよく人を笑わす
8. 言い出したら後へ引かない
9. 人に言われたことを長く気にかけない
10. 友達は多い
11. くよくよ心配する
12. 空想にふける
13. 人づきあいが苦手
14. 家にお客を呼びパーティするのが好き
15. 何かをする時は準備して慎重にやる
16. よくほろりとする
17. 気がかわりやすい
18. あきらめがよい
19. しんぼう強い
20. うれしくなるとついはしゃいでしまう
21. 引っ込み思案
22. がまん強いが時には爆発する
23. 話をするよりだまって考え込む
24. 人を訪問するのにてぶらではかっこうが悪い
【H16.10.25追記】
このページを読んで、「A型らしい」特徴の選び方の質問があったので、原典から引用します。
つまり、JNNのデータとは独立していることがわかります。 なお、年度によって微妙に質問項目が違っているため、ここでは松井さんの論文のものに統一しました。 |
結果として、
そこで、重回帰分析を行った結果、
- A型得点については、近年にいたるほどA型の人がA型得点が高くなっているという意味の交互作用が示された(p<0.005)。
- A型以外ではこのような交互作用は、有意水準として15%を設定したものの、検出されなかった。
- A型の人以外は、年々非「A型」化している。また、全体的傾向としては人は非「A型」化している。これらの点の検討は、本研究の主眼ではないが興味深い。
という結果が得られました。また考察として、
A型の人々の評定は、女子大生のステレオタイプの方向へと偏って来ていることが示された。ここでは、A型の人は年々他の型の人よりも「A型的」になるという形の交互作用として自己成就現象を検出した。交互作用はA型かどうかという変数と年次による合成された。しがって、例えば、A型得点において交互作用があると言うことは、A型の人とそれ以外の型の人の間では実際の性格は差がないと従来は言われており、それを受け入れるならば、ステレオタイプの自己成就現象がおきている可能性がある。
ただし、A型の人以外は自己成就現象は認められず、今後、いっそうの検討を要するだろう。
要するに、A型だけが明確なステレオタイプを持っているわけです。 -- H10.5.13
原題: 山崎賢治・坂元章 血液型ステレオタイプによる自己成就現象−全国調査の時系列分析− 日本社会心理学会第32回大会発表論文集 288〜291ページ H3
この論文のデータは、論文1と同じです。ただ、論文1より1年前に発表されたので、血液型別による重回帰分析は行っていません。この論文で面白いのは、年齢別や血液型別の「A−B」得点を計算していることです(ただし、論文1のように100をかけていないので−1〜1の間の値を取る)。結論をちょっと引用しておきます。
1.年齢/Fig.5
高年齢であるほど「A−B」得点が高い。すなわち、「A型的」特徴があてはまることがわかる。
2.血液型/Fig.6
A型の人の「A−B」得点(0.082)は、B型の人の「A−B」得点(0.027)よりも、有意に高い
3.調査年次/Fig.7
1978年から1988年までの11年間において、次第に「A−B」得点は低下している。すなわち、日本人は「B型的」性格になりつつある。
4.血液型と調査年との交互作用/Fig.8
血液型と調査年との交互作用が検出された。A型は相対的により「A型的」に、B型は相対的により「B型的」にという変化を示した。これは、血液型ステレオタイプによる自己成就現象を意味する結果である。
なるほど、すばらしい分析ですね!
【H16.9.25追記】
このページを読んでも、統計的な検証がされていないのではないか、と一部の人が思っているようなので、坂元さん自身による結論を書いておきます(太字は私)。
要するに、「弱いが(能見さんの指摘するとおりの)相関が認められた」と明確に結論づけているわけです。 |
でも、論文2のFig.7〜8を見ると、おかしなことに気が付くはずです。
今までの多くの否定論者(≒日本の心理学者)は、血液型による性格の違いは存在しないと主張してきました。信頼できるアンケート(≒日本の心理学者)のデータでは安定した結果が得られないというのがその理由です。つまり、血液型による性格の違いは存在しないが、もしそのように見えるにしてもそれは「血液型ステレオタイプ」(特定の血液型はこういう性格だという思い込み)によるものというわけです。
しかし、論文2のFig.7〜8では、明らかにA型とB型では差が出ています。それも、完全なランダムサンプリングによる3万人のデータで、11年間も安定して差が出ているのです(う〜ん、すごいデータ量!)。ですから、今までの主張の「信頼できるアンケート(≒日本の心理学者)のデータでは安定した結果が得られない」というのは明らかに間違いということになります。今までの主張は見事にひっくり返ったことになるのですが…。
また、「A−B」得点しか差が出なかったのは、大村政男さんの論文のページの分析のとおり、本来の3者択一を2者択一にしてしまったのが原因かもしれません。そして、自己成就現象かどうかについては、渡邊席子(わたなべよりこ)さんの論文も面白いのでぜひ読んでみてください。 -- H10.5.13
論文2の結論として、坂元さんは「日本人は『B型的』性格になりつつある」と述べています。この理由はなんでしょうか?
準備として、「A−B」得点に関する上位・下位の各3項目を項目番号順にピックアップしておきます。
A型上位3項目
6. ものごとにけじめをつける
11. くよくよ心配する
15. 何かをする時は準備して慎重にやる
B型下位3項目→A型的
5. 気晴らしの仕方を知らない
11. くよくよ心配する
13. 人づきあいが苦手
B型上位3項目
4. 物事にこだわらない
17. 気がかわりやすい
20. うれしくなるとついはしゃいでしまうA型下位3項目→B型的
2. 目標を決めて努力する
4. 物事にこだわらない
9. 人に言われたことを長く気にかけない
これらをA型得点とB型得点を増加させる方向で整理してみると、次のようになります。
A型得点を増加させる項目(赤は他項目の2倍の効果)
5. 気晴らしの仕方を知らない
6. ものごとにけじめをつける
11. くよくよ心配する
13. 人づきあいが苦手
15. 何かをする時は準備して慎重にやる
B型得点を増加させる項目(赤は他項目の2倍の効果)
2. 目標を決めて努力する
4. 物事にこだわらない
9. 人に言われたことを長く気にかけない
17. 気がかわりやすい
20. うれしくなるとついはしゃいでしまう
結局、「日本人は『B型的』になりつつある」とは、B型得点を増加させる「目標を決めて努力する」を例外として除けば、次のようなことになります。
まず、人に言われたことを気にかけず、くよくよと心配したりはしない。そして、物事にあまりこだわらず、気分の赴くとおり行動し、よく人付き合いをし、気晴らしをしてはしゃぐ。しかし、ものごとにけじめをつけたりはせず、何かをする時に慎重に準備したりもしない…。言葉を変えれば、「趣味に合った暮し」で「のんきに暮したい」ということになる…はずです。
実は、これは日本の保守化現象らしいのです(となると、「自己成就現象」とは関係ないのでしょうか? はて?)。
山本七平さんは、その著書の『これからの日本人』の中で、日本社会では伝統回帰と保守化現象が起きていると主張しています。彼の言う保守化とは、明治・大正・昭和への回帰のことではなく、江戸時代への伝統へ戻るということです。この行き方は、江戸時代末期の町人や下級武士、そして現在のの一般的サラリーマンの生き方なのだそうです。
彼らは、明治が創作した武士道型人間でも志士タイプでもありません。そういうタイプは、高度成長時代の「企業戦士」に見られるというべきでしょう。つまり、テレビの時代劇でおなじみの「水戸黄門」や「遠山の金さん」や「暴れん坊将軍」ではなく、古典落語で長屋に住んでいる熊さん八っさんの世界ですね。(^^)
山本さんによると、ぺリー来航の直前の嘉永11年に、ある下級武士が記した『三眼余考』には、次のように書いてあるそうです。以下は、『これからの日本人』からの抜粋です。
すなわち「家に在りては父母に事(つか)え、妻子を養いて歓欣和楽することを教え、出ては君に事えて公事に黽勉(びんべん=精励)し、寵禄を荷い朋友に交りて談論をもし、相扶(たす)け相よろこび、民を治めてはその治教を施し、その租税を食(は)むの類、人なればこそこの楽しみもあるなれ。……飢えては食し、渇しては飲む。花に酔い月に歌い、衣服ありて寒暑にたえ、器財ありて用をなし、門戸ありて盗を防ぎ、堂室ありて雨露を避け、ここに寝(い)ね、ここに語りなどする類、楽にあらざるはなし」で、この状態で生涯を送り、ごく自然に死に至ることを理想としている。
いわば「趣味に合った暮し」で「のんきに暮したい」であり、同時に「自然に従う」で「親孝行」「世間のしきたり」通りにすることであり、統計数理研究所国民性調査委員会の国民性調査では、以上の『三眼余考』的項目のすべてが支持増加になっている。
となると、坂元章さんが主張している、「日本人は『B型的』性格になりつつある」ことは、起こるべくして起きた当然の現象であることになります。(^^) -- H11.11.27
【H16.10.25追記】
念のため、心理学者の白佐俊憲・井口拓自著『血液型性格研究入門』から、坂元さん(この本では「山崎ら」)関係部分を引用します(太字は私)。 白佐俊憲・井口拓自さん 血液型性格研究入門 H5.5 川島書店 1,748円+税
まず、165〜167ページからです。
200〜203ページでは、
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論文1と2のまとめ(英語)が公開されています。
2月15日付の Scientific American の記事(個人のブログ)を読んでいたら、以前お世話になったお茶大の坂元章さんの論文が紹介されていたので読んでみました。
Sakamoto, A., & Yamazaki, K. (2004) Blood-typical personality stereotypes and self-fulfilling prophecy: A natural experiment with time-series data of 1978-1988. In Y. Kashima, Y. Endo, E. S. Kashima, C. Leung, & J. McClure (Eds.), Progress in Asian Social Psychology, Vol. 4. Seoul, Korea: Kyoyook-Kwahak-Sa. Pp. 239-262. (pdf)
ここでも、自己成就現象と断り書きがあるのを割り引くとしても、統計的に差があると明確に結論付けていることです。
This indicates that blood-typical personality stereotypes actually influenced the personalities - self-reported personalities, at least - of individuals, and that they also operated as a self-fulfilling prophecy, although the greatness of that influence could be discussed.
英語だから、日本では話題にならなかったのでしょうかね?
以前にこの論文を読んでいれば、私も苦労しなかったのですが。
いずれにせよ、統計的に差があるかどうかの論争は、既に決着済み(だった)と言っていいでしょう。
ちなみに、このScientific American の記事には、私のサイトも(批判的に・苦笑)紹介されています。 -- H23.8.22