科学朝日


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Pencil_and_Paper32.gif (245 バイト)科学朝日の記事

原題: 木元俊宏 (1991) 再び広まる血液型性格断 科学朝日, 51, (11), 50-53.

 残念ながら、現在では『科学朝日』は改題されてしまいました。私は熱心な読者だったので、非常に残念です。血液型と性格については、昭和48年12月号と、この記事が掲載された平成3年12月号に掲載されています。

 この記事は、多くの心理学者に取材をし、インタビュー風に再構成してまとめています。結論としては、否定的なもので、文中の松井さんの言葉が的確に表しています[筆者注:所属は当時のもの]。

 松井豊・聖心女子大学助教授は語る。
 「結論を言うと、血液型と性格・気質との間には、信奉者が主張するような関係はありませんでした。」(中略)
 「血液型と性格・気質に関連があったとしてもそれは極めて弱くて『何とか型の人はこうだ』などと個人にあてはめることは不可能なレベルのものです」

 そして、松井さんは次のように主張しています。

 松井さんはまた、ある民放キー局が実施している全国調査(都市部が対象。満13〜59歳の一般男女約3000人を無作為抽出している)を調べた。この調査には、性格・人柄に関する24項目からなる設問(回答は、あてはまるか否かを尋ねる2件法)と、血液型を尋ねる項目が含まれている。
 80、82、86、88年度の回答を血液型別に調べた。有意差が出た項目が各年度に3〜4あったが、しかし、
 「有意差の出た性格項目は、各年度でばらばらでした。唯一、『物事にこだわらない』という項目に各年度共通で差が出ましたが、A型の人で『あてはまる』とした人が一貫して少なめだったのに対して、高い肯定率を示している血液型は次々変化して一貫していません。このデータからみると、血液型と性格の間に一貫した関連があるという主張は正しくないと言えるでしょう」

■質問「物事にこだわらない」の肯定率(%)
82年度は危険率5%未満、残る年度は同1%未満で有意差があるが…(松井1991)
[筆者注: O型の順番を入れ換え、最高値が赤、最低値が青になるように色分けした]

O A B AB

80年

31.8 30.6 37.8 34.3

82年

39.1 33.0 35.6 36.1

86年

39.5 32.4 38.8 39.9

88年

42.9 35.9 45.1 37.1

 なお、元の論文はこちらを見ください。

 不思議なことに、上の結論と全く逆の主張も掲載されています。この記事の執筆者である木元さんの判断は書いていないのでなんとも言えませんが…。

 前述の全国調査データを解析した松井さんの論文にあるが、例の「物事にこだわらなどという項目について、A型と他の型の比較だけに絞って差の検定をすると、年度を追って差が拡大(関連係数が増大)する傾向がみられたのだ。この問題を調べたのが、坂元章・お茶の水女子大講師と東大社会心理学科大学院生の山崎賢治さんたちである。坂元さんらは、同じ全国調査の性格についての設問を、美大生82人による事前調査でふるいにかけた。各項目が血液型性格判断で「A型的」と思われる性格特徴かどうかを質問した。
 その結果から、A型的項目3つ(慎重、けじめをつけるなど)と、非A型的(ここではB型的として いる。こだわらない、気がかわりやすいなど)項目3つを選んだ。
 そして、各項目に「あてはまる」と答えた場合にそれを1点と数え(あてはまらない、は0点)、A型項目の得点の平均からB型項目の得点の平均を引いて、「A−B」得点というものを算出した。その得点が高いと血液型ステレオタイプでいうA型的、低いとB型的、というわけである。
 78年から88年まで経時的に、血液型A型の人とB型の人の「A−B」得点の変化を見ていくと、B型の人は年を追って「B型らしく」なっていた。
  坂元さんはこう考察する。「わずか10年で特定方向への変化が出た理由は、血液型性格判断がマスコミなどを通じて広まるうち、人々が『自分は何々型だからこういう性格なのだ』とステレオタイプに自分を合わせていったためではないでしょうか」
 こうした現象を、「自己成就」という。ある情報を繰り返し与えられるうちに、いつのまにかそう思い込んでしまうわけだ。ただしそれが本当の性格の変化を伴っているものか、単なる質問回答時の反応に限定されるものかは、今後の検討が必要という。
 なお、この研究でも検出できた差はごく小さい。坂元さんも、「血液型と性格には、世間で考えられているほどの関係はなく、人間関係をスムーズにするといった実用的な応用に使える素材ではありません」とクギを刺している。

■年々B型の人はB型的に…
「A−B」得点の経時的変化。□は血液型A型の人、+はB型の人。点線はそれぞれの傾向を示した。なお、これは得点を100倍した数値で、グラフのy軸方向の得点スケールは、プラス100からマイナス100まであることに注意。つまりA型とB型の差は非常に小さい(山崎・坂元1991に基づく)
[筆者注:得点スケールは、6つの質問があるので、+100から−100ではなく+600〜−600]

kagaku-asahi.gif (8980 バイト)

 元の論文は、こちらを見ください。

#なお、自己成就現象かどうかは渡邊席子さんの論文をどうぞ!

 これで、一般の読者は混乱しないのでしょうか? 同じデータで、坂元さんは差がある、松井さんは差がないと全く正反対の結論なのです!

 実は、この2つのデータは統一的に説明できるのです。松井さんのデータでは、「高い肯定率を示している血液型は次々変化して一貫していません」とことですが、理由なんでしょうか? もし、これがきちんと説明できれば、「A型の人で『あてはまる』とした人が一貫して少なめだった」のだから、血液型と性格は「関係ある」ということがいえるのではないでしょうか?

 そこで、統計的な誤差が分かりやすくなるように、各年度の平均に対して血液型別の差を計算してみたのが次の表です。

物事にこだわらない →最高値が赤 →最低値が青

年度

O A B AB 最大と
最小の差

1980

-1.8

-3.0

4.2

0.7

7.2

1982

3.2

-3.0

-0.3

0.2

6.1

1986

1.9

-5.3

1.2

2.3

7.9

1988

2.7

-4.4

4.9

-3.2

9.2

平均

1.5

-3.8

2.5

-0.1

6.3

最大と
最小の差

5.0

2.3

5.2

5.4

-

平均での
A型との差

5.3

0.0

6.3

3.7

-

平均での
B型との差

-1.0

-6.3

0.0

-2.6

-

 なるほど、松井さんのいうように、年度・血液型によってかなりバラツキがあるようですね。それではというので、実際に計算してみると、これらのデータの誤差はだいたい7%程度(信頼度95%)になります。誤差って結構大きいものですねぇ。
 細かいことをいうと、O・A型では7%より小さく、B・AB型で7%より大きくなり、結局はA<O<B<ABの順になります。確かに、バラツキ(下から3番目の行→太字)が見事にA<O<B<ABの順になっていることが分かります。

 A型と他の血液型の差は、4年分の平均で3.7〜6.3%(ちなみに、この平均値の誤差は信頼度95%で3.6%程度です)ですから、(最大で)7%程度の誤差があっても順位は(たまたま)逆転しませんでしたが、O・B・AB型の間では同じ差は1.0〜2.6%ですから、7%程度の誤差があれば順位の逆転は割と簡単に起こるはずです。

 つまり、「『物事にこだわらない』という項目に各年度共通で差が出ましたが、A型の人で『あてはまる』とした人が一貫して少なめだったのに対して、高い肯定率を示している血液型は次々変化して一貫していません。」というのは当然というのが私の結論です。


 実は、この記事の中には、長谷川芳典さん、原野広太郎さんも否定的な結論を導いているとの記述があります。松井さんと同じで、やはり「統計的に差がない」というのが論拠となっています。しかし、本当はこれはおかしいのです。

 長谷川さんの論文は1985年、原野さんは1989年ですから、坂元さんによると「血液型ステレオタイプ」が日本に定着した時期に当たります。となると、「統計的に差がある」という結論が出ないとヘンです。しかし、実際には「統計的に差がない」ということなのですから、実験・分析方法に問題があった(?)というしかありません(失礼!)。

 これについても、木元さんの判断は書いていないのでなんとも言えません…。はて?


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最終更新日:平成11年6月6日