野上康子さん[(株)教育測定研究所]の論文を読んでみたのですが、なかなか面白いので皆さんに紹介しておきます。
原題: 野上康子 血液型ステレオタイプに関する研究 日本心理学会第70回大会発表論文集 p101 2006年
【アブストラクト】
短縮版 Big Five 形容詞チェックリストを用いて血液型ステレオタイプを調べた.先行研究と共通するステレオタイプが観察されたが,自己評定では血液型と性格との間にはっきりした関係が見られなかった.
この論文の結論は単純です。
血液型ごとの「印象」を質問してみたところ、A型は内向的、O型は外交的、B型は協調性が低い…といった「血液型ステレオタイプ」が見事に現れました。
これらは、一般的に言われているものと同じです。
しかし、同じ質問項目で、自分の性格を回答してもらっても、血液型と性格にはっきりとした関係は確認できませんでした。
結果として、血液型と性格に関係があるとは言えない、ということになるはずなのですが…それは読んでのお楽しみです。
では、もう少し詳しく紹介しちゃいますね。(^^)
被験者 大学生189名 [2004年95名…男性38名+女性57名、2005年94名…男性51名+女性43名]
質問紙 20項目の形容詞からなるBig Fiveチェックリスト [次の6つが対象のため、延120項目]
ここで、質問項目がどんなものか、イメージをつかむために推測してみました。
[注:実際の質問項目とは違います]質問項目のイメージ (*は逆転項目)
外向性 話し好き、無口な*、陽気な、外向的な 情緒不安定性 悩みがち、不安になりやすい、心配症、気苦労の多い 経験への開放性 独創的な、進歩的、洞察力のある、想像力に富んだ 誠実性(勤勉性) いい加減な*、ルーズな*、怠惰な*、計画性のある 調和性(協調性) 温和な、寛大な、親切な、協力的な 出典:和田さゆり 性格特性用語を用いたBig Five尺度の作成 心理学研究 第67号 1996年
評定の対象 A、O、B、ABの4つの血液型と、被験者本人 [授業の担当教員も対象ですが、論文中にデータはありません]
手続き 被験者に次の順番で回答してもらいます
こうして得られた20項目の回答を使って、「外向性」「情緒安定性」「経験への開放性」「勤勉性」「協調性」の5つの尺度の得点を計算します。各尺度は4項目で構成されるので、数値は4〜20の整数となります。ただし、逆転項目では、点数を逆転させて計算することになります。
さて、4つの血液型に対する評定[Table 1]は、すべての血液型に対して回答があったものだけを使うので、有効サンプルは90名となりました。
同様に、被験者本人について回答も、有効サンプルは112名となりました。
意外に、回答漏れがあるのですね。(*_*)
では、お待ちかねの「血液型ステレオタイプ」の結果を書いておきます。
Table 1 血液型に対する評定の平均値及びSD →最高値が赤 →最低値が青
特性\血液型 A B O AB 外向性 12.8(2.7) 13.8(3.2) 16.3(2.8) 13.0(3.3) 情緒安定性 10.2(2.2) 12.8(2.0) 12.6(2.2) 12.2(1.9) 経験への開放性 12.3(2.7) 13.9(2.5) 13.4(2.1) 15.3(3.2) 勤勉性 16.0(3.1) 10.2(3.2) 9.6(2.8) 11.8(2.5) 協調性 14.6(2.8) 11.5(2.2) 15.2(3.3) 12.5(3.3) ( )はSD N=90
多変量分散分析では血液型の主効果が1%水準で有意
最終的に、Bonfferroni法による多重比較を行って、
という(ほぼ予想通りの?)結果になりました。意外と差が出ているようですね。
これに対して、「自己評定」の結果はこんな感じです。
Table 2 血液型に対する評定の平均値及びSD →最高値が赤 →最低値が青
特性\血液型 A B O AB 外向性 14.3(3.4) 11.5(3.8) 14.0(2.8) 13.6(3.7) 情緒安定性 8.9(2.1) 9.7(2.3) 10.7(2.8) 8.8(2.9) 経験への開放性 12.6(2.8) 11.9(3.2) 12.3(2.5) 12.8(3.2) 勤勉性 11.2(3.3) 11.2(2.9) 10.0(3.1) 10.6(3.7) 協調性 14.7(2.5) 11.2(2.9) 14.1(3.0) 14.9(2.6) 人 数 50 20 30 12 ( )はSD N=112
多変量分散分析では血液型の主効果が5%水準で有意
多重比較を行って、
という結果が得られました。
そして、考察として、
血液型ステレオタイプとして、先行研究と共通する傾向が見出された。自己評定に関しては一部で有意差が観察されたが、各血液型で目立った傾向は観察されず、血液型ステレオタイプと一致するような傾向はないといって良いだろう。
つまり、血液型と性格は関係ない、という結論になっています。
でも、この論文のTable 2を見ると、奇妙なことに気がつくはずです。
なぜなら、血液型ステレオタイプ[Table 1]と性格の自己評定[Table 2]では、前者で有意差のあった6つのうち、後者の3つで同じような結果が出ているからです。
【同じような結果】
A型:勤勉性が他より高い こうなると、どちらかというと「再現性があった」と結論づけた方が妥当ではないでしょうか? [H21.12.25一部変更] |
疑問に思ったままではいけないので、もう少し詳しく分析してみることにしましょう。
まず、Table 1の結果とTable 2の結果が比較がヘンです。
Table 1の結果とTable 2の結果は同じ基準で比較するべきでしょう。
しかし、奇妙なことに野上さんはそうしていません。
というのは、Table 1の多重比較では、最も数値が高い(低い)1つの血液型に対して、残りの3つの血液型をまとめて比較――つまり
血液型ステレオタイプの比較――をしています。
が、Table 2の多重比較では、個別の2つの血液型の比較――つまり血液型ステレオタイプの比較ではない――をしているのです。
不思議ですよね?
Table 1の基準に合わせるなら、Table 2でも、ある血液型に対して残りの3つの血液型をまとめて比較しないといけません。
そして、それは、上の「同じような結果」に書いたとおり、かなり一致しています。
実は、検定力を計算すればわかりますが、Table 2で個別の2つの血液型同士の多重比較をしても、正しい結果が
期待できるのはどう考えても半分以下、いや数分の1と言っていいでしょう。
なぜなら、サンプルが少なすぎるからです。
従って、野上さんのように、Table 1の結果とTable 2の結果を比較しても、――残念ながら――あまり意味はないのです。
では、どうすればいいのでしょうか?
細かいことをいうとキリがないのですが、傾向を見るだけなら簡単です。
Table 1の基準に合わせて、Table 2でも、ある血液型に対して残りの3つの血液型をまとめて比較すればいいのです!
自己評定の結果…A型
それでは、まずA型で比較してみましょう。
しつこいようですが、厳密な計算ではありませんので、あくまで傾向を判断するだけです。
さて、A型の「血液型ステレオタイプ」は、
の3つで、1つを除いて同じ傾向を示しています。
A型とそれ以外の血液型の比較
特性\血液型 A O+B+AB 差 p 結果 備 考 情緒安定性 8.9(2.1)
10.05(2.65) -1.15 <0.05(0.02) ○ 危険率5%で有意
経験への開放性 12.6(2.8) 12.25(2.95) 0.35 -
× Table 1と差の傾向が逆
勤勉性 11.2(3.3) 10.50(3.07) -0.70
-
△ Table 1と差の傾向は同じ
[O+B+ABは加重平均]
自己評定の結果…B型
次に、B型の「血液型ステレオタイプ」は、協調性が他の血液型より低い、です。
残念ながら、危険率5%では有意になりません。
B型とそれ以外の血液型の比較
特性\血液型 B A+O+AB 差 p 結果 備 考 協調性 13.2(2.8)
14.50(2.70) 1.30 <0.05(0.049) ○
危険率5%で有意 [A+O+Bは加重平均]
自己評定の結果…O型
次に、O型の「血液型ステレオタイプ」は、外向性が他の血液型より高い、ですが、傾向は一致するものの、これまた有意にはなりません。
O型とそれ以外の血液型の比較
特性\血液型 O A+B+AB 差 p 結果 備 考 外向性 14.0(2.8)
13.40(3.56) 0.60 -
△
Table 1と差の傾向は一致 [A+B+ABは加重平均]
自己評定の結果…AB型
最後に、AB型の「血液型ステレオタイプ」は、経験への開放性が他の血液型より高い、です。
残念ながら有意差はありませんが、傾向は一致しています。これは、AB型のサンプルが12人と少ないからかもしれません…。
AB型とそれ以外の血液型の比較
特性\血液型 AB A+B+O 差 p 結果 備 考 経験への開放性 12.8(3.2)
12.36(2.50) 0.44 - △
Table 1と差の傾向は一致 [A+B+Oは加重平均]
まとめ
以上の結果から、4つの血液型すべてをまとめてみたのが次の表です。
自己評定[Table 2]と血液型ステレオタイプ[Table 1]の比較
特性\血液型 Table 2
比較元Table 2
比較先Table 2
の差効果量 p 結果 Table 1
での差備考 A 情緒安定性 8.9 10.2 -1.2 0.5程度 <0.05 ○ -2.4 A 経験への開放性 12.6 12.3 0.3 -
× -1.6 Table 1と差の傾向が逆
A 勤勉性 11.2 10.5 0.7
0.2程度 - △ 5.8 Table 1と差の傾向は一致 B 協調性 13.2 14.5 -1.3 0.5程度 <0.05 ○
-3.1 T O 外向性 14.0
13.4 0.6 0.2程度 - △
3.0 Table 1と差の傾向は一致 AB 経験への開放性 12.8
12.4 0.4 -
△
2.0 Table 1と差の傾向は一致
自己評定とステレオタイプの比較では、違うのはA型の経験への開放性ぐらいで、他はだいたい同じ傾向が出ていると考えてよさそうです。
やった〜〜! v(^^)
念のため、この差の部分の分布図を示しておきます。
相関係数は0.82ですから、なかなかいい線を行っている、といったところでしょうか…。
#念のため、差の単純同士で計算しても、0.7程度になります。
閑話休題。
自己評定の効果量[effect
size]を計算してみると、有意になったA型の情緒安定性とB型の協調性が0.5程度です。また、有意にはならないものの、A型の勤勉性とO型の外向性は0.2程度です。
面白いことに、χ2検定と効果量(effect size)では同程度[中程度/r=0.3/d=0.5]です。
#ちなみに、山岡さんの論文でも“有名”な特性については、ほぼ同じような結果が出ているようです。
それと、質問項目を読んで判断する限り、B型は協調性が低い⇒「マイペース」、A型は情緒不安定が高い⇒「神経質」 、AB型の経験への開放性が高い⇒「一風変わった」ということのようです。O型が外向的なのは説明不要でしょう。
いやはや、どうも。(^^;;
再び相関係数
kikulogの血液型性格判断問題についての確認というエントリーの議論で、上の相関整数の計算が恣意的なのではないか?という質問がありましたので、もう一度計算してみることにしました。
> 1805. Ryo February 10, 2013 @11:20:40
> 少なくとも、野上氏の論文に対するABO FANさんの解釈が間違っていると指摘されている点については、ほとんどクリアになっていないのです
自分で計算しない人に何を言われても…。(苦笑)
それではということで、Table 1とTable 2の全部(5項目×4血液型)について相関係数を計算してみると0.54です。
AB型が12人ではあまりに少ないので、試しにAB型を除いて相関係数を計算してみると0.62です。
そして、ステレオタイプのあった6項目ですが、
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Bonfferroni法による多重比較を行って、
A型: 情緒安定性が他の血液型より低く、勤勉性が他の血液型より高い。また、経験への開放性が他の血液型より低い
B型: 協調性が他の血液型より低い
O型: 外向性が他の血液型より高い
AB型: 経験への開放性が他の血液型より高い
多変量分散分析では血液型の主効果が1%水準で有意
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Table 1とTable 2で相関係数を計算すると、0.86です。
「統計的に差がある」「統計的に差がない」のどちらがフィットするか、考えるまでもないでしょう。(笑)
私は、だから月の駱駝さんは沈黙したのだと思っています。
ということなのです。
そこで、試しに分布図を作ってみたのですが、驚くべきことに…
Table 1で有意差があった項目は赤い○で示しています。
どう考えても、これでは「相関がない」とは言えないでしょう!
サンプルが少なくとも、意外といいセンを言っていると思いませんか?
AB型に青い○が付いているのは、サンプルが12人と少ないので、バラツキが大きいかどうかチェックするためです。
やはり、他の血液型よりはバラついているようで、AB型を除くと相関係数が0.54→0.62と、ちょっとだけ大きくなります。
まぁ、これは見かけ上のことだと思いますが…。