あいさつ
建築で、地盤・基礎構造はなじみが無いと思います。どんな立派な建物でも、残念ながら「この建物の基礎は良いね!」とほめられることはありません(そもそも基礎は見えない)。しかし、すべての建築物は地盤の上にあります。基礎にトラブルが発生すると建物が傾き、大問題になります。地盤・基礎構造は、「縁の下の力持ち」、「オーケストラのコントラバス!」のような存在なのです。
建築分野では、地盤・基礎構造はマイナーな存在です。決して華やかな分野ではありません。地盤・基礎構造の魅力は何か?
1. 未知な現象が多い
地盤は自然の産物、場所によって地盤条件は異なります。地盤はせん断によって収縮もするし、膨張もします。そこに水があると、挙動はさらに複雑になります(緩い飽和砂にせん断が加わると液状化する)。また、粘土と砂では挙動がまったく異なります。そんな地盤と接している杭基礎や直接基礎の挙動は、とても複雑です。研究すればするほど、未知なことが出てきます。教科書に載っているような基本的な問題でさえ、実験をしたら全く違う挙動をしてしまった・・・という経験も多々あります。変な(予想と違う)実験データを詳細に分析すると、新しい現象が見えてくることがあります(もちろん、単なる誤差の可能性も・・・)。未知な現象を解明することは、研究の根本的な面白さだと思います。
2.社会に貢献できる
工学では研究成果が社会に貢献する必要があります。私が以前所属していた京都大学防災研究所では、「論文を出版することも大事だけど、社会から災害を軽減するのが最重要」という空気がありました。その通りと思います。残念ながら大地震が発生すると、液状化や杭基礎の破壊によって、多くの建物が沈下・傾斜しています。人命が失われなくても、日常生活や住まいを失うことは大変な痛手です。何とかしなければいけません。地震だけではなく、最近の都市部では前の建物の古い杭基礎(既存杭)の扱いが問題になっています。このままでは、22世紀に負の遺産を残しかねません。都市部の持続的使用のためにも、地盤・基礎構造の知見は必要です。
3.専門家が少ない
日本の大学の建築学科で、地盤・基礎構造の教員は少なく、現在、絶滅が危惧されています。地盤・基礎構造が分かる技術者・研究者は明らかに少ない。しかし、すべての建物は地盤・基礎構造で支持されています。もちろん、一般的な地盤・建物では、マニュアルによれば基礎の設計はできます。しかし、それは過剰設計、または危険な設計になっているかもしれません。また、基礎の選択によって建設コストに大きな差がでます。敷地内に地下鉄が通っていて、それを跨ぐ基礎工事も行われています。そのような事例に対しては、マニュアルの知識では対応できません。いかにコストと時間をかけずに安全に設計・施工するかは、まさに「プロフェッショナル」な仕事です。
田村 経歴
1984 3: 神奈川県立横浜翠嵐高等学校 卒業
1985 4: 東京工業大学工学部6類 入学
1989 4: 東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程社会開発工学専攻 入学
1991 4: 東日本旅客鉄道株式会社入社
1993 4: 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程建築学専攻 入学
1996 3: 東京工業大学博士(工学)学位取得
1996 9: 科学技術庁防災科学技術研究所 研究員
1999 4: 信州大学工学部社会開発工学科(建築コース)助教授
2004 4: 京都大学防災研究所 助教授
(2013-2014:University California Davis, Visiting Scholar)
2014 4: 東京工業大学理工学研究科建築学専攻 准教授
2021 1: 東京工業大学環境・社会理工学院 建築学系 教授