水琴窟の興趣                                         岡森利幸   2011/11/2

                                                                  

それまて私は水琴窟(すいきんくつ)に気にも留めていなかったのだが、庭園の片隅にひっそりと設えられた音響設備を見つけると、興味を持って近寄り、その水滴の音に聞き入っている。

「水滴の音など、たいしたことはないだろう」という先入観を持ってはいけない。それでは、秋の虫の音に聞き入る日本の風雅に触れることはできない。

水琴窟は、一般的に、日本庭園の片隅にあり、表示板や立て札がないと見過ごされてしまうほど目立たない存在だ。そこには岩や石が配され、手水のためのような一角になっている。水を蓄える水盤と、たいていの場合、ひしゃくが置かれているから、手を洗う場所だと思うかもしれない。はなはだしい人は、古式の「簡易トイレ」だろうと思い違いをするかもしれない。その水は飲むものでも手を洗うものでもなく、実は単に、敷き詰められている足元の玉石に流し込むためのものなのだ。

そうすると、その下の方から、かすかな音が響いてくる。

「キン、キン……カーン」

体をかがみ込んで、耳を傾けないと、聞き逃してしまうほど、小さな音だ。そんな高音質の、すみきった音を昔から日本人は好んできた。

なぜそんな金属音が響いてくるかというと、その地中にかめやつぼが埋め込まれて、その空洞が、したたる水滴の音を反響させているからだ。辞書(広辞苑)によると、江戸時代の庭師が考案したものだという。それが庭造りの一つのアイテムとして取り入れられ、全国的に広まったのだろう。

 

私が水琴窟を知ったのは、本年(2011年)6月に訪れた川越の郷土博物館の中だった。それは中庭にあり、私のように無粋な人のために、詳しく説明されていた。それから水琴窟を意識して庭園や神社仏閣を巡ったりしていると、それに出会うことがときどきある。神奈川県庁近くの横浜公園にあったし、しばられ地蔵で有名な東京・葛飾区の南蔵院にもあった。興味を持って聞いているうちに、〈洗練された、清らかな音だ〉と認識できるようになっている。地の底が響いてくる、かすかな音に耳を澄ますのも、なかなかの趣があるのだ。

 

 

一覧表にもどる  次の項目へいく

         ナイフ作り