死の言い換え                                                       岡森利幸   2011/8/3

                                                                  R3-2013/9/10

ある日、英字新聞を読んでいたら、Recycling bras kills two birds with one stoneという見出しに目が止まり、一瞬どきりとした。リサイクル商品のブラジャーに何か欠陥があって、二羽の鳥(ニュースになるぐらいだから、トキのような貴重な鳥か?)を殺してしまったのか。

実はそうではなかった。「一つの石で二羽の鳥を殺す」という比喩表現を使っており、文字通り「一石二鳥の役わりを果たしている」という意味なのだ。一石二鳥ということわざが、アメリカでも通用するとは面白い。アメリカ人も同じ発想で、比喩的表現をしているのかもしれないし、あるいは「一石二鳥」の言葉が欧米に伝わって、その語句が使われるようになったのかもしれない。

語源はともかくとして、問題なのはkillという単語だ。一般的な日本人なら、killのかわりにgetを使うところだろう。西欧人は、killの語に「変なこだわり」をもたずに、災害や事故でも死亡する人がいたら、killを用いて、「台風が10人を殺した」、「事故で3人が殺された」などという文章表現をしている。日本はそんなときでも、「死亡した」という表現が使われることがほとんどだ。

日本でも、はめ殺し、飼い殺し、息を殺す、声を押し殺す、殺し文句、悩殺する、目で殺す、などという使い方があり、「殺す」の語に、抑圧する、魅了するなどの意味をもたせることがあって、平和的な用法もあるのだが……。

野球場では、選手を殺すことが日常茶飯事だ。――走者を殺す、併殺にする。殺すというより「アウトにする」という言い方が一般的になっているけれど……。

単に「死亡」と表現するのでは、その主語が何かということを限りなくあいまいにしてしまい、主語となるべき「主体」を示さないから、文章的に正確性に欠けるというものだろう。「殺」で表現するほうが正確になると思うのだが、「殺」を使うことに躊躇される傾向がある。やはり日本では「殺」は生命を奪うことであり、仏教的な倫理観に反するから、残虐さや犯罪行為的なニュアンスが付きまとっているのだろう。近年、毎年3万人以上の自殺がある日本では、自殺者の親族がその死因を発表するときは、「自殺」では恥ずかしいからか、「心不全」というあいまいな表現をすることもある。そのために最近で「自殺」の言葉を避けて、「自死」に置き換えたりしている。「殺」の語が嫌われているのだ。

「自死」には「自然死」に近いイメージになるから、私としては自死にまだ違和感がある。「殺」の代わりとなる言葉を捜すと、「自決」が思い浮かぶ。その方がよほど真意に近い。

 

 

以下は、夏休みの自由課題研究の一つのつもりで、死についての言葉をまとめてみた。死を意味する言葉を集め、分類してみた。

人々は年齢を経るにつれて、知人の死、あるいは身近な人の死に遭遇する機会が増えるもので、特にそれを伝えるときに死を意味する言葉を使わなくてはならない。たとえば、「xxさんが死んだよ」と伝えるのは、余りにも散文的で、軽々しすぎる。もっと言葉を選んで伝えたいものだ。そんなときにこの「研究」は役に立つかもしれない。

死の言葉には、比喩的表現が多いことに気づく。「死ぬ」は忌み言葉になっていて、直接的には用いない習慣がある。最も一般的な表現「お亡くなりになる」にしても、もともとは、「無」になったことを意味する。つまりこの世界から消えたことだ。「消えた」と言う言葉で死を表現している。死というものに人は恐れを抱いていることもあって、直接いうのでなく、間接的に(婉曲的に)言う場合が多い。「死」を口に出すことが、はばかられるのだ。「死」は忌み嫌われている言葉の最たるものかもしれない。

 

大項目

小項目

語句

備考

生命を主眼として

失う

命を失う

 

 

落とす

命を落とす、落命

 

 

消える

命が消える

小さな命が消える 

 

終える、

生を終える、早世する

 

 

尽きる

寿命が尽きる

 

 

全うする

天寿を全うする

 

 

絶つ、絶える

命を絶つ、絶命する

 

 

捨てる

命を捨てる

 

 

散らす

命を散らす

 

比喩的表現(1)

無になる

死亡、無くなる、亡くなる

 

死を別の動詞に置換

行く、逝く、去る、往く

死去、逝去、急逝、夭逝(ようせい)

 

 

故する

物故する

 

 

赴く 

往生する、大往生

 

 

折れる 

夭折(ようせつ)

 

 

閉じる

生涯を閉じる

 

 

旅する

旅立つ

 

 

終わる、()わる

臨終、終焉、(そつ)する

「卒」で死亡の意

 

斃れる(倒れる)

路斃、行き倒れる

 

 

隠れて見えなくなる

(ぼっ)する、(みまか)る(薨去)

「没」で死亡の意

 

散る

花と散る、戦いに散る

 

 

砕ける

玉砕する

軍隊が戦いに敗れ、全滅すること

 

殉ずる(従う)

殉死、殉職、殉教

 

 

あとを追う

(すでに死んだ人の)あとを追う

 

 

犠牲になる

犠牲者

災害や事故による死にときどき適用される

比喩的表現(2)

婉曲的な言い方

身体的特徴から

 

 

 

 

永眠する、永遠の眠りにつく

 

息を引きとる、息絶える

 

瞑する、目を落とす

 

遺体となる

 

無言の帰宅を果たす

 

 

文学的、慣用句

星になる

 

 

(星にたとえる)

巨星落つ

 

 

死後の世界を意識する(魂の行き先) 

他界する、あの世(冥界、冥土、冥途)へ行く、すでに死んだ人(たとえば母)のところへ行く、遠くへ行く、向こう岸へ行く

 

 

 

黄泉(よみ)の世界に旅立つ、黄泉(よみ)の国に行く

 

 

 

極楽浄土、天国へ行く、昇天する

 

 

 

お迎えが来る

 

 

死後の世界へ行ってしまったことから

帰らぬ人となる

 

 

絶対的神を意識する

神の元へいく

 

 

 

天に召される/神に召される

 

 

仏教的な慣例から

鬼籍に入る

鬼籍は寺の過去帳

 

 

仏になる、成仏する、

 

特別表現

仏教界

涅槃

消滅の意

 

 

滅する、入滅

 

 

 

(じゃく)する、入寂、寂滅

「静止する」の意

 

 

定まる、入定

 

 

 

遷化する

他へ移る

 

皇族、貴族

(ほう)じる、崩御

(くず)れる」の意

 

 

(みまか)る、(こう)ずる、薨去、薨逝、

「見えなくなる」

 

 

(かみ)()がる、登遐する

天に昇る

 

 

(かく)れる

 

 

口語的

くたばる

命令形でよく用いられる

 

(使用すると、無礼となる)

地獄に落ちる

 

 

 

おだぶつとなる

諧謔的な言い回し

 

死者の体が遺族の元へ運ばれるとき、ニュースなどでは「無言の帰宅を果たす」という慣用句がよく使われる。「死体が遺族に戻された」などという表現は絶対に使われないのは、「死体」が忌み言葉だからだろう。その他、「見送る」という言葉も、他人の死に接したときや、その知らせを受けて葬儀に参列した経験を持ったときに使われる。

なお、「享年」は、死んだときの年齢を指すが、本来の意味は「天から受けた年数(寿命)」。

 

 

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