最新言葉の研究(1)

           岡森利幸    2010/4/20

 

  @テンション

私は、テンションという言葉の使われ方が前から気になっていた。やたらとはしゃいで上機嫌な人を指して、テンションが高いという。しかし本来、テンションは英語でtensionであり、その語義は、引っ張ることだ。テンションが高まるとは、ある二つの間で「緊張」が高まることであり、警戒感を伴って、険悪な空気がながれるような状態のことをいうはずだと思っていた。ところが、日本のテレビ業界などでは、「陽気にはしゃぐ」状態をテンションが上がるなどと言っており、どうも腑に落ちないことだった。辞書をいくら調べても、「陽気にはしゃぐ」という意味は出てこないのだ。英語の本来の意味とは別の意味になってしまった和製英語の一つとして解釈するしかないのだろうか、と思っていた。

最近、村上春樹の本(「ノルウェーの森」の英語版)を読んでいるうちに、辞書で、heightened sense という語句を見つけた。直訳すれば、「高められた感情」、つまり昂揚感だ。日本で広まっている「テンション」と同じ意味であることに気づいた。おそらくheightened senseでは、日本人には発音しにくいから、ハイテンション(high-tensionというと、英語の辞書には、高圧電線を意味するとある)にして、さらに、「ハイテンションを上げる」というと、重ね言葉になってしまうから、「ハイ」を取って、テンションを上げるというようになったのだろう。

少々強引な解釈だったかもしれないが、自分なりに納得できたことで、テンションがすこし上がった。

 

  Aボキャ貧

ボキャ貧が「ボキャブラリの貧困」の短縮言葉だということを、私はつい最近知ったのだが、新聞記者もその記事の中でその言葉を書いていたのには驚いた。厳密にいえば、他人の話し言葉の引用だが……。

毎日新聞夕刊2010/2/2の特集ワイド、『だます女』の中で、「ちまたの女性はどんどん強くなり男性的になった。キャバクラに行ってみたものの、美人だがボキャ貧で会話が続かないホステス相手に気を使ってかえって疲れた、と愚痴る男性が多い。……」と書かれていた。

私は、会話が続かないのは、ボキャブラリが貧困なわけではなくて、単に話題がないだけだろうとつっこみを入れたくなる。あるいは、会話を盛り上げるための機知に乏しいためだろう。若者たちの間で「ボキャ貧」と言えば、相手からワンパターンの応答しか返らず、会話が進展しそうもない場合によく使われるようだ。ボキャブラリが貧困である彼らには、会話が続かないことを表現したければ、すべて「ボキャ貧」と言えばいいのだろう。

逆に、ボキャブラリが豊富といえば、多くの言葉や表現方法を知っており、微妙なニュアンスの違いを使い分けて的確に表現することだろう。ボキャブラリは豊富なのだが、あれこれ考えて、的確な言葉がすぐに出てこない場合も、ボキャ貧ということになりそうだ。単に「ボケ」かもしれないが。

 

Bすべらない話

「すべらない話」とは、どんな話なのか、理解に苦しむ人がいるだろう。私もその一人で、少々悩んでしまった。だいたい、話が「すべる」という状態を想像することができなった。最近「すべらない話」とは、「笑える実話」という意味だと新聞のコラム記事に解説されていた。しかし、その答えを知った後も、なぜそんな意味になるのかわからなかった。

そこで私はインターネット検索で調べてみた。その結果、「すべる」とは、お笑い芸人たちの業界用語の一つであって、観客の前で冗談を言ったりギャクをとばしたりして笑わせようとしたけれど、ぜんぜん笑ってもらえなかった時に使う言葉だという。つまり観客に受けなかったことを「すべる」と言い、笑わすことに失敗した意味で用いられる言葉なのだ。その否定形の「すべらない」は、笑ってもらえるという意味になる。特に、「すべらない話」は、彼らが見聞きした実話に限定して使われ、テレビ番組のタイトルにもなっているという。

お笑い芸人たちの間でしか通じなかった符丁を、テレビを介して広く世間に通じる言葉にしてしまうところに、彼らの勢いが感じられる。

 

 

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