カラスなぜ鳴くの

岡森利幸   2010/10/19

     R1-2010/10/22

 

カラスなぜ鳴くの?

カラスの勝手でしょ

 

かつて一世を風靡(ふうび)したお笑いグループ「ザ・ドリフターズ」のギャグの一節だ。しかし私には、今でもギャグとしてのおかしさが感じられない。曲名「七つの子」という歌のもつ、本来の郷愁がこめられた旋律が、突如「カラスの勝手でしょ」というフレーズに置き換えられ、その歌の雰囲気がぶち壊されることのおかしさはあるかもしれない。私はむしろ、歌の雰囲気がぶち壊されたことで不快な感情さえ、わき上がる。

この歌は、その出だしで、カラスなぜ鳴くの?という、そぼくな疑問が提起されている。そして、里山の風景の中で、一つの愛らしい答えに導びかれる。懐かしい子どもの頃の情景の世界に入りこみ、一つの疑問が解かれることで、安堵さえ感じられる歌になっている。

しかしながら、ギャグで「カラスの勝手でしょ」と言い返すのは、なぜという質問に対し、ある種の反感をいだき、質問をさえぎっているのだ。

カラスの勝手でしょ」を言い換えると、「そんなこと、カラスの勝手だから、オレは知らん」ということだ。質問の回答を一方的に拒否している。そして、明らかにいらだっている。その答えを知らないことにいらだっている。

「なぜ鳴くのかは、カラスだけが知っていることだろ。オレの知ったことか。どうしても知りたけりゃ、カラスに聞いてみな。オレに聞かないでくれ」と突っぱねているのだ。知らなければ、あれこれ想像してみるという発想ができない人は、そんな反応を示す。

知らないことへのいらだちと、もう一つ、質問に対する反発がある。「鳴いて、なぜ悪い?」と反発しているのだ。その質問を「鳴くことはよくないことだ」という意味でとらえている。

「おまえ、なぜ、こんなことができないんだ?」あるいは「キミ、そこで何やっているんだ?」という疑問文で話しかけられると、自分がなじられたかのように思ってしまい、そぼくな疑問であっても、『文句』を言われたと思ってしまう。完全に質問を取り違えているのだ。

そんな人は、質問されると、条件反射的に、自分の落ち度を指摘されたかと思い(おそらく、いつも叱責を受けているものだから)、つい身構えてしまう習性がついているのだ。質問者が上位者なら、へつらうかのように、ぺこぺこ謝ったりするのだが、質問者が下位者だったら、手のひらを返すように逆質問してみたり攻勢に出たりする、いやな性格の人なのだ。おそらく、このギャグを考えついた人(ギャグ作家)は、上司のプロデューサーなどに、

「テメー、次の放送の制作期限が近づいているのに、ギャグの一つや二つ、なぜ頭に浮かばないんだ?」と質問され、常にプレッシャーをかけられていたから、こんな下手なギャグをひねり出したのだろう。

カラスなぜ鳴くの?

オレの勝手だろ? 鳴いて悪いか?

 

ひらきなおられたのでは、二の句が継げない。そんな答えをする人には、問いかけない方がよさそうだ。

この歌の場合、作詞者は、カラスが山林の中の巣で待っている七羽の子どもたちに、「今、帰るよー」と声をかけていると解釈している。

私なら、鳥が鳴くのは集団の中の仲間に合図するというのが基本であり、場面によって異なる意味があると思う。縄張り意識を持って自分の存在を知らせる、外敵の接近で注意を喚起させる、そして繁殖期には、自分をアピールするためなどだ。私は、夕方に鳴くのは、「もう帰ろう」という意味の、仲間への合図だろうと答えたい。カラスは集団行動をしている賢い動物なのだ。

 

 

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