GPSにここはどこかとたずねれば                         岡森利幸   2011/4/13

                                                                  R1-2011/5/5

朝、眠りから覚めたとき、自分がどこにいるか、数秒、考えてしまうことがある。辺りを見回わせば、見覚えのあるものが眼に映るので、だいたいは分かる。辺りに見覚えのないものばかりだったら、困惑してしまうだろう。そんなとき時間については、時計を見ればいいが、場所(あるいは空間)についてはどうか。

今日ではGPS(global positioning system)があるから、GPSを見ればいいことになっている。見覚えのない土地へ行ったとき、頭の中では地図を思い描き、自分のいる地点の見当をつけて進み、場所を示す看板や標識を見てそれを確認するか、あるいはその辺にいる人に道を尋ねればいいのだが、それが困難ならば、GPSを見るのが一番早いし、確実だ。便利な世の中になった。

私は以前、ナビゲーション・システム(ナビ)付きの車に乗っていて、その便利さを知ったものだから、その後に買い換えた車にそれがないことに心細さを感じることがある。不案内な道路を走る機会があるとき、前もって地図を調べていたにしても、間違った道を走ってないだろうかという猜疑心と不安をかかえながら走ることになる。そんなときは、先方に到着時間を知らせていたりするものだから、道を間違えて後戻りでもしたらたいへんだというプレッシャーも加わる……。

ナビは文明の利器の最たるものかもしれない。なにしろ、宇宙空間を飛ぶ複数の人工衛星からの電波情報から、地上の正確な位置が計算で求められるのだ。GPSの表示装置には、地図の上に現在地点と進行方向までもが示されるのだから、すばらしい。中には、音声で道案内をしてくれるナビもある。目的地を設定して出発すると、分岐点に差しかかる際に「次の交差点を右に曲ります」などと指図してくれるのだ。GPS付きの車に乗り慣れて、この便利さを知ってしまうと、もう現代人はGPSなしの車には乗れなくなるようだ。

ナビの基本技術はGPSであって、もともとは軍事目的に開発されたシステムだ。相手の位置や味方の位置を正確に把握し、ターゲットにミサイルや爆弾を正確に打ち込むためにある。上空の複数の人工衛星からの電波を受信して計算すると、位置(地球上の測位)が求められる仕組みだ。その軍事技術が民間に転用され、しかも安価(ほとんど(ただ))で利用できるようになって、急速に普及することになった。この技術の応用は広く、現代生活に欠くことのできないものになりつつある。将来、人々はGPSに頼り切って、土地勘が鈍ることにもなり、知らないところに出かけた際、GPSなしには人々は本当に路頭に迷うことになりそうだ。ただし、欠点として、GPSの電波は弱いので建屋の中や地下にいると、測位できない。

 

私の現用の車ではその恩恵に(あずか)かれないので少々くやしいが、普段、市内をうろうろ走るだけで、たまにしか行かない遠出のためにナビを取り付けるのはもったいないことだから、それを購入しようとは考えていない。ある日、その代わりとして、ときどき外に持ち出しているモバイル・パソコンにGPS受信機を付けてみようと思い立った。そこで、地図ソフト付きの旧型受信機(GPSレシーバー)をセットで比較的安く購入した。その地図ソフトにも期待していた面があるのだが、詳細部分がかなり省かれた「簡略版」だったので、ややがっかりだった。ともあれこれで、そのモバイル・パソコンを持ち歩けば、いつでもどこでも自分の場所がその地図上に印されるから、道に迷うことはないのだし、車に積み込めば、カーナビの代わりになるのだ。私は見知らぬところへ行く機会はそんなに多くはないから、実用上どれだけ役に立つのか分からないが、遊び感覚で購入してみた。

しかしながら、モバイル・パソコンにはそれなりに重量と大きさがあり、重いバッテリーをつけると持ち運びには相当負担になるから、気軽には持ち出せない。それよりも、ポケットの中に入るスマートフォン(高機能携帯電話)や高機能携帯端末などにもGPS機能が備わっているというから、もう時代はスマートフォンだろう。GPS機能が内蔵された新型パソコンはともかく、既存のパソコンにGPSを外付けするのは()()らず、もう時代に取り残されているような状況であって、自慢にもならないのだ。

2010年11月に新しく購入したわがデジタル・カメラにGPS機能が付いていた。そのために買ったわけではなく、たまたまついていた付録のような機能だ。写真を撮った時の場所が画像データとともに記録される仕組みになっていて、その画像を見るときにどこで撮ったかが、パソコン上で分かるのだ。試しにやってみたが、たしかに地図上の位置に印が付いた。さらに、カメラのディスプレイ画面に小さな磁石の指針がつねに表示されていて、方角もわかる仕組みがある。ということは、ある地点からどの方角にカメラを向けて撮ったものかもわかるのだ。(わがパソコンには、その方向までは印されない。) 何よりも、小型カメラの中にGPS機能を何気なく組み込んでいることが、私には驚異的に感じられた。昨今の、部品を小さくする技術の進歩には驚かされる。

そんな極小の部品になっているから、携帯電話などにも組み込めるので、保護者が子どもや徘徊老人などにそれをもたせれば、かれらがどこにいるのか(厳密に言えば、携帯電話がどこにあるのか)、たちどころにわかってしまう仕組みも実用化されている。また、GPSトレーサーといって、ストップウォッチのような形の装置をポケット中に持ち歩けば、どこへ立ち寄ったかを記録するものがあり、そのデータを解析すれば一日の行動範囲がすべて分かってしまう端末もあるのだ。

 

 

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