ブラザーズ・フォア礼賛                               岡森利幸   2011/7/13

                                                                  R1-2011/7/14

私が子どものころに好きになった歌の一つが『遥かなるアラモ』だった。その悲壮感がただようような叙情的な歌詞と旋律が、いじけていた私の琴線に響いた。その映画主題歌は日本語訳詞で歌われていて、日本でも、ある程度ヒットチャートに上がっていたものだったと記憶している。そのうち、原曲がブラザーズ・フォアというグループの、曲名The Green Leaves of Summerであることを知るようになった。

人並み程度に歌謡曲を聴き、乏しい持ち金の中からラジカセ(カセット付きラジオ)やステレオ・システムを購入し、ときどき音楽を楽しむ青年期を過ごしていたが、やがて私が30代になっていたとき、CDをまとめて安く買える機会があった。そのとき私が選んだのが、

・ザ・ビートルズ――レット・イット・ビー

・サイモン&ガーファンクル――明日にかける橋

・アニマルズ――朝日の当たる家

・クリフリチャード――サマー・ホリディ

・ブラザーズ・フォア――花はどこへ行った

・(その他、クラッシックのCD3枚)

 

など、自分の好みで選んだのだが、自分のためだけというより、家族が聞く機会もあるだろうからという思惑もあって、一般的にも受けのよさそうな楽曲も含めた。ただし、自分で聴いてみなければ分からないところがあるのが、音楽の世界だろう。音量レベルが低すぎたりして、期待はずれの曲が多かった(特に、クラッシックのCD3枚で、どこかにしまい込んでしまった)なかで、これだけは買って良かったと思ったのが、ブラザーズ・フォアのCDだ。

子どものころに聞いた『遥かなるアラモ』を原曲で聞いてみたいという思い入れに、十分に答えてくれた(ただし、私の心の奥に記憶された曲とはずいぶん違った曲にも聞こえる)、その他の曲もよかった。すべて洗練された曲に仕上がっている。中でも題名にGreenの付いている、似たような曲名が二つあることが特徴的で、いずれもブラザーズ・フォアの代表的な名曲だろう。

The Green Leaves of Summer

Lady Greensleeves

Greenfields

 

でも、音楽を趣味とするほどのことでもなく、たまにしか音楽を聴かなかった。私が会社勤めをしていた間は、音楽をじっくり聞く機会から遠ざかっていたのだが、数年前から、パソコンで音楽を聴く「技」を覚えてから、その気に入ったブラザーズ・フォアに少々のめりこんでいる。

パソコンで音楽を聴く「技」とは、CDの音楽データをパソコンに取り込み、パソコンを音源としてイヤフォンで聞くのだ。(イヤフォンだけでなく、本格的なスピーカーに接続して聞く方法もある。) 一度CDからデータを取り込んでしまえば、CDはいらないから、便利なものである。その音楽データは、小さな専用機器のメモリーに入れてしまえば、最近、街中でよく見かける若者たちのように、それをポケットに入れ、歩きながらでも聞けるのだ。ただし、著作権の関係があるらしく、CD内の音楽データそのままでなく、パソコンにはデータを加工・圧縮して取り込んでいるから、基本的に、CDを直接聞くより音質が劣ることになっている。でも、実際の音質の差は「気のせい」程度と思っていい。また、下手なCDプレーヤーでは、CDの表面が傷ついたりしていると、不快な音飛びが発生することがあるが、加工・圧縮して取り込んだデータでは、再生時にそれがほとんど補正されることがうれしい。

手軽に音楽を聴けるようになって、好きな曲をパソコンで聴くために、中でもブラザーズ・フォアに関しては、できるだけ多くCDの種類を集めた。買うだけでなく、借りたものもある。

・ベスト曲集

・初期の作品集

・ライブで録音したもの

・ビートルズの曲をカバーしたもの

・日本のフォークソング(「イチゴ白書をもう一度」、「シクラメンの香り」、「遠くへ行きたい」など)をカバーしたもの

などがあり、合計すると曲数にして130曲ぐらい(おそらくブラザーズ・フォア全曲の7割ほど)を集めた。複数のCDで重複する曲がいくつか収録されている点があるけれど、よいCDを手に入れたと思っている。

ブラザーズ・フォアというグループ名から連想して、わたしは長い間、かれらを黒人のグループと思い込んでいたのだが、そうではなく、白人の4人組だ。1958年にワシントン大学の学生だった4人がフォークグループを結成したというのだから、同年代の音楽好きの学生たちが寄り集まって活動しているうちに、人々に聞かせる機会がだんだんに増えていき、プロの歌手になったものだろう。それから、もう50年以上になる。解散したわけではなさそうだが、それぞれのメンバーは高齢になり、最近はグループでの音楽活動をほとんどしていないようだ。

ブラザーズ・フォアは、アメリカン・フォークソング、いわゆるカントリー・ミュージックに関する曲を多く歌っている。初期のころの曲は、日本ではなじみがないにしても、陽気に騒ぎ立てる曲や、コミカルな曲も多く、ブラザーズ・フォアの意外な一面を見た思いがする。彼らは本質的に、アメリカの生活に根を下ろし、歌って楽しむグループなのだ。楽器を演奏しながら、4人で歌うコーラスグループを基調としているが、曲によってコーラスで歌ったりソロで歌ったりして変化に富んでいる。ソロで歌うときも、それぞれの声音の特徴を生かして曲に合わせて、誰がリードボーカルになるかをその都度決めているようだ。4人のうちの1人だけが歌ってその他はバックコーラスに徹するような、固定的なグループではない。

カバーした曲でも、原曲を損ねたりせず、丁寧に歌っているところがいい。日本のフォーク曲の中には、日本語で歌っている部分もあるのだが、下手な日本人顔負けの発声だ。歌のうまさが光っている。

そんな音楽を、できるだけいい音質で聞きたいと思うようになって、思い切って実勢価格1万円以上のイヤフォン(イヤーレシーバー)を購入した。高級品ともなると、微妙な音質の違いで値段がぐんと跳ね上がる。イヤフォンにしてもピンからキリまであって、これは、まぎれもなくピンのものだ。以前は〈安くてもいい〉と思っていたのだが、のめりこんだりすると、どうしても高級志向になってしまうのはやむをえない。

英語の歌の意味を聞き取るのは、私にはまだ難しいが、静かな部屋の中で、その意味をとらえようとしながら耳をすまして聞いている今日この頃……。

 

 

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