あなたの年収はいくら?

           岡森利幸   R1-2011/6/7

 

乗っ取った会社(春日電機)の資産約5億5000万円を勝手に流用したとされ、特別背任の容疑で逮捕された元社長の口癖は、「ところであなた。年収はいくらもらっているの」だったそうだ。逮捕前にその男に取材した記者もそう聞かれた。その男から多くの話を聞きだした手前、記者は仕方なく、少しサバを読んで答えたところ、その男は「そんなものなの」と言い、値踏みするような目で見つめた(毎日新聞朝刊2011-1-25『記者週記』より)。

私も先日、車のガソリン代を支払うためのカードを別の種類にすると年会費がただになるというふれこみに誘われ、それに乗り換える手続きを進めた際、申し込み用紙にクレジット審査の関係で年収を記入させられた。そのとき胸中に穏やかならぬものがわきおこった。〈これだけの年収で審査が通るものだろうか〉という一抹の不安だった。

男に年収を聞くのは、女に年齢を聞くのと同様だろう。気軽に尋ねてはいけないものになっている。年収が少ないと、はずかしい思いをさせられるし、年収が多くても答えにくいものなのだ。年収はその人の社会的な評価にも直結する。偏差値が学力の指針であるならば、年収は経済力あるいは社会的ステータスの指針だろう。年収で格付けされるのだ。

かつては、年収に伴って納税額が多いことは名誉なことだったから、高額納税者が新聞等で公表された。しかしながら、世間に高額な年収が知られてしまってはまずい(悪徳業者に狙われやすいというのが一つの理由)と思う人の声が高まり、個人情報保護の観点からも、数年前から「納税者番付」などが公表されなくなった。

やっかみを込めて言えば、この社会では前述の元社長のように、ずるがしこいやつほど収入が多いという例や、単に運がよかったという例が多いのも確かである。

やっかみの話題を付け加えると、あるテレビの番組で面白おかしく紹介された例では、日本列島の南の果てにある孤島、南大東島では年収一千万を越す「豪農」がごろごろいるそうだ。主要な生産物がサトウキビで、それを栽培している農家が、収穫物を製糖工場に買い取ってもらう価格の数倍もの助成金を政府からもらっているからなのだ。かれらには確かな収入があるから、6000万円もするサトウキビ専用の農作業機械(島の中の大して広くもない畑で轟音を響かせ、一気に刈り取るのだろう)を楽々と購入でき、沖縄本島に「別荘」として豪勢な邸宅をもつこともできるのだそうだ。彼らは汗水流して農作業をしているわけではなかった。これでは、この番組を見ていた大多数の視聴者から〈政府の農業政策がおかしい〉という声が高まりそうだ。それとも、視聴者は、単に面白おかしい話として聞き流してしまう? (後日談として、南大東島の島民の方から、番組に対して「あまりにも誇張しすぎている」とのクレームがついたらしく、6月になって番組は「お詫び」のテロップを流した。)

結婚するためにも、一定の経済力が必要だ。特に、男の方にそれが強く求められる。多くの場合、年収の高が結婚の条件になる。三百万円にも満たない年収で、自分一人で生活するのが精一杯だという若者たちが多い。〈家族を養って行けるだけの経済力が自分たちにあるのか〉という不確実さが、意中の相手がいたとしても、結婚にふん切りがつかない要因の一つだろう。それでも、子どもが出来たから、しかたなく結婚するというケースが増えている。経済的に貧しく、行き当たりばったりの日本の現実がある。経済大国が聞いてあきれる。昨今の若者たちが結婚しない理由は他にもあるけれど……。

年収一千万は、多くの人が望む金額のようだ。年収一千万を越すことは、多くの人にやっかまれるほどの、あこがれの数値だろう。現実に勤労者で年収一千万を越すのは、全体から見れば、ほんの一部の人たちだろう。それだけの価値のある仕事をしていれば、それを誇りに思っていいことだろう。ただし、ろくに働きもしないで、一千万を得ているとすれば、とんでもないことだ。ともあれ、年収がそんなに多い人は、納税だけはしっかりやってほしいと私は思う。勤労者であれば、ごまかしようがないのだが……。

昨年9月にアメリカの学者らが発表した分析によれば、年収630万円で幸福感が頭打ちになるそうだ。アメリカ人の年収と幸福の関係を統計的に分析した数値だ。年収630万円あれば、多くの人は、ある程度幸福に感じるというわけで、それ以上収入があっても、さらなる幸福感は得られにくいと言っている。年収630万円は、アメリカの中流家庭の平均的な年収に近いものだろう。これは、他人より年収が少なければ不満だという、やっかみの気持ちが数値に表れたのかもしれない。文明社会アメリカで人並みの生活をするためには、年収630万円を必要とするということのようだ。日本では、もっとつつましい年収で満足しなければいけないだろう。

 

 

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