マルチ商法の儲かる仕組み                                   岡森利幸   2009/2/20

                                                                    R2-2009/3/9

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2009/2/4 社会面

L&G被害者の声、300万円を投資した女性は、直後から新規会員の勧誘を求められるようになった。社員は「年間2人の会員を紹介しなければ、解約になる」と説明した。

毎日新聞朝刊2009/2/6 一面・社会面

「円天」のL&G、00年には債務超過、破産状態だった。01年に出資募集を開始し、「協力金」や「明かり価格」で金を集めた。

毎日新聞夕刊2009/2/5 社会面

L&Gの元幹部「円天はおもちゃの金」

毎日新聞朝刊2009/2/7 社会面

円天の源流、波容疑者は自身のブログで「マルチ商法は麻薬のようなもの」と書いた。

コンサートや講演会のイベントで人を集めた。

1.L&Gの商法

エル・アンド・ジー社(L&G)は、「健康寝具」の販売をかわきりにマルチ商法を使い、「協力金」や「明かり価格」など、実質的に資金を募った。集めた金の一部は、その金額に応じた配当に回すという手口で運営し、さらに会員から集めた金を円天という「電子マネーもどき」に換えて還元させた。L&Gは、あの手この手で金を集めたが、基本的な手法は、マルチ商法だ。会員になった者に新たな会員を勧誘させるやり方だ。勧誘に成功した会員には、「甘い汁」を吸わせながら……。

怪しげな商品や電子マネーを次々に市場に出し、よく売れたのは、マルチ商法だったからなのだ。悪徳販売業者が拡販のための手段として、よく用いているのがマルチ商法なのだ。2000億円以上の金を集めたのだから、詐欺的手法としては大成功の部類に入る。今回の事件でも、警察がもっと早く取り締まれば、被害の拡大が防げたのに……、という思いを強くする。2000億円もの被害が出て、メディアが騒ぎ出すまで、マルチ商法の連鎖を断ち切れなかったのだ。

マルチ商法を展開しても、法的に違法ではないことが、こんな悪徳商法の被害を拡大させる一番の要因だろう。これだけ悪徳業者に利用される手法は、厳しく規制をかけるべきだろう。さらに、彼らは金を集める目的だから、警察は、業者が配当を出す当てもないのに、出資金もどきを一般から集めようとした時点で、取り締まらなければいけないだろう。

 

2.円天

このアイデアは爆発的にヒットした。元幹部が「おもちゃの金だ」と言ったことは、ズバリ(まと)を射ている。「おもちゃの金」とはよく言ったものだ。それを知っていたのはL&Gの内部のものだけではなく、怪しんだ者もいたはずだが、それでも、ビルの一室に用意された「円天のマーケット」に行けば、円天で多くの商品が盛りだくさんに手に入るしくみを目の当たりに見せられては、疑いが消し飛んだことだろう。噂が広まり、「私も、へそくりを『円天』に換えてみようかしら」となり、多くの人がそれに乗ってしまった。一部の人は「円天でこんなに商品を買ってしまって、L&Gは損をしないのかしら」とL&Gを思いやる気持ちも脳裏にかすめたかもしれない。それでも、配当的なものがきちんと銀行口座に振り込まれたり、「円天」のポイントが加えられたりして、現実に「円天」で商品が買えるとなると、疑いもなく、さらに金を出そうという気になり、知り合いの奥さんにも「儲け話」をしてしまう。そんな「(くち)コミ」により大きく広がった。

『円天』の会員が増えていったもう一つの要因は、会員が新会員をつくることに、褒賞が与えられるだけでなく、ノルマ化されていたことだ。新聞記事にあるように、「年間2人の会員を紹介しなければ、解約になる」というL&G社員の言い方は、ほとんど(おど)しである。「解約になる」ということは、出資した金が戻らないということだろう。おそらくその時期は、そろそろ限界が見えてきて、L&Gの社員たちは、会員を増やすために躍起となっていたのだ。会員たちが「円天」でどんどん買い物をすれば、にわか作りのマーケットではすぐに底が見えてしまう。

 

.マルチ商法とネズミ講

マルチ商法で、一番問題なのが金融商品の類を買わせるものだろう。それは、名目は「協力金」などであっても、実質的に会員権だったり出資金だったり金融証券の一種だったりする。L&Gの場合は、円天という「電子マネーもどき」を一般消費者に買わせたことになる。

怪しい業者が怪しい商品を直接売りつけるのは困難だが、紹介者が間に入れば、紹介者の信用によって消費者は購入する気になるのだ。L&Gという無名の会社が、「金を預けてみませんか」などと宣伝しても、一般には見向きもされないだろう。大事な金を出資するなんて、いくら高金利だといわれても、バクチに金を賭けるようなもので、とんでもないことだろう。しかし、地域の知人や親戚筋から紹介されたら、耳を傾けて、「それなら、金を出してみようかしら」ということになりやすいのだ。知人や友人の信用度はとても高いのだ。知人が熱心に勧めれば、つい買ってしまうのが、知人・友人関係を大切にする日本人の一般の心理だろう。

名だたる金融機関に預金していても、いまどきの金利はゼロに等しいのだから、有利な条件の出資先があれば、つまり高配当であれば、出資してみようという気になるだろう。とは言っても、それらにはリスクが伴うから、現実的には一般の人たちの財布の紐はなかなか固いものである。紐を緩めるのが、知人の一言なのだ。自分にとって商品がそれほど必要でなくても、人々は友人に勧められたら、商品を購入してしまうのだ。

マルチ商法は、別名、ネズミ講式商法という。(英語ではmultilevel marketing または pyramid selling という。) マルチ商法は、ネズミ講と同じしくみで商品を販売する方法だ。商品を買ったものが知人らに紹介してその商品を買わせたら、紹介料・手数料などの名目で報酬が得られるシステムで、商品を購入した者が、販売に協力して新たな購入者を開拓するものだ。商品が本当に売れるものであれば、評判が評判を呼び、どんどん広がって行くのだが、商品がろくでもないものでも、販売協力としてのマージン(手数料などの名目で)を紹介者に与えるようにすると、マージンほしさに、知人に紹介するようになるのだ。つまり、ネズミ講では、紹介した上位者と紹介された下位者、その下位者が紹介したもう一つ下位の者たちの間などで、会員の登録に伴って金のやり取りを行なうのがネズミ講で、マルチ商法では商品の購入と勧誘の報酬という形で金が動くのだ。

商品の購入者を紹介することで業者から報酬や見返りがあると、それがインセンティブになる。商品が本当によいものであるなら、無報酬でもよいのだが、報酬を目当てに、知人に勧めてしまいがちになる。そんな紹介の手数料が得られるとなると、よい商品を知人に勧めるというよりも、どうしても、買わせる側の立場になってしまうものだ。あなたの口調も、セールス・トークになってしまうだろう。

 

4.被害の連鎖

マルチ商法の業者たちは、初期の会員には必ず利益を与え、損はさせない。それが拡販のコツでもある。最初はその儲け話を半分疑っていても、マルチ商法で販売された商品によって実利が得られたりすれば、確信になってしまう。実際に高配当を得たりすれば、確信を持って知人に紹介するようになるだろう。

紹介される側は、知人や友人の推薦というフィルターの入った「色めがね」(サングラスのこと)で見るため、商品のあらやボロが見えなくなる。その色めがねは、その商品がその値段に値するものがどうかの評価する目を曇らせる。信頼できる知人から「いい商品だ」あるいは「確実に儲かる金融商品だ」などと勧められて、その話に乗って金を出してみようという気になることは、責められないことだろう。そのぐらいの射幸心はだれもが持っているものだろう。その話に乗らなかったことで、みすみす金儲けのチャンスを逃すことになれば、悔やむことにもなる。

それを購入(あるいは出資)したら、マルチ商法の常として、あなたは新しい会員を探すことになる。知人や親戚を裏切って「ろくでもない商品やリスクのある金融商品」を売りつけようとする人はいないはずだが、自分も信頼できる知人や親戚に勧められて購入したのだから、自分もその実体を見抜けず、つまり、だますつもりはまったくないのに、マルチ商法に乗っかって、業者の意のままに、他の知人を勧誘してしまう。まさか知人が自分をだましているとは思わないし、あなたも、信用力と熱心さでもって、他の知人たちにその儲け話を信じ込ませてしまう。商法が破綻したあと、その知人たちから恨まれることを想像もせずに……。

業者にだまされた人が、今度はだます側に回るのが、マルチ商法の一番罪深いところだ。L&Gの例のように、ピラミッドの上層部にいた会員たちは、初期の高配当や紹介の報酬金を得ていたり、円天で商品を手に入れていたりしたから、実質的な損害が少なかったと言われている。しかし、その利益は、マルチ商法に「協力した手数料」そのものだ。知人たちをだまして得た「分け前」をマルチ商法の業者からもらっていたということになる。

初期の会員が配当や高額の紹介料を得て儲かる仕組みは、新規会員が出資する金を回している(流用している)からであって、つまり、配当の出所は新規会員からだから、新規会員の数が増える速度が鈍り始め、停滞したならば、たちどころに儲かる仕組みは破綻するものだ。結局、業者の目的は金を集めることだったと判明する。

紹介する側に「マルチ商法の片棒を担ぐ」という意識はなくても、結果的に紹介者は加害者としての役割を演じてしまう。このシステムが破綻したと分かったとき、紹介された側は、それによって金銭を失うことになるのだから、友人関係にひびが入り、もう口もききたくないという絶縁関係を招くことになるだろう。社会的な信用関係が身近なところで壊れ、金銭的なトラブルに発展してしまう。あなたは金も友も失い、親戚からは絶縁される。

 

5.対策

販売業者が商品を紹介する消費者に褒賞を与えるやり方は、販売コストの低減や拡販につながるのだ。消費者が消費者同士で販売を促進するわけだから、業者は、宣伝費や営業コストが抑えられる。普通の販売方法では、とても売れないものを、マルチ商法の販売網に乗せれば、売れる現実がある。

外国では、ネズミ講はもちろんのこと、マルチ商法も法律で禁じられているという。しかし、日本でマルチ商法が禁止されないのは、マルチ商法の業者と政治家との密接な関係が一因だろう。行政処分を食らった悪質なマルチ商法の業者から献金を受けたのが明るみになって、その政治家が献金を返したという記事も新聞紙上にときどき散見される。例えば、次のような記事だ。

毎日新聞朝刊2008/10/14 国際面

民主、前田雄吉議員の政治団体がマルチ業者から講演料をもらっていた。国会で擁護の質問をした。

政治家は、行政処分を受けたような業者からは献金を受け付けないようにしているようだが、行政処分を受けていない業者からは献金やそれに類する金を受け取っている。その献金には、「マルチ商法を禁止するような法律は作らないでくれ」という意味がこめられていると推測できる。「マルチ商法」は利権になっている。政治家は、不特定多数の消費者の利益よりも、特定の業者から得られる自分の利益を優先しているのだろう。

マルチ商法の業者の中には、妥当な範囲で拡販に利用している業者があるのかもしれないが、悪徳業者を排除するための規制が必要だろう。消費者に新規購入者を開拓させることをノルマとして科したり、過大な褒賞(あるいは紹介料)を与えたりするのは、少なくとも禁じるべきだ。

波容疑者がブログに「マルチ商法は麻薬のようなもの」と書いたのは、「一度やったら、止められない」ほど、儲かる手法だからだろう。法的な規制がかからなければ、悪質な業者がまたこれを用いて、一般の人は被害を受け続けるだろう。マルチ商法の「連鎖」である。

 

 

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