外国人研修制度のゆがみ                                     岡森利幸   2007/11/24

                                                                    R1-2008/1/10

以下は、外国人研修に関する新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2007/5/13一面・社会面

労働局が05年に外国人研修・実習生を受け入れていた866事業所を調査したところ、8割で違反労働があったことが、毎日新聞の調査でわかった。違反が最も多かったのは、非常用設備がなかったり衛生状態が悪いなどの「労働安全衛生法違反」の328件。次いで長時間労働、基準外賃金の未払い、最低賃金の不払いなどの違反が続く。違反は延べ1516件に上がっていた。

この制度を利用して来日している外国人は現在約16万人。研修・実習を名目にしながら「格安の労働者」扱いされている。制度上、研修は労働扱いでないため、実習生がいる事業所が労働局の指導対象になるが、研修生も同様の職場環境で働いているとみられる。

(社会面)……朝8時から深夜11時まで、1日13時間以上の労働で、残業手当わずか自給350円の中国人実習生が逃亡。ここ数年、同様なトラブルが全国各地で相次いでいる。

青森県三沢市の縫製会社で働いていた中国人女性3人が過酷な労働と低賃金に耐えられず逃げ出した。3人は04年7月に来日。その8カ月前、中国の送り出し機関「対外経済技術合作公司」と青森県内の縫製業者4社で作る受け入れ支援団体「県南アパレル協同組合」によって約20人の候補者たちから選ばれた。彼女らは、高い報酬を期待して中国の公司などに日本語研修費や保証金など約2万元(約30万円)を支払っていた。同地方のサラリーマンの年収約2〜3年分だ。

この縫製会社は「県南アパレル協同組合」に管理費などの費用が1年目だけで年間170万円、中国の公司にも54万円支払った。

毎日新聞朝刊2007/5/14社会面

法務省入国管理局が昨年に不正行為を認定した受け入れ団体・企業は、過去最高の229機関に上がったことが分かった。不正行為で多かったのは、外国人労働者を多く働かせるための「名義貸し」などをし、入管に届け出た企業以外で働かせていた機関、研修時間以外の残業をさせていた機関など。

パスポートや預金通帳・印鑑などを強制的に取り上げる人権侵害も4企業で明らかになった。携帯電話をもたせないことや、保証金を強要するなどしている受け入れ側もある。

逃走防止のため、受け入れ団体の中には傘下の企業にいくつかの「防止策」を指示しているという。財団法人国際研修協力機構(JITCO)は、受け入れ企業を巡回し、パスポートなどを保管している企業に対しては、「本人の希望で預かる場合は、保管依頼書・預かり書を取り交わすように」と指導している。

雇用の条件として受け入れ企業と結んだ契約などに「パスポートの預かり」が明記してある例が多くあり、研修生は強く苦情をいえないのが実態だ。

毎日新聞朝刊2007/5/20一面

外務省がビザ(査証)発給の審査を厳しくして、過去2年間で中国人1300人以上のビザを拒否していた。

研修生は、中国企業から派遣されることになっているが、実際はそこで勤務していないなどの不正が多発している。外務省の在中国公館(大使館・総領事館)が、研修生の査証を申請する際に提出された「在留資格認定証明書」に記載された中国側の派遣元企業や研修者に関して、関係機関に確認すると、以下の不正が見つかっているという。

@企業が実在しない

A企業はあるが、勤務実態がない

B企業も、勤務実態もあるが、年齢が違うなど

在留資格認定証明書は、受け入れ側が(そのために必要な申請書類を揃えて提出し)法務省入国管理局から取得する。入国管理局の幹部は、「(入国管理局の)人的体制が弱く、受け入れ企業側の実態が十分調査できず、書類上の不正を見落としているケースが相当多いと思う。……」と話している。

毎日新聞朝刊2007/5/30総合面

「外国人の単純労働は認めない」という政府見解にのっとって運用されてきた外国人研修・技能実習制度。(外国人を)低賃金で酷使する実態が問題となる中で、単純労働を認めるかどうかの議論がもち上がっている。

現制度は、賃金の未払いなどの不正が横行しているのに「研修」を「労働」としていないため、労働関係法令が適用できない弱点を持つ。

「研修」を「実習」に一本化する見直し案の厚生労働省の幹部は「途上国への技術移転という大義名分を維持し、外国人を受け入れるギリギリの案」と話す。(実習期間の延長を求める業界からの声も強く)経済産業省からは、3年の現行制度をさらに延長し、一時帰国後に2年間の実習期間を加える案も出されている。

毎日新聞朝刊2007/6/1一面

財団法人国際研修協力機構(JITCO)に対し、研修生の受け入れ団体や企業が納める賛助会費が、06年度末で過去最高の12億円に上ることがわかった。賛助会費は、受け入れ団体が一口10万円以上を支払い、その傘下の受け入れ企業(農家などを含む)数に応じて1社当たり5万円を支払うシステムになっている。06年度末には傘下企業だけで2万企業を突破している。

また、JITCOは、平均月手当約6万6000円の研修生から、年間2万7000円〜3万7000円の保険料を納めさせる「JITCO保険」の手数料収入でも、約1億円に上る。

一方で、JITCOは、収入の増大に伴ってその額が減ってきているが、国からも補助金や業務委託費(受託金)を受けている。ある企業幹部は「国は天下り先の財団ではなく、不況にあえぐ中小企業にこそ補助金を出すべきではないか」と話す。中国人研修生からは、「賃金未払いなどで(JITCOに)相談したが、具体的に何も対応してくれなかった」などの批判も出ている。

The Japan Times 2007/7/14

法務省の入出国管理局は、2002年から2006年の間、外国人研修生が9,607人職場から逃亡したことを明らかにした。この数値は、別の面から言えば、政府が認める無規制な安い労働力提供方式を悪用する不徳な雇用者が、研修生(ほとんどアジア系)から搾取し、虐待しているという実態を示している。国内の広い範囲で中小企業や漁業で働く研修生に頼っている日本の産業の現状が問題を大きくしている。

管理局が示した逃亡者の数値で、最も多数なのが中国人の4,521、次いでベトナム人の2,674、三番目はインドネシア人の1,610だった。

ただし、インドネシア政府の管理下では、26,000人の人々が研修生として日本へ行き、その中で1,775人が逃亡したとされる。

1.現代の奴隷制度

外国人研修・技能実習制度(以下、研修制度と略す)は、現代の奴隷制度だ。

なぜなら、日本の企業や自営業者(特に農業関係)たちは、研修・実習とは名ばかりで、彼らを安い賃金で単純労働をさせているのが現状だ。研修制度の建前は、日本の優れた生産・製造技術を外国人に学んでもらい、日本が国際貢献することなのに、受け入れ側には、安い労働力がほしい企業が群がってきている。

この制度自体が、政府の行政上の規制の一つであって、本来、海外進出している企業が国内で実施する研修だけのプログラムを、他の企業にも拡大し、さらには実習期間を延長していき、ちゃんとした法律に基づかないまま、なしくずしに1993年に制度としてスタートさせてしまったもので、法律的に整備されないままだ。つまり、この制度は法律によって施行されたものでなく、運用されているだけなのだ。実習者は「労働者」とみなされるけれども、法律上、研修者たちは、一年間「労働者」ではないという扱いを受ける。2004年8月から施行された「外国人労働者の雇用に関する法律」にも適用されないのだ。一年間研修した者たちが2年間実習者として働けるしくみになっている。

法務省の調べで、2006年に来日した研修者は約9万3000人に上るという。どんどん増えている。これは無視できない大きな数値だろう。彼らは単純な労働に終始しているから、高度な技術の習得はできない。労働者として組合も作れないから、労働者としての権利もなく、労働条件の不平もいえない。研修・実習の3年間では、完全な単身赴任であり、本国の家族を呼び寄せるようなことはとてもできない。ようやく「年季奉公」を終えた彼らが本国に帰るとき、彼らが身につけた技能では、本国で役に立つものは何もなく、3年いても残るのは、片言の日本語とわずかな金と疲れた体だけだろう。彼らこそ日本企業に多大な国際貢献をしている。

日本では、研修の名の下に労働させているのが現状だし、技能実習にしても、同一作業の繰り返しである単純労働はできないことになっているが、有名無実の建前となっている。本当に日本の技術を研修・実習させるつもりなら、職業技術校のような教育機関で教える方が正当な方法だし、ずっと効率的な研修ができるはずだ。

あるいは、海外進出した企業がその工場で現地採用の人たちを研修させるのが、本来意味のある国際貢献だろう。

 

2.研修生・実習者

研修生・実習者は単純労働者だ。

アジアの人が日本の研修生になるためには、日本語の習得や渡航準備などのためと称して、送り出し機関(人集め業者)に多くの保証金を払う必要があるという。目的は、日本で働いて「高賃金」をもらうためだ。そのために、特に中国の研修者は借金をしてまで高額の保証金とやらを支払って日本に来ているのだ。

日本の中小企業や農業の技術レベルでは、単純労働の中で学ぶものなど、限られている。日本には、金を稼ぐことしか期待してないだろう。外国人研修者は金を多く稼ぎたいものだから、時間の制約があるのにもかかわらず、劣悪な労働条件にもめげず(というより、耐え忍んで)、指示されれば長時間でも働く。

しかし、そんな酷使に耐えられなくなったり、もっと待遇のいい職場を求めたりする者が「逃走する」のだ。特に、研修の一年間は、ただ働き同然だろう。研修とは働くことであるという覚悟で来日した者でさえ、あまりのひどさに逃亡するのだ。不法就労者になってしまうことも覚悟の上で……。最低限の賃金しかもらえない彼らにとって、もっと労働条件のいい職場は日本にいくらでもあるのだから。せっかく日本に来ているのに、低賃金でこき使われるだけでは割が合わないのだ。それもすべて彼らに正当な報酬を与えていないことに最大の原因がある。

研修先から逃亡しても、彼らには、不法就労という厳しい現実が待っている。それでも、研修の待遇よりましらしい。雇用者の中には彼らを不法就労と知っていて雇うものがいる。安く雇えるから……。逃亡した研修者は出国のとき、世界の中でも厳格な日本の出国審査にすんなりパスするのだろうか。

研修者の中には、初めから日本に来るために研修制度を利用し、来日後、よからぬ方向へ走ってしまうものがいるのかもしれない。その実態は不明だが(政府もほとんど実態を明らかにしていない)、それはそれで、研修制度の悪用だろう。研修制度が悪用されないために、パスポートを取り上げるというのでは、本末転倒だろう。研修者の自主性が失われ、ますます人身売買的ではないか。研修制度の労働環境があまりにも悪く、研修・実習とは名ばかりのものになっているせいだろう。

 

3.受け入れ企業

受け入れ企業は3K職場(近年の新しい定義:きつい、帰れない、給料が安い)だ。

職場での労働条件が多くの研修者の期待を裏切っているから、脱走も多いのだ。研修者に対して必要な情報を伝えていないことも一因だろう。

研修者が脱走しては、企業側にとって元も子もないし、次回に割り当てられる研修者の数が減らされるなど財団法人国際研修協力機構(JITCO)の指導があるから、それを防ぐために、受け入れ企業はパスポートを取り上げたり、研修者の銀行口座を管理したり、携帯電話を持たせないことまでしているところがあるのだ。研修者がパスポートなしに町を歩いたりすると、警察官などにパスポート提示を求められたときに、小言だけではすまない。日本は外国人の不法就労にはやたらと厳しいから、ほとんど犯罪者扱いで連行される。だから、パスポートを「保管する」ことは、彼らの行動を束縛するいい手段なのだ。携帯電話を持たせないのも、外部との連絡を断ち切り、企業側にとって不都合な情報が知られないようにする目的だろう。しかし、これは彼らを孤立させ、精神的に追い込む要因になるだろう。当然、人権問題になるものだ。もしも、いまどきの日本の若者から携帯を取り上げたら、それこそ暴動がおきるだろう。

JITCOが企業に対しては、「本人の希望で預かる場合は、保管依頼書・預かり書を取り交わすように」と指導しているというが、人権問題にならないように、企業に逃げ道(言い逃れのための口実)を作ってやっているようなものだ。JITCOは、保管依頼書・預かり書を取り交わすことを奨励し、パスポートを保管することを助長しているのだ。本人が拒否できないことをいいことに、「本人の希望だ」というのは、実に都合のいい口実である。書面に一筆書かせるのは、実に狡猾なやり方だ。「サインしなければ、職につかせない」などと圧力をかけるのだろう。だれが好んで、自分のパスポートや預金通帳や印鑑を他人に預けようとするだろうか。

受け入れ企業は、研修とは名ばかりで、彼らの安い労働力を目当てに受け入れているだけだから、研修者に「労働させている」実態が明らかになっている。しかも、彼らに指導している労働の内容は、言葉が通じなくとも、一日で「すべて」が研修できるような単純労働がほとんどだ。農業実習でも、せいぜい半年の長さがあれば一通り研修できる内容だろう。言葉の壁があり、単純労働しかできないとみなしており、もともと単純労働させるために受け入れているのだ。

研修制度では、残業は禁止されているというのに、企業が研修者を基準外で働かせる違法行為が目立つ。非公式に残業させながら、ろくにその賃金を払わないケースも多く報告されている。それでなくても、厚生労働省が定めた最低賃金にも満たないような安い労働対価なのに、基準外賃金の支払いを渋るケースが多く報告され、各地でトラブルを起こしているのは、どういうことだろう。

基準外で働かせていることがばれてしまうから、支払っていないのだろうか。研修者には「金を支払うから」とほのめかしながら(残業代がいくらであると明記された書類などありえない)、あるいは成果だけを求めて実質的に残業をやらせ、支払う段になって、残業がない制度だから支払えないと開き直っているのだろうか。

企業は、彼らを「まともな労働者」として考えていないから、労働対価としての賃金を支払いたくないのだ。受け入れるために(人材を派遣してもらうために)、斡旋する側に準備資金や協賛金としてまとまった金を支払っているのだ。その元を取るためにも、彼らには大いに働いてもらわなければならないのだ。日本と外国では通貨価値がちがうのだから、外国人には「通常」の賃金を支払わなくてもいいだろう……などとも経営者は考えているのだろうか。

強制労働的なことをしている企業も報告されている。指導する立場を利用して、職場だけでなく、研修者の日常生活の場にまでも介入し、従わないものに対してはおどしや陰湿ないやがらせいじめを加えている実態が浮かび上がってきている。女性に対しては性的な暴行を加えるという例も報告されている。虐待は、経営者が研修者を金儲けの一手段と考えているだけでなく、日本人の多くがアジアの人々を蔑視する「差別感情」を持っていることにも原因があろう。それらも逃亡する要因だろう。孤立しても、多くの研修者は保護を求めたり訴え出たりする機関さえ知らされないのだ。そもそも、低賃金でこき使うことが虐待だろう。

 

4.研修生を送り出す企業

研修させる必要のない企業や団体が『研修生』を送り出す。

外国の企業が自分の社員にその会社の業務に必要な技能を研修させるために、日本の企業に派遣することを建前としているのがこの制度だ。しかし、社員を研修させるといっても、会社での業務とまったく無関係な業務の日本の会社に派遣しているのが現状だ。自分の社員に無関係な業務を研修させては、何のメリットもないはずなのに……。

在留資格認定証明書で、送り出し企業と受け入れ側企業がわかるのだが、その関係が正しいかはだれもチェックしていないし、チェックできないのかもしれない。送り出し企業に所属しているという存在証明があれば、ほとんど黙認されているのだ。そこには金のやり取りがあるからと考えるのが自然だろう。保証金や賛助会費の高で、そこを通してしまうのだ。

在留資格認定証明書を発行している入国管理局では、申請書類の記述内容までは、十分にチェックできないと認めている。特に、送り出し側の研修生についての情報はほとんど確かめようがない。(確かに、書類をながめるだけでは、確かめられない)。外務省として、不法就労の外国人がこれ以上増えては困るものだから、研修生の査証を発行する際に、在外の公館に研修生の資格審査を厳しくさせている。すると、記述内容の不正が次々に見つかるというのだ。送り出し側の情報に、いい加減なものが多いのだ。『外国の会社が社員にその会社の業務に必要な技能を研修させる』という建前から外れているケースが多いのだ。その企業が存在していないというケースも見つかるというのだから、あきれてしまう。つまり、企業が社員を研修させるのでなく、支援団体が日本で働きたい人材を集めて派遣しているだけなのが実情なのだ。

 

5.支援団体・あっせん業者

支援団体は人材派遣業者だ。

派遣先の国々では、人材を集めるための団体が書類手続きや語学教育などの送り出しのための管理業務を行っている。そのための団体や機関が、「日本に行けば、高給が得られる」というような甘い誘いで研修生を集めている実態が伺われるし、前もってその教育費や保証金の名目で彼らから高額な金を集めてもいる。

他国から研修者が来日するに当たって、外務省および現地の大使館などが在留資格認定証明書で審査して、査証を発給する手続きや、現地での日本語教育の受講証明など、研修者が受け入れ企業に「派遣」されるまでの許認可の書類手続きが煩雑である。そこに利権がからんでしまう要因になっている。そのために、受け入れ企業が国内外の支援団体に金を納める仕組みになっている。

日本での、この制度の元締め的な団体が財団法人国際研修協力機構(JITCO)だ。各地方に複数の企業が共同して管理業務(ほとんど人材派遣業務)を行う支援団体が設立されている。支援団体が発行している、企業に研修員の受け入れを勧誘するパンフレットには、「コスト低減になる」ことをあからさまに宣伝文句に掲げられていたりする……。

記事にあるように、JITCOの「収入」が12億円もあるとは、もうけすぎだろう。リベート的性格の金を賛助会費として受け入れ企業から集めている。「国際貢献」している企業に政府からの補助金を分配するのでなく、逆に金を払わせているのだ。JITCOは、営利を目的する団体ではないはずだが……。研修者に半ば強制的に加入させている保険に関しても、大手保険会社との間に入って、「手数料」と称するものを研修者から徴収し、約1億円も稼いでいるのだから、利権を活用したものだろう。JITCOには、天下った役人OBが何人いることやら……。

受け入れ側と研修者の間に立つような、中間に位置する支援団体は、大きな権益をもってしまう。特に、人材派遣のようなあっせん業では、独占的な利権を得ていれば、労働者を割り振ることのできる立場を活かして、労使の双方から、搾り取ることができる。受け入れ側と、研修者の間に入ってあっせんや種々のサービス(手続き代行や通訳など)を行う団体や業者の存在が、それだけで経費として手数料として、あるいは礼金としての名目で、双方から金を吸い取る組織的なしくみとして機能している。支援団体が、どんな技能を身につけさせるかは問題ではなく、労働力を求めているところに割り振って派遣しているのだから、ますます、研修の建前から外れ、「人材派遣業」に近づいている。人材派遣会社が得意とするピンはねと同然なことをしている。

現地の送り出し機関や、日本で協賛企業に割り振っている支援団体といわれる人たちは、外国人研修者を現地で刈り集めて労働力として日本の企業に売り渡す仕事をしているのだ。そんな団体は体のいい名目の、マージンとしての金を吸い上げることができる立場にある。儲けがあるということは、中間搾取しているのだ。マージンは、本来、研修者が実際に労働して得られるはずの対価の一部だろう。つまるところ、彼らは奴隷商人たちだろう。

 

6.差別的社会構造

企業に対する政府の、規制の緩みのひとつが外国人研修制度だ。

安い労働力を求めるのは、どこの企業でも同じだろう。しかし、研修の名を借りて海外に安い労働力を求めるのは、以上に示したように、多くの問題点が起きてしまっている。

外国人の安い労働力に頼りたいのなら、日本を離れ、外国に進出すべきだろう。日本では、労働力が構造的に不足している業種もあり、日本でそんな業種の経営を続けるのには無理があるのかもしれない。外国人研修者を受け入れざるを得ないような企業は、一般の日本人労働者では、よほど待遇をよくしなければ、長続きしないような労働条件の悪いところで働かせているのだろう。結果的に、受け入れ側が彼らを酷使する実態が多くなっている。すべての受け入れ側がそうとは限らないのだが……。日本で経営する限り、労働者に法定のまともな賃金を払い、労働環境を整えるのが経営者の役割だろう。

国際的な世論の批判(*1)を受けて、厚生労働省が外国人研修制度を見直し、一部には廃止に向けた動き(意見)もあるのだが、安い労働力を求める企業や自営業者(主に農家)や「中間搾取」団体が、こんな〈便利なシステム〉をすんなりと手放そうとはしないだろうし、既得権にからむ政治的な思惑がその動きを止めそうだ。経済産業省は、働く側には立たず、業界側に立って、その廃止の動きとは逆に規制を緩和(実習期間を延長するなど)しようとしている。

しかし、このままだと「外国人研修者」という低賃金の労働者階層を確立させてしまい、不平等な差別的社会構造を作り上げてしまうことは目に見えている。労働させる側と労働する側の格差や、日本人でないという民族的な差別に加え、貧富の差を広げてしまう。そんな階層がさらに格差を広げるから、社会全体をゆがめることになる。

日本の特定業種が労働力不足に悩み、手助けを必要とし、より多くの労働力を求めるのなら、外国からの単純労働者を正規に受け入れることがもっとも有力な方策だろう。そして雇用者が彼らに、搾取のない、まともな賃金を支払うのが本筋だろう。外国人を社会的に受け入れずに、安い労働力だけほしいというのでは、虫が良すぎる。

 

*1. アメリカ国務省の報告書にも、日本の研修制度は『強制労働』だと指摘されている。

 

 

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