ふみたおされるNOVAの受講料 岡森利幸 2007/11/02
R1-2007/12/03
以下は、新聞記事の引用・要約。
毎日新聞夕刊2007/10/26一面、まち、社会面 NOVA会社更生法申請 破産法制では受講料の返還について、講師や社員らの給与や金融機関などへの融資返済などに比べ優先順位が低いとされ、返還が行われるかも不透明。 生徒が前払いした受講料は約255億円(今年3月末)に上る。 |
毎日新聞朝刊2007/10/27一面 NOVAの保全管財人は、前払い受講料は今年3月より増え、約400億円に上ることを明らかにした。講師や社員らの未払い賃金は約40億円になるという。 一方で、教室の運営を一時停止、数百億円の債務超過に陥るなど財務状況が悪化していることから、早急に支援先を選定する。 |
毎日新聞朝刊2007/10/27総合面 急速な規模拡大に質が伴わず、業界では「いずれこうなることは目に見えていた」との冷ややかな見方が多い。 英会話学校の業界団体である全国外国語教育振興会(66社加盟)では、前売りチケット製の場合の有効期間は一年以内とするなどの倫理規定がある。しかし、業界団体に属さないNOVAの場合は最長3年で、中途解約時に高い精算金を要求するなど、「受講生さえ集めればいいという経営戦略だった」という。 払い込んだ受講料の全額返済も難しい模様だ。NOVAの資産は、講師や社員の給料や税金の支払いに優先的に充てられるためだ。 |
これらの記事で、NOVAが業界団体にも属さず、勝手気ままな拡大経営戦略を展開していたことがよく伺える。その目的は、「外国語教育の振興」という崇高な使命とは無縁の、「単なる金集め」だったのだろう。NOVAは集めた金を出し渋り、キャンセルの際の返還金で多くの客とのトラブルが表面化し、世間の評判を落とした。そんな経営的な逆境からすこしも立て直しができず、事業継続の努力もせず、結局、業界トップの会社を破綻させたことは、ワンマン経営者で、解任された元社長の猿橋望が無能だったということだろう。会社更生法申請する直前に彼ら一族が所有していたNOVA関連株の大半を売り払うなど、社会的責任感にも欠ける行動が目立つ。そもそも、講師への支払いを渋ったことが一番の敗因だろう。そのため必要な数の講師を集められず、講師不足が客(受講者)の不満を募らせたから、顧客のキャンセルが相次いだのだ。欠陥経営が招いた「身から出たサビ」であろう。経営者個人の資質が問われるところだ。
それよりも、これらの記事の中で、私が一番気になったのは、受講者が払い込んだ受講料がほとんど返済されないことだ。その受講料は債務として認められないというのだ。前払い授業料のリスクの一つが、これだ。もう一つは消費者自身がキャンセルする場合であり、よく知られているように、解約料や手数料などがかかる上に、特にNOVAの場合、前払い分が受講者にほとんど返還されないという損失をこうむることになる。
会社の都合である倒産の場合に前払い授業料が返されないとなると、客にとってリスクが大きすぎる。ただし、全国外国語教育振興会に加盟している教室なら、倒産したような場合、それが他の教室を斡旋してくれるなど、前払い受講者が少しは救済されるしくみがつくられている。NOVAは金集め一辺倒な会社だったから、長期前払いが制約されるのを嫌っただけでなく、加盟するためのわずかな出費さえも惜しんだのだろう。
前払い受講料は、客が授業を受けるまでは、客の金である。授業が開けないのなら、まっ先に返還されるべきものだろう。受講料というものは英会話学校(会社)が授業を開いて、そこで初めて、それを自分のものとして手に入れることができるのだ。
その金が返されないとなると、会社に使い込まれてしまったことになる。前払い受講料は、会社経営のための運転資金として使われてしまうのが現状になっている。そんな学校の多くは運転資金として使うために生徒に前払いさせている。経営が破綻した際、「使ってしまった金は返せない」と開き直るのだ。NOVAの場合は、約400億円の前払い金がほとんどなくなってしまっているというから、相当ひどい使い込みをしたことになる。倫理的に、経営者は前払い受講料を返せない状況まで経営を悪化させるべきではないし、その状況に陥る前に営業を停止すべきだろう。客から前払い受講料を預かっているという感覚を持ってほしいものだ。彼は、入金された金はもう自分のものだと思っていたのだろう。
取引先に金を先に払わせておいて、会社を倒産させるのは、詐欺行為だろう。この手を使った、ふらちな会社(経営者)によるふみたおし倒産の例は、枚挙に暇がない。事業の失敗を言い訳にできるから、法の網にもかかりにくい。前払い受講料を集められるだけ集めて返還しないまま倒産となると(*1)、やはり詐欺に等しい。
破産法で、前払い受講料の返還が、融資、講師や社員の給料、税などよりも返還の優先順位が低いとされるのは、私は理解に苦しむ。税の取立てを優先しているのは、お役所らしい。(役所は、倒産した会社から、他を差し置いてでも税をとろうとするのか。)
金融機関は、融資先の事業がうまくいかなければ、資金の回収が難しいことぐらいは覚悟の上だろう。しかし、客には、事業のリスクなど考えていないし、「この教室が倒産したら……」という心構えもない。つまり、教室を信頼し、授業を受けることを前提として前払いしているのだ。支払いを一括にしたほうが安いし簡単だから、という意識で支払っているのであって、前払いを投資や投機のつもりでしたわけではない。会社が倒産したからといって、金融機関のように、融資の失敗としてあきらめ切れるものではない。倒産は信頼の裏切り行為でもある。
前払い受講料は客の金だから、会社としては、自分の社員などよりも優先して払い戻すのが当然だろう。講師は、社員と客との間に位置するもののようだ。つまり、優先順位付けするなら、客、講師、社員の順になる。その下に、金融機関、税の順にすべきだろう。それとともに、前払い受講料を準備金のような扱いにして学校側が使い込まないように法的な規制が必要だ。
*1. NOVAは、11月26日に大阪地裁から破産手続き開始の決定を受けた。会社更生法に適用申請後一カ月で、NOVAは破産会社に移行する。
民法772条の理想と現実