防衛省と偽物納入業者                                                    岡森利幸   2007/11/22

                                                                      R2-2008/1/18

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2007/11/16社会面

防衛省は、代理店資格がない防衛装備品商社「サイエンステクノロジートレーディング」が米大手メーカー製と偽り別メーカー製の暗視装置を納入していたと発表した。

防衛省によると、06年3月、旧防衛省契約本部が実施した一般競争入札でサ社が落札したノースロップ・グラマン社製の暗視装置は、今年6月までに136個が4077万円で航空自衛隊の基地警備用に納入された。

ところが納入品は精巧な他社製品で、サ社はメーカーの品質保証書を偽造していた。防衛省は、代理店資格についてはチェックしていなかったという。「(真製品にも)メーカーを示す表示や製品番号がなく、偽物と分からなかった」と説明。サ社の処分や再発防止策を検討する。

防衛省といえば、「警察」のような硬いイメージのある役所なのだが、「サイエンステクノロジートレーディング」という会社に品質保証書を偽造してまで偽物を売りつけられたのだから、見くびられたものだ。一般にだます方が悪いのだが、このケースではだまされた方も悪い。高額な商品を買い込むのに、代理店資格をろくに調べもしないで、入札させて「安いから」といって決めてしまい、納入の際の現品チェックもいい加減にしてきたことが遠因だろう。

「安い」といっても、暗視装置は1個あたり、約30万円だ。そんな高価なものにメーカーを示す表示や製品番号がないのもおかしい。おかしいという感覚が防衛省にはないか、あるいは薄れてしまっているのだろう。それでは詐欺を助長してきたようなものだ。サ社は本物に見せかけて安物を売りつけようとしたのだ。これは会社ぐるみの組織的な詐欺事件といっていい。防衛省が詐欺にあったことをすぐに刑事告発しないのも、防衛省と納入業者の馴れ合いがあるからと私は見る。

防衛省の購入部門がしっかりしないから、抜け目のないメーカーや商社に高い買い物をさせられるという典型だろう。そもそも代理店や輸入業者など流通の中間業者を介せば、その間にマージンが加わるから価格がどんどん高くなってしまうのだ。競争入札でマージンを少しぐらい安くさせるよりも、直接メーカーと交渉し、定価(ドル立て)で購入すれば、間違いはないし、マージンが加わらない分、安く買える。特に、防衛関連のような、一般的でない商品を扱う専門的なメーカーや商社は、市場の独占的な立場を利用し、貿易障壁があることを逆手にとって、マージンを上乗せしてアメリカ国内で販売する価格よりもずっと高い値段を日本の消費者に吹っかけるのが常なのだ。一般的にメーカーは日本に代理店を1社しか指定しないから、独占状態だ。入札できる業者は1社しかないことになる。それならば、入札は意味がなく、形だけのものになりがちだ。つまり、日本で、メーカーが定まった外国製品を、代理店を通して購入するのは高いものになってしまう。メーカー側にとって、もしも日本で直接売るとなると、本国で売る値段よりも為替レートや輸送関連コストを加算した価格以上に高く売ることはできないから、利益が限られてしまう。代理店を通す方法は、マージンを公然と上乗せできるから、メーカーと代理店の双方にメリットのあることなのだ。(最新の外国製医療器具などがそのいい例であることが、過去にNHKで報じられていた。)

ノースロップ・グラマン社製の暗視装置がほしいのなら、防衛省の職員が現地に行って買い付けるぐらいの行動力がなければ、代理店とやらにぼられるだけだ。再発防止策として最善なのは、外国メーカーのものを購入する場合、外国で直接契約することだろう。防衛省は、調達先の多いアメリカに支所を開設したらどうだろう。官僚の天下り先になっても困るが……。

なお、今回の場合、ノースロップ・グラマン社製と見分けがつけにくい精巧な他社製品が市場にあるなら、ノースロップ・グラマン社製にこだわらずに、その他社製品を購入する選択肢もあったのではないか。航空自衛隊の基地に納入するものは、ノースロップ・グラマン社製のものでなければならないという規則でもあるのだろうか。

ここへ来て私は、もしかすると、サイエンステクノロジートレーディング社は、単なる詐欺的行為でなく、メーカーと代理店と防衛庁の癒着(ゆちゃく)的関係に対して、「わが社ならば、同じようなものを安く納入できる」という挑戦状をたたきつけ、独占市場に風穴を開けようとした行為かもしれないと思い始めている。

 

 

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