業務委託費に吸い込まれた出資金                               岡森利幸   2007.2.8

                                                                                                                       R1-2007.2.10

平成電電設備(株)と平成電電システム(株)〔ともに社長は熊本徳夫〕が破産した。佐藤賢治のでたらめな経営で倒産した平成電電(株)の破綻のあおりを受けて、連鎖的に破産したという理由だが……。2007年2月7日、2社についての「破産者財産状況報告集会」が東京・日比谷公会堂で開かれた。午後2時から1時間半の予定だったが、それでは時間が不足していた。質問者が続々と発言を求めたのだ。それに参加した私が見聞きしたことを簡単にレポートしよう。

隣の日比谷図書館で、しばし時間を過ごしていた私が開会の10分前に入場したとき、日比谷公会堂の広い一階席は、ほぼ満席になっていた。会場整理員が二階席を開け、まだ続々とやって来る人々をそちらに誘導していたが、私は、一階の後ろの方の席に空きを見つけて座った。

定刻になると、東京地方裁判所の西裁判長が司会をつとめ、壇上の人々の紹介を始めた。中央に裁判所の判事や書記官たち、左側に、破産管財人の弁護士や会計士、右側に破産者〔熊本徳夫〕とその弁護士が、それぞれ正面を向いて座っていた。その後、破産管財人の小林信明氏が、裏表に印刷された12ページの資料(入場時に各人にも渡された)に沿って説明した。その中で、驚くべき事実が明らかになっていく。

 

1.事情をよく知らない読者のための前置き

会場に集まった人々のほとんどは、平成電電設備と平成電電システムの2社によって募集された匿名組合の投資話で「金融商品」を購入した人たちだ。平成電電の通信機器事業をさらに発展させるために、その出資金で通信機器を購入するというものだ。2社は平成電電にリースで通信機器を貸し出し、平成電電からのリース料を原資として現金分配(配当)することをうたっていた。平成電電の企業イメージアップ広告がテレビや新聞でよく見かけられた中で、2社は大新聞を利用して出資者を募り「金融商品」を売り出し続けた。1期から21期まで、毎月のように匿名組合の募集広告を新聞に掲載し、説明会を開催し、2社で合計460億円もの出資金を集めた。多くの一般の投資家が、元気な平成電電のさらなる事業発展と高配当を期待してそれを購入したのだ。元気さを証明していると信じ込ませるに足る高配当が、当初から出ていた。それで普通の主婦や会社員が、あるいは引退して年金の受給と退職金などの蓄えを切り崩して暮らしている高齢者が、手持ちの金を差し出して一口100万円の「金融商品」を買った。平成電電は高額なリース料などとても払えないような経営状態であったのに(会計監査が3年間まともに行なわれなかった。現に、巨額のリース料未払いを理由に倒産した)平成電電が破綻を宣言するまで2社が毎月出資者に高配当を分配していた不思議さがある。その高配当の実績により、「金融商品」をさらに買い求めた「出資者」も多い。高配当が一般投資家に更なる出資を促すための「呼び水」にもなっていた。

 

.「出資者」が債権者として扱われていること

説明内容の一つに以下があった。

破産者 平成電電設備株式会社

「破産」貸借対照表

(内容は略)

なお、平成19年1月31日現在届出のあった一般破産債務者数及びその届出債務権合計は、次のとおりである。

一般破産債権者(匿名組合債権者を除く) 1名 届出債務権額合計(認否留保)   105,477,750

匿名組合債権者            7,433名 届出債務権額合計(認否留保) 19,010,764,559

破産者・平成電電システム株式会社についても、ほぼ同じ内容で、数値も近似している。2社合わせると、匿名組合債権者は、2社共通の人もいるので、おおよそ1万人いることになる。

実は、私は彼ら匿名組合の「出資者」が債権者として破産時の資産回収で分配を受けられるのかを疑っていた。出資金を出した者がその破産の債権者になることは、当たり前のことかもしれないが、彼らが平成電電の業績次第で配当が支払われるだけの「金融商品」の購入者の立場だったから、債権者として認められないかもしれないと思っていた。裁判所が匿名組合を債権者と認定し、その出資金を負債額としたことは当然正しい。それが巨額であったから、2社を破産と判断したのだ。2社は、その2倍近い巨額な「平成電電に対する債権」を資産として持っていたが、平成電電が破産したからには、その評価額はゼロなのだ。

熊本徳夫は、「金融商品」の契約書を細心の注意を払って作成したはずだ。それらの文面の中で「匿名投資組合」とは定義せずに匿名組合」に置き換えるなどの書き方をして、匿名組合の出資者は債権者になり得ないように契約書を作成した(ふし)がある。だから、破産させられて、こんなに大勢の前に引き出されることは想定していなかったはずだ。商品の契約上、平成電電設備や平成電電システムが破産せずに存続していたならば、配当ゼロのまま契約期間が切れるまで彼は開き直っていただろう。

一般破産債務者がたった一人というのも、奇異な感じだ。株主が一人だけだったのだろう。株式会社の体をなしていない。おそらく、「あの人」か、それともその関連法人が株をもっていたのだろう。

分配金が受けられるといっても、高が知れているから、人々が分配を受けたとき、出資金との差額にあらためて嘆くことになるだろう。

 

3.平成電電設備と平成電電システムが完全なペーパーカンパニーであったこと

驚くべきことの一つは、平成電電設備と平成電電システムは、通信機器リース会社を装っていたが、実態はペーパー会社であったことだ。破産管財人によれば、両社とも従業員は1人もいなかったという。業務内容は、他社にすべて業務委託していたのだ。他社といっても、熊本自身が代表権をもっている(株)ハンドキャピタルアソシエイツジャパンや熊本が関係するその他の会社に請け負わせていた。つまり彼らにとって身内である会社にすべて業務委託していた。業務委託の事務処理も、業務委託の中に含まれていたのだろう。破産管財人は、業務委託の内容に一部不透明な部分があると指摘する。業務内容に対価に値しないような項目があるというのだ。つまり、熊本は平成電電設備と平成電電システムからの金の流れの一部を吸い取るように自分の会社を利用していたことがわかる。

業務の内容については、

・宣伝販売に関する業務

・募集

・リース機器購入のための業務

などの名目で支出しているという。一部の会社には「助言業務委託費」という名目までこしらえて支払っていた。業務委託費というのは、グループ会社の中で金を流すのに、恰好の方便につかわれている。『集めた金を業務委託費として彼ら自身の関係する会社に流していた』という表現の方がぴったりする。業務委託費とは、集めた出資金のロンダリングになっている。一般投資家は、平成電電へのリース機器を購入するためと信じて出資したのに、この2社は、すべて業務委託費に金を使っていたのだ。つまり、一般投資家は、実質的に「業務委託するための費用」に出資していたことになる。

 

. 「リース機器ころがし」が佐藤賢治の関係会社で行われていたこと

通信機器の購入に際しては、佐藤賢治の関連会社が仲介していた。佐藤が平成電電と二股をかけて経営していたドリームテクノロジーズ社やその関連会社だ。

平成電電は、確かに通信事業をしていたし、通信機器や通信ソフトを購入していた実績もあった。しかし、それらの購入に際して、直接機器メーカーから買うのでなく、佐藤賢治の関連会社が40パーセントや20パーセントのマージンをとって仲介していたというのだ。平成電電は平成電電にもともとあった通信機器をドリームテクノロジーズ社に売り渡し、その後、それをリース機器としてドリームテクノロジーズ社が平成電電に貸し出す経理操作をしていた事実まで浮かび上がっている。つまり、関連会社同士で通信機器ころがし」をしていたのだ。その取引は、平成電電以外の佐藤の会社を儲けさせるためにしたとしか思えない、背任的なやり方だ。悪徳業者のやり口にそっくりだ。)

経理上最終的に平成電電設備とシステムの固定資産に高額で計上されていた。例えば、平成電電システムには、H18/3/31時点で、有形固定資産として225億円の機械装置があったことになっている。これは匿名組合で集めた金額とほぼ等しいもので、巧妙な帳尻合わせが行われている。しかし、225億円の機械装置は、実際は1/10以下の価値しかなかった。

 

5.リース料収入の異常さ

平成電電からの通信機器のリース料収入も、直接2社に入ってくるわけではなかった。リースが佐藤の関連会社に仲介されていたから、どんどん膨れ上がることになる。倒産した平成電電に対する債権(リース料未払い)として合計簿価が782億円計上されている。これだけでも不当に高額なリース契約が行われていたことがわかる。通信機器類は、平成電電の通信事業関連すべてを含めて日本テレコムに委譲する際、最終的に32億円で売却されている。それだけの機器で、リース料782億円が未払いになるのは、どう計算すればいいのだろう?

匿名組合で集めた460億円の大半がグループ社内での業務委託費や中間マージンで使われてしまい、32億円分の通信機器だけが残された形だ。その通信機器も、破産管財人は現物確認ができていないという(できないらしい)。匿名組合の資金によって購入されたものか、それ以前に平成電電に元々あったものかの対応もとれないのだ。

 

6.佐藤と熊本との金銭関係

以下のような怪しい関係が明らかにされた。リベートの類だろう。

・佐藤賢治から熊本に資金を無償で貸し付けていたこと

・平成電電から熊本にドリームテクノロジーズの新株予約権を無償で発行していたこと

・熊本のハンド社と佐藤の平成電電との間で、コンサル名目の報酬や代理店手数料の収受があったこと

 

7.匿名組合の出資金が預り金であったこと

配布された資料で、東京地方裁判所発行の、破産者に関する「比較貸借対照表」の中に、流動負債の項目の一つに「匿名組合預り金」があることに、私は違和感を覚えている。出資法では、一般からの「預り金」は禁止されているからだ。例えば、平成電電システムの第4期のそれは、約229億円が示されている。匿名組合は一般からの募集ではなかったか? もしこれが合法というなら、出資法にほころびがあるといわざるを得ない。

 

8.怒号の中での閉幕

さて、破産管財人の長々とした話が終わり、会場からの質問受付時間となると、じっと聞いていた会場の人々の中から、次々と質問の手が上がった。いや、質問というより、熊本徳夫に対する非難・抗議の声のほうが多かったし、大きかった。

涙をこらえての切実な訴えや、熊本の不実をなじる声、「詐欺だ」という怒りの声などが飛び出した。壇上の一席に神妙な面持ちで座っていた熊本が司会者に発言を求められたとき、頭を垂れて二言三言わびるだけで、何の回答もしなかった。それが一層出資者の苛立ちを募らせた。

終了予定の15時30分を過ぎても会場からの質問の手が数多く上がった。(私も上げた。)

「延長しろ」という会場からの声を受けて司会がしぶしぶ引き伸ばしたが、会場の使用許可の関係で、15時50分ごろ、とうとう打ち切った。すると、会場からの怒号がさらに高まった。

「4時には会場を引き渡さなくてはなりません。早く退場してください」という会場整理の人の強い声に促されて、私は出て行くことにした。振り返ると、壇上で出資者らしい1人がかけ上り熊本に詰め寄ろうとしたが、数人の係員に取り抑えられていたのが見えた。

次回はどうなることやら……。

 

 

ホームにもどる  次の項目へいく

疑惑の平成電電