人材派遣会社のいかがわしさ                                       岡森利幸   2007.4.24

                                                                      R2-2007.8.6

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2006/2/2社会面

人材派遣・業務請負の国内大手「クリスタル」グループが3年間で17億円の申告漏れ。

毎日新聞夕刊2007/3/28社会面

業務請負最大手のクリスタルが日刊ゲンダイの記事「派遣労働者 戦慄の実態」で名誉を傷つけられたとして5億円の賠償を求めた訴訟で、東京地裁は発行元の日刊現代に50万円の支払いを命じた。裁判長「記事のごく一部は真実でない」

毎日新聞夕刊2007/4/15経済面・『百黙一言』中山義彰

〈好調な求人、実態は〉

愛知県内の派遣業者は4536社ある(2月末)。この一年で1000社以上も増えた。

女性パート「待遇は最低レベル。でも責任は最高レベルなんですよ」

 

1.クリスタルの評判

クリスタルの評判がとみに悪い。

この裁判で指摘された「記事のごく一部が真実でない」ということは、記事のほとんどが真実であると裁判所が認定したものだ。「ごく一部が真実でない記事」に対して、高額訴訟を起こすのは、訴訟権の乱用だろう。裁判所は、ほとんど真実である記事の社会的な価値(有用な情報)を考え、日刊ゲンダイに軍配を上げるべきであって、そんな訴訟自体を退けるべきだろう。クリスタルは記事がほとんど真実であることを知っていながら、提訴したのだ。結果的に、その記事が重箱の隅をつつかれたようで、私は日刊ゲンダイに同情したい。

5億円の損害賠償とは、マスメディアに対して「これ以上記事を書くな」という恫喝する意味(言論抑圧あるいは言論妨害)がある。(メディアがそんなことでびびっては、ジャーナリストの名がすたる。)クリスタルにおいて、実態が暴かれては会社としてまずいのだ。われわれはそこに社会的に逸脱した何かがあると考えるべきだ。

クリスタルグループは、メディアに対する億円単位の高額な名誉毀損・損害賠償請求訴訟を、これだけではなく、『週間東洋経済』、『週間ダイヤモンド』、『毎日新聞』にも起こした。こういう提訴は、消費者金融大手の武富士も一時期、多用して問題になった。

クリスタルグループは、上掲した申告漏れ(ずさんな会計)だけでなく、

・偽装請負

・不当労働行為

・虚偽の求人広告の乱発

など、数々の問題を起こしている。また、子会社がニコンに派遣した従業員が「過労自殺」して裁判になり、係争中だ。

こうした業界では、評判が悪くなると、社名を変えるのが常套手段であるらしい。クリスタルは、グッドウィルに買収された形(2006年10月31日)で、グッドウィルという社名・グループ名を冠し始めている。これからは実態も「グッドウィル」であって欲しい。(皮肉をこめて)

 

2.人材派遣会社の急成長

人材派遣会社が急成長しているという。かなりの業績を上げている会社もある。人材派遣会社は、職を求める人々と、労働力を求める企業の間に立って、円滑に柔軟に労働力を活用させることで、社会的に少しは役に立っているのだろう。職を斡旋する役もあるだろう。

雇う側の企業としても、人材派遣会社を通じて、必要に応じて安い労働力を手軽に得られるというメリットが大きい。労働者の配置換えや転勤など、労働組合との取り決めの制約なしに行える柔軟性があり、正社員を雇うよりも、人件費を節約する効果が大きいから、それを利用しているという面がある。

人材派遣会社に支払う分が、正規に雇う分より少なくてすめば、人件費を安くできる。それは、目先の利益を追求する企業にとって大きいものだ。企業は、発注の際に、複数の人材派遣会社に請負価格を競わせれば、価格をさらに低くすることも可能だ。

企業が人材派遣会社と密接に関係をもつ例も増えてきている。人材派遣会社に支払う金は、すべてコストとして計上できるから、企業会計上利益を抑えることができる。つまり、法人税を節約できる。しかも、労働者に支払う賃金は実質的に少なくてすむ。企業が人材派遣会社を実質的な子会社化(役員などを送り込む)し、企業グループとして利益を上げることができるのだ。

 

3.吸い取られる労働対価

そんな企業の利益や利便性よりも、問題はそこで働く人々だ。

派遣された人々には人材派遣会社から給与が支払われるのだから、それは確実に目減りする。人材派遣会社は、企業から受けた金額から諸々の費用・経費を差し引いて、労働者に支払うのだ。人材派遣会社の利益分はその差額から得るから、派遣会社が利益を上げるほど、労働対価から吸い取る分(ピンはね)が大きいということだ。その率は、派遣会社の幹部以外には不明瞭だ。

人材派遣会社は、組織として中間搾取的な役割を果たしている。人材派遣会社が儲かることは、格差を広げるだけだろう。格差社会の一番の元凶が人材派遣会社にあるといってもいい。

派遣を含めた非正規社員の質やモラル(忠誠度を含む)の低下の問題もある。(日本でのモラル低下は、勤勉な国民性のせいか、まだましである。) そのために、ますます正規社員との差がついてしまう。非正規社員には安い賃金しか支払われない根拠になっている。

 

4.派遣社員の悲しみ

それでなくても、派遣社員には賃金格差があるのに、派遣会社によって差分が吸い取られるのだから、派遣社員の場合は、確実に給与が安い。それだけでなく、同じ内容の仕事をして同じ職場にいながら、派遣社員は正規社員よりすべての労働条件において不利な立場に置かれる。派遣社員は、その働いている職場に不平不満(過労や安全性に関することを含む)があっても、正規社員のように、組合にその企業に掛け合って労働条件の改善を求めることや、相談することもできない。おそらく、多くの派遣会社では、労働組合も組織されていないことだろう。

派遣される社員は、自分の進みたい職種や職場を選ぶようなことはほとんどできないと思っていいだろう。派遣会社は、適材適所とは名ばかりで、企業の求めに応じて人材を派遣するだけだ。従業員は、派遣会社が指示する職場に、有無を言わさず、行かされる例がほとんどだ。そこは概して、忙しい職場であり、ひまな職場に行かされることはありえない。場合によっては、人がすぐに逃げ出すようなきつい、危険な職場、あるいは不規則な交替制の職場に行かされる。そして、過密なスケジュールに組み込まれ、過重な成果が求められる……。

「働けるところなら、どこでもいいかな」という安易な気持ちで人材派遣会社に入った者には、とても勤まらない。働く意欲も、ぽっきりと折れるほど、労働条件が悪すぎる。長続きしないのは、本人のせいばかりではないだろう。

 

5.対応策

人材派遣会社は人を集めるのがうまい。求人要項に好条件を並べ立てるのが常だ。しかし、よい条件ばかりではないのだ。そんな業績のよい、つまり儲かっているような人材派遣会社には行くな、と私は求職者に忠告したい。人材派遣よりも、直接企業から給与を受ける契約社員などの方が、自分の労働力の対価が直接支払われるので、ましだろう。

人材派遣会社をはびこらせないためには、企業が正社員を多く雇うようにすることだろう。そのためには、企業内において、

@正社員労働力の柔軟性をもたせること、つまり余剰な部門の労働力を減らす(辞めさせる)ことを容易にする。カットするために早期退職制度のような方法しかないのでは、流動性に欠ける。

A年功序列的な給与体系を是正すること(年齢や勤続年数に無関係な賃金にする)

など、正規労働者にとって痛みを伴う方策も必要だろう。

政府は、人材派遣や業務請負会社の労働者に対して地位や労働条件の向上を図らなければならない。請負か派遣かという些細なことを区分するよりも、もっと基本的な規制(企業に対して、安易な派遣労働者の受け入れや業務委託を規制し、正社員採用を奨励すること)が必要だろう。

これはワーキングプア、ニート、過労やストレスによる心身障害、自殺の増大や出生率の低下など、多くの社会問題に関係してくるのだ。

 

 

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