前払いレッスン料を返さない英会話学校                         岡森利幸   2007.4.16

                                                                      R2-2007.8.19

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2007/2/16環境面

NOVA解約トラブル、経産省が特定商取引法違反容疑で立ち入り検査した。

「消費者の苦情が突出して多い」

都は都消費生活条例違反の疑いでも調べている。

毎日新聞夕刊2007/4/4社会面・近事片々

英会話学校NOVAの商法に対し「間違っている」と最高裁判決。中途解約者には一回のレッスン料を契約時より高く計算して返金額を抑える手法に苦情が殺到。「駅前ぼったくり」はだめだよ。

1.前払いさせた授業料を解約時に返さない

1審、2審で同じ判決が出ていたのに、最高裁まで持ち込んだNOVAの強硬な姿勢が、これまで多くの生徒を泣き寝入りさせてきた象徴だろう。そんなNOVAの商法に対して、新聞紙上でも、辛らつな記事が散見される。NOVAは相当多くの客から解約の際にぼったくって利益を上げていたようだ。国民生活センターに寄せられた苦情や問い合わせだけでも、96年から今年の3月までに7600件を超えるという。

NOVAの料金システムでは前払いが基本であり、顧客は都合によって解約を申し出ることができるのだが、その返金がとんでもなく少ない額しか支払われなかったのだ。クレジットで前払いした顧客などは、そのクレジットの未払い額よりはるかに少ない額にがく然とさせられる。顧客が、返金が少なすぎると文句を言っても、NOVA側は契約時の文書を指し示し、「返金額については、この通り、契約時に合意された規定に沿っており、全レッスンを受講する前提での割引サービスは中途解約には適用されないから、これまでの分が割引なしで計算される」などと、つっぱねていた。顧客がさらに食い下がると、事務員は、いつもの事とはいえ、感情を抑えた声で「規則ですから、わたしに文句を言っても困ります」ということになる……。

ともあれ、割引して前払いさせておきながら、中途解約の際に割引はないとする商法は不当であるとして、そんな計算は無効であると裁判所は判断したわけだ。

日本では、前払いした金が戻らないケースが珍しくない。消費者にとっては不利益なシステムが多い。これもその一つだろう。大学入学手続きでの、高い入学金もそうだろうし、借家に入居する際の敷金の支払いもおそらく日本独自の慣例で行われている。

 

2.高額な中途解約金をとる

この訴訟の例では、原告が請求どおり31万円の返還金を勝ち取っているが、解約手続き料の5万円をNOVAに支払った。その解約手続き料は訴訟の対象にはなっていない。この手続き料については、原告の人はしぶしぶ認めたのだろう。しかし、私には疑問が残る。解約は単なる事務手続きのはずなのに、どうしてそんなに高額なのだろうか。これだけでも、ぼったくり感が強まるのだ。数千円が妥当なところだろう。

「計画通りレッスンを続けないのだから、解約する方が悪い。我々はそのレッスンのために、人員や場所をあらかじめ用意していたのだ、それがすっぽかしになったのだから我々の方が被害者だ」というNOVAの言い分が聞こえてきそうだ。

しかし、顧客がある程度、たとえば一カ月、前もって解約を宣言すれば、学校側は一カ月後のスケジュールを組み直すだけのこと(おそらくコンピューター入力するだけ)で、実害はほとんどないはずだ。解約によって「もうけそこなう」という取らぬタヌキの皮算用的な、心理的損失があるかもしれないが……。

 

3.顧客がレッスンを止める理由

日本では英会話の苦手な人が多い(学校教育の問題?)から、旅行やビジネスで必要に迫られて英会話教室に通う人が多いのだろう。ひとりで勉強してもうまくなれないから、少し料金が高くても、相手のある教室に通うことにしたい、という仕方のない動機で入学した人も多いだろう。

しかし、レッスンを受けているうちに当初の計画を見直し、止めようと考え始める人が出てくる。解約する理由として、

「予定より早く、もうかなり上達したから、やめる」(ほんと?)

「これ以上この教室に通っても上達が望めない。他にもっといい方法がありそうだ」

「講師のレベルや人格が自分に合わない」

「通うことが負担になってきた。つまらない」

「自分の希望する時間帯での予約がほとんどできない」(予約ができることがNOVAのうたい文句だったはずだが……)

など、語学力の達成の問題や感情的な面、それに、時間の制約や経済的な面からも理由はあるだろうし、業務上の急な転勤や移動などもありうる。解約は、消費者の気まぐれでもあるが、保障された自由でもあるはずだ。私の経験でも、業務上の必要性で受けたことがあるが、語学のレッスンなどというものは、あまり楽しいものではない。長期に渡ってレッスンを受けるのであれば、相当な覚悟が必要だろう。ここでいう長期とは3カ月以上を私は想定している。

「本当は止めたいのだが、前払い分のレッスンが残っているから、仕方なく通い続ける」のは、つらいものである。止めたい理由があるのに、「いま解約すると、前払いした金を捨てるようなことになるので、惜しい」という、支払った金の重圧に板ばさみになって通わなくてはならないのでは、ますます心の負担が重くなる。特に、やめたい理由がNOVA側の運営方法に起因するようなケースでは、続けることはたまらない気分だろう。

前払いした金が「質」に取られている状況では、つまらなさもいっそう増すことだろう。返金を少なくすれば、中途で止めようとする顧客の心を押し止める効果があるかもしれないが、そんなレッスンでは会話能力が身に付くはずはない。

 

4.商魂

前払いさせることが、もともと、消費者の足元を見た、売り手側の得意な商法であるのだ。消費者が商品やサービスをまだ受けていないのに、金だけ先に払わせるのは、商取引としては、売り手側に有利すぎるやり方である。消費者が商品やサービスを受けた分だけ、金を払えばいいはずだ。受けようとする分まで金を払わせられるのは、ぼったくり(不正)につながりやすいのだ。レッスンの一単位の都度、出席した分だけ、金を払うのが、消費者にとってもっとも正当だろう。ただし、それでは両者にとって金の扱いが煩雑になるから、通常、月謝の形で月単位に精算するのが普通だろう。

学校側としては、一人の顧客が長く、数多くレッスンを受ければ受けるほど、もうかるものだから、レッスン回数に応じて料金を割り引くという料金システムを顧客に提示する。長期に前払いすれば、さらに割引率を高くする。それでもトータルすれば、高額だ。それに渋る顧客には、クレジット払いを推奨し、さらに〈長期受講すれば、政府からの補助金がでる〉という甘いささやきを吹き込む。このささやきには、多くの人が「皮算用」をしてしまうようだ。そしてNOVAにとって、顧客がその誘いに乗ったら、しめたものだ。

そんな客が途中で解約を言い出せば、「返還金は計算するとこれだけですよ」と、おどしをかける。そうすれば、解約を減らすことができるのだろう。たとえ解約者が出ても、NOVAが編み出した『ポイントによって変動する魔術的な計算式(私自身、よく理解できない)』によって返還金はわずかですむのだから、残りのレッスン分はほとんど丸儲けになるのだ。大々的な宣伝費の元も取れるというものだ。(皮肉をこめて)

NOVA側は、「この計算法が認められないなら、料金を高くしなければならない」と言っていたようだが、解約の際に得ていた利益分が減るので、その分をレッスン料に転嫁しようとするものらしい。解約時の返還金を少なくしていたことが、会社の利益につながっていたとすれば、情けない話だ。

解約されても、NOVAが儲かるしくみだから、NOVAは、予約が困難になるなど顧客サービスが悪くなり、あるいはレッスンの質が低下して、解約が増えたとしても、平気なのだ。顧客からの苦情にも、まともに取り合わなかったとみられる。顧客の苦情に対応するマニュアルまで用意されていたという。

〈学校は、長期のレッスンを前払いした客に、わざとつまらない講師(評判のよくないような、あるいは割引率に見合ったようなレベルの)をあてがったりして……〉と考えるのは私の思い過ごしだろうか。

この際、解約時の返金差分を当てにするような商法はやめて、一般的な月謝制にしたらどうか。長期にレッスンを続けている顧客に対しては、月謝を安くしてもいいだろう。(なお、NOVAは一部のコースで月謝制を採りはじめている。ただし、入学金〔入会金〕をしっかり取っている。)

 

 

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