大幅な元本割れの投資事業組合                                  岡森利幸   2007.4.11

                                                                      R1-2007.4.13

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2007/4/3社会面

福岡、計14億円を集め、投資組合清算へ

高配当をうたって九州と山口県の約150人から退職金など計14億円を集めていた福岡市の投資事業組合(投資ファンド)が出資金を約2300万円にまで大幅に元本割れさせていたことが分かった。6月に組合員総会を開き、清算するという。

98年に設立、教職員名簿などをもとに「安定した海外の政府保証債(ソブリン債)などに投資すれば年利7〜10%で資産運用できる」、「教職員互助会や郵便局は危ない」と言って勧誘したという。昨年6月ごろまでは年5%程度が配当されていたが、同7月に突然出資者に「営業停止」を連絡してきた。

 

1.配当金はどこから?

配当とは、利益が出て出資者に分配されるものだろう。大幅に元本割れさせるような状況で、「営業停止」を宣言する直前まで高額な配当があったのが、不思議なのだ。たった2300万円しかなくなった資産価値で、出資金に対して年5%もの高額配当が、どうやって9年間も出されていたのか。

運営している者が資金の運用状況を一番よく把握しているはずだが、それを出資者に隠ぺいしていた、あるいは粉飾して配当を出していたことになる。それは背信行為、あるいは、詐欺的な行為だろう。運営者は、出資者に安全だと言っておきながら、大幅な欠損を招いたのだから、詐欺と言われても仕方があるまい。

こんなに出資者に大損させたのは、投資事業組合の運営者が、他人の金だと思って「まじめに」やらなかったせいだろう。あるいは、運営者に、資金運用に関する能力が欠如していたのだろう。他人の金を預かって運営する資格や能力が本当にあったのだろうか。

 

2.出資への勧誘

ただし、組合運営者側の金を集める能力だけは、いっぱしだったようだ。「安定した海外の政府保証債」という専門知識をひけらかし、「教職員互助会や郵便局は危ない」という不安をあおり立てるやり方は、うまいものだ。(皮肉を込めて) 特に、名簿を利用して特定地域の団体メンバーを集中的に勧誘したことが、一口50万円という高額な投資にもかかわらず、150人も出資者が集まった大きな要因だろう。高配当で確実という評判をグループの中に広めた。「知り合いの人もこれに投資して、高配当を受けている」となれば、仲間内で次々につられて、投資しようとする人が増えてくるものだ。出資者の中には、退職金など、老後の蓄えを出した人も多いという。

たしかに、国内のスズメの涙の金利と海外のまともな金利を比べると、わざわざ投機性のある物件に投資しなくても、海外の普通の金融商品を購入すれば、利ざやが稼げそうだ。もちろん、海外投資の場合には為替差損もあるだろうし、現地での債券売買の手数料や税もかかるだろうけど……。

そのまともな金利のソブリン債に投資するはずが、実際にはほとんど投資せず、国内の株取引で運用していたことが最近の説明会で明らかになった。運営者は、勧誘のときに言っていたこととやっていることが違うのは、どう申し開きをするのだろうか。「こういった投資には、元金割れするリスクが常にありある」などと、開き直るつもりだろうか。

出資者には、〈発展途上国の経済発展に自分の金が役立てられればいい〉という思いもあったはずだ。しかし、運営者は国内の不安定な株取引でマネーゲームをしていたというのが実態だろう。

 

3.営業停止のタイミング

今回のケースでは、一般投資家に対して運営者が不誠実すぎる。年にたった一回の決算報告が組合規約に書かれているが、それさえも、最近になって開催された説明会まで一度も投資家に報告していなかったという。ずっと損失を隠していたことになる。出資者は配当金さえもらえれば、黒字運営だと思っていたようだ。しかし、これまでの多くの詐欺的事件では、その破綻の直前まで、高配当を続けていたのだ。その原資は、もちろん、出資金の中からだ。

おそらく、投資事業組合の帳簿上では帳尻が合わせられ、投資の失敗による損失というよりも、手数料や経費などで出費がかさんだことになるのだろう。それなら、単に資金を使い込んでいただけのことだ。

投資組合が昨年の7月に「営業停止」したのは、金融商品取引法の改正が施行されたのと時を同じくしている。金融商品取引法の改正点は、それまで無届だった投資事業組合を届け出制にしただけのことだが、投資組合代表者は、潮時と判断したようだ。

 

4.リスク

投資にはリスクがつきものだが、多数の一般投資家をこんなに大損させるような仕組みは、社会的にあってはならないものだろう。投資事業組合の運営に透明性がなければ、いくらでも背任者が暗躍しうる。監査つきの決算報告が年に2度は必要だ。配当の都度、出資者に報告するのが望ましい。一般の投資家がリスクを負うことをできるだけ少なくするように、その運営に関して法的な規制が必要だろう。届出すればいいという野放しのような現状では、詐欺師も投資事業組合を組織できそうだ。

投資事業組合の危うさに関して、私は関心をいだいていたところだ。投資事業組合には、どこにどう金が流れているのかわからないような不透明さが常につきまとっている。匿名投資事業組合では、なおさらだ。組合がどんなに損失を出したとしても、出資者に対して〈投資に失敗した〉という言い訳がつく。そんな仕組みでは、投資リスクより不正リスクの方が高まってしまう。

自分は金を出すだけで、人任(ひとまか)せの投資で儲けることができれば、いちばん楽なのだが……。

 

 

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