脅しのエスカレート                                                 岡森利幸   2006.12.23

R2-2007.1.23

以下は、新聞記事のほぼ全面的な引用。

毎日新聞夕刊2006/11/16社会面

大阪府富田林(とんだばやし)市で、自殺した中学1年女子の家族は、「(女子は)チビと言われて泣いていた」といういじめの体験を明かした。

同じ悩みをもつ長男(現在中学3年、15歳)が同様のいじめに遭い、(長男が小学生のとき)自殺を何度も口にしたという首都圏在住の女性は次のように経緯を語った――

長男は幼少時、成長ホルモンの分泌が減って身長が伸びにくくなる難病と診断された。小学校入学時の身長は3歳児並の95センチだった。最初にいじめに気付いたのは(小学校)入学間もなく、通学路でランドセルをいくつも頭の上に乗せられているのを上級生が伝えてくれた。「人間だるま落とし」。名前まで付いているのを聞き、血の気が引く思いがした。

6年生になり、いじめが悪化した。身長は低く、小6の平均より30センチ低い115センチ。秋ごろから、女性の財布の現金が少しずつ減るのに気付いた。額が10円単位から100円単位、1000円単位と増えていく。当初は「落としたのか」と考えたという。

そして元日。新年の抱負を(家族で)話していたが、「僕はもう死にたい」と長男が口にした。理由を説明してくれない。

2月にバッグから10万円が消えた。女性は長男を捜し、家電量販店で同級生たちに1万円ずつ渡していた現場を見つけた。10円単位のおごりが1万円単位のゆすり、たかりに発展した。

 

(女性がすぐに学校に連絡すると)校長がその日のうちに、関係する児童と保護者を呼び、ひと家族ずつとじっくり話し合った。

毎日新聞夕刊2006/11/28社会面

三重県警津署は11月27日、同級生から生菓子(計1万3400円相当)を脅し取ったとして、いずれも津市内の中学3年の男子生徒(15)2人を恐喝容疑で逮捕した。中学入学当初からいじめによる恐喝を繰り返していたとみて捜査している。

被害にあった男子の母親がケーキの領収書を見つけ、不審に思って学校に相談。学校が2人を含む同級生数人に事情を聴いたが、いずれも事実を否定したという。仕返しを恐れた男子は今月11日、「学校は冷たい。死にたい」などと担任の教諭に電話をかけて家出。男子から相談された知人の男性(75)が津署に通報した。

津署などによると、男子は中学入学当初から1回200円から2000円ずつ計二十数回にわたって恐喝行為を受けていたとみられる。

中学校の校長は「同級生から2月ごろ、(被害者の)男子生徒は頼んだら何でもやってくれるという情報が担任教師に寄せられるなど心配されることはあった。母親から相談を受けた後、男子生徒に親身の対応をすべきだった」と話している。

体が小さいことをハンデキャップとして感じる人の数は、相当に多いようだ。特に成長期にいる子供には、いじめがなかったとしても、精神的につらいものがある。しかも、子供たちには、他人の感情を理解することに未熟な面があり、平気で他人の外形上の欠点をあざ笑ったり、からかったりするものだ。弱いものをいじめたり、ささいなことで同級生を嫌ったりする(態度にすぐに表れる)ことも、「得意」なのだ。

いじめの中でも、特に悪質と私が考えるのは、金品を脅し取る行為だ。その標的になりやすいのが、他の同級生より体の小さな子供たちだ。あるいは、人のいい、気弱な子供たちだ。クラスの中で、体が大きく力の強い者たちは、弱い者を従えがちだ。そして、弱いものから金品を得るようなことが一度あると、味をしめてしまう。他人(特に先生や家族)に言い付けたりしたら、ひどい目にあわせる(仕返しする)というように口止めし、何回でも、要求するようになる。際限なく繰り返し、金額がどこまでもエスカレートする。いじめが実利になるから、止められない。*1

言うとおりにしないと何されるか分らない(大人の想像力を超えるいじめ方がいくらでもあるし、手加減などしない)、恐怖におびえる被害者は、自分の小遣いだけでは足りず、親の金にまで手を出す。脅迫者たちは、被害者に金がなくなれば、万引きしてでも、自分たちの嗜好品をもってこいと要求する。いじめられ続けた被害者は、親の金を取ったり万引きしたりすることは悪いことだというモラルとの葛藤にも苦しむことになる。

そんな脅迫者たちに対し、われわれは、どう対応すべきだろうか。

 

前半の例(少女の自殺は別として)のように、学校側がすばやく対応したことがよかった。このケースでは、その後、いじめは解消されたと語られている。少なくとも表面上は……。(間もなく彼らは小学校を卒業し、環境が変わったこともプラスに働いたと考えられる。)小学校レベルでは、脅迫者たちをきつく叱れば、たいてい事が済むだろう。もちろん、被害者の心のケアや事後を見守ることも必要だ。

しかし、後半の例では、学校の担任の教諭も校長も、見て見ぬふりをしていたとしか思えない。指導力不足の教諭の典型例だろう。担任教諭は、被害者が親にも内緒で高額なケーキを買い求めていたことが不自然だと思わなかったのだろうか。脅迫者たちはいずれも事実を否定したというが、それがウソであることをどうして見抜けなかったのか。子供たち同士の単なるプレゼントや「おごりの類」だろうと考えたのなら、甘すぎる。しかも、担任が脅迫者たちを呼び出したことによって、被害者は親や学校に言いつけたことになり、彼らの「おきて」に従い、ひどいいじめが行われる危険が生じた。担任がしたことは、問題の解決どころか、事態を悪化させただけだ。被害者は矢も(たて)もたまらず、家出したのだ。担任は、被害者が「学校は冷たい。死にたい」と電話をかけてきたとき、どう対処したのか。

早い段階から(被害者の)男子生徒は頼んだら何でもやってくれるという情報が寄せられていたのに、何らかの圧力を受けていたためとは考えつかなかったのか。「頼んだら何でもやってくれること」の裏に潜む危険性を考えなかったのだろうか。だれが好んで、使い走りなどするだろうか。校長が心配していたように、男子生徒のそんな人のよさには、いじめられる素地(ポテンシャル)があったと考えるべきだろう。しかし、担任は、男子生徒がイヤと言えない何かがあることを知ろうともせず、放置していたわけだ。

想像力にも欠け、何も対処できない教諭なら、辞職してほしい。被害者の知人の男性(75)が警察に通報したのは、学校側への不信を象徴している。警察が脅迫者たちを逮捕したのは正解だろう。警察は、ケーキひとつの問題ではなく、相当悪質な(被害者を死に至らしめるような)脅迫行為だと判断したのだ。

 

*1. 2005年9月には、愛知県警が、小中学校時代から同級生から現金を脅しとっていた男を逮捕した例もある。被害額は約15年間で計約3000万円に上るとみている。

2007年1月12日の毎日新聞朝刊の事件面には、19歳少年が同級生らに恐喝され、祖父の蓄えからトータル7700万円をもち出した事件が明るみになった。少年が私立高校在学時から、同級生らが因縁をつけるなどしていじめ、05年7月ごろから金をたかるようになった。「簡単に金が取れる」などとうわさが広がり、要求額は同年11月からエスカレートした。中には一人で2000万円を脅し取った男子高校生もいるという。少年は祖父の金庫からすべての金を盗み出していた。

 

 

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