送電線に接触したクレーン船                                                                              岡森利幸   2006.8.21

2006.8.23 R1

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2006/8/14一面・社会面

14日午前7時40分ごろ、千葉県と東京都の都県境を流れる旧江戸川で、クレーン船が水上約16メートルの高さにある東京電力の送電線に接触し、損傷させた。

東京都の中央区などの7区や千葉県浦安市、神奈川県横浜市と川崎市の一部の約139万世帯が停電した。東京メトロや東急電鉄、ゆりかもめなどの鉄道が不通になり、都内の262カ所の信号が使えなくなり、エレベーターやATMが停止するなど交通や生活に大きな影響が出た。停電は約3時間後の10時44分に前面復旧した。

クレーンを積んだ作業船は、三国屋建設の380トンの台船で、浦安市発注のしゅんせつ工事のため、タグボートに引かれ、船橋港を出航し、工事現場に向かっていた。クレーンは高さ約33メートルで、約75度の角度で立っていた。両船には、計3人が乗っていた。その1人は「クレーンを上げた時に送電線には気づかなかった」と話している。

送電線は27万5000ボルトで「原発2基分に相当する大電力」200万キロワットを都心に供給していた。2系統(1系統はバックアップ)あったが、いずれも損傷し、送電が完全に止まった。

目撃した大塚秀明さん「ドカーンという大きな音がした。川を見るとクレーンが電線に接触していた。クレーンを下げるかと思ったら、もう一度、クレーンが動き、電線に接触して、あたりの民家の明かりなどが消えた」

毎日新聞夕刊2006/8/15社会面

県警浦安署の調べに対して、乗船していた三国屋建設の作業員は「今回の現場に行ったのは初めてで、送電線があるのは知らなかった」と供述。

現場付近には高圧線への注意を呼びかける看板が設置されており、同社の内規では「安全を確認できない場合はクレーンを下げて運行する」と作業手順が定められている。

毎日新聞朝刊2006/8/16社会面

クレーン船作業員やタグボートの乗務員は、「係留作業に気を取られ、高圧線があることを忘れていた」、「現場付近を数回通過した」と供述。「事故現場より上流で、同様のしゅんせつ作業をした経験がある」などと、高圧線を認識していたことを認め、事故直後の「今回の現場に行ったのは初めて」などの説明を改めた。

作業員らは「効率を上げるため、以前から現場到着前にアーム部分を上げた状態で作業していた」とも供述。アーム部分をあげて航行するのが半ば常態化していたこともわかった。

県警浦安署は作業員らが高圧線の存在を知りながら注意を怠り、漫然とアーム部分をあげて事故を起こしたと見て、器物損壊や電気事業法違反の容疑での立件も視野に入れて捜査している。

三国屋建設の幹部は、99年3月にも茨城県の那珂川で同様の事故を起こし、水戸市で停電を招いていたことも明らかにした。

事故を受け、浦安市は15日、しゅんせつ工事の中断を発表した。元請けの大林組千葉営業所を同日から6カ月の指名停止とした。

 

作業効率を上げるために、しゅんせつ現場に到着する前にクレーンのアームを上げておくことは、一つのアイデアだろう。アームを上げる時間がどのくらいかはわからないが、それだけ作業時間の短縮になる。しかし、正規の作業手順を無視した危険な行為にちがいない。第一、アーム部分を上げて航行することは、不安定極まりない。突風が吹いたり、カーブのところで遠心力が加わったりしたら、傾いたりするだろう。

「係留作業のために気を取られた」というが、係留作業とは、現場についてから船を固定するために行う作業ではないか。何をあせってそんな作業をする必要があったのか。

事故現場を何回か通過した経験があることが、かえってその「慣れ」のために注意を怠ったものだろう。初めて通る川ならば、だれでも前方を注意しながら、クレーンを上げるはずだ。「初めてだから、高圧線が見えなかった」などという見えすいた嘘は、すぐばれるのだ。

タグボートの乗務員(23)が、高圧線の下をくぐることを一番よく認識していたはずだが、自分が引いている台船の「アーム部分を上がっていること」に気付かないのは、相当ぼんやりしていたか、寝ぼけていたかのどちらかであろう。その労働条件が劣悪だったことが一因の可能性もある。彼らが前日にも働いていたか(働かされていたか)どうかが気になるところだ。

三国屋建設で99年3月にも茨城県の那珂川で同様の事故を起こしたことの教訓がまったく活かされていない。同社の内規では「安全を確認できない場合はクレーンを下げて運行する」と作業手順が定められていたのだが、周知徹底されていなかった。周知徹底させるのは、社内の組織的な取り組みが必要だ。それができていないことは、幹部の責任になる。過去の失敗のことなど思い出したくもなかったのだろうか。おそらく、現場の指導者は、作業の効率化を優先して、いつしか安全のための作業手順など二の次にしたのだろう。

行政も、茨城県の那珂川での事故に対して、何か策を打ったのだろうか。少なくとも、事故調査報告書を出させるなどして、再発防止に努めるべきところだろう。法的に、河川を航行するクレーン船に対して規制する必要があるだろう。行政は死人が出ないと、何の対策も考えないようだ。

大林組が6か月の指名停止になったことにも興味深い。事故の責任の一端が、工事の元請けである大林組千葉営業所にもあるということだ。そもそも大林組は自前で作業しないのに、どうして河川のしゅんせつ工事を請け負ったのか。浦安市は、なぜ作業しない会社に発注したのか。浦安市は地元の企業に発注したつもりかもしれないが、作業手順も守らないような、茨城県神栖市に本拠を置く土木会社が実際に作業していることに気付かなかったのだろうか。大林組は作業手順も責任もすべて三国屋建設に任せっぱなし。工完日と工事代金だけは、しっかりと決める……。大林組がその請け負った作業を三国屋建設に丸投げしている構図になっている。請け負った作業ならば、責任をもって自社で行うべきものだろう。自社で作業するつもりがないのなら、中間搾取業と看板を架け替えるべきだ。

 

 

ホームにもどる  次の項目へいく 

北朝鮮ミサイル試射の対応