原子炉の制御棒が抜け落ちた                                    岡森利幸   2007.4.16

                                                                                                                       R2-2007.8.1

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2007/4/11社会面

臨界事故隠しがあった北陸電力志賀原発1号機で、事故の原因となる誤操作があった原子炉建屋内の制御棒駆動装置が、問題発覚後初めて報道陣に公開された。

事故報告書によると、99年6月18日、ポンプからの水圧を遮断しないまま作業員が駆動装置の弁操作をしたため、制御棒89本中3本が抜け、約15分間臨界状態になった。

緊急停止装置は、検査のため窒素ガスが抜かれて機能しなかった。

 

原子炉の制御棒は、車のブレーキにも相当する重要な部品だ。それが、操作を手順ミスによって複数が抜け落ちるとは、安全性に大きな問題があるといわなければならない。多数の制御棒が同時に抜けたら、つまりブレーキが効かなくなったら、原子炉が暴走する可能性もあったのだ。その事故が電力会社各社で隠ぺいされてしまい、長い間、適切な対策も講じられなかったとは、「開いた口がふさがらない」のだ。電力会社の責任者たちの最も重要な業務は、事故を隠ぺいすることらしい。そして、それがばれたら、頭を下げて謝ることらしい。(皮肉をこめて)

最初に事故が起きたとき、「また、制御棒が抜けることがあるかもしれない。まとまって抜け落ちると、どうなるか」という発想はなかったのだろうか。それとも、彼らは事なかれ主義的に「ささいな事故でも、あってはならないことだから、起きなかったことにした」と考えたのだろうか。「放射能が外部にもれなければいいんだ」というのが、電力会社の判断基準になっているのだろうか。

電力関係者は、つまらないことを心配したようだ。それが大きな事故を招きやすいのだ。原子炉の危険性よりもそんな電力会社の隠ぺい体質の方が、よほど危険だ。原子炉で大きな事故を起こしたら、個人の責任や会社の業績どころの話ではないだろう。

最初に起きた制御棒の脱落事故が、周知され対策されていれば、各社で起きた後発の事故は防げたものだ。トラブル情報を各社で共有しなければ、同じことが各社で起きるだけだ。一般的に、大きな事故の解析では、前兆のように発生していた小さなトラブルを見逃し、その小さなトラブルが同時に、あるいは連鎖的に起きたことで大事故につながっているのだ。その一つでも解決していれば、事故を防げたケースがほとんどなのだ。つまり、小さな問題の芽を摘み取ることで、その後の大きな問題を防ぐことができるのだ。

 

(某電機メーカーOBとして、技術的な面で以下のコメントを添える。)

今回の一連の事故の直接的な原因は、制御棒駆動装置の弁(バルブ)操作の手順に関するマニュアルの不備により、人手による操作手順に問題があったのかもしれないが、駆動力が働かなくなった制御棒がそのまま重力によって抜け落ちる仕組みがいちばん問題だろう。システム設計上、フェイルセーフという基本的な安全設計ができていないのだ。何かミスや故障があっても、安全な側に落ち着くような設計が求められる。制御棒を支える力が働かないと、それが重力によってストンと落ちてしまうような設計では、お粗末すぎる。私なら、制御棒の下にバネをとりつけ、支える力が失われたとしても、バネによって制御棒を押し上げる仕組みなどを考える。

ひとつの操作ミスで複数の制御棒が落ちてしまったことにも、問題がある。安全設計ができていない部分だ。ひとつの操作ミスで一つの制御棒の落下ですむように、バルブ系統を別々にすべきた。一つの制御棒の落下だけでは原子炉は臨界に達しないだろうから、それならば、システムとしての安全度がより高いといえる(フォールトトレランスともいう)のだ。現状では、一つのバルブ故障で、複数の制御棒が落ちる危険もある。

そもそも、緊急停止装置を無効にした状態で作業員が制御棒駆動装置のバルブをいじったことが、おかしい。そうすれば、点検作業が早くすむからだろうか? それでは点検作業の効率のために安全を無視していることになる。

 

 

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